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六、秘密の猫島 「アンポンタン。おみゃぁ、夏休みは何日あるんじゃ?」 「正味四ヶ月近く。今年は校舎の耐震工事とかで、長いんだ。夏休み。」 「そっか。学生はええ身分やのぉ。ま、結構。オーライ。その夏休みの期間中、『猫島』で住み込んでもらって、しこたま働らいてもらうで。」 「ネ、ネコジマー??」 愛知県の蒲郡には、猿島とか、兎島っていう島がある。小学生の頃、学校の遠足か何かで行った記憶がある。実際、猿島は、サルばっかりの島だし、兎島はウサギばかりの島だ。猿島の方は、金網で仕切られていて、しかも、小学生だったわたしには、サルたちは、凶暴な野獣にしか見えなかったため、怖かったという印象だけしか残ってないが、ウサギ島のほうは、島中に、いろんな毛色のたくさんのウサギたちが放し飼いにされていて、子供でも撫でたり、エサをやったり、ウサギと仲良くできる。まさにウサギ島はウサギのパラダイスって感じで、とっても楽しかったことを覚えている。 けれども、今、博士の言った、「猫島」なんてのはとんと聞いたことがない。 「『猫島』ってぇのは、わしの島じゃ。」 「え? わしのって、博士、島まで持ってるの?」 「そうじゃ。わしの私有地の島じゃ。そこにわしが開発した『秘密の猫』たちを飼っておる。」 「秘密の猫たち?」 「ま、行って見れば分かるって。今はそれまでのお楽しみってことにしといてちょ。」 「お楽しみとか、何とか言って、またなんか、口から火吹いたりするキメラの猫とか造ったんじゃないでしょうね。」 「ちゃう、ちゃう。」 博士が、「秘密の猫」だとか言うと、つい不安になってしまう。博士が普通の人だったら、何も心配はしないのだが、このお人は、怪しげな研究ばかりしている「マッドサイエンティスト」なのだ。 つづく
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ドキドキ出来事「奇っ怪猫島」
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五、天才博士 「ミスター・マリックもビックリ!! すごいんじゃないの? え〜? 博士! これって、マギー真司とかからも、引き合いくるんじゃない?」 「アンポンタン! ばか言っとってかん。これは、そんなお遊びに使うモンやない。これは、間違って切り裂かれてしまった国家機密書類とか、襖の下張りとなって、破れて出てきたりした、古美術品の修復とかに使う、超がつく高尚なマシンじゃ。」 「ヒェーーッ! 参りました。え? でも、どうやってるの? 仕組み教えて。」 「言ったやろ。中でナノマシンのこびとさんたちが、紙の繊維の一本一本を分子レベルで組成から調べ、近い断点同士を一生懸命、元通りにつなげとるんだがや。」 「うっそーっ? え、ほんとにー? すごいー!! 博士、やっぱ、天才ー!!」 「まかせときゃぁ チョロいって。」 「あ、でも、これって、下松電器産業に売っちゃったんでしょ。権利とか丸ごと。」 「そうじゃ。研究したっつっても、ちゃんと製品にして、世の中に出して、みんなの役に立ってもらわな、意味にゃぁでな。」 「ね。い、幾らで売ったの? 教えて?」 「教えれん。何、ほんのはした金だがや。それに、おみゃぁ、ま、そんなこと、どーでもええんやて。アンポンタン! 今日来てもらった目的の方、忘れとってかんがや。そっちのが大事じゃ。本題に入ろみゃぁ。本題。」 「あ、そう、そう。アルバイト、アルバイト。大事なアルバイトの話。」 博士は、地元では「蒲郡の発明王」と呼ばれているらしい。どうやら、こうやって、ちょこちょこ研究売っては、ハンパじゃないお金、メッチャがっぽり稼いでいるみたいだ。でも、そのしこたま貯めたお金、いったい一人でどうしようっていうんだろう。 つづく
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四、発明王 「アッレーーッ! もったいない!」 「もったいなくにゃー! 驚くなーーっ!!」 言いつつ、博士は、哀れ、首の上、顎の下辺りで別れ別れになってしまった「福沢先生」を並べて揃え、その怪しげな装置の口に、上から差し込んだ。 「ビィィーーーン」 装置は音と共に、更に怪しげなる振動を「ガチャチャン!」と、二、三度繰り返し、二枚になった万札を吸い込んでいった。 見ていると、装置は、続いて、手前側上にある、緑と、赤色のランプが交互に点いたり消えたりして、「プッ、ポッ、ピッ、ポッ」と言っている。と、思ったら、まもなく、「ウィーーン」と、軽快な音を伴って、別れ別れになっていた筈の万札が、手前側にある排紙トレイに「ニュゥィーーン」と、吐き出されてきた。 な、な、なんとーっ!! 確かに二枚に切られていた万札だったのが、今、目の前で元通り、リッパに一枚になっているではないですかぁ! 「博士! ほ、本当じゃないですか。す、すごいーーーっ! …あ、でも、これ、『手品でした〜』とかって言うんじゃないですよね?」 「失敬な! 何言うとる! 手品なんかであるもんきゃ! 正真正銘、たったさっき真っ二つにした、福沢諭吉の一万円札じゃぁ!」 「あっ、しまった。お札のナンバー控えとくんだった。これじゃ、ほんとに手品なんかじゃないって証明できないじゃん。中ですり替えてるのかも…。」 「心配せんでもええ。何度でもやって見せたるがな。今度はナンバー控えとくがええ。同じことじゃ。」 わたしは、きったない鉛筆立てからボールペンを取って、近くにあった古新聞の端っこに、渡されたお札のナンバーをメモった。 結果はほんとに同じだった。手品なんかじゃない。確かに同じナンバーの、同じお札が、またもや真っ二つにされた筈なのに、正確にピッタリと元通りになって、くっついて出てきた。つなぎ目なんて分からない。どこを切ったのかさえ全く分からない。 つづく
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三、ダーレッシュ 無茶大路博士は、机の上の紙屑に埋まりかかっているプリンタみたいな装置のスイッチを入れた。 「何? それ?」 「『ダーレッシュ』って、オレ様が命名した。たぶんその内、下松電器から市販されることになるやろ。」 「『ダーレッシュ』。何? それ? ダサイ名前。」 「ダサイとかって言うな。『シュレッダー』の逆さまだ。シュレッダーが細切りにした紙を、元通りつなげて一枚の紙に戻す装置や。」 「ええっ? そんなことが可能なの?」 「へっ、へっ。可能、可能。この無茶大路様にかかれば、不可能ということはにゃあ。」 「糊でくっつけるの?」 「糊でくっつけるやと? バカ言ってかん。そんなんで、『元通り』と言えるきゃ?」 「言えない。」 「そうやろ? そんなみっともにゃぁことはせーへん。こいつはな、聞いて驚くな。接合面をナノマシンが分子レベルで接合して、元通りきれいに復元するマシンや。」 「ナノマシンが分子レベルで接合?」 「アンポンタンには言葉で説明しても分からんやろ。実際にやって見せる方が早ぇえ。ええきゃぁ、よく見とけ!」 無茶大路博士は、胸ポケットから分厚い財布を取り出すと、中から一枚、ピンピンの新札一万円を抜き出した。 「見とれ!」 言いながら、博士は、机の上の鉛筆立てに刺さっていたカッターを取り、「ジャキジャキーーーン」と、刃を吐き出し、万札を机に置いたと思ったら、「スパーッ」と、それを一気にタテ二枚に切ってしまった。 つづく
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二、アルバイトの誘い 「なんで、わたしが『アンポンタン』なの?」 そう言いつつ、わたしはわざといやみったらしく、ハンカチを取り出し、埃のソファーに広げた上で腰を掛けた。 「アンポンタンだから、アンポンタンなんだ。」 「学者のくせに、言ってることが論理的じゃないわね。それに、そんな『アンポンタン』なんて言葉、今頃完全に死語よ。他の学生相手に言ったら、笑われるだけよ!」 「口の減らない奴っちゃな。」 「博士みたいな人間相手には、この程度が丁度いいのよ。それより、何? この汚さ。掃除機とか買うお金もないの?」 博士は、結婚して子供も何人かでかしているはずだったが、そのメチャメチャな性格のため、女房・子供にも逃げられ、独り身になってからは、外観、立派なのに、週に二度家政婦さんが来てくれるだけの自宅兼研究所のこの家に、侘びしく一人住まいしているのだ。 「金には困っておらん。」 「なら、掃除機ぐらい買って、ちょっとはお掃除とかしたらどうなの?」 「いらぬお世話だ。掃除機ぐらい買わんでも、山程ある。」 「めんどくさいからしないだけってことね。でも、金に困ってないって言って、どうやって食べてるの? 何やって稼いでるの?」 「研究だがや。ケ・ン・キュ・ウ。ちょうど、今しがたもちょいとした研究、下松電器産業の連中が来て、買ってった。またまたドえらいボロ儲けで、遣い道に困ってまう。」 「なら、わたしにアルバイトなんて言わずに、そういうお金、頂戴。遣ってあげる。困ってるんでしょ。遣い道。」 「いやぁだね。そんな若い内からあぶく銭持たせたら、ろくな人間にならん。汗して自分の力で稼いでこそ、身に付くってもんや。」 「ケチ。あ、でも、その下松電器産業に売った研究ってどんなん? 教えて。」 「あははは、知りたいか? よしゃ、教えたる。これ、これ、こいつだよ。」 博士は、嬉しそうにタバコを吸い殻入れに捻りつけ、ソファーから立ち上がり、机の端に載っている、小型のプリンタみたいな装置の前に行った。机の上も、床同様、紙屑で、ぐちゃぐちゃの散らかり様だ。 つづく
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