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今年2月に92歳で他界した巨匠・市川崑の70数本におよぶ作品歴の中で、テレビ放送はされたものの、劇場未公開となっていた幻の一本。城勤めの無為な日々を送る武士・平松正四郎と、彼の前に突然現れた記憶喪失の女性・ふさの愛のドラマが展開する。原作は山本周五郎の短編小説集「おさん」に収められた一編。ふさ役の浅野ゆう子、正四郎役の中井貴一ら、豪華キャストが見どころ。市川監督ならではのリリカルな映像美も堪能できる。(yahoo ムービーより)


山本周五郎は私の大好きな作家です。一頃よく読みました。

市井の人々の暮らしや武士の暮らし、身分は違っても底に流れる人間の姿は一緒。
どんな境遇に遭っても、くじけず、ひた向きな人生を送っていく姿を描き、
名も無き武士にも目を向け、光を当てます。長編だけでなく、短編でもしっかりしたストーリーがあり、
最後は感動させられます。

「その木戸を通って」
普通の平凡な暮らしにこそ、幸せがあり、それは実はとっても尊いもので、美しいもの。
それがいつまでも続くとは限らないもの
としみじみ感じた映画でした。

城勤めのお役人生活で単調な日々を送っていた正四朗の前に突如現れた女(浅野ゆう子)
記憶を無くしているのだけど、記憶の断片にある「木戸」

恋に落ちた正四朗(中井貴一)の人生はがらりと変わる。
家老の娘との結婚が決まっていたのに、どこの誰かとも知れぬふさとの結婚を押し通した正四朗。
いままで、父に刃向うことなく生きてきたであろうに。

******

市川崑監督が魅せるスタイリッシュな映像。

ワンシーン、ワンシーンがすぐれた俳句が連なるような世界にも思えました。

ザーザー降る雨、風にゆれる竹林、朝日があたるお城の石垣の脇の坂道。
暗い屋内に差し込む淡い光。

カラー映画であって、余計な色を消し去ったような陰影のある美しさがありました。
あー、この感じ。どこかで見たような、感じたような。。「そうだ!フェルメールだ!」
と一人勝手に思う私でした。

ふさが、毎日の暮らしに勤しみながらも、いつもどこか遠くを見ている。
遠くの先にあるもの。

「笹の道を抜けて、その木戸を通って・・」

二人の目の前に浮かぶそこにはない木戸。

正四朗の不安はいつしか・・・・・。

*********

武家屋敷の暮らしが、つつましやかで良かったです。
磨きこんだ黒光りする床で、座りこんで大豆を選り分けるふさ。
昔は床の上でも作業をしていたものでした。

実は私も台所の床の上で作業することもあるのですが(台所が狭いため^^)
娘にいつも汚いと叱られます。

昔はみんなそうしていた、と言うと
「今は昔じゃない」と。
確かに美しさが違いますね(何の話だか・・)

蒲団も和風?パッチワークがされている。
そうした昔の暮らしぶりもよく伝わってくるようでした。

*********

中井貴一
こういう実直な役にぴったりなのです。

浅野ゆう子
初々しい。この時いくつだっけ?
1960年生まれ!制作年度が1993年だから33歳。そうか だったら大丈夫!?
私もあの頃は若かったし。(ってどうでもいい!)
はにかんだ笑顔なんて、それこそかわいい。

石坂浩二
上手い!
ふさと結婚すると告げられて、酔いつぶれる姿。
最後には息子のために折れる。

家老にフランキー堺。
情に篤い家老の役。痩せておられるけど、お元気そうな姿でした。
今の世の中、あんな部下思いの上司がいたらなぁと思いましたっけ。
イマドキ?の若い上司の方々にぜひ参考にして頂きたいものです(笑)

岸田今日子さんも出てました。
彼女が出ると、たちまち独特な雰囲気が漂う。
私の大好きなあのムーミンの声。(笑)
やはり情に篤い役どころでした。

*************

監督: 市川崑

原作: 山本周五郎
『その木戸を通って』(『おさん』新潮文庫所収)
脚本: 中村努 市川崑
助監督: 佐々部清
出演: 浅野ゆう子
    中井貴一
    フランキー堺
    井川比佐志
    岸田今日子
    石坂浩二
    神山繁
    榎木孝明

閉じる コメント(8)

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とても気になっていた作品でしたが近くで上映されて見ることができました。ほんと素敵〜〜
そうですね。”すぐれた俳句が連なるような世界”っていうのがとても当たっていると思います、すごい表現です。
あ。フェルメールっぽくもありましたね。
TBさせてください。

2009/1/3(土) 午後 6:20 car*ou*he*ak

Cartoucheさん、素敵な映画でしたね。
映像がきれいで。大人のファンタジー映画といったところでしょうか。
>すぐれた俳句
というものがどういうものかもわからないのですが(笑)
フェルメールっぽくありましたよね。ヨカッタ。
TBありがとうございます!

2009/1/4(日) 午前 5:19 iruka

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言われるまで気付きませんでしたが、ワンシーンワンカットでしたね。じっくりと落ち着いた雰囲気で見せてくれました。これまで公開されなかったのが、本当に残念。素晴らしい作品なのに。
浅野ゆう子も若くて綺麗。「その木戸」を思い出す時と、普段の表情の使い分けも見事でした。
TBいたします。

2009/3/8(日) 午後 10:25 出木杉のびた

のびたさん、ワンシーン、ワンシーンがほんと美しい映画でした。
なんで公開されなかったのか不思議ですね。どのワンショットを切り取っても絵になる。大人のファンタジーの映画でした。
浅野ゆう子初々しかったですよね。うつむく姿なんか綺麗。
遠くを見る表情も良かったですね。
TBありがとうございます!

2009/3/9(月) 午前 8:18 iruka


irukaさんのブログって本のことについても映画のことについてもわたしの様な凡愚ではとてもお側に寄れない感じっていう気にさせられてしまってきていたのでしたが、リストの中に以前手に取ったことのあった山本周五郎さんの「その木戸を通って」の中に、
> 山本周五郎は私の大好きな作家です。一頃よく読みました。
とあったのを目にし、ちょっとだけコメントを入れさせていただきました。
この「その木戸を通って」はたくさんある山本さんの作品の中でもめずらしい猟奇ものというか不思議ものの中の1編だと思います。

山本さんは戦中から戦後に掛けて活躍しましたが、初期の物資の乏しい頃は出版社から「○○ページでお願いします」ってあらかじめ言われてから書いたといいますから驚きです。
氏の小説は全部で500編くらいあって、「樅ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「さぶ」「青べか物語」「明和絵暦」などの長編物が有名ですが、わたしとしては残りの400編くらいの短編物に秀作があるように思います。

2018/6/23(土) 午前 10:30 [ weeping_reddish_ogre(泣いた赤鬼) ]


市井の人々の暮らしや武士の暮らし、身分は違っても底に流れる人間の姿は一緒。
どんな境遇に遭っても、くじけず、ひた向きな人生を送っていく姿を描き、名も無き武士にも目を向け、光を当てます。長編だけでなく、短編でもしっかりしたストーリーがあり、最後は感動させられます。
中に「艶書」や「ひとごろし」や「酔いどれ次郎八」といった題名を見た限りでは「何これ?」って思わせられるものがありますが、実際に手を取ってみるとどれもものすごくすばらしい作品ばかりです。

長い作家生活の中には、
「花匂う」(新潮文庫の「花匂う」の中の7編目)と、「艶書」(新潮文庫の「艶書」の中の9編目)は、「花匂う」の登場人物が、瀬沼直弥、庄田多津、竹富半兵衛、「艶書」の登場人物が、岸島出三郎、新村七重、定高半兵衛と違っていますが、2つのお話のテーマ、筋、展開は全く同じですといったミスもやったりしています。

2018/6/23(土) 午前 10:31 [ weeping_reddish_ogre(泣いた赤鬼) ]

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> weeping_reddish_ogre(泣いた赤鬼)さん
コメント、ありがとうございます。いやいや、過分なお言葉。私は全然違って、軽いです。(笑)赤鬼さんのブログを拝見させていただくと、詩的で、私などどうあがいても頭に浮かんでこない言葉の数々だと思ってます。
山本周五郎作品、灰谷健次郎さんのエッセイで知りました。
本当にストイックな作家さんですね。
短編もどの作品も内容が濃く、すばらしいと思います。
私なぞ、一握りの作品しか読んでないので、また読んでみたくなりました。ありがとうございます。

2018/6/24(日) 午後 8:12 [ iruka ]

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> weeping_reddish_ogre(泣いた赤鬼)さん
本当におっしゃる通りですね!!
藤沢周平氏も通じるところがあると思います。
名もなき武士や市井の人々。
名があっても中身はくだらない人も多い現代。(一部の政治家たち?笑)
山本作品や藤沢作品から学ぶべき点はたくさんありますね。
ご紹介された山本周五郎の本、機会があったら読んでみたくなりました。ご紹介ありがとうございました。

2018/6/24(日) 午後 8:17 [ iruka ]

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