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細々と連絡用、みたいな

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ー景/世鵬颪い泙靴

【七福神に会いました】


すんません。
今日、機嫌が悪いです。激鬱です。理由は、自分が馬鹿だからです。
引き続き、馬鹿を直そうと思います。


さて、今日は、そんな鬱な気分への対抗手段として、
昨今見かけたなかで、最高に幸福なお話を書いてみたいと思います。

(やっぱり長文警報。ティッシュを用意してから、総員配備につけ!)


***


今年のお正月、私はあるお宅にお呼ばれしました。
正月にお呼ばれするくらいだから、まぁ親しい家だと思ってください。


60代のもう定年した親父さんと、そのご両親である80代の老夫婦の3人住まいのお宅。
そこへ、いっしーを含む、30代が4人でお招きにあずかったのです。
まあね、孫がお爺様宅に行くのにご一緒したわけなのよね。


お爺様、いや、じーちゃんは大正生まれで、今年なんと米寿。
耳が少し遠いけど、バリバリに元気。ばぁちゃんも、足が悪いみたいだけど、すんごい元気。


それで、何がどうしたって、じーちゃん!
このじーちゃんが、とにかく最高なのです。


話に聞くと、じーちゃんは12月に入ったあたりから、もうソワソワで、
「正月っ!正月の買い物をせにゃぁ!」と、毎日大騒ぎしていたらしい。


この家では、普段からばぁちゃんの代わりにじーちゃんが買い物担当。
遠くの安い店まで敬老パスでバスを乗り継いで行って、なんでも買ってくる。


でも、買ってきてくれるのはいいんだけど、なんだか最近天然ボケっぽくて、
キャベツ安かったから3個、とか、牛肉がうまそうだったから1kg、とか買ってきちゃう。
どうやら、家族が多かった頃の感覚で買っちゃうらしい。ばぁちゃんは笑うしかないんだって。


そんなじーちゃんに正月がやってくる。
12月のじーちゃんは買い物エンジン全開。


じーちゃんは、孫が客を連れて帰ってくるその日のために、
せっせと冷凍庫にご馳走を貯め込んだ。
その勢いたるや、冬眠前のリスなんかの比ではない。


正月の祝い膳を「7人」で囲んだとき、私は7人前としてはちょっとありえない光景を見た。

 
●おせちのお重。特大3段がさね。
●ばぁちゃん特製煮しめ。どんぶりにてんこ盛。
●タコの刺身。直径40cm皿に、てんこ盛。
●大トロ刺身。直径30cm皿に、てんこ盛で2皿。
●牛肉のたたき。大皿にとぐろを巻いて超立体。
●ずわいガニ。洗面器のような皿に、ピラミッド盛りで2山。 
●数の子。ラーメンどんぶりみたいな器に、山盛り1杯。 


主なメニューで、これですよ? 細かいのはもうわかりません!
お刺身もね、皿に並んでるんじゃないの、「てんこもり」なの!超立体なの!
ずわいがにはね、「タワー」なの。いや比喩でなく、マジで!


さらに恐ろしいことに、出し切れないご馳走が、まだ冷蔵庫にたくさん入っていた。
カマボコなんてばぁちゃんが笑いながら指差す先に、6本。 ・・・え?
「帰りに持って帰ってね」って・・・ そうですね。
これは遠慮している場合じゃなくて、頂いたほうがいいかもですね。


私には、みたこともないご馳走。
88歳が、これだけ買って担いで帰って、カニは全部割ってくれて・・・
ものすごい大歓迎ぶりが伝わってきた。
でもこの家の家族は、「まぁたじーちゃん、今年もやったかー(苦笑)」ってノリだった。
どちらかというと、カンベンしてよ・・・位の低いテンションである。


ああもう! なんにしろ、この家は根本的に間違っている!
食べ終わっても景色が変わらない食卓ってのは、なんの魔法ですか?


食べている間、じーちゃんの視線はあたしにロック・オンされていた。
もう、く・ぎ・づ・け。
狙って離さないぞ〜の気迫を感じた。
なぜかって、家族や孫はすっかり聞き飽きているけれど、
あたしはまだ、じーちゃんの話を聞いたことがないからなんだ。


じーちゃんは、私の顔を真正面から見て、とめどもなく話しつづけた。
話は支離滅裂だった。ばぁちゃんの補足も多少入るけど、わからないところも多い。
でも私、なんだかとても幸福で、それをずっとうんうん聞いていた。



いやぁわたしは幸せだ。もう日本一の幸せもんだ。
4人の子供は、みんな立派に育った。
長男は銀行を勤め上げて、次男は・・・・、長女は・・・
わたしはね、尋常小学校しか出てないのっ!
だけど私の子供はね、みんなすごい立派なの。
学校に行ってね。家を建ててね。健康でね・・・


すごい立派というか、なんていうか、皆さんごく普通に立派なのね。
けれど、語りつづけるじーちゃんの目は、世界一の家族を持った確たる自信に満ちている。


満州に行ってね。
ひろいんだよ! だからみーんな馬に乗っててね。
それで結婚してね。
でも、結婚ね、反対されちゃったの。
だから、このひと(ばぁちゃん)もね、馬に乗ってね。
満州ね。地平線。ばーっと。


じーちゃんは九州の貧しい漁村の育ち。一旗あげようと満州に渡った。
ばぁちゃんは大正時代には珍しく女学校でてて、国府の役人のインテリ令嬢として満州にいた。
二人がなぜ馬に乗ったのか良く分からない。
でも、何度も繰り返し話すところをみると、二人は馬で駆け落ちしたのかもしれない。
ばぁちゃんは何も補足せず、「そうだね馬に乗ったね〜」と、ただ笑う。
とにかく、二人は馬で駆けたのだ。モンゴルの大平原を!


戦争だったんだよ。大変だったよ。何にも無くてね。
(鉄砲の)玉が飛んできてね、ここ(お腹)あたって。
ガスとか吸っちゃったんだよー。
帰ってきてね、ここに家を建ててね。
土地は(ばぁちゃんの)お父さんがくれたの!
(結婚を)許してもらえたの!
海外旅行にも行ったんだよ!ハワイだよ!
飛行機おりたら、花をクビにかけてくれてチューって!


そう、じーちゃんは戦争に行ったのだ。
何を見たのか、何をしたのか、させられたのか、詳しいことは話さないし、誰も尋ねない。
戦後ばぁちゃんは「傷痍軍人夫人会」で大活躍。県代表を務め、国会議員までが一目置く御仁。
さらにはなんかガスも吸ったとか言っている。なんのガスだかわからないけど、聞くのも怖い。
そのせいで今も手が震えるというのだ。


いやぁいい、なんていいお正月だ。
あなたもね、今日はよく来てくれた!
うちの子は、みんないい子でしょ?
うんうん。美味しかった? 
ん? ん? これ、ほら、もっとたべなさい。
いやぁ、今日はよく来てくれた!ありがとう!ご苦労さんでした!



あたしの皿にどんどんカニを盛っていくじーちゃん。
そんなに食えないよ。でもありがとう。あたし、うれしいよ。


ご馳走食べさせてもらってお礼を言われるなんて、生まれて初めてだった。
ご馳走食べさせたのに感謝が足りないって、怒られたことはあっても。


じーちゃんもばぁちゃんも、あたしがどんな女なのか全然しらない。
馬鹿だし、失敗したし、人を傷つけてきたし、人生はとても遠回りしてきた。
私が生まれた時に、不幸が増したと感じた家族がいたのかもしれないし、
祖父の皿からぶどうを取った3歳の私を、私の祖父は怒鳴る人だった。
そんな少し変な家に育った。


私はじーちゃんに何もしてあげていないのに、
今日会えて、一緒に食事ができただけで、最高に嬉しいと言うじーちゃん。
ゆっくりと衰えてきた、かすみのかかった88歳の思考回路で、
じーちゃんは「幸福だ」と、それだけをくりかえし、くりかえし、くりかえすのだ。


私は、おなかだけでなく、胸まで満腹になった。


食事の後、老夫婦にさせるのは忍びないので、後片付けをさせてもらった。
その間も、じーちゃんはあたしにつきまとっては、なにやら話し続けていた。


じーちゃんを振り返りながら皿を洗っていて、ちょっと手がすべって皿をぶつけた。
みるとフチが少し欠けているので、やっちゃったかと思って、ごめんなさいを言った。
すると、ばぁちゃんは首を振って言うのだ。


ううん。それは違うの、まえから欠けていたの。
それはね、おじいさんの勲章。


勲章?


おじいさんったらさ、手が震えるのにね?ほらさぁ、ガスだからさぁ。
なのに私が大変だって言って、お皿を洗ってくれるんだよぉ。
だから、うちのお皿はみーーんなフチが欠けているの。
でもねフチが欠けているのは、おじいさんの勲章なんだよ。
戦争じゃぁ勲章なんて貰わなかったけどね〜ぇ。うっふっふ。



ふり向くと、いすに腰掛けたばぁちゃんに、じーちゃんがよりそって立っていた。
二人ともそれは見事な満面の笑みをたたえて、穏やかにたたずんでいた。


ああ、この方々は。
この方々は、もう、弁財天と大黒天だ。

インテリの女神と、彼女を守ってきた福の神だ。
彼らに頭巾をかぶせれば、ああ、ほら、浮世絵のままの姿じゃないか。


人間は、こんな晩年を迎えることができる。
どん底の苦労を体験してもなお、こんな風に笑って老いることができる。
誰かと比較してでなく、自分自身に心から満足できる。
きっと辛かったことも忘れてしまって、ただ楽しい思い出だけをゆっくりと噛み締めて。

なんという希望なのだろう。
この笑顔を、世界の不思議といわずして、なんといおう。


そうして。
カラスの宝物どころか、宝船の実存を見つけてしまった私は、
嬉し涙を隠しながら、たくさんたくさんお皿を洗わせてもらった。


じーちゃん。ばぁちゃん。
ありがとう。

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あ〜実家に顔見に帰りたくなってきた・・・私の母が同じように食に関してはテンコ盛り派です。私の体を気遣って塩分控えめの肉じゃがを給食のバケツのような鍋でこしらえてました・・・しあわせです。

2005/6/26(日) 午前 9:51 wan*nno*

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激欝なのにこんなお話が書けるなんてステキね。人間は自分が何かをしてもらうより、自分がしてあげたことで誰かが喜んでくれる方が幸せなのよね。特にお年寄りは“してもらう”ことの方が増えていくだろうから、いっしーにご馳走を食べさせてあげられることが嬉しかったんでしょうね。食べきれないお料理の異常な?多さは、おじいちゃんの普段の淋しさなのかな?って感じました。

2005/6/26(日) 午後 0:06 [ - ]

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いや。あのじーちゃんは普段も寂しくない人みたい。大判振る舞いして、ワカモノがガツガツ元気に食べている姿を見るのが大好きなんだって。だって孫達もすぐ隣とか近所に住んでいるし、ばぁちゃんともいまだにラブラブで、なんとダブルベッドに寝てるんだぜ?(笑) 残った料理は孫達がしっかりタッパにつめて貰って帰り、松の内いっぱい贅沢させてもらいました。最後は七草かゆじゃなくカニ雑炊なわけ(笑)

2005/6/26(日) 午後 2:45 isshy☆

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量はねぇ加減がきかないみたいだねぇ。なにしろ5人の子供を育てて、その孫達も一斉に里帰りした頃の記憶が強いらしくてね。このじーちゃんには、また後日談があります。けっこうスゴイ人です。こんな人が居るんだなぁと感動の連発です。いま事件進行中なので、きりがついたら書くわ〜。

2005/6/26(日) 午後 2:51 isshy☆

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いいですねぇ〜〜。いやぁ〜〜〜、いいですねぇ〜〜。なにがって、その情景がまた、まざまざと、いいですねぇ〜〜。笑顔がまた、ステキで。感情移入しすぎて、オヤジっぽくなってしまいました。いやぁ〜〜。なんとかの境地ですね。

2005/6/28(火) 午後 1:04 kum**o_min*

読みながら涙が止まりませんでした。両親がもうすぐ80台なので身近に感じたのかも。いいご夫婦ですねえ。いい老後を過ごしてらっしゃいますね。いっしーさんの感動が伝わってきました。

2005/7/28(木) 午後 0:15 [ - ]

なるほど、このことだったんですね。私はウツからちょっと抜け出たり、至高体験みたいなのありますが、そのたびこう思ったりします。何で忘れちゃうんだろう、こういう大事なこと。。その度病気にかかったりするのかな、人間。

2005/8/11(木) 午後 1:52 ins*inc*110*

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とてもいいお話ですね。特に最後の「宝船の実在」って言い回し。絶妙です。事実、食べきれないほどの料理の山だったわけだし。理想郷は実在する、案外、身近で地味なところにひっそりと。そんなことを感じました。

2005/8/14(日) 午後 10:45 Dr.Watson

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isshyさん、じいちゃん、ばあちゃん、ええ話をありがとう!!。笑って、ほんで、ちょっと、涙でた・・・。 あたし、目指す!!。長生きして、じいちゃん、ばあちゃんみたいに、笑ろうてみたい!!!

2005/8/17(水) 午後 4:25 [ kim**824 ]

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kimuさん。そうだよ!うつなんてただの病気。治るんだよ。うつに罹りやすいのは、性格のうちホンの一部の悪いクセのせい。これだって直せるんだって。我々にだってじーちやんみたいに笑える可能性は、ヨユーであるんだ。なんたってあと50年もありゃイロイロできるって!お互いがんばりすぎずに、でも元気だしていこうよ。うつの時はアレだ、薬より美味しいものとお笑いが効くね。ウチのお笑いコーナー覗いてみてね!

2005/8/17(水) 午後 6:56 isshy☆

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KIMU1824さんのページからよせて貰いました。 良い話です。 昔 大好きだったお婆ちゃんを思い出しました。 記事を読んで もう一度婆ちゃんに会いたくなった・・・ もう会えないのが残念・・・ また 遊びに来させてもらいますw

2005/8/27(土) 午後 9:52 [ - ]

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jumboさん いらっしゃいませ。読んでくれてありがとう。んでも、これね一大シリーズになってまして、この先に全8話が続いています。TOPの記事にリンクがありますので、ぜひ。kimuさんが感じ入ってくれたのも多分この第一話ってわけじゃないと思う・・・このじーちゃん、ほんとスゴイのよ。よかったらこの先もぜひ!(自分が素で感動したので会う人ごとに勧めまくりなワタクシ(笑)

2005/8/28(日) 午前 0:09 isshy☆

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一週間の始まりの朝。何だかとっても心がポカポカ、温かいもので満たされました。ありがとうございます。

2006/1/16(月) 午前 7:05 pac*i*a_gl*b*a_pa*hir*

またまた掘り起こさせてもらいますよ。このおじーちゃん、全てのことに対して心から感謝できる人なのね。石垣島で出会ったおじぃとそっくりだ。方言で何云ってるか全然わかんなかったけれど、後から人に聞いたら「会えて良かった」と云ってくれてたらしい。何故かはわからんが。

2006/8/26(土) 午前 0:07 [ うろんな女 ]

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longprayこと カオルさん。こんばんは。読んでくれてアリガトウね。この記事は私が一番大事なシリーズなの。人生ってすごいなぁって、本当にそう思う。お暇なときに最後まで読んでみてね。「出会えてよかった」って言ってもらうと本当に嬉しいよね。あたしもこのじーちゃんにたくさん行ってもらって今があると思う。

2006/8/26(土) 午前 1:29 isshy☆

おじいさんと、おばあさんは、本当に弁財天と大黒天のような方ですね。読みながら自分の昔をいろいろ思い出しました。イッシーさんの文章は軽快で読みやすいです。ぼちぼち読んでいきますね。

2006/9/10(日) 午前 1:15 [ 久遠 ]

すごいなぁ。ほんとに誰かと比べることなく自分は幸せだって年をとって思えるのってすごい・・うちはこの年になって穏やかに暮らしてるんだろうか?そもそもちゃんと生きているのか?なんて思いました。ほんとに弁財天と大黒天ですね!

2007/2/13(火) 午後 5:19 [ - ]

初めましてm(..)m
凄く良いお話で、読んでいて涙がポロポロ・・
・・私も弁財天、彼が大黒天になれるかしら・・
ゆっくり読ませてくださいね。

2008/9/9(火) 午前 11:19 ゆうぐれ.

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ゆうぐれさんどうも初めまして。
古い記事だけど、これは古びない記事です。
私が書いた記事ではなく、書かされた、書かせてもらった記事です。
筆者とは無関係に、起きた出来事がものすごかったのです。

書き始めたときには思いもしなかった展開が押し寄せ、
そうして、七福神のお話はとんでもない結末を迎えます。

いや、結末はまだですよね。
私と旦那、貴女と貴女の旦那さんが七福神になる日まで。

「七福神」と「カラス」、そして「お笑い」の書庫には
楽しいエッセイがありますので、よかったら観て行ってください。
出してる電波が合うようだったら禁断の「心」と「壁」の書庫へ
お進みください(苦笑)

では。

2008/9/9(火) 午後 7:41 isshy☆

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やっと、読む気になったので、読みました。

ごっつい、いい話

この三年間、円満な家庭にお世話になっていて、
円満というのが、どういうものなのか、理解でき、

家族とも、仲良くなることが出来ました。

貧乏だけれど、笑顔の家庭です。
時々、喧嘩をして、また仲直りをします。

ささやかにものが、一番のしあわせ。

いい話、ありがとう。

2014/1/27(月) 午前 4:00 COCO


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