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ハ−バード大学教授のロバート・ラングトン博士(トム・ハンクス)は、フィレンツ
エの病院のベッドの上で意識を取り戻す。傍らに女医のシエナ・ブルックス(フェリシテ
イ・ジョーンズ)が立っている。覚醒したが正常ではない。幻影が現れる。記憶が飛んで
いる。
映画は、フィレンツエ、ベネチアに移りイスタンブールでジ・エンドを迎えるが
この東西文明の融合の地が映画の暗示でもある。僕は、原作は未読である。前2作品より
この地獄編の出来がいいと推奨したい。映画の好みも料理と似ている。他人が旨いと
推奨したものでもこちらの舌に必ずしも合うとは限らない。
それにしてもトム・ハンクスという役者は万人に好まれる顔をしている。
ジョージ・クルニーやトム・クルーズみたいな近寄りがたい美形という訳ではない。
その広いおでこをふんだんにいかしている。この映画でも記憶したことは忘れないという
天才的頭脳の持ち主は、「私は、何も忘れない」シエナは「それは、あなたの才能よ」
と答えているが本人は「重荷なんだ」といって苦痛の表情で答える演技がいい。
この映画は、誰が敵で誰が味方か判然としないまま進行していく。ラングドン教授
の断片的記憶の回復とともに真実が明らかになっていくが「敵の敵は味方だ」という
ある種外交の要的様相はメッテルニヒの行動を分析しなくても日本でも戦国時代の
武将の行動は全く同じものだし、サリーマンの組織内遊泳術、あるいは個人の人間関係
の機微にも時々顔を出す。
狂気の科学者が計画した地球を救うのは増殖していく人口増を止めることだ。
その為には、殺人ウイルスで人口の半減を成功させるのは正義だという途方もない
計画がセット・アップされ本人は追い詰められビルから飛び降りる。
たしかにこの時限装置が稼動している殺人ウイルスの隠し場所はラグンドン教授の
天才的頭脳の解析によるが一番の貢献は世界の悪からの依頼を受ける「便利屋」が
約束を破り依頼者からのビデオ・メッセージを期限前に開封することによる。
世の中、恋は偶然の産物であり、殺人も偶然の産物といえないことはない。この悪の
便利屋が固い約束の期限前にビデオを開封したのも偶然といえる。批評家は予感という
言葉に置き換えるのを常としている。
記憶が戻り、この事件の手助けを依頼した別れた恋人と再会したラングドン教授に、そ
の恋人(WHO幹部)は、「人生にはミステリアスが必要よ」と言い残し事件現場から去って
いく。
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