|
「迎えの男」 月島衣音 「コンコン」 誰かが裏口のドアを叩く。 こんな裏から誰だろう? そう思いながら開けるとそこに、黒服の風采の上がらない男がいた。 「オタク、死神?」 訊くと男はうなずいて、さも申し訳なさそうに、辛そうに、同情的に、だがぶっきらぼうに言った。 「約束通りだ。迎えに来た」 「わるい、ちょ、ちょっと待ってくれ、今支度してくる」 オレは、一旦、裏口のドアを閉める。 心臓がアブっている。 思い出した。 夕べ女房とケンカした。 会社からもらって帰ったリストラの辞令に、女房がキレたのだ。 「甲斐性ナシ!」 罵る女房に、 「分かったよ、死ねばいいんだろ!」 と、オレは投げやりに応えた。 女房はさらに投げやりに言った。 「死ねば!」 家ではとっくに主としての尊厳を失っていた。 息子もオレに愛想をつかし、すでに逃げるように家を出て行ったあと。 その時、オレのケータイに電話が入ったんだった。 「オマエ、死ぬって言うのなら好都合。丁度順番に空きが出来た。明日迎えに行く」 「死神」と名乗った男の電話はそう言って切れた。 やはり来た。死神の「迎え」。 だが、わざわざ裏口から来るとは思わなかった。 交通事故で死ぬのか、石段を落ちて死ぬのか、いずれにしても、少しはましな格好で死にたい。 オレは自室に戻ると、パンツを履き替え、買ったばかりのジャケットに着替えた。 それから女房のいる台所に行った。 「死神が迎えに来た」 「えっ?! 待ってお父さん! ホントに死んじゃうの?!」 「ああ、「死ねば!」って言ったじゃないか」 だが、女房は急に涙をこぼした。 「そんな、本気に言うわけないわ」 「けど、いずれにしてもオレは死ぬ運命にあるようだ。死神が外で待っている」 「ダメ! 死なないで!」 女房がオレの腕を掴む。 その時、インターフォンが鳴った。 「死神が呼んでいるんだわ」 だが、死神は裏口で待っているはず。 表のインターフォンを鳴らすのはおかしい。 玄関に出てみると、そこにいたのは宅配便。 受け取って、やたら長目の荷物の送り主を見ると、家を出て行った息子の名前。 「なんだろう」 開けてみると、欲しかった釣り竿。手紙が添えられている。 「親父、俺も家を出て気がついた。 反省してる。 親父が欲しがっていた釣り竿を送る。 今度 帰った時、一緒に釣りに行こう」 女房もその手紙をオレから奪うようにして読んで言う。 「あの子だって、本心はお父さんのこと、気遣ってるんだわ」 ちょっとしたボタンの掛け違いでここまで来てしまったのかも知れない。 ようやくそれに気がついた。 だが、今となってはもう遅い。 ボタンをかけ直す猶予は与えられていない。 死神は裏口で待っている。 釣り竿をケースから取り出して、伸ばしてみた。 せまい廊下でひと振りしてみる。 しなり具合を確かめ、手に持つ感触を確かめ、呟く。 「こいつで、でかいヤツ釣ってみたかった…」 だが…、 オレは、竿を縮め、丁寧にケースに収め、女房に手渡す。 それから裏口に向かった。 足元が少し見にくいのは、目に涙がにじんでいるせいだ。 オレは、裏口のドアを開けた。 そこに、……死神の姿はなかった。 その夜、 見ていたTVにヤクザの発砲事件のニュースが流れた。ヤクザの一人が死んだらしい。 ニュース映像の隅っこに、あの黒服の風采の上がらない男が写っていた。 〈ion〉
|
全体表示
[ リスト ]





死神もわかってるじゃん!粋なことしますね〜
手遅れはないのね^^
2009/11/13(金) 午前 6:14
「こちら死神センター^ 緊急連絡、 裏口の分は後回しにして 大至急 正規申し込みのお客さまの方に 回ってくれ」 でした ♪ ^^^
2009/11/13(金) 午前 6:55 [ ang*a*ugen ]
始めまして、シープと申します。
楽しく読ませていただきました。
星新一さんを思い出しました。
面白かったです。ポチ
2009/11/13(金) 午前 7:07 [ シープ ]
人情味ありますね!!
(人*´∀`)
応援ぽちです!
2009/11/13(金) 午前 9:52 [ - ]
☆ぽこたんさんありがとうございます。ホントの所は分からないですけどね。そう願います♪
2009/11/14(土) 午前 0:28
☆angyamugenさんありがとうございます。なるほど、上からの指令ってもんがあるのか♪
2009/11/14(土) 午前 0:31
☆シープさんありがとうございます。バックナンバーもぜひさかのぼってみてください。1460話も書いてきてますので、きっと面白いと言ってくださる作品もあると思います。
2009/11/14(土) 午前 0:34
☆新羅さんありがとうございます。死神にだってきっと情は伝わる♪
2009/11/14(土) 午前 0:36