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前は、上司の木本に相談をしていた。
「課長、2件相談したいんですが。まず、このA社なんですが、今現在は
特に何も対策をしておらず、又検討すらしていなかったんですが、私の
方から、企業におけるメンタルヘルスの取り組み状況や、うつ病などに
おける労災、訴訟などのリスクの件を話してるうちに、検討しないと
まずいのではと思っていただけるようにまでなってまして、そこで、
できれば一度課長に同行いただいて、ウチのメリットをプレゼンして
いただきたいんですけど。きっと、課長が行っていただければ、契約
取れると思いますんで。それと、こっちのC社は、まだそこまでは
いっていないんですが、産業医だけでは難しいって感じの危機感を
うまく引き出せればA社と同じように契約にまで一気に行けると思い
ますので、ここも是非課長に同行いただいて、課長の見事な
『魔法の杖トーク』で、危機感を煽っていただきたいんですが。。。」
「そうか、そうしたら、今週の木曜日にでも2社ともアポを取ってくれ
たら、一緒に行ってやるよ。お前も速く1件契約欲しいだろうしな!」
「はい、よろしくお願いします。」
根暗は、一方相変わらず自分ひとりで一生懸命訪問を続けていたが、
先月から、見込み件数および契約件数は完全に小康状態となっていた。
「やっぱり、厳しいですね、課長。」
「根暗君、よかったら同行してやろうか?」
「いや、課長。そんな申し訳ないですよ。課長もお忙しいでしょうし。自分で
何とかしてみますよ。ただ、ちょっと最近訪問件数が落ちてきてるだけだと
思いますので、難しいですが、どうにかします。」
「本当に大丈夫か?」
「いや、分かりませんが。でも、契約を取るのが僕の仕事ですから。」
「そうか?ところで、あのB社はその後見込み上がってるのか?」
「あそこはですねぇ、その後なかなか決裁者の部長に会わせてもらえないので、
それ以降変わってないです。すみません。」
「いや、別に謝ってくれとは言ってないが。ただ、あそこは私の直感だけど、
必ず契約取れるところだからな!よろしく頼むよ!?」
「分かりました。難しいですが、何とか部長に会える様努力します!」
「前君、おめでとう。今日は2社とも契約になったじゃないか!」
「有難うございます。課長のおかげですよ!しかし、課長のトークはやっぱり
すごいですねぇ!もう、何か私メモ取りながら、課長のトーク使えてる
気分になりましたから。これで、調子上げてどんどん行けそうですよ!
本当に課長、有難うございます。それで、早速なんですけど、このD社も
よかったら来週念の為に一緒に来ていただけませんか?勿論、次は私それまで
課長のトーク勉強して、一人で全部話をしますんで。ただ、失敗したらお客
逃すともったいないので、念の為に来て欲しいんですが。。。」
「分かった。アポとれたら言ってくれ!」
根暗は、前の契約をよそに、一人焦燥感でいっぱいであった。
『こんなに一生懸命前よりもたくさん訪問してるのに?なぜ、見込みが増えないんだ?
なぜ、見込みランクが上がってこないんだ?』
根暗は、もっと商品知識を詰め込むしかないのだと思っていた。
しかし、実際は根暗の商品知識は、大げさでもなく上司の木本と変わらない
くらいの知識を既に身につけていた。
前が、根暗の所へやってきた。
「根暗さん、どう?今日、いっぱい行かないですか?俺、契約取れて嬉しくって!」
「おめでとうございます。前さん、一気に2件契約ですってね!僕も前さんには
敵わないにしても、もっとがんばらないとなぁ!」
「それで、今日行かないですか?」
「いや、すみません。ちょっと他社商品の勉強をしないといけませんので。」
「別に、そんな知識ばっか詰め込んでも仕方ないですよ、根暗さん。困ったら、
木本課長についていってもらったらいいんでしょ。僕もそうしたんだし。」
「そんな事、申し訳なくってできませんよ。契約をとるのが僕の仕事ですから。」
2ヶ月目が終わる頃、前と根暗の成果は完全に逆転しており、
前は既に4件の契約、見込み顧客件数13件、根暗は1件の契約、
見込み顧客件数9件と先月から変わらない状況であった。
木本が根暗の所へやってきた。
「根暗君、先月と状況が変わってないっていうのは、どういう事だ?
仕事ちゃんとしてるのか?」
「課長、すみません。でも、勿論まじめに仕事はしてるんですが。なかなか
見込みランクがあがらず。それに、新規も見込みが出てこないんですが。
ちょっと僕には難しいですが、でも何とかしますので。」
「何とかって、具体的に何か方法は決めているのか?」
「とにかく、もっと知識を詰め込まないといけないと考えてます。」
「それで、契約は取れるか?」
「分かりません。」
「分からん?それじゃぁ、駄目だろ。何なら、前に顧客何件か回すぞ。
あいつはかなり、顧客で何を話すべきか、どうすれば、相手に喜んで
もらえるのかが分かってきてるからな!どうだ?根暗は出来るか?」
「分かりません。でも、頑張ります。」
「そんな精神論はいいんだよ、このばか者が!ちょっとは頭を使えよ!」
「考えてみます。」
根暗は、実際どうすべきか分からなかったが、とりあえずこの現実を
回避する為にのみ、相槌を打ったのだが。。。
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