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二六、縛られてしまった 「女! 止まれ! 撃つぞ!」 ボウガンを手にした男が、言うが早いか、「ビュシュッ!」と音をさせて、わたしを狙って撃ってきた。 ボウガンの矢は、「カツーーン!」と乾いた音を立てて、わたしのすぐ目の前の木の幹に突き刺さった。 「きゃっ!」 わたしは、思わず手を挙げて、その場に立ちすくんだ。幹に突き刺さったボウガンの矢に、怖さのあまり、体がブルブル震え、足が固まって動かなくなってしまった。 男達が、走り寄ってきた。ボウガンの男が、ナイロンのロープを後から来た男の背負っていたリュックから取り出した。わたしは後ろ手に、思い切りきつく縛られてしまった。 「イタイー! な、何者ですか? あなたたち?」 「うるせーっ! 黙ってろーっ! お前ひとりか?」 「……。」 「答えろっ!」 黙ってろって言ってる先から「答えろ」って、言ってることがめちゃめちゃだ。でも、そんなこと言って怒らせたら命が危ない。敵は武器を持っているのだ。 「い、今は一人ですけど、すぐ、帰ってきます。」 「ダンナか?」 「え?」 「分かってんだ。夫婦でここの管理、頼まれてんだろ?」 わたしたちを、前にいた夫婦者と思っているらしい。わたしを縛った背の高い方の男が兄貴分のようで、大きなリュックを背負わされている方は、しきりに「アニキ、アニキ」と口にしている。「アニキ」はサングラスをして、カッコつけているが、まだ、若い。弟分の方も意外に童顔で、下っ端のチンピラらしい。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←こちらのサイトから、月島衣音の他の小説もお読み頂けます。
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ドキドキ出来事「奇っ怪猫島」
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二五、産業スパイ襲来? その日は、里仁模君が島を離れ、わたし一人留守番することになった。冷蔵庫の新鮮野菜も切れていたし、台風が近づいているらしいということで、懐中電灯の電池や蛍光灯のランプの予備も必要になっていた。台風に備えて、今の内に買い出ししておかなければならなかったからだ。 里仁模君が買い出しに行ってしまってから、しばらく経った時のことだった。 船着き場の方から、モーターボートのエンジン音が聞こえてきた。里仁模君が戻ってきたにしてはちょっと早すぎる。何か忘れ物でもあったのかと思い、確認のため、建物を出て、船着き場の方へ行ってみた。 手前の松や灌木の茂みのすき間から下を覗くと、姿は見えなかったが、人声がする。けれども、里仁模君の声とは明らかに違う。「ボソ、ボソ」と、声を潜めて話し合っているようだ。 ……怪しいヤツら? もしかして、この間のボートの連中?…… どうしよう? 「島では何が起こるか分からんから、男がおった方が心強い。」と言った博士の言葉通り、それが本当に起こりうることが、今になってハッキリ分かってきた。冗談だと思って高をくくっていた自分が恨めしい。 とりあえず、建物の中に逃げ込んでいた方がいい。そう思って、その場をそぉーっと立ち去り、木陰の間を縫って建物の方へ戻りかけた時だった。 「だれかいるぞっ!」 という、声がした。いつの間にか男の一人が坂を登って来ていたのだ。 「女だ! とっつかまえろ!」 振り返ると、この暑いさなか、長袖の黒いシャツ、黒ズボン、サングラスに、黒い水泳帽みたいのをかぶった男が、わたしを指さしながら仲間を呼んで叫んでいる。手にはボウガンらしきものも持っている。 「ダダダッ!」と、足音がして、もう一人、坂を駆け登ってきた。やはり全身黒ずくめだが、そちらは背中に黒い大きなリュックを背負っている。咄嗟にわたしは、建物の方に向かって走った。建物に逃げ込んで、内側から鍵を掛けてしまえばなんとかなるように思ったからだ。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←こちらのサイトから、月島衣音の他の小説もお読み頂けます。
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二四、怪しい船影? 島には、船着き場の脇にわずかな浜辺が広がっていた。わたしたちは、日中、よく、そこで水着になって遊んだ。子供の様に水を掛け合ってはしゃいだりした。 「『セカチュウ』で、こんな似たようなシーンあったよね。見た?」 「そう言えば。」 「あんな、すっごい純愛できたらいいね。」 「そやな。でも、どっちかが白血病とかで、死ななきゃならん運命にあるとかだったら、きっとああなると思うよ。」 「どっちかが死ななきゃいけない運命?」 「あはは、まぁ、死んじゃったら意味ないね。でも、そんなんじゃなくってもさ、例えば、すっごい大事件に巻き込まれちゃってさ、例えば『スピード』みたいな映画のような状況になってさ、二人、力合わせて悪と戦うとかね。そんなんになったら、きっと、すごい純愛できると思うよ。」 「ヒエーッ! そんなの今のわたしたちに考えられない。無理だよね? それし、里仁模君は彼女いる身なんだし…。」 初日、里仁模君と話していて、「彼女は?いる?」って聞いた時、彼は「ウン」と応えた。わたしはそれで相当めげていて、それ以来、愛だ、恋だのの話をするのをなるべく避けていたのだ。里仁模君はかっこいい。優しい。ユーモアセンスも抜群。確かに、これで彼女がいなかったらおかしい。 「あのぉ…。」 里仁模君が何かを言いかけたその時だった。 「里仁模君! あれ! 見て!」 わたしの指さす先を、里仁模君が、おでこに手のひらを水平に当てて、眩しそうに目を細めて見る。とても晴れていて、遙か向こうに蒲郡の海岸が見えていた。そのずっと手前の、陽炎で揺らいで見える海面を、白い波を蹴立てて一艘のモーターボートがこちらに向かってくるのが見える。 「アイツ、こっちへ向かってくるんじゃない?」 「だれだろ? 怪しげなヤツらだな。」 遠目に、ボートには二人、黒っぽい人影が乗っているのが見える。ボートは次第に近づいてきていたが、急になぜか進路を変え、直角に曲がって行ってしまった。どうも、ボートはこの島を目指していたが、船着き場のボートと、浜辺のわたしたちを見て、来るのを中止したように思える。 遠ざかっていくボートに、わたしは内心、実は失望していた。怪しげな連中が上陸してきて、わたしたちに災難でも降りかかるようなことになればと、ほのかな期待が心にあった。里仁模君のさっきの話に出てきたような、めちゃめちゃ恐ろしい大事件に巻き込まれ、二人に愛が芽生え、そのまま、大恋愛に発展すればなんて願望が、心の底にあったのだ。 そんな妄想が、すぐに現実の話になって、とてつもない怖い目に遭わなきゃならないなんて、この時はまだ、全然考えられなかった…。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←こちらのサイトから、月島衣音の他の小説もお読み頂けます。
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二三、「猫島」って楽園! 「おい、里仁模、送ってちょ! わしはこれで帰るで、さっきの蒲郡マリーナまで連れてってくれんきゃぁ。」 博士は説明をし終わると、里仁模君にそう言って、里仁模君と一緒に玄関を出てから、見送るわたしの方を振り向いて言った。 「アンポンタン! あと、よろしくな。まぁ、ガンバレ!」 「何をガンバルと言うのよ。」 「いろいろ、ガンバルことがあるじゃろうが。がはははははっ!」 憎まれ口と豪快な笑い声を残して、博士は里仁模君の運転するモーターボートで帰って行ってしまった。 二人がいなくなってしまうと、猫やブタだけの島に人間は自分一人になってしまったという実感が湧いてきて、急に寂しくなってきた。これから、長い間この島でやってけるだろうかという不安も襲ってくる。里仁模君がいずれ帰ってくると分かっていても、無性に心細くなった。 ミニ猫の部屋に戻るとちっちゃい猫ちゃん達がまとわりついてきて、いっぱい膝の上や、肩にまで登ってくる。さっき咬まれた指の傷の血は止まっていたが、その指の四つの赤い傷を見ている内に、このミニ猫たちがちっさな小悪魔に見えてきた。今自分が島にひとりぼっちということもあってか、ミニ猫たちのかわいい顔が、一瞬、不気味に思えた。 わたしと里仁模君との猫島での生活は、最初の内しばらくは、ウソみたいに平穏で、楽しくてしょうがないような毎日だった。ネコやブタたちの世話は楽で、ほとんど遊んで過ごしているようなものだった。ネコもブタもエサをよく食べて、丸々と太ってくれた。 ただ、ひとつ、ブタたちの首回りの傷のことは気になった。傷は治って消えていくどころか、次々に新しい傷が出来ている様子だ。壁の換気口と言い、暗いうちは決して入ってはならないという決まりと言い、ブタ小屋に関してだけはミステリーがつきまとっている。だが、それさえ気にしなければ、生活は快適そのもので、わたしたちは、「これで、博士から高額なバイト代もらっちゃったら申し訳ないね。」なんて、本気でしゃべり合っていた。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←こちらのサイトから、月島衣音の他の小説もお読み頂けます。
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二二、超音波銃は護身用 本館内を一通り案内し終わり、説明も、すべてし終わった時、無茶大路博士は思い出したように言った。 「あと、いざと言う時、おみゃぁさんたら、身を守る時のために、銃を置いておく。」 「銃? ってそんなもん…」 「いいんですか? 銃刀法違反に問われないんですか?」 わたしも、里仁模君も、同時に聞いた。 「大丈夫や。銃っつっても、殺傷能力なんてありゃあせん。ただ、いつ、どんなヤツが来んとも限らん。そういう時のために、相手をビビらすための効果は抜群の『超音波銃』じゃ。」 「超音波銃? それも博士の発明品?」 博士は「せぇや」と応え、廊下の突き当たりの物置を開け、中から、先が漏斗状に広がった奇妙な形の銃を取り出した。 「こいつが発生する超音波は、普通では人間に聞こえんが、発射されて対象物に当たった途端、相手の体の中で通常の音波に変わる。」 「通常の音波に変わると、どうなるの?」 「どえらい、高音、大音量になって、当てられた人間の鼓膜、突き破る。」 「鼓膜突き破るって、危険じゃない!?」 「ちょこっと大げさに言っただけだがや。破れせん。破れそうなくらいっちゅうこっちゃ。そんぐらいやって、相手、思いっきりビビらして、脅したる武器や。」 「思いっきりこわい武器じゃない。」 銃を手渡されたわたしはビビって、里仁模君にパスする。彼は、それを手に取って、操作を試すかのようにじっくり見て、触って、確認している。 「こんなの、安易に使っていいんですか?」 「いや、いや、もちろん、イザっちゅう時しか使ってかん。あくまでも護身用ってことや。」 里仁模君が博士に銃を返すと、博士は物置の棚にそれを戻し、扉を閉めた。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←こちらのサイトから、月島衣音の他の小説もお読み頂けます。
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