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『パームツリーへようこそ〜夏の海の恋〜』
 
短編小説&フォト/入野うさぎ
 
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 『パームツリーへようこそ〜夏の海の恋〜』
    入野うさぎ 著
 
このペンション兼レストランのオーナーの名前は夏木洋子、ヨーコママと呼ばれている。
「洋子」の洋は太平洋の様の字から採ったものである。
レストランの名前は「パームツリー」。ちょっと、南国風でヤシの木が似合う元気なお店だ。
昔からの海沿いの地主家系で祖父母の代から信頼のある老舗として今でも健在である。
 
夏海 (なつみ)はプロのシェフを目指し西洋料理の専門学校に通う1年生で今年19歳になる。
夏海の母と洋子は高校時代の友人で、料理好きな娘の為に母がお願いしたアルバイトだった。
 
年頃の夏海は海辺を見るとお似合いの恋人達もいて羨ましく思った。
 
「夏海ちゃん、夏の恋は幻よ。」
「ヨーコママ、経験者ですか?」
 夏海は幼少の頃から洋子とは顔見知りで年は違うが気の会う仲間という感じだ。
 
 夏海はひと仕事を終え、午後の海を見に砂浜に出た。
果てしなく水平線は、小さな悩みなどかき消すかのように寛大に感じた。
一人の青年が海の写真を撮っていた。
プロ用のカメラを大事そうに扱っていた。
カメラから目を離すと、夏海に気付き話しかけてきた。
「すみません。この辺りで食事のできるペンションを探しているのですが・・」
「私のバイト先でよければ、軽食からありますのでご案内します。お店まで5分位で着きますよ。」
「ありがとうございます。」
青年とレストランに向かって歩き始めた。
「プロの写真家さんですか?」
「いえ、僕は大学の写真部で、まだ写真を撮り始めたばかりです。父がプロの写真家で海の写真を撮る人でした。その影響かも知れませんね。」
話をしながらレストランの前に着いた。
ドアを開けたらカラン♪カラン♪と風鈴が大きな音をたてた。
 
外での日照りの後の室内は一瞬暗く感じ、目が慣れた頃には大きな窓から美しい海が見えた。
青年はカウンターに腰掛けた。どうやら人と話すのが好きな様だ。
南国風のスパゲッティーとココナッツミルクのスイーツを注文した。
「お味はいかがですか?」
「美味しいです。料理のセンスがいいですよね。」
「ありがとうございます♪ココナッツミルクは当店自慢のメニューです。」
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洋子は、傍らにあるカメラを見つけた。
「学生さん、写真を撮りに来たのね。」
そう言いながら青年の顔をまじまじと見て、また話し始めた。
「前にもあなたに似た人がいたわ。
やっぱり海の写真を撮るって言っていたわ。」

「僕に似ていますか?」

「そっくりよ。」
「名前を覚えていますか?」
「覚えていえるわ。東山太郎さん。」
「えっ!本当ですか!それ僕の親父です。」
「嘘!本当!びっくりですよね!」
 
洋子は思わぬ展開に目を丸くした。
「詳しく話を聞かせてくださいよ。
それと、急ですが泊まる部屋は空いていませんか?」
「はい。3階の奥の部屋がひとつ空いていますよ。」
「僕の名前は東山栄太。」そう言って宿帳にサインした。
「あなたの筆跡はその東山太郎さんのサインに良く似ているわ。」
洋子は遺伝子って面白いという顔をした。
 3階に昇って、廊下の突き当たりに広い部屋があった。
突き当たりの窓からは白い砂浜の奥に広い海が見えた。
午後の太陽が傾きかけ西陽が差し込んできた。
部屋の奥の壁に額に入った写真が大事そうに飾ってあった。
OH!ココナッツガール!」
輝く波内際を背景に、パームツリーの木の下で小麦色した女の子が大きな麦藁帽子をかぶって、焼けた肌に白い歯を輝かせて満面の笑みを浮かべていた。
 
「ここにサインがあるわ。」
Taro (  - ) Higasiyama・・・本当!僕の父の写真だ!字も似ているね。」
「ねぇ、このモデルって誰かに似てない?」
・・・・「まさか!ヨーコママ!!!」
二人の声が揃い、天井まで高く響いた。
「若き日のヨーコママ!ちょっと、ちょっと、詳しく話を聞かせてもらわないと!」
夏海は面白がって、階段を下った。栄太も後から付いてきた。
「東山太郎氏の写真のモデルはヨーコママ自身ではないでしょうか?」
「当り!よくわかったわね、19歳の私です。ちょうど、夏海ちゃんと同じ年ね。」
洋子はケラケラ笑った。
「東山太郎君がまだ、大学生で食費が足りなくて嘆いていたので、代わりに写真を撮ってもらったのよ。」
「そうですか。まだ、母と出会う前ですね。」
「栄太君の母さんはどんな人?」
洋子が問いかけた。
「母は元々舶来雑貨の店経営の娘で今は父と二人で後を継いでいます。今日は夫婦でフランスに買い付けに行っています。妹がいるのですぐに帰って来ますけどね。」
「そうなの。お子さんが二人いるのね。今も写真は撮っているの?」
「撮っていますよ。写真が撮りたくて母と結婚したようなものだとよく言われます。
生活費は雑貨店の収入から出して、空いた時間に旅に出て写真を撮るタイプみたいです。」
「風来坊なのね。」
「はは、母は良く嘆いていますが、僕は父に似ているようで反論できないところです。」
「そうなの。私、栄太君のお父さんと結婚しなくてよかったわ。」
「ひどいな〜。それ僕自身もダメ出しって気がしますよ。」
「ふふっ、そんなことは無いですよ。今日はゆっくり休んでくださいね。」
洋子と夏海は階段を下りて仕事に戻った。
 
翌朝、
「ありがとうございます。僕はこんな楽しい夏は無かったですよ。」
「まぁ、嬉しいこと。」
洋子は、嬉しそうに照れ笑いをした。
「栄太くん、また来てくださいね。」
「ええ、機会がありましたら、是非来ますよ。」
洋子は子供みたいに大きく手を振ってお別れをした。
 
「ヨーコママ、本当は栄太さんのお父さんの事、好きだったのでは??」
「やだ、夏海ちゃん。でも、実のところそうなの。太郎さんの事好きだったわ。
栄太君が目の前に来たときは、本当に驚いたわ。そっくりですもの。」
「その話、私の母も知っているかしら?」
「知っていると思うわ。夏海ちゃんのお母さんは最初から写真家は安定収入がないから苦労するって反対していたわ。」
「母は私にも福利厚生中心で更に土地持ちのサラリーマンとの結婚を勧めたがりますよ。」
「あら!話が繋がったわね。」
二人で顔を見合わせて笑った。
「ところで、栄太君はまた来てくれるかしら?」
「そうね、本当は来て欲しくないのは私の方かな。『こんな楽しい夏は無かったですよ。』って言ってくれたでしょ? だから、このまま時間が止まって欲しいの。」
「ヨーコママはロマンチストですね。」
「まぁね。」
洋子は少し照れて3階の奥の部屋へ入っていった。
この部屋は太郎さんと写真を撮った日から誰も泊めずにいた。
いつか、彼が再び来てくれる時まで誰も入って欲しくなかったからだ。
 
若かった自分の写真を改めて見てみた。
両手を額に添えてゆっくりと壁から写真を下ろした。
 
昨日までは夏色輝いて見えた写真が、今日はセピア色に見える。
もう、過去の事だと悟った。
 
夏海がそばに来て話しかけてきた。
「ヨーコママ、やっぱり、夏の恋は幻ですか?」
「この年になると幻も良いものね・・・でも、夏海ちゃんは若いから形にしなくちゃね。」
「はい!ヨーコママ。」夏海は軽く敬礼してみた。
夏海も洋子の気持ちを察してか明るく振舞った。
 
カラン♪カラン♪ 風鈴が鳴り、玄関にお客さんがやってきた。
「パームツリーへようこそ!」
ヨーコママは元気を出して挨拶をした。
 
洋子は太郎がそばに居た当時の出来事を思い出していた。
東山太郎は、当時写真を撮る為に10日間このペンションに滞在していた。
毎朝、彼に会うのを楽しみに思いっきりの笑顔で言った。
 
「パームツリーへようこそ!パームツリーへようこそ!パームツリーへようこそ!」
何度も、何度も、何度も、太郎の為に、繰り返した。
 
彼は覚えているだろうか?
いつか、パームツリーの下で再び会う約束を・・・・
 
気付いたら23年の月日が過ぎていた。
 
「太郎さん、さようなら・・・」
 
海を眺めながらそっと彼に別れを告げた。
時間が経ち人の気持ちが変っても、祖父母が残してくれたこの土地と広く果てしなく続く海は永遠に変ることはなく洋子に生きる勇気をくれる。
玄関から吹き寄せる夏の硬い風は洋子の顔を強く叩いた。
 
永い夢から覚め、また新しい時代が始まる気がした。
 
 
 「パームツリーへようこそ 〜夏の海の恋」END
この物語はフィクションです。
                                     Seasons-plus-2011 夏号参加作品
 
 
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http://my.noevirstyle.jp/image/emoji/61.gif「パームツリーへようこそ」裏話
短編小説[パームツリーへようこそ」は、2011春号掲載の「嘘のない物語」とともに19歳頃(旧姓平野操)に書いた作品です。

現在47歳の私ですが、当時デザイン専門学生だった私は高校時代の美術部の流れで、当時あった美術系短大などで回覧した記憶があります。

 当時を思い出しながら、Seasons-plus-2011春号には「嘘のない物語」を2011年度版として書き直し、同じく今号、夏号にも「パームツリーへようこそ〜夏の海の恋〜」2011年度版として主役を同世代のヨーコママに仕上げました。文字数・文脈など、ポエム季刊雑誌 Seasons-plus- (太陽書房)用に合わせてリメイクしてあります。
当時は太郎さんを画家にしようか写真家にしようか迷った覚えがあります。(笑!
登場人物の名前は時代に合わせて変わっているかもしれません。
 

他、 「パームツリーへようこそ」って一言で言うと、どんな話?って聞かれますと、
一般的には結婚となると、アーティストより福利厚生の勝ちというとかなり納得されます。
もしくは固定収入や固定資産がある場合はその限りではないという話ではありますが、アーティストがアート活動をしないと精神的苦痛を感じますので結婚しなくてもアート活動してる方が良い人も多いようです。自営業やアーティストの年金、保険などが守られる政治を期待します。

さて、あなたは(読者)この話の中にいるなら誰のタイプですか?
 
 
                 ※著作権は入野うさぎに有り無断使用・複写は法律で禁じられています。
 
『嘘のない物語』 文/入野うさぎ 写真/HIYORI 
 
 
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ザザザ-----
雨の校庭は池のように水浸しになっていた。
 放課後、亜子は図書館で雨宿りをすることにした。
亜子の通う高校には趣のある大きな図書館があり、濃い茶色の本棚が幾重にも並んでいた。湿気が多い為か、印刷インクの香りがいつもより強く感じた。
 
図書委員の智久がはしごに乗って返却された本を定位置に戻す作業をしていた。
片手に抱えた数冊の本の中から1冊の本がこぼれ落ちた。
亜子はそれを拾って表紙を広げてみた。見た目はお伽話の絵本のようである。
 
「これ、読んでもいいですか?」
「どうぞ、館内で読まれるなら、後で僕のところへ持ってきてくださいね。」
亜子は軽くおじぎをして机に向かった。
本の内容は、幼い兄弟を養いきれなくなった養父母が、食い扶持を減らす為に子供を森に置き去りにする話だった。ヘンゼルとグレーテルや白雪姫など、類似点のある物語を幾つか思い出していた。
 
ひと仕事終えたのか、先程の図書委員の智久が声をかけてきた。
「どう、この本面白いでしょ? 無名作家だけど幾つか短編が集まっている。子供の時、僕の母親は眠る前によく本を読んでくれてね、『誰が主役で?誰が悪者?どこが嘘?』なんて聞いてくる。」
「あらあら、主役や悪役は判っても、次の質問は難しかったりして・・・ふふっ」
「絵本や漫画は絵が付いていて、善人は善人、悪人は悪人らしく判り易く誇張してあるから大抵は大丈夫だけどね。」
「本当!そうよね! でも、現実の詐欺師に気をつけなくちゃ」
「そうそう、いかにも普通で人当たりの良い人が、平気で嘘をついたり、他人を陥れたりするからね。」
「正義か邪悪か!結構、子供の時に読んだヒーロー物の戦いも子供の成長に役立っているかもよ。」
---- 雨音が消えて窓から陽が差し込んできた。
 
「雨が止んだから帰るわ。図書委員さん。」
「申し訳ないけど、その本は貸し出し不可。今度来たら声をかけてください。
本はストックしておきますから。」
「あら、館内専用なのね。管理番号が付いていない。」
「ご名答、気が付きましたね。この本は僕の私物。そして、・・・実のところこの本の著者は、僕の母親。」
「え!本当?凄い!尊敬しちゃう! いえ!勘違いしないで、もちろんお母さんの方にですよ。」
「ひどいな〜!言っておきますけど、僕は詐欺師ではないですから、
間違いなく母が出版した本ですよ、ご安心を。」
「大丈夫、信じていますよ。また、読みにきますね。加納智久君。」
「どうして、フルネームを知っているの?」
「あら、名札を見ただけよ。あなたが詐欺師でなく本物の加納智久君ならね。」
亜子は手を振って図書館をでた。
 

---- 水曜日の放課後、
図書館に行ってみたが智久はいなかった。
「彼なら諸事情でお休み、金曜日には来ると思うよ」館長が言った。
肝心の本の続きが読めず残念だった。彼のお母さんは何をする人だろうと想像した。
少し気抜けして、彼は本物の加納智久君なのか勘ぐったりしてみた。
初めて会ったにしては、良く合った気が分、寂しい思いがした。
また、金曜日に出直すことに決めた。
 
---- 金曜日の放課後、
学活の打ち合わせをしていた亜子は時間延長の為、図書館の閉館時間間際になってしまった。図書館に着くと、週末ということで早めに館長が鍵を閉めかけていた。
奥の方に智久が見えたので、必死に走って彼に近づいた。
「おお〜〜加納智久君!やっと会えました!本の続きは読めるでしょうか?」
亜子が息切れした声で言った。
「留守をして、すみませんでした。館長に聞きました。でも、考えたら名前も知りませんでした。」智久が笑った。
「私は3年B組の 沢上亜子」
「改めまして、3年E組の 加納智久です。」
「へぇ〜同じ3年生なのに今まで知らなかったなんて!!そうか、E組は唯一の特進クラスで教室も階段をはさんだ向こうだから接点が少なかったのね」
「そうかも。亜子さん、帰りはバスですか?せっかくなのでバス停まで一緒にいきましょう。本は個人的にお貸ししますよ。」
「いいのですか?ありがとうございます。」
二人でバス停に向かった。
 
学校前のバスの停留所は方向に分かれて幾つか並んでいた。バスの出発時刻まで
20分程あったので、近くのベンチで話をすることにした。
 
「僕の母はね、児童相談所に勤めていて相談窓口の仕事をしているのです。
生真面目な人でね。大人が間違っていて子供の方が正しかったり、優秀な子供が生まれて、社会がその人材を欲しがっているのに、家庭環境に恵まれず、将来が望めない事態に直面したりすると、かなり熱が入るタイプみたいで・・・正義感が強いというか一昨日も一日中、話に付き合っていたわけ。亜子さんに貸す本は母の創作童話ですけど、母の職業は、前に亜子さんが言っていた様に幼少の頃に読んだ童話集などの影響だなって、僕も改めて共感しましたよ。」
「なるほどね。結構、昔話って残虐だったりしますよね。意地悪な他人にいじめられたりするけど、現実は本当の親だったり兄弟、親戚だったりしますよね。確か、日本の昔話も親だと残酷過ぎるので、おじいさんとおばあさんで代用して子供が傷つかないように距離を置いているって聞いたことがあるわ。」
「そう、よく知っているね。あ!バスが来たよ。本は読んだら図書館に持ってきてください。」
「ありがとう!」亜子はバスに乗って家に向かった。
智久は軽く手を振って自分の目的のバス停にむかった。
 
---- 翌日、
亜子の通う高校の個人面談があり担任の先生が進路の最終志望を聞いていた。
「大学は就職を考えて学部を選ぶようにしてください。後悔のないように。」
「先生!学部変更、まだ間に合いますか?」
「沢上亜子君、何学部にするのかね?」
「法学部で法律の勉強をしたいのです。」
「ほぅ、君はお嬢さん学校を出て玉の輿に乗りたいと、言っていなかったかい?」
「もう、先生! 確かにそれも捨てがたいのですけど、ちゃんと幼児教育科や国文科にも興味があって、迷っていると言っていたじゃないですか!!」
「ハハハ!そうだったね。君の志望していた大学は男女平等のあおりで、今後4年制度に力をいれるそうだ。再来年には幼児教育科や国文科のある短期大学部を閉めるそうだ。それを君に伝えようと思っていましてね。それにしても法学部か・・・晩婚になりがちだが、いいのかね?」
「またまた、意地悪ですね。でも、私、決めましたから。」
「よろしい。これを最終締め切りとします。今後の活躍に期待しますよ。亜子君。」
「はい!先生。」
帰りに亜子は図書館に本を返しに行った。
「加納智久君、本をありがとう。とても興味深く読んだわ。」
「読んでくれてありがとう。母も喜ぶよ。ところで志望校は決まったの?」
「○○大学の法学部。」
「そう、僕の母もそこの卒業生さ」
亜子はそれを聞いてなんだか嬉しく思った。進路を法学部に定めたのは彼のお母さんの影響だと自分で感じた。心のどこかで自分も子供の成長の役になりたいと願った。
 
---- 受験一色の日が続いた。
それ以来、智久と会うことはなかった。
冬が去り、春の風が吹いたころ、大学の合格発表の日が来た。
大学の校庭に合格者の番号が貼り出された。
亜子の目に自分の受験番号が飛び込んできた。
 
「やったー!合格だ!」
 
有頂天になっていた亜子のそばで「おめでとう!」と、声がした。
振り向くと智久が立っていた。
「ハハハ、内緒にしていましたが、実は僕も同じ学部受験です。なんとか合格しました。亜子さんとは不思議な縁を感じますよ。」と、笑った。
気がつくと、隣に智久のお母さんがいた。
想像どおりの優しくて聡明そうな人だった。
「あなたが亜子さんね。合格おめでとう! 私の書いた本を読んでくれてありがとう。」と、手を握ってくれた。その手はとても暖かかった。
 人生にこんなすばらしい出会いはないと神様に感謝し、出会いが人生を変える。人脈が仲間を呼ぶ。そんな気がした。真実か嘘か、善か否か、探る旅が始まる気がした。
合格を楽しそうに祝う親子を見て、幼少の頃、智久がこのお母さんの本の朗読を聞きながら、眠りにつく時の安らかな寝顔を想像した。なんだか、嬉しくなって、思いっきり背筋を伸ばして高い空を見上げてみた。
晴れて、青く澄んだ空に飛行機雲が白く強くまっすぐ伸びていた。
深呼吸して、瞼を閉じてみた。
少しうつむいた 瞬間 (とき ) 、桜の木の影に、涙が一粒こぼれ落ちた。
亜子は昨年、理不尽な交通事故で亡くした母を思い出していた。
物語を聞かせてくれる智久の母によく似たひとだった。
 
今夜は、母が添い寝をしてくれた幼い時の様に、安堵して深く眠れるだろう。
そして、もう1度空を見上げた時、雲が消え、太陽が眩しく亜子の顔を照らした。
 
 
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          「嘘のない物語」END
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この物語はフィクションです。
Seasons-plus-2011 春号掲載
 
※著作権は作者にあり無断使用・複写は法律で禁じられています。
 
 
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イラスト+ポエム・短編小説の執筆と参加。今号掲載の短編小説「嘘のない物語」はHIYORIさんの写真とのコラボです。話の内容はこどもの頃に育つ善悪の対比から生まれる心の変化を書いてみました。主人公亜子は同志に出会うことにより心の置き場所を見つけることになります。今は亡き母親に愛された記憶を元に次世代の子供達を愛する側へと道を開いていくお話です。(入野うさぎのペンネームで著作権登録しています)
 
この物語はフィクションです。
Seasons-plus-2011 春号掲載記事より抜粋
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他、物語の中には幼児体験が根底にあります。実際には児童相談所に就職するには片親では採用が難しいそうです。
※著作権は入野うさぎにあり無断使用・複写は法律で禁じられています。
 
 

【粉雪の時計台】入野うさぎ



クリスマスがやってきた。
岩崎麻美は大学を卒業して出版社に勤めていた。隣町にひとり暮らしをしてからもう3年になる。
タウン誌の編集をしていて残業続きでパワーダウンの日々。
職場の大竹正臣は2つ上の先輩で地域の一般向けのショップなどを紹介する記事を担当していた。

「そろそろクリスマスやお正月のイベント記事が満載ですね、記事を読むばかりでなかなかいけなくて残念だわ。」麻美がため息をついた。
「年末年始の休暇はは実家に帰るの?」大竹が聞いた。
「そうね、久しぶりに帰ってみようかしら、電車に乗れば1時間半で帰れるけれど、いつでも行けると思うとなかなか足が向かないものね。」
「そういえば、兄嫁さんに子供が生まれるって言ってなかった?」
「そうそう。ちょうどクリスマスイブが予定日だっていっていました。少し連泊して生命の誕生を待つとしますか。」
「いいな〜。新生児の誕生か〜。」
「なんだか今、流行の産婦人科らしいですよ。妊婦がストレスを溜めると、母子ともによろしくないでしょ?癒しのリラクゼーションや産後の骨盤矯正などもアフターフォローも工夫されているし産婦人科の先生のご両親も小児科の医師で新生児の対応も安心らしいです。どうです?大竹さん、取材してみませんか?」
「そうだね、最近は総合病院が少子化で産科を辞退する傾向があって婦人科のみの診療が多いから、どこで子供を産んでいいかわからない人が増えているらしいからね。」
「では、駅前の時計台で待ち合わせしましょう。三角形の芝公園の真ん中にちょっと、お洒落な大きな時計台があるの。見渡せばすぐにわかるので大勢の人がそこで待ち合わせをしているわ。田舎町だけど、クリスマスなら賑わって気の利いたイルミネーションも少しはあると思うわ。」
「では、一応下見として予定していきます。」



クリスマスが近づくと冬も本番で底冷えする日が始まった。麻美は実家に電話してみた。
 プルルル・・・ カチャ!
「あ、お母さん元気?麻美だけど、どう?お兄ちゃんのところは、赤ちゃん産まれそう?」
「あぁ、明日が予定日なんでね、入院の支度をしているようだよ。嫁さんの実家のお母さんもお見えになって、しばらく一緒に付き添うらしいよ。」
「まぁ、初孫で大騒ぎね。
そういう私もクリスマスには伺うわ。もう生まれているかしら、ふふっ、楽しみね。」

麻美は会社で約束したとおり大竹とクリスマスに待ち合わせをした。就職してから帰省しても、殆んど用事をすませるだけで地元の友達とも成人式以来会っていなかった。
子供の頃はこの時計台で待ち合わせをするのを楽しみにしていた。あの頃と変わっていないだろうか?そんなことを考えていた。

約束の日、麻美は休暇をとって電車に乗った。大竹は仕事の都合で現地に待ち合わせだ。初産ということで出産が遅れていた。ひと他人の子ながら、クリスマスに女の子が生まれたら、カトリック系の幼稚園なんか良いなと想像して笑った。

駅についた。子供の頃に憧れた時計台は今だ健在でクリスマスの主役となり、ライトアップされていた。時計台の周りには8人程の人が待ち合わせをしていた。クリスマスソングが軽快に流れ、駅前のファッションビルや、レストラン街は着飾った若者や恋人達で活気づいていた。

ひとりの女性が時計台の下にいた。
年は23歳位で生後8ヶ月くらいのかわいい赤ちゃんを抱いていた。
粉雪がパラパラと降ってきたので、少し赤ちゃんは寒そうだなと思って見ていたら、赤ちゃんの父親らしい男性が走り寄って、持って来た小さな毛布で赤ちゃんを包んだ。

麻美はハッとした。
雪が降ってきて良く見えなかったが、その父親は高校時代に交際していた彼氏に似ていたので、
思わず、話し声に耳を傾けてみた。
「さぁ、雪が降ってきたからケーキでも買って帰ろう。」
確かに聞き覚えのある彼の声だった。
ふたりは麻美に気もとめず、メインストリートに向かって仲良く歩いていった。
彼の赤ちゃんだろうか。結婚したことも知らなかった。考えたら26歳ならその方が普通だ。
仕事ばかりしていて結婚に興味のなかった自分が知らぬ間に年をとった事にも同時に気付いた。
彼はひとつ上級生で1年半ほどつきあったが将来の方向性の違いで大学進学からは離れてしまった。彼は長男で家業を継ぎ、麻美の希望した出版社の編集の仕事はこの狭い田舎町では無理な話しだった。今思うと彼との交際は純粋で懐かしい過去の事だけど、できたら人違いであって欲しいと思って目をギュッと閉じた。時間が経っているので軽症であったが、初めての嫉妬を覚えた気がした。しかし、逆に過去に諦めがついた瞬間だった。


「岩崎さん、お待たせ。遅れましてすみません。」大竹が時間にやってきた。
ピピピ〜〜♪
同時に麻美の携帯電話のベルがなった。
「はい、麻美です。え!生まれた!男の子!やった!クリスマスじゃん!わかった、連絡ありがとう、後で病院に行ってみるわ。」
「凄いな!クリスマスに出産か!おめでとう!」
「母子共に健康だって、まだ、会えないけどガラス越しには顔が見られるそうよ。」
「なんだか、僕は親戚みたいに盛り上がってしまうよ。」
「我が家の歴史!語れちゃうかも!」
「実は、麻美さんにもらってもらいたいものがあるのです。」
大竹は緊張してプレゼントに指輪の箱を開けた。
「僕はずっと、あなたと家族になりたいと思っていました。よかったら結婚を前提にお付き合いしていただきたいのです。この指輪を受け取ってもらえないでしょうか?」
麻美は、驚いて目を大きく開けた。大竹とは気の合う仕事仲間だったが、本心は大竹の事をどこかで望んでいた自分がいる事を否定できなかった。少し照れて返事をした。
「はい、喜んで。明日は両親に貴方を紹介しますね。」
頬を染めた麻美は大竹に左手の薬指に指輪をそっとはめてもらった。

粉雪が優しく顔を叩いた。

時計の針が急激にグルグルと音を立てて人生を変えて動き出したようでドキドキしていた。
この時計台の仕業かと、ふたりで手を握って見上げた時、19時ジャストの鐘の音を聞いた。



                                 短編小説「粉雪の時計台」END


この物語はフィクションで登場人物や舞台背景など架空のものです。

※著作権は入野うさぎにあり無断使用・複写・転写は法律で禁じられています。

                                           
********************************************************************************************
あとがき

この作品はSeasons plus 2010の冬号に掲載していただきました。数名のフォトグラファーさんにクリスマスイルミネーションの写真を編集者が何枚か合わせてくれました。
写真が沢山ありますのでブログでは自分の文章だけのUPにしました。

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入野うさぎ
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