元日本ミニマム級1位
“飯田大介”
この名前を聞いてピンと来るコアなボクシングファンは多いかと思います。
ジャブを中心とした、多彩で華麗なリードブロー。
ミニマム級という戦場で、“これぞ最軽量級”と思わせる、軽やかでスピーディなフットワーク。
チャンスを掴みにくい地方ジム所属の選手(静岡県・三津山ジム)でありながら、
4度ものタイトル挑戦をしたその実力は
まさに“本物”です。
飯田選手の華麗でクレバーなボクシングは、
過去に、多くのボクシングファンを沸かせました。
その飯田選手がなんと、
復帰へ向けて密かに再始動しています
今日、ジムにお邪魔し、トレーニングを行なう飯田選手に色々なお話を聞きました。
過去、新井田豊・鈴木誠・小熊坂諭といった
そうそうたる日本王者たちに挑戦し、あと一歩のところまで追い詰めた飯田選手。
特に、後に世界王座を7度も防衛した“天才ボクサー”新井田豊さんとの10ラウンドは
後楽園ホールに歴史を刻んだと言っても過言ではない
凄まじい10ラウンドでした。
「これに勝って世界挑戦」と、飯田戦を世界戦へのステップと位置づけた新井田陣営。
それはファンやマスコミも同じ気持ちだったかと思います。
“新井田がどう勝つか”
そこに注目が集まった日本タイトルマッチ。
しかし1ラウンドに2度ものダウンを喫したのは、
いい勝ち方を求められていたはずの、王者・新井田さんでした。
その後も一進一退の展開。
まさに意地と意地のぶつかり合いという感じで
凄まじい攻防が展開されました。
時に、エキサイティングした王者・新井田さんが、飯田選手を威嚇するシーンも見られるほどで、
とにかく白熱した好試合だったのです。
どちらにも甲乙付け難い熱戦は、なんと“ジャッジ3者とも引き分け”という採点となりました。
タイトルマッチにおいて引き分けという結果は、
王者にとってはタイトル防衛成功ですが、
対照的に、挑戦者は何も得る物がありません。
この新井田戦について、飯田選手が静かに語ってくれました。
「2ポイントくらい勝ったかなという想いもあったけど、結果が全てだから。」
飯田選手といえばやはり、この新井田戦が付いて回るわけで、
名選手と熱戦を演じたことを誇る反面、
そればかりになってしまう“葛藤”もあったようです。
「新井田との試合で覚えてもらえるのは嬉しいけど、でも、あればっかりじゃいけないと思った。」
そんな想いを抱いた飯田選手は、リングネームを改名。
過去の栄光を引きずらず、“また0からスタートする”という意味合いで
2006年度から、「翔竜零児」という名前で心機一転、リングに上がったのです。
新井田戦後の数年、何度もブランクを作り、白星からも遠ざかってましたが、
改名後の第一戦目では、東洋ランクに名を連ねるタイの王者に判定勝利を果たし
またタイトル戦線に戻る形となりました。
5度目の正直を狙う飯田選手は、タイトル前哨戦として、格下のタイ選手と対戦。
しかしなんと、ここでまさかの、悪夢の1ラウンドKO負けを喫したのです。
「あの時は調子がよくて、身体が本当によく動いた。」
「相手の動きが見えすぎるくらいだったんだ。」
「試合に向けて本気で調整もした。」
「でも多分、どこかに油断があったんだと思う。」
結局その試合を最後に、約3年間、リングから遠ざかっています。
そんな状況ですが、
飯田選手はリングネームを本名に戻し、また更に、“0からのスタートを切ろう”と、
トレーニングを再開させたのです。
「鈴木さんとか新井田とか、いつの間にか自分の世代の選手がみんな引退した。」
「ランキング表見ても、知らない選手ばっかになっちゃった(笑)」
しかし続けて
「俺はまだ諦められない。」
「1位じゃダメ。チャンピオンにならなきゃ。」
「生活のこともあるけど、お金と比べることが出来ない、大切なことがある。」
想いを語る飯田選手から、たしかに、全盛期の頃の表情以上の
本気の想いを感じました。
また、ジムの後輩であり、現在、怪我などの理由でリングから遠ざかっている宮城ユウヤ選手についても、
「宮城もやれるようになれば、いつでもまた戻ってくればいい。」
「同じ相手に2連敗したし、どうするかは本人次第だけど、やりたくなればまたやればいい。」
自分のことのように後輩選手のことを本気で話す、その優しく温かい飯田選手の口調は、
リング上のクレバーで華麗なボクシングで見られる印象と完全に一致するものでした。
話を終え、トレーニングを始める飯田選手を少しだけ拝見し、僕はジムを後にしましたが
そのスピード、パンチの切れ、軽やかなフットワークは
まったく衰えている様子は感じませんでした。
掴みかけた夢を現実にするため、また動き出すことを決意した飯田選手。
復帰戦が正式に決まるのがいつになるかは分かりませんが
引き締まった身体や軽快な動きを見た限り
恐らく、その日はそう遠くはないかと思われます。
今度こそ、“5度目の正直”で、
ベルトを腰に巻く姿が見れるかもしれません。