街角でも室内でも鮮やかな画面で情報検索やメール、動画像が楽しめる。携帯移動端末や大型液晶テレビの画面がひときわ高精細になっていくのも、眼に見える身近なところでの情報技術進展の恩恵といえる。
そのカギになるのが薄膜トランジスタ(TFT)と呼ばれる技術で、ガラスなど透明な基板にトランジスタを構成する物質をナノメートル(ナノは10億分の1)レベルの厚さで層状に重ねてスイッチの機能などを果たせるようにする。液晶画面の場合、TFTは画面を構成する画素の光の強さを調整するスイッチの役割をしており、TFTの動作が速ければ速いほど素早い動きに対応した鮮明な動画像ができる。
液体で低温熱処理
スマートフォン(高機能携帯電話)を始め、次世代の情報端末のTFTには、輝度が高い有機ELを駆動したり、消費電力を下げたり、さらなる高性能化が求められている。このため、材料として、酸化物半導体の一種で、インジウム、ガリウム、亜鉛の3元素からなり、非晶質(結晶化していない)の酸化物(InGaZnO、通称「IGZO」(イグゾー))がクローズアップされている。IGZOは透明で、非晶質シリコンの10倍以上の優れた電気性能を持っているが、製造するさいに多大なエネルギーやコストがかかることがネックになっていた。
このようなIGZOの製造法について、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科の浦岡行治教授、石河泰明准教授らは、これまでの真空中でガスを使い500度以上の熱処理を行う工程に対し、液体を使い300度の熱処理で、スイッチの機能があるIGZOを製造することに世界で初めて成功した。しかも、性能を示す電子の物質内の移動のしやすさ(電子移動度)の値は従来の2倍以上(19・5cm2/Vs)もあった。これで真空をつくるさいの大掛かりな装置が不要になり、コストが大幅に削減できる。
浦岡教授らの液体を使う工程は図のように、IGZOの原料を水に溶かして基板上に垂らし、回転して薄膜材料の厚みを調整。そのあと、材料を乾燥し、100度で熱分解して炭素など不純物を除いた薄膜をつくった後、300度の熱処理で膜を形成する。
浦岡教授は「不純物を除く熱分解の温度が低い材料を用いたことで、低温での形成が可能になりました」と話す。この液体を使う方法は、インクジェット方式など印刷技術が使えるので、プラスチックなど柔軟な基板にも薄膜TFTを作られる。軽くて曲げられる画面の実現も可能、というから期待できそうだ。