渡辺茂樹のいたちものがかり

ニホンイタチをこよなく愛するアスワット顧問/動物学者・渡辺茂樹のブログです!

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以下は、あるダムについての話である。完成後に予想される水面面積から判断して、約200ha程の陸地が水に沈む。そのことでこの地の陸棲動物にはどの程度のダメージがあるだろうか?。イタチを例に考えてみた。なおこの地にシベリアイタチはおらず、ニホンイタチのみが棲息する。

  陸地約200haには、どれだけの数のニホンイタチが棲息するか?。まずそれについて雑駁なる考察を試みる。

   ニホンイタチの行動圏は、雄10ha・雌1haと仮定する。前者はラジオテレメトリ、後者は直接観察法で弾き出した雑駁な数字だ。雌については、古に東京農工大学がラジオテレメトリ法で求めた値と一致する。そして雌雄の各個体の行動圏が重ならないと仮定し、性比を1:1とするならば、200haのエリアに総個体数は約18.18頭となる。

   行動圏が重ならないという仮定は根拠に乏しい。その一方で、やはり根拠に乏しい「いずれの個体も使用しない"空地"が存在する」という仮説も成り立ちうる。この背反する仮説を相殺させるならば、総個体数は約20頭というは案外妥当ではないか?。

   いやあ雑駁だなあ(苦笑)。でも「言論の自由はある」と信じる。詳細は糞DNAを用いての個体数推定調査をすれば判ることだ。

   ちなみに面積200haという値は、私が知る限りの「ニホンイタチが、個体群を維持しうる最小面積」だ。それは閉鎖個体群であり、、移出入無し(出生死亡のみ)で個体群が維持出来るものだ。鹿児島県トカラ列島の平島にそれが存在し、その島の面積は約200haなのである。   

  だが、平島における総個体数が20ということはないだろう。集団遺伝学の知見より、閉鎖個体群の維持には(雌雄合わせて)50頭は必要と考えうる。平島に少なくとも50頭が棲息するならば、各個体の行動圏は(前述の)私の仮定値より小さいことになる。ないしは「かなり重複する」筈だ。そして食物資源は「かなり豊か」ということになるだろう。…というような話は、以前にも(ブログ第84話「島の面積とイタチ」にて)述べた。年をとると、同じ話を繰り返すようになる(苦笑)。

   オープンな陸地200haの個体数が約20であるならば、その喪失は一つの個体群ぶんに満たない。だがダメージは受ける。そのことへの「罪滅ぼし」として、新たにに出来るダムの水面ギリギリにビオトープを創る計画が進行中という。それによりニホンイタチを「保全」したいらしい。しかしてそれは可能か?。

  谷底の主流エリアが水没することにより、川沿いに点在する集落と、それに隣接するススキやササの群落が消える。ニホンイタチはサワガニとアカネズミを多く食べる。サワガニは流水性で、かつその餌が溜まり易い本流域に多いと思われる。アカネズミはススキやササの群落で密度大だろう。それらが水没により失われるのは、ニホンイタチにとって痛手だ。ダム水面より上部に創られるビオトープは、果たしてどれだけ有効だろうか?。

   イタチ個体群の存続には餌と、そしてシェルター(殊に繁殖場所)の2つの要因が必要だ。まずは餌について。

  集落地域が水没するゆえ、ネズミを保全するのは困難である。サワガニも難しい。魚と渓流昆虫、そしてカエルは、ビオトープの設計次第ではそれをなしうる。

   ただニホンイタチは泳ぎがさほど上手でなく、魚を狩るのは苦手だ。胃から出て来た例はあるが、それはスカベジングによるものと思われる。水溜まりが小さければ泳ぐ魚も捕えうるかもだが…その魚は小さくて、あまり腹の足しにならないのではないか?。渓流昆虫についても同様である。羽化成虫が糞に大量に含まれる事例はあるが、その時期は限られる。安定した餌資源にはなり得まい。

   カエルについて言えば…流水性のタゴガエルは細流で繁殖する。だからこれをビオトープで保全するのは難しい。止水産卵のヤマアカガエルとニホンアカガエルは期待しうる。いずれもこの地に多くないようで、「どうかなあ?」と思うが…周辺で採取した卵塊を移入する手もあるのではないか?。外来種の移入はまずいが、在来種のカエル2種の移入は(周辺からなら)許され得よう。

   ともかく(最初の予測にとらわれず)、臨機応変に対処することが必要だ。こういうことは、「イタチに聞いてみなければ判らない」と思うべきである。古の動物学者には常識であった「…に聞いてみる」という精神が、最近減衰しているような気がしてならない。

    次はシェルター。ニホンイタチは雌のみが育児を行うが、そのサイズは雄に比べて異様に小さい。だから繁殖用シェルターを見出すのはさほど難しくないように思える。しかし、本当にそうか?。そのとき、行動圏が1ha程しかないことがネックになる。そのエリア内が相当に富栄養でなければならないからだ。

   私が観察した唯一の雌の繁殖巣は近くにアメリカザリガニが多く、その条件を満たしていた。それがいないこの地域で、何がニホンイタチ雌の生活を支えているのか?。おそらく場所的には、水没する集落に多くを依存していたのではないかと思う。集落周辺には農耕地もあり、其処は(土壌昆虫やミミズが多く)富栄養の筈だからだ。加えて集落周辺には巨石や瓦礫や材木積み上げ等…繁殖巣が作りうるシェルターが豊富だ。ニホンイタチ雌は小さいとはいえ、森林内はその条件が良くない。

   つまり集落の水没は、ニホンイタチの雌にとってとりわけ痛手と思う。ならばビオトープには、「繁殖巣を作りうるシェルター」を設けるべきだろう。それが餌場の近くにあることは、巣立ち直前の子にとっても重要だ。その時期の子は、巣の近くの餌場で「狩りを仕方を学ぶ」からである。

   ニホンイタチの保全は、繁殖条件が保証されて初めて達成しうる。いま設けられつつあるビオトープがその助けになることを願う。
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