幸福点の花束

新鮮、もう一度読みたい作品つくりを目指します。

歌小説

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夕さりに川音高く雪消水 うずまる石に水底の揺れ






洋平は来る日も来る日も「かぐや姫」の竹人形試作に没頭した。
籠、笊(ざる)などの注文雑器は昼間に製作をすませた。
竹人形は月が中空にのぼりだすころから作りだすのである。
工場の嵌め殺し窓からさす月光がかぐや姫のイメージを高めてくれる。

長い長い黒髪はどうしょうか。
細い竹籤を割いて黒髪にしょう。黒髪のたおやかさはどうしょう。
半田鏝(こて)で竹籤を撓めよう。

天の羽衣はどうしょう。
女竹皮繊維、女竹皮、黒竹皮を天の羽衣に見たてよう。
湯煎して色彩を整えよう。

輦車はどうしょう。
孟宗竹を旋盤にかけて車輪をつくろうか。

そしてそして一番だいじなかぐや姫の面輪はどうしょう。
絵心のある洋平であったがかぐや姫の輝く面輪を無理なく表現するにはどうすればよいであろう。
竹に眼、鼻、口と浅く滑らかに凹凸をいれよう。
鑑賞する人がかぐや姫の面輪を想像できるように抽象的にしておこう。

竹人形に打ち込んでいると早苗とのままならぬ恋を一時的に忘れている。
裂けんばかりの恋の苦しみから逃れられる。


早苗は有名私立大学の2学年になっていた。
颯爽と大学に通う早苗の姿が気高く感じられる。
竹細工職人の洋平とは別世界の人に見える。
もう早苗と会話さえ、竹細工しか知らない洋平には恐怖を覚える。
早苗が話しかけてくるとそのまま壁に吸い込まれて消えてしまいたい。


「洋平さん、いつも月光のなかでかぐや姫竹人形をつくていると竹取の翁ようだわ」
「そう見える・・。これでもう7体の竹人形を試作しているけれど思うように、出来なくて・・」
「早苗にはどの竹人形も輝くようなかぐや姫だけれど。どこが不満なの・・」
早苗は壁棚に並べてある竹人形に視線を流している。

「・・、深淵、幽玄・・、なんというか神秘さが欲しいのだが・」

「洋平さん、美術館で知ったのだけれど毎年、『日本民芸作品展』があると、いうの・・、
上野の美術館で開催されるらしいの。
来年は3月1日からとあったからこの竹人形を作品応募してみたらどう・・」
「そんな民芸展あるのですか。この竹人形に神秘さを付加できたら早苗さんの勧めの通り応募してみるさ・・」





空いっぱいに羊雲がただようある夕暮れであった。
「洋平君、車の免許は以前にとったよね」
「ええ、社長のご指示通りとりました」
「来週・・、新車を一台買うことにした。その車で早苗を大学まで送迎して欲しいのだが・・。どうかね洋平君!」
「・・・、社長のご指示であれば嫌とはいえません。いやいや・・喜んでお引き受けいたします。早苗さんもご了解済みなのでしょうか」
「ああ、早苗からの希望があってこそだ・・よ。それとその新車は洋平君にあげるから運転たのむ」

早苗を好きになってはいけないと常に葛藤している洋平の心は乱れに乱れてきた。

(つづく)

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かぎりなくかなわぬ恋と想うとき伸びくる若芽摘み取りており









工場の床に秋の月光が一条の影を落とす。
洋平はかぐや姫の竹人形試作にかかって数ヶ月が過ぎていた。
壁に完成図が貼ってあり、作業台に竹人形の何枚かの部品図が置いてある。
壁に貼られたかぐや姫に透明な月光が射している。
洋平が休日に「竹取物語」を参考に手描きした図面である。

図面を置いた周りには孟宗竹、新竹の皮、真竹、女竹皮繊維、女竹皮、黒竹皮が大小さまざまが散乱している。
洋平はノギス(長さ、深さ、直径などの測定具)で孟宗竹の大きさを測定して勘合を確かめている。
ノギスで計測する眼差しに月光がさしている。
彫りの深い端正な面輪に月光が射すと貴公子のように洋平は輝く。
秋の月光を受けながらスレンダーな背をぴんと伸ばして独りかぐや姫を創る姿は高貴そのものであった。
洋平の長身は184cm、21歳の青年になっていた。


「洋平さん、こんな遅くまで頑張っているのですか」
「あぁ、趣味みたいものですから・・」
「洋平さん、疲れるといけないと思ってチョコレート買ってきたの。。食べない・・」
早苗はまだセーラー服を着替えないまま洋平の居る作業場に寄るのである。

早苗は高校3年生になっていて168cmとすらりと背丈は伸びたが、お多福顔は少しもかわらない。
近頃は母親の芳江によく似てきた。
早苗も小母さんになると母親の芳江のように小太りの細目になるのだろうか。

早苗が以前から洋平に好意をもっているのはその行動や仕草からわかる。
いつか洋平の心に浸透して早苗に恋心が芽生えていた。
その恋心は日毎に増してゆく。
かなわぬ恋なのだから恋心をとめようとするがどうにもとまらない。

戦争孤児、親兄弟だれ一人いない。
洋平は成績はいつも上位であったが義務教育しか受けていない学歴コンプレック。
静岡に住む遠い親戚筋の話しでは、洋平の父は大学に勤めていたらしい。
母は美人のピアニストと聞いている。

早苗のセーラー服姿に果てしない憧憬を感じてしまう。
洋平には着ることのできなかった学制服である。

このまま早苗を好きになったところで最後に別れなければならないだろう。
けして結ばれることはない。
早苗は池上家の一人っ子なので大学卒の立派な男性と結婚するに違いない。
大きな敷地に幾つもの賃貸マンションが建っていてその管理をすればよいであろう。
この工場兼自宅もずれ賃貸マンションになるかもしれない。
そうなれば洋平はもう竹細工職人をやっていられないだろう。

洋平は自分の立場を思うと胸が押し潰される。
もうこれ以上、早苗を好きになってはいけない。

「洋平さんは映画スターにもいない・・、美男子だね・・。ハンサムだね」
池上喜八、芳江がときどきいう洋平への褒め言葉である。
生まれつきの容姿を褒められても洋平はさほど嬉しく思わなかった。

それにしても早苗はじめ池上喜八、芳江がどうして孤児の洋平をこんなに親切するのだろう。

(つづく)

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かぐや姫の竹人形を試作する孟宗竹の骨格太く





昭和39年10月10日、待ちに待った東京オリンピックが雲一つない秋空のもと開催された。
工場にこもりがちな洋平にも時代が大きく胎動してゆくのがわかりる。
竹素材の笊(ざる)、目籠が色鮮やかな合成樹脂製になってきた。
鳥篭がステンレス製になり、竹尺が数値を印刷して透明樹脂なった。

洋平は竹細工職人として一人前になったが先行きの不安は拭いきれない。
自宅兼工場の大きな敷地の周りにはマダケ、ハチク、モウソウダケ、メダケ、ハコネダケ、イヨダケの竹林が生茂っていた。秋風が吹くと梢がしなり声をあげる。
竹林敷地の半分ほどを伐採して賃貸マンションを建てられた。
竹屋のご主人がやられたことであり使用人の洋平がどうこういうべきものでない。
まして洋平はそのマンション1階に家賃を払わずに住まわしてもらっている。
主人の池上喜八は賃貸マンションを建ていらい竹細工をほとんどやらなくなった。
工場に顔をだすのは月に3、4回だ。
新しい竹細工の注文が入ったとき洋平に知らせにくるときだけだ。
ご主人の喜八はマンション経営に本格てきにのりだすのであろう、不動産管理を勉強している。

洋平は工場の作業椅子に座りながら、あたりの工具類をぼっーと眺めてみた。
刳小刀(くりこがたな)、丸刀、三角刀、平のみ、籤(ひご)抜き、轆轤(ろくろ)、目錐、丸ヤスリ。
どれもこれも洋平の指や手の平になじんだ道具ばかりである。
しかし、旧式の道具をみていると洋平はおいてきぼりの寂しさがこみあげてくる。
素材は竹であるが道具だけでも現代的な最新のものにしたい。

大田区蒲田の竹屋の近くには小さな下請け会社がたくさん軒をならべている。
機械部品加工屋、熔接屋、板金屋、鋼鉄素材屋、塗装屋、メッキ屋、熱処理屋、部品屋、工具屋。

洋平はこの辺りで一番大きな工具屋を覗いて見た。
職種別に大小の工具が数限りなく陳列してある。
轆轤(ろくろ)に変わるものはないだろうか。
電動工具のなかに卓上旋盤をみつけた。
小さいながらどっしたくろがね色の卓上旋盤を見つけた。
洋平は心躍りを抑えることができず小1時間みているうちどうしても欲しくなった。
この卓上旋盤が時代に沿った竹細工を削りだしてくれる予感がしたのだ。
値段など気にせずその卓上旋盤を買い求めてしまった。
主人の喜八はつねづね工場のことは洋平に任せるといってくれている。
いま試作している「かぐや姫の竹人形」にはさほどいるとは思わない。

「かぐや姫の竹人形」は十五夜に天にのぼるかぐや姫を創ろうと構想を練っている。
横幅1200ミリ、縦600ミリ、奥行き500ミリのガラスケース収まる大きさにしよう。
長い黒髪、天の羽衣そして輝く十五夜もつくろう。
作業台には孟宗竹、新竹の皮、真竹、女竹皮繊維、女竹皮、黒竹皮を並べてみた。

ふと早苗の下膨れ顔が思いだされた。
かぐや姫から下膨れ連想されたからであろうか。
(平安時代の美人はみな下膨れである)

先日の親指の傷口を舌で転がされ快感がじゅーんわりと体の奥に残っている。
早苗の乳房弾力が洋平の体を駆けめぐってくる。
傷の親指を尺八を奏でるようにころがした感覚。
ああ、あれいらい洋平は男根を尺八奏でるように手淫する癖がついてしまった。
下膨れの早苗の面を思いつつである。

(つづく)

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鮮血の怪我の親指吸いくれしおたふく面輪ひとがくちびる




洋平が竹屋の職人になってから6年がたち時代は騒がしく忙しくなってきた。
東京オリンピックが開催されというので首都高速道路ができ、新幹線が凄いスピードで走り出した。
竹屋に勤めていた11人の職人は櫛比が欠けるように辞めていった。
残ったのは洋平ただ一人。
広い工場の床に座し一人で竹を割いていると自分だけ時代に取り残された気がした。
こんなとき胸のなかに耐えがたい木枯らしが吹き抜ける。

こっそり休んで新しい仕事を探しに出かけてみた。
そのときの面接で「家族は、保証人になってくれる身内は」
と聞かれると身が細る思いがした。
洋平は戦争孤児であり保証人になってくれる身内は誰ひとりいない。

時代遅れだが竹物細工職人しかない。
幸い竹屋の主人はじめ娘の早苗にも気にいられているようだ。

孤独の洋平は好き絵をよく描いた。
寂しくなったとき雑誌に載っている写真からの模写やスケッチをした。
飛行機、自動車、動物、人物、なんでも描いた。
美人をスケッチしながらふと母の面影を想像した。


職人の作る物には図面がない。
頭の中と指や体で覚えなくてはならない。
そんなとき、好きな絵で作り方を記録する工夫をした。
洋平は竹質、削り方、編み方や完成までの工程を一つ一つ丁寧にスケッチしながら記録した。
篭の完成図を白い画用紙にペン画にして彩色すると美術作品に見えた。
団扇、扇子、唐傘、茶筅、釣竿と何でもノートに記録した。

一生懸命に工夫しながら仕事をすると竹物細工だって結構楽しいのだ。


竹屋では竹製品ならなんでも作ろうとの方針である。
竹とんぼの玩具、籠、団扇、扇子、唐傘、釣り竿、茶筅。
竹製で出来る注文があればなんでも作るのである。
驚き注文は竹製の白熱電灯用のフィラメントを頼まれたことだ。
洋平とご主人は寝食を忘れてフィラメントを2ヶ月かけて完成させた。
そのときエジソンになった気がした。

洋平はこのごろ、竹人形を作ろう試作しだした。


あれは曇天の梅雨の午後でした。
かぐや姫のような竹人形を創りたい。
誰もいない床に古びた椅子に座り分厚い作業台に竹籤(たけひご)割いていました。
サク、サク、サク、快く小刀が乾いた竹を割いてゆきました。
「あぁ!、痛い。」
洋平の左親指が鋭くきれて鮮血が滴りだしました。
「痛い。!!痛いょ・・!」
洋平は誰かを呼ぶように大声で叫んでいました。


学校から帰ったばかりの早苗がその声に気が付き飛んできました。
「どうしたの・・、洋平さん」
鮮血を見た早苗は
「あら・・、大変!、洋平さん」

白いセーラー服の早苗は看護婦さんのように洋平の血の親指付根をぎゅっと握ると早苗は鮮血ごと頬張った。
頬張ると早苗は喉の奥まで親指を吸い込み強く締め付ける。
拇指傷口を舌で転がされると何か痛いというより快感を覚えた。
早苗の乳房の弾力が洋平に伝わってきた。

若い洋平の体のなかに怒張するものがあった。

(つづく)

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ぼっーと鳴く汽笛かなしや 老いぼれの蒸気機関車とろとろ走る




「蒸気機関車のごとく」

母親は機銃掃射に撃たれて死んだ。
その機銃掃射のさなか母親の胸に抱かれて生きていたのが長田洋平である。
長田洋平が戦争孤児になったのは2歳のときであった。
東京大空襲があった昭和20年3月からもう随分年月が過ぎている。

洋平は東京の孤児院で中学校卒業するまで居た。
親のいない洋平は高校進学などはじめから望んでいなかった。

孤児院に来た求人広告に「竹屋」があった。
竹屋のご主人が洋平を一目みて気にいってくれた。

「洋平君はなかなかの美男子だね。背丈があるから俳優になってもよさそうだ」
竹屋の職人になる自分の容姿ばかり褒める主人を洋平は不思議に思った。

竹屋は大田区蒲田の町工場のはずれにあって竹林に囲まれていた。
工場は木造二階建ての古びてはいるが柱や梁はがっちりと太い。
壁際の棚に長短いろいろな竹材が積んである。
コンクリート床に電動丸鋸が据えてある。

洋平が珍しそうに電動丸鋸を見ていると小学生の女の子が近づいてきた。
「洋平さん、わたしこの家の子早苗というの・・。仲良くしてね」
「ええ、はじめまして。僕、今日から勤めることになった洋平です。こちらこそ宜しくね」

早苗は小学低学年にしては、ものいいがはっきりしている。
が、顔はご主人に似たのであろうか細目がたれ頬は下膨れている。
おまけに鼻はすこし胡座をかき分厚い唇にバランスしていないのだ。

(つづく)

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