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「雪に支配された男」
第11話 「とんだ予定変更」
―新宿駅の鈴木さん。そちらの状況はいかがですか?
―はい、鈴木です。こちら新宿駅も朝からのかなりの降雪に
より、ダイヤが大幅に乱れております。現在山手線は
30分に1本、総武線は1時間に1本のペースでしか
運行されていません。中央線は現在不通で、復旧のメドは
今のところたっていない模様です。
―鈴木さん、有難うございます。
五郎が遅めに起きだして、テレビをつけると交通情報が放送
されていた。いつもはこの時間ならスポーツ・ニュースの時間
なのだが。さっき彼が額縁風ウォール・クロックを見た時、
9時15分頃だった。それだけ雪がすごいんだろうと思った。
彼は窓際へ歩いていき、外の景色を見る―辺り一面が銀世界だった。
『由香と町田まで行こうと思ってたんだけど、ひょっとして無理?』
彼はそんな気がした。彼は電話台の下に置かれている電話帳を
取り出した。『えっと、鉄道かな?あぁ、あった』
彼が探していたのは小田急の相模原駅の電話番号だった。
電話帳を見ながら、彼は番号をプッシュする。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが。今日はそちら、
小田急は電車走っていますか?」
―今現在は、30分に1本ほどとなっております。
「分かりました。有難うございます」
彼はそう言って電話を切った。それ以上聞く事がなかったからだ。
復旧のメドなんか聞いても分かる筈がない。何しろ事故ではないから。
五郎が台所でコーヒーを入れていると、電話が鳴った。
きっと由香からだろうと、彼は思った。
「はい、もしもし」
―五郎さん、由香だけど。おはよう。
「おはよう。どうしたの?」
―朝からすごい雪みたいで。それで今日買い物に行くって言ってた
けど、どうするのかなぁと思って
「そうなんだよ。俺も今相模原駅に電話して聞いたんだけど、電車は
動いてるには動いてるらしいけど。30分に1本ほどだってさ。
元々町田へ行って買い物しようと思ってたんだけど。
でも、これじゃ大変だから、今日は俺の家に来ないか?」
―それは別にいいけど
「じゃぁ、そうしよう。別に来るのは夕方でもいいけど」
―そうしたら、今日は私が夕食してあげるね。5時くらいに
行くようにするから
「分かった。じゃぁ、待ってるよ」
―はい。じゃぁ、あとで
彼は電話を切った。(もっと早くに来てもらって良かったかな?)
少し後悔をしていた。彼の目がそう語っていた。
彼はとりたててする事もなく、又何の予定も、考えもなかった。
ひとまず朝食をとりながら、彼女が来るまでの過ごし方を
考えよう。彼はそう思った。
少し硬くなったトーストにバターを塗り、さくらでんぶを
満遍なくまぶした。
『あぁ麗しのさくらでんぶよ!君はなんと甘く素敵なんだ!』
彼は心の中でそう叫びながら、トーストにかじりついた。
彼が2口目を口に入れようとした時、「ヘックラピー」と
大きなくしゃみをした。そのくしゃみをした時の振動で
トーストにまぶされたさくらでんぶが飛び散った―テーブルの
上に、カーペットの上にと。
彼はこの瞬間朝食が終わったら、掃除をしようと思いついた。
今は使っていない部屋―6帖の洋室から窓拭きを始めた。
彼は自分の古くなった綿の靴下を手袋のようにはめて、
せっせと窓を乾拭きしている。その部屋には50センチ×
1メートルほどの窓が2面あるだけだ。その1面の半分
を拭き取った時点で、グレーの靴下が茶色のそれに変身
していた。『正月には掃除したのになぁ』彼はつくづく
埃の多い所なんだと思っている。
最後の掃除機かけをし、その部屋の掃除が終わった時
には11時になっていた。
彼はいったん休憩をしようと思い、台所へ行って薬缶に
火をかけた。―コーヒーを又飲むのだ。
リビングの方に行き、テレビをつけた。
関東のお笑いコンビが司会をしているニュースのような
バラエティのような番組をしてるだろうと思った。
やはり、背の高いほうの芸人がいつものようにおかしな
事を言って笑っていた。周りもそれなりに笑っていた。
―番組の途中ですが臨時ニュースをお送りします
いつもは剽軽な事ばかりしているこの局では人気の女子アナ
が難しそうな顔をしている。彼はきっと雪に伴う事故か何か
だろうと思った。
―さきほど、10時頃、東京都品川区南品川5丁目のマンション
エトワール大井町に出刃包丁を持った男が7階に住む女性宅
に侵入し立てこもっているとの事です。詳しい情報が入り次第
またお伝えします
『南品川5丁目って……それって由香の住んでる辺りじゃないか!』
彼は突然不安を覚えた。しかし、打ち消そうとした。
7階っていってるくらいだし、仮に同じマンションだとしても
きっとたくさんの人が住んでるだろうし。それに彼女の住んでる
マンションの訳もないだろし。そう思うようにした。
彼は薬缶が『ピーピー』と叫びだしたので、慌てて薬缶の火を
止めに行った。コーヒーを入れて、リビングへと運んだ。
彼はアツアツのコーヒーにもかかわらず、一気にそれを
飲み干した。別にそんな大会がある訳でもないのに。
どうも気が静まらなかったのだ。彼はコーヒーを無駄にした
と思った。掃除を再開しようとも思ったが、やはり先ほどの
ニュースが気がかりだった。彼は由香に電話する事にした。
番号をプッシュした。呼び出し音が鳴る。2回・3回・・・・7回
・・・10回。そこまで待って、彼は受話器を置いた。
彼女が出ないのだ。それでも彼はきっと彼女は買い物にでも行ってる
のだろう。そう思った。いや、そう思いたかったのだ。
彼は結局掃除を再開せず、リビングでテレビをしばらく見る事にした。
そして……また、あの女子アナが先ほどより更に緊張感あふれんばかりの
顔をして現れる。
彼女が伝えた最新報道とは。。。
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