|
一六、前任者 それから、博士は急に廊下側の別の出口に向かい、わたしたちを手招きしながら、 「あ、次は、こっち。こっちを見てくれ。」 と、わたしたちを別の部屋に連れて行こうとした。エサを食べ終わって満腹したらしいミニ猫たちは、ぞろぞろとわたしたちの後について来ようとする。 「あっ、ダメじゃ。こっから先は、おみゃぁたの来る所じゃにゃぁ。」 博士はそう言いながら、足でミニ猫たちを部屋に追い戻し、先に廊下に出ていたわたしたちのうしろのドアを閉めた。 「毎日、朝夕二回づつ、必ず、あのミニ猫たちにエサと水をやってくれ。ケージのアビーもだ。水の器は毎回きれいに洗うこと。あの子たちと、それから、この先の部屋の猫たちにも同じようにエサと水をやるように。」 博士はそう、エサやりの説明をしてから、 「これが、この先の部屋の猫のエサじゃ。」 と、廊下の棚にあった、市販のキャットフードの袋の山から一袋を取った。 わたしはその時、フト疑問に思ったことを口にした。 「博士、今、ここって誰もいないでしょ? 今まで、この子達の世話を誰がしてたの?」 「あ、いや、ちゃんとおったんや。夫婦者がな。せやけんど、つい先日、やめてまったんじゃ。色々、理由があって。おみゃぁたが来るまでの間、なんとか引き留めておったんじゃが。つい、おとついだったかやめて出てってまった。」 「どういう理由で?」 「ま、何かとな。色々じゃ。だから、おみゃぁたに来て貰ったんじゃ。早速今日から、しっかりやって貰わんとな。ほれ、こいつらも一日飯抜きじゃったから、催促しとる。」 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
|
ドキドキ出来事「奇っ怪猫島」
[ リスト | 詳細 ]
|
一五、特別待遇の猫 「咬まれるから…、気ぃ付けんと。こいつらの中にはちょっと気が荒いヤツもおって…。あ、なに、甘がみだがや。子猫の内はじゃれて咬み合うもんや。」 「でも…、」 「それに、子猫は、牙が永久歯に生え替わる時、そうやって、何かを咬んでジャマな乳歯を抜こうとするんじゃ。」 「でも、この子達はもう、成獣って言ったじゃない。」 「あ、ま、まだ完全という訳じゃにゃぁ。まんだ、生えかわりの時期のヤツもおる…。」 博士は何か隠しているのか? なんか、怪しい。日頃は自信たっぷりな話し方するくせに、今の博士は、妙にあたふたしている。博士は「念のために」と言いながら、薬箱を部屋の隅の棚から取り出し、消毒薬を塗ってくれた。 博士は同じ棚に積んであった、猫用ペットフードの袋を手に取り、封を切ってから、床の上の猫皿に、「ザラーッ」と、中身をあけた。ミニ猫たちが、いっせいに飛びついて、「ガリガリ」と音を立てて食べ始めた。わたしの手の中のミニ猫も、わたしの手を飛び出して、元気よくエサにかぶりついていった。 「あーっと、それから、言っとくが、このケージに入った『アビー』は、特別じゃから、特に体調には気を配るように。」 博士は、額の汗を拭いながら、隅にあった、大きな保育器のようなケージの前に行き、中の猫にわたしたちの注意を向けさせた。 そこには、他の猫と明らかに待遇が違うように見える、リッパな毛並みのミニ猫が一匹いた。小さいけれども、アビシニアン系のネズミ色の短毛がとても美しい。 「『アビー』って、この子の名前なの? この猫だけ特別扱いで、名前が付いてるのね?」 「そうや、こいつは、大事な父猫じゃから。特別に名前も付けて、インフルエンザとかの、病気からも守ってやらにゃならん。」 博士はそう言うと、急にわたしたちに向き直って、さらに続けた。 「ええか、このケージのアビーも、ここにおる他の猫たちもみんなそうじゃが、大事な企業秘密じゃ。必要な数をある程度揃えて出荷する為に、これから繁殖させようとスタートしたばっかの、大事な、試作猫たちじゃ。絶対に外に漏らさんでくれ。島には誰も寄せ付けちゃならん。えっか?」 「はい。」「ハイ。」 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
|
|
一四、可愛いいけど 「そう思うきゃぁ?」 「思うわよ!!」 「ボクもそう思います。こんなかわいいミニサイズの猫なんて! ビックリです! ボクだってポケットに入れて連れて歩きたい位ですよ。」 博士は説明の腰を途中で折られて、少し不服そうな顔をしていたが、わたしたちがミニ猫に夢中の様を見て、気を取り直したのか、「パァーッ!」と顔を明るくして言った。 「そ、そうきゃぁ? うれしいよ! そういうおみゃぁさんたみたいな若者の感想が聞きたかったんじゃよ。大ヒット間違いなし、じゃな?」 「太鼓判!! 博士、またまたボロ儲けじゃない! ね、いっぱい繁殖させて、ドンドン売り出しましょ。わたしたちこの子たち、エサやって大きくして、あ、この場合大きくしちゃいけないんだっけ。で、ま、可愛く育てて…。」 わたしがそう言いながら、手の中のミニ猫の顔を撫でていた、その時だった。博士が「あっ」と言った。「気を付けて」と言おうとしたのか? その途端、 「カプッ」と、わたしの指先は、そのミニ猫に咬まれてしまった。 あわてて手を引っ込めると、見事、右手人差し指の先に四つの小さな赤い傷ができ、そこから血が玉コロ状になって膨らんで出てきた。 「イタイッ!」 血を見てからそう叫ぶわたしに、里仁模君がボケをかましてきた。 「おおっと! 食いつきがいいですね。」 「逃げた魚は大きい…って、やめてよ。わたしの指はエサかっちゅうの! 釣りやってるんじゃないんだし。」 ほんとに痛いのに、つい、乗ってしまう性(さが)が悲しい。 博士はテーブルの上にあったティッシュの箱を素早く取って、わたしの方に差し出した。わたしは、ティッシュの一枚を取って、血を吸い取り、指に巻き、傷口を塞いで押さえた。けれども、そのあまりに素早かった博士の反応にはちょっと違和感を感じてしまった。 つづく
|
|
一三、ミニ猫ブーム招来 「今や、日本のペット産業は二兆円市場に膨れ上がっとる。しかしながら、そのペットに求めるファクターは多様化しており、ペットに求める人間側の要求も番犬などの実用効果から、パートナーとしての癒し効果のウェートが高くなっており……」 「博士! 大学の講義じゃないんだから、もっと分かり易い話にして!」 わたしが口を挟むと、里仁模君も続けて言う。 「つまり、ミニ猫なんて、今までなかったから、みんな飛びつくに違いないってことですよね。」 「先に言うな。ま、そう言うことじゃけど、折角ここまで苦労して作り上げたミニ猫なんじゃから、もうちょっと、苦労話とか開発秘話とか、聞いてくれたってもええやないか。」 「博士、ぜひ聞かせてください。」 里仁模君は、世渡り上手だ。そつがない。 「大小で言うと、イヌにはセントバーナードのような大型犬からチワワのようなミニ犬まで、実に様々な種類がいる。室内で飼うペットとしても、非常に豊かなバリエーションの中から、それぞれ、好みに応じて、選び分けることができる。 ところがだ、ところが、猫の場合にはそういうバリエーションが今まで全くなかった。毛の長さで、ペルシャ、ヒマラヤン、シャム、アビシニアンとか、最近はやりの、毛なしのスフィンクスなんてのの種類がある位で、どいつも成獣のサイズはほとんど変わらん。イヌの様に、大きい猫が欲しい、小さいサイズの猫が欲しいって訳にはいかなかった。」 「博士! もう能書きなんてどうでもいいよ! 言いたいことはもう全部分かってるから! 売れるわよ!! ゼッタイ売れる。スッゴイ!! 大反響よ! 大ヒット間違いなしよ!」 博士の話は名古屋弁が抜けすっかり大学講義になってしまっている。そんな話は聞かなくても、目の前のとてつもなくかわいいミニ猫たちを見れば、もう、誰だって納得する。ミニ猫ブーム到来は、確実、間違いなしだ。 わたしは、目の前の博士の作り出したミニ猫にすっかり夢中になって、博士の説明を聞こうとしなかった。この時、わたしがちゃんと聞いていたら、この後の恐怖のトラブルにも少しは冷静に対応できたかも知れないのに…。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
|
|
一二、秘密の猫たち 「キャー! 何? かわいいっ! これ、子猫? じゃ、ない、わね?」 「これで成猫じゃ。わしが苦心の末、開発した新種のミニ猫たちじゃ。」 「新種のミニ猫!?」「ミニネコー!?」 わたしと、里仁模君が、同時に声を揃えて言った。 出てきた十匹ほどの猫たちは、確かに、産毛の子猫でも、よちよち歩きの子猫でもない。しっかりした動作で、縮尺だけを縮めたような、一人前の大人のミニ猫たちだった。 でも、みんな、おなかを空かせていたらしく、しきりに「ミャア、ミャア」鳴いて、わたしたちにまとわりついてくる。わたしたちはそんなミニ猫たちに囲まれながら、お伽話のような、その部屋の中に入った。 猫たちの部屋は、半分カーペット敷き、半分が板張りになっている。ネコ用に最適に改造されているらしく、板張りの床の隅には「ネコ砂」の敷かれた木枠が設けられていて、他にも「爪掻き板」や、遊具などが置いてある。見るとネコじゃらしとか、積み木やビニールボールの類もいっぱい転がっていて、まるで保育園の遊戯室みたいだ。 しかも、どれもみんな、ミニチュアサイズで、おもちゃの国にいるようだ。それでも、ミニ猫たちは、いっぱしの普通の猫がするように、わたしたちの足に、その小さな首や背中をこすりつけ、甘えてきた。 「かわいい! 博士、『秘密の猫』たちって、この子たちのことだったのね。なんてかわいいの!」 そう言いながら、わたしはミニ猫たちに手を伸ばし、じゃれついてくる何匹もの猫を指の先で撫でてあやした。 「博士、抱いていい?」 「ええよ。」 博士の許しが出る前に、わたしはその内の一匹を捕まえ、胸に抱いていた。ちいさなその体はクニャッと柔らかく、軽い。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
|




