オランダ坂から

はかなさは花月の門につるしたる金燈籠の灯より来るらし 勇

長崎物語

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 日仏合作映画「忘れえぬ慕情」が今、浜町で再上映されて当時をしる人々が詰め掛けている。

この映画は昭和31年に公開され長崎がメインの舞台となっている。

 私は、この映画の公開の報を聞いて家人に「見に行こう」と声をかけたが家人は友達の誘いに

乗って私を振って早々と見に行った。帰ってきて評を聞いたが「どうということもない映画、

岸恵子の甲高い声が気になった」と辛らつな声が返ってきた。私はもう熱が冷めてしまったが

見たい理由は、この映画にレストラン「銀嶺」が経営していたクラブが登場することである。

銀嶺もクラブも今はない。銀嶺の食事部門は歴史博物館の中で営業しているがかっての華やかな

面影はない。銀嶺は、長崎を代表する高級洋食レストランであり、その横にあったクラブは

長崎に来る客の夜の社交場となっていた。私も1度だけいったことがある。

そんなに大きな店ではなく入り口の横にカウンターがあり、たしか奥にソファーがあった気が

する。落ち着いたいい店だったまだ若い私はこういう場所に慣れていなくて粒ぞろいの美人ばかり

のホステスを見ていた。このクラブを確認してみたいがもうどうでもよくなった。

 キャバレー「銀馬車」も登場するらしい。ここも懐かしい場所である。このキャバレーの

専属バンドが「内山田ひろしとクールファイブ」であったがこの映画の後である。

 主演の岸恵子は、監督のイブシャンピと出会い結婚してパリに渡る。

当時のイブ シャンピ邸はパリの文化人の社交場の一面があり岸は自邸でコクトー・マルロー・

サルトル等に出会い文学少女の面影をもっていた岸は彼らとの会話を通じて知的刺激を

受け「社会性」を獲得する。イブ シャンピのユダヤ女性との浮気で離婚するがこの戦後を

代表する美人女優は心が傷つきながらも大きく変容して帰国する。経緯は彼女の著書に詳しい。

 映画館は、この時代を知る方々が多い。映画に映る昭和30年の長崎の町並みを見て何を

回想するのか?映画の題名通りの回想をする方もおられるにちがない。1コマに映る町並みで

忘れていた情景がよみがえることもある。この映画は中身よりは当時の長崎の情景が確認できる

ことに意義があるかもしれない。


  ○ 参考文献 岸恵子著「パリの空はあかね雲」「ベラルーシの林檎」

 ♪ 汽笛一声新橋を ♪の鉄道唱歌が余りにも有名であるから鉄道の歴史は、この明治5年1872

年に開設された新橋ー横浜間が最初だと思いがちであるがこれは営業としての鉄道の開始である。

 出島高速への入り口の横にある市民病院前の歩道に「我が国鉄道発祥の地」という石碑が

ある。これは、貿易商トーマス・グラバーが慶応元年1865年にここから松ヶ枝までレールを敷き

蒸気機関車を走らせている。これが日本で本物の機関車がレールの上を走った最初と

云われる。1853年プチャーチン率いるロシア船が長崎に入港し船上で模型の蒸気機関車を

走らせて日本人に見学させてはいる。叉安政2年1855年には早くも佐賀藩は模型の蒸気機関車を

製造したと云われている。幕末の佐賀、薩摩、長州、宇和島の近代技術の導入と模倣は驚くべき

早さで進む。

 この場所は、幕末から明治にかけて「長崎バンド」と呼ばれた「外人居留地」の入り口に

あたる。この場所の右側裏手の山の中腹に「グラバー邸」があり海岸通りにはホテル、商社、

新聞社、香港上海銀行などが軒を連ねていた。

 奇しくも今日は、ハウステンボス再生を手が掛けている旅行会社HISが14年ぶりに

海の航路長崎ー上海便を復活させその第1便が10時に過ぎに松ヶ枝の港を離れ上海に向けて

出航した。

 

長崎と料亭

 長崎には、「料亭文化」が未だ生きている。

人口44万人位の都市で料亭が4つもある街は余りないのではないか?料亭は単独では存続できない

。それを支える「検番」「芸者衆」の存在抜きにはありえない。叉、芸者衆の使用する三味線、

太鼓などの製造、修理業者、髪結い、庭師、使用している家屋がどこも歴史ある建造物のために

それを維持する職人等の裏方を考えると維持していくのは大変な労苦がいる。

 村松友視の「俵屋の不思議」を読むと京都の老舗旅館俵屋を維持していくのに京都の知恵と

伝統がないといかに難しいかよくわかる。加えてマンパワーとしてのソフト面の人材育成が欠かせ

ない。長崎の料亭も同じことがいえる。どこも経営は安定ではないだろう。

先年、思案橋にあった「松亭」は廃業しマンションに変わった。この料亭は私たち家族にとっても

思い出の場所でもあるので大事な記念日の1ページが落丁した感じがする。

 一番古いと云われている「一力」はたしか数年前に存続の危機を迎え長崎の経済団体が

スポンサーについた。こういう料亭の顧客は、大店の個人もあるが戦前は軍需産業三菱、軍部、

政治家、官僚及びその関係者が大の得意客である。戦後税制が変わり最初に大店の旦那が脱落し

政治資金規正法の強化で政治家も公私混同の金の使い方に国民の眼を意識せざるをえなくなって

いる。当然、県庁も長崎に来た中央官僚の接待に日常的に使用してきたがこれも「官官接待」の

批判があり公然の使用は難しい。重要建造物の3階建て木造建築「富貴楼」などは先年

お邪魔したときには外側のガラス戸は柱と1センチの隙間があり外部の冷気が入る有様であった。

 料亭での婚礼も若者のライフ・スタイルの変化でここで結婚式を挙げることは両親の強い

思い入れがないとそんなに需要があるとは思へない。どこも昼席に簡便な御膳を用意して

個人客の需要に力を入れているがこれも競争が激しい。

 料亭の誇りは、「歴史」「伝統」「格式」である。

そろそろ、これが重荷になっている。世は、坪単価、効率、の時代である。料亭にとっては

難しい時代が続くのは間違いない。


   注・「一力」「花月」「青柳」「富貴楼」



 

 長崎の秋は、この諏訪神社の大祭「くんち」から始まるといっていい。

今年は、晴天に恵まれている。地元民は敬意を表して「お諏訪さん」「おくんち」と呼ぶ。

オランダ坂下のニュータンダ・ホテルのレストランで家人と待ち合わせた。私は、一足先に出て

古本屋をひやかした。ホテルの横の反対側に聖公会の教会がある。

聖公会も日本で最初に長崎に教会を造ったのではないか?。本家は、英国国教会である。

 このホテルのレストランは、広くて気持ちがいいので時々利用する。以前より旨くなった

きがする。私は和食、家人はフレンチを注文した。

 諏訪神社の境内で踊町の出し物を生で見たのは遥か記憶の彼方になっている。今日、各踊町は

地元の家々を廻る。9日の御上りまで神社のご神体は神社を出て「お旅所」とよばれている

大波止のご座所にいることになっている。神輿に鎮座しているご神体が

3基並んでいる。諏訪神社は、住吉、諏訪、梅崎神社の合併社であるからご神体は3つという

ことだ。その周囲に屋台が出て人だかりでなかなか前へ進めない。お賽銭だけ上げて早々に

引き上げた。暑い。休む所もなく近くの商業施設のビルも人であふている。

 屋台をみると子供の頃の自分を思いだす。小遣い50円でなにを買おうかと眼を輝かせていた。

当時は屋台の出る祭りには必ず「傷痍軍人」の姿があった。哀調のあるメロデイーをアコーデイオ

ンから流し寄進を募っていた。子供心に白装束のその姿をみると足早に通ったが今の祭り

に戦争の暗い影はない。子供たちの楽しげな喧騒だけがある。

 おくんちも明日で終わると長崎は、本格的な秋となる。

 遠藤周作が「沈黙」など一連の作品を書く動機となったものが南山手の十六番館に飾

られていた「踏み絵」である。遠藤は、旅館「矢太楼」に泊まり散策の時に大浦天主堂

の前の坂道を登り余り期待もせずに「何が飾られているの」とたずねて入館している。

 遠藤は、この坂道を長崎で一番気に入った場所と書き来訪のたびに訪れている。

そこに飾られていた足跡のついた「踏み絵」が遠藤の脳裏に刻まれていく。

1600年頃の長崎は人口の90%、5万人位が信者だったと云われている。遠藤の心は、こ

の踏み絵を踏むことを拒否して西坂の刑場ではりつけされた「強者」より、大多数の揺

れる気持ちで踏み絵を踏んで「転んだ」「弱者」に引かれていく。それを書くのが作家

としての使命ではないかと思うようになる。

 遠藤が訪れたのは昭和40年の少し前くらいのことであろう。

私は、この資料館となっていた十六番館を知らない。私が見ているのは「おみやげ屋」

を営んでいる十六番館である。大浦天主堂の正面、グラーバー園の入り口の右の坂を上

りきったところにあるが今はロープが貼られて入ることは出来ない。老朽化が目立つ。

この建物の由来書きは正面の門の真鍮の板に書いてある。市に問い合わせたところ個人

所有とのことである。そうすると遠藤周作の見たこの館に展示されていた「踏み絵」は

館主の個人の所有だったのだろうか。そして、遠藤が大きく心を揺さぶられて代表作

「沈黙」に結実した「足跡の付いた踏み絵」はどこに消えたのだろう。


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