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一一、おとぎの島のペントハウス 「すごい、いいところですね。ここで、ジュリさんみたいな可愛い方と一緒に過ごせるなんて夢みたいです。」 イケメン男の里仁模君が、「宮地佑紀生」似の無茶大路博士に向かって言った。横で、 「そんな、『可愛い方』だなんて、はずかしい…。」 と、いうわたしの声をかき消し、すかさず、博士が言う(おい、聞けよ)。 「甘いのぉ。里仁模。こいつはそんな生やさしいヤツとちゃうで。あんまり、夢みたいなこと思い描かん方がええで。」 「博士、そんなこと言わなくたっていいじゃない(しかも、わたしが恥ずかしがる大事なシーン飛ばして)。里仁模君、わたし、博士の言うような人間じゃないから、安心して。」 「里仁模、指一本でも、触れたりしたら、おみゃあさんの給料全部ふんだくるつもりらしいで。気ぃ付けろ。」 「わたし、そんなこと言ってませんから。」 「ウソこけ〜っ! 言っとったがや。」 「ボ、ボクは、気が弱くって、女性に触れるなんて、命令されたっても、ようせんですから、安心です。」 ウケ狙いか、里仁模君がわざとらしく、わたしの方へ伸ばした手を震わせながら引っ込めた。またまた、わたしたちは笑ってしまった。里仁模君は、どうして、相当の「ひょうきん者」だ。 本館と博士が呼んだ建物は一見コテージ風で、木造のペントハウスのように見えたが、近づいて見ると、コンクリートとアルミサッシで出来た、気密性や空調をしっかり考えて造ったリッパな建物だった。中も見かけより、ずっと広そうだ。 頑丈そうなガラス扉には、これまた頑丈そうな鍵のボックスがついている。博士がその鍵を開けて、三人、中に入ると「ミャア、ミャア」と、早速、どこからか、猫の声が聞こえてきた。 玄関を入った所は、ちょっとしたロビーになっていて、洒落た小型のシャンデリアが高い天井から下がり、重厚そうな応接セットが三組ぐらい置いてある。オーディオセットや、プラズマタイプの大きなテレビも、壁側に据えられていた。 「すっごいーっ! りっぱー! どっかのホテルみたい。」 わたしも、里仁模君も、見回して感嘆の声を上げた。 廊下を曲がり、博士が、最初の部屋の入り口の開鍵をし、扉を開け、一緒に中に入ろうとしたその時だった。 「足下に気ぃ付けて!」 と言う、博士の言葉に思わず後ろに飛びのいた。わたしたちの足下に、踏みつぶしてしまいそうなくらい、小さな生き物が、「ダダダダッ」と、いくつも飛び出してきたのだ。 な、なんと! それは、フワフワの毛に包まれた、ハムスターを一回り大きくしたくらいの、とてもかわいらしい猫ちゃんたちだった。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
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ドキドキ出来事「奇っ怪猫島」
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一〇、猫島上陸 「ええやんか。どうせ、猫かぶっとっても、すぐばれるって。」 「博士、そういじめなくてもいいでしょ。猫なんか被ってませんから…。」 そんなやりとりするわたしたちの横で、ボートの操作をしながら、「ボソッ」と里仁模君が神妙そうに言った。 「ネコばかりのネコ島に、ネコ被った女と、ネコ被った男たちが、今から向かおうとしてる…」 聞いて、思わずわたしも、博士も、「あはははは」「がはははは」と、腹を抱えて笑ってしまった。 里仁模君のユーモアセンスは、結構いいセンいっている。博士の言った「紳士的」というのも本当のようだし、わたしはかなり安心した。言うまでもなく、わたしの[里仁模]欄の[お気に入り]チェックボタンにクリックがはいった。 「出発やでー!」 モーターボートの運転は船舶免許取りたてという里仁模君がした。最初のエンジンスタートや出航に、ちょっと手間取ったが、すぐ操作に慣れたらしく、ボートは波を蹴立てて、三河湾の沖に向かって快調に滑り出した。 猫島は三河湾内にある小島と聞いていた。すぐに着くものと思っていたが、島の姿が見えてくるまでにかなりの時間がかかった。島の入り江の船着き場に到着するまでには、それからさらに、二、三十分の時間を要した。 島はせいぜい八百メートル四方の、小さな、小さな島だった。周囲は崖になっていて、崖からはみ出しそうになるくらいに松の木や名前も知らない雑木が生い茂っている。 船着き場に着くと、人一人がやっと通れるような上り坂の道があり、そこを登っていくと、松や桜の木に囲まれた、平らな草地に出た。そして、その真ん中に、おとぎ話に出てきそうな、保養地のコテージみたいな洒落た建物が「ポツン」と、建っていた。 「うわーっ。すてきなおうち! ここに、これから泊まるの?」 「そうじゃ。この本館も、どっかの大企業の保養所だったところじゃが、バブルがはじけて、安売りしとったヤツを、わしが買い受けたんじゃ。」 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
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九、里仁模(リニモ)君 夏休みになって、待ち合わせに指定された、蒲郡マリーナの埠頭に行くと、ピカピカの大型モーターボートの前で、博士と、健康そうに日に焼けたイケメン男が待っていた。埠頭には他にも真っ白な帆を張ったヨットが、沢山ひしめいている。 「ヨォーッ! 来たなー。アンポンタン!」 相変わらずの憎まれ口で、「宮地佑紀生」似の無茶大路博士が、わたしを見つけて手を振った。 「ダレが、アンポンタンやねーん!」 「お前しかおらんがやー、アンポンタンゆうたら。」 休日のマリーナには、朝から、レジャーでこれから海に出ようと支度をしている人が何人もいる。夏休みの間、島で暮らすための衣類や必需品一切詰め込んだ大きなスーツケースを押してるわたしが、呼びかけてくる博士とそんなやりとりをしているのを見て、みんな笑っている。 「あっはっはっは。先生、おっしゃる通りの面白そうなお嬢さんですね。」 日焼けイケメン男も、笑いながら、握手の手を差し出してきた。日に焼けて色は黒いが、ガッシリ型ではない。スマートで秀才タイプだ。にこやかなおしょう油顔は、どことなく気弱そうな雰囲気もある。ただ、それこそ、わたしの思い描く「ベスト好みタイプ」なのだからいけない。 「こいつが『里仁模』や。どや、言った通り、なかなかのええ男やろ?」 博士が、わたしの手を取って、里仁模君の差し出した手に重ねる。思わず「カァ」と顔が熱くなった。 「よ、よろしく、お世話になります。ジュリです。」 「アルバイト期間よろしくお願いします。リニモです。ジュリさん、二年生だった? ボク三年だから、一コ上かな?」 「はい。」 里仁模君は、わたしから大きなスーツケースを受け取り、「おっきい荷物だね。」とか言いながら、ボートに積み込んでくれる。 「どうしたんや? いつもの威勢は。アンポンタンらしくないがや。これから長いんや。仲良くやってもらわな。」 「博士は! わ、わたしはいつも通りです。」 わたしは、本来、人見知りするような人間じゃないが、思わぬイケメン男の登場に、博士の言う通り、初対面で、少なからずドギマギしてしまっていた。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
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八、猫の楽園 「その島って、そこで博士の猫たち飼ってるの? もしかして猫だらけの島?」 「せぇや。かっわいいもんやぞー。猫の楽園じゃぁ。」 「博士ったら、研究で稼いだお金で、そういう離島とか、丸々一コ買って、またそこで道楽じみたことしてるのね。」 「道楽とはなんじゃ? 道楽とは? 道楽なんぞでありゃせん。そこでまた、新たな研究をして、世間様に貢献しようとしとるんだがや。現にこうやって、アンポンタンたらに仕事の供給しとるやないか。」 「分かった、分かった。で、わたしの仕事ってのは、その猫たちの世話?」 「ま、有り体に言えば、そう言うこっちゃ。だけんど、その猫たちは、研究用の特殊な猫や。死なしたり、病気にさせたり、もちろん逃がしたり、盗まれたりしたら、減俸や。そんなんせん様、お前らにちゃんと守ってもらわなならん。」 「きっつーっ! でも、研究用の特殊な猫って?」 「言ったやろ。秘密の猫たちや、って。ま、行って見れば分かる。それと、改めて言っとくが、契約書にも書いておいた通り、島で見たこと、経験したことは、一切、口外しないって約束して貰わなかん。島の秘密が漏れたら、即刻クビや。バイト代どころか、逆に賠償金、払ってもらわなならん。それだけは忘れんといてちょ。えっか?」 「はい。」 わたしは、しおらしく返事をした。だが、この時まだ、わたしは、島の秘密が何なのか、秘密の猫が何モノなのか知らないでいたから、そんな安直な返事ができたのだ。知っていたら、こんなアルバイトを引き受けることは、ゼッタイ、ゼッッッタイしなかった……。 つづく ドキドキ出来事ミラクルワールド ←この小説はこちらのサイトでも公開しています。
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七、小島に二人っきり? 「寝泊まりする場所や食糧は全部提供したる。やけんど、島やから、本土との行き来は限られる…。」 「わたし、たまに、大学にも顔出さなきゃいけない時あるから、ある程度自由に行き来できないと困るんですけど。」 「我が侭なやっちゃなぁ。まあ、ええ。どうせ、おみゃぁさん一人じゃ心細かろうて、「里仁模」ってヤツも呼んどる。こいつは船舶免許持っとる。モーターボート貸したるから…。行き来したらええ。」 「リニモ? え? それって、男?」 「そうや。なかなかのええ男やぞ。仲良くやったらええがや。」 「仲良くったって、そんな、離島に若い女と男で二人っきりでしょ。めっちゃヤバイじゃないですか?」 「そら、そうやかも知れんが、逆に島じゃ何が起こるか分からんのやぞ。男がおった方が心強い。男でもおらんと空恐ろしいことになるで〜っ!」 「きゃ〜っ!」 博士が両手を挙げて襲いかかって来るような動作をして、わたしを脅した。冗談と分かっていても、「宮地佑紀生」似の博士の顔は十分怖い。本気でビビッた。 「冗談や、って。そんなことは起これ〜せんて。ただ、男がおれば心強いことは確かや。それに、ええって。こいつは紳士的なやっちゃ。ま、なんなら、一筆書かせて、おみゃぁさんに、手ぇ出したら、バイト代没収ってことにしといたるで…。」 「それ! ぜひそうしておいて。わたしに、指、触れただけでも、減額。それで、没収したお金はわたしが貰うってことでどう?」 「恐ろしいやっちゃな。里仁模が聞いたら、反対にあいつの方がビビって、バイト止めたいって言い出すワ。」 里仁模って男の子が「紳士的」って聞いただけでちょっと安心した。逆に、「反対にあいつの方がビビる」という里仁模君に、興味も湧いてきていた。どんなヤツか会うのが楽しみだ。 つづく
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