渡辺茂樹のいたちものがかり

ニホンイタチをこよなく愛するアスワット顧問/動物学者・渡辺茂樹のブログです!

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   今年の会場は、信州大学農学部(長野県伊那)だ。標高773mの高地に在る。期間は9月7日(金)から10日(月)まで。私は7日の正午前に到着し、9日の17時過ぎに帰路に就いた。

   ASWAT(私と福永健司)の出し物はポスター発表で、タイトルはシベリアイタチの育児行動について」(英題"Parenting  behaviour  of  Siberian  weasel")だ。ペアレントとはいうものの、実際は「雄は育児に関与しない」というのが結論である。ニホンイタチがそうであることは、既に(例数は少ないが)確認されている。シベリアイタチもそうと思われたが、不確かだった。それを(やはり例数は少ないが)確認した次第である。そのほか日周期活動パターンや運び入れる餌の種類、雌雄が出会ったときの行動などを解明した。例数が少ないのが弱点だが、それはおいおい克服したいと考えている。

   ポスター発表の会場には興味ある展示がいくつか有った。だがその紹介は別稿回しとする。まずは、7日 の14ー17時に催された自由集会「食肉目における哺乳類学と研究最前線」について。本企画は当初6人の講演が予定されていたが、北海道地震のダメージでうち3人が参加出来なかった。以下に、残り3人の講演内容を紹介する。

   まずは、鈴木聡(神奈川県立生命の星地球博物館)の「ニホンイタチとシベリアイタチの形態的多様性」。その内容は、私が以前に行っていたこととかなり重なる。新知見は「シベリアイタチの方が、ニホンイタチよりも変異性が大」か。「前者の方が後者より広域的にサンプルを集めたのにもかかわらず」というのは、興味深い。ただ、「サンプルサイズ(各種の個体数) に問題あり」と思えた。ニホンイタチにおける逆ベルクマン傾向(山イタチは里イタチよりも小)が考慮されていないのも、気になった。遺伝的変異と成長変異が区別されていないのも問題であり…そして最大のネックは、「雄しか調べられていない」ことである。ニホンイタチの雌は捕獲しにくい(ロードキルも滅多に手に入らない)のだが…斯様な困難を克服しない限り、「片手落ち」の感が免れ得ない。

    ならば「雌が謎の動物である」ニホンイタチはとりあえず神棚に上げ、シベリアイタチとの比較は同属別種(オコジヨ、イイズナ、ヨーロッパケナガイタチ等)で行ってはどうか?。あるいは同科別属のテン、アナグマ、カワウソ…更には同目別科のジャコウネコ類(ハクビシン、マングース、スリカータ等)と比較するのも良い。そのように視野を広げて調査し考察するのは、「決して無駄ではない」と思うのだ。斯様な博物学的スタンスは、鈴木(ならびに私)の母校たる京大理学部動物学教室の伝統である。私と彼とはかなり年齢が違い、最近は伝統がかなり失われているように思うけれども…出来たらそのことを心して欲しい。まして鈴木は、「博物館」の職員なのだから。

   次は、服部薫(北海道区水産研究所)の「ラッコと海洋生態系」。「ラッコの保全は地元ウニ漁民には迷惑」のことは(知ってはいるが)、改めて悩ましく思った。で、「ウニなんて贅沢品を食べることを、日本人は止めた方が良い」と発言したが、演者はスルーした。ま、そうだろうな(苦笑)。

    それと、「三陸海岸にはラッコは棲めない」ことを(そうだろうなとは思っていたが)改めて確認した。沖を流れるのが寒流ではないので、コンブが育たない。コンブはウニの主要な餌なので、ラッコに(間接的に)「食」を提供する。またラッコはコンブに体を巻きつけて休むので、「住」をも提供するのである。ただ…古(19世紀)にはラッコは陸上で休息していたと、アーネスト・シートンが記している。ならば陸上でサンクチュアリ的にラッコの休息場を作り、「住」を与えることは可能だろう。そしてウニの代替餌たる(三陸海岸で棲める)貝類を増殖させれば、「食」も克服出来るかもしれない。実践はさておき、思考実験として行ってみても面白いのじゃないかと思う。ただ実践は、しないのが無難だな。

   そして、金子弥生(東京農工大学)の「アナグマの匂い物質と社会行動」。飼育下での行動観察だが、なかなか面白い。昔、山本伊津子(元京大日高研所属)がタヌキで行ったことに似ているが、実験の組み立てがそれより遥かに緻密である。成果は未だ十分ではないようだが、今後に期待しよう。

   ちなみに私も山本と同じ頃、イタチで飼育下行動観察を企画したことがある。だが、断念した。野生のイタチは(ニホンもシベリアも)飼育が難しい。「個体維持」は何とか出来るが…種族維持、即ち飼育下で繁殖を行わせることは至難だ。つまり、日常的にストレスがかかっているのである。自称テレパスの私は、イタチの心も「ある程度は」読める。故に行動実験は、「余程工夫しない限り無理」と判断した。対してアナグマは、さほどストレスがかかっていないようだ。繁殖も、多少工夫すれば可能だろう。

    匂い物質の成分について。いくつか指摘されたものはいずれも鎖式脂肪酸であり、芳香族化合物(ベンゼン環をもつもの)はリストアップされていない。ベンゼン環は、哺乳類の固有の酵素のはたらきでは普通出来ない。そもそも「地球上で出来たのではなくて、宇宙空間で生じた」という(かなり怪しげな)仮説もあるくらいだ。それはさておき、ベンゼン環の多くはバクテリアの働きで出来る。アナグマの「親族の親和性」が「接触によるバクテリアの交換」(そのことで匂いが似る)で生じるという仮説があるようで、ならば「芳香族化合物が大きな意味を持つ」可能性はあるように思う。

   北海道組3人が地震のため参加出来なかったことで、急遽斉藤昌幸(山形大学)の講演が追加された。「都市におけるタヌキの食性と行動圏」の話である。食性については「糞には人工物が少なく、ミミズが多くを占める」ことが意外で、面白かった。関西の都市のシベリアイタチはそれとは異なり、ミミズは殆ど食べてないように思う。ただミミズは消化が良いので、ビノキュラーで剛毛の有無を確認しないとそうとは断定出来ない。ビノキュラーは高価だが、買わざるを得ないな。

   行動圏のデータには、不満がある。タヌキは基本的に雌雄ベアで行動する(哺乳類にしてはかなり珍しい)動物である。なのに、雌雄同時追跡が行われていないのだ。今後はぜひ、そのことにチャレンジして欲しい。そしてタヌキも「不倫する」…か否かを、確かめて貰いたい。

   引き続き7日の17時半〜19時半の自由集会に参加した。テーマは「都市における食肉目研究:生息地としての河川と道路の光と闇」である。5人が講演したが、以下には3人のトークのみを紹介する。

   まずは、塚田英晴(麻布大学)の「タヌキの交通事故個体を用いた食性の長期的変化から見えてくること」。塚田はこの場で…道路は(ロードキルの発生により)「個体群にダメージを与える」ことが"闇"であり、生じたロードキルで「サンプルが得られる」ことが"光"であるとの見解を示した。そしてロードキルで得られた(主にタヌキの)胃内容物も、やはり人工物が少ないことを報告した。

   次は平田彩花(東京農工大学)の「都立野川公園におけるホンドタヌキ」。タヌキが生きたカラスを咥えて去る場面が撮影され、そのことで「タヌキはスカベンジングのみならず、捕食も行う」という見解が述べられた。捕食とスカベンジングはしばしば混同される故、この指摘は重要だ。ただ此のケースに限っては、やや「?」である。そのカラスは、瀕死状態だったのではないか?。だとすれば、「限りなくスカベンジングに近い捕食」となる。

   「水辺のタヌキの行動」は面白かった。水深のある止水にはあまり関心を示さず、浅い流水には顔をつけるような行動を示したという。前者について平田は、「タヌキは水が苦手で、水深のある池では採食が出来ないからでは」という見解を示した。なるほど。後者の意味は示されなかったので、私は「水を飲むためでは?」と提言した。平田の解答は、「その可能性はあるが、画面でははっきりそうと確認出来なかった」であった。

   そして、金子弥生の「多摩川における長期調査からわかったこと」。初めにまず、キツネの営巣・繁殖が(最近に)確認されたことが報告された。結構なことである。対してニホンイタチは、減っているようだ。この20年来、多摩川(の中流域)は森林化が進んでいる。よってニホンイタチの主食であったアカネズミが減少し、その代替餌をニホンイタチは(十分には)見つけられていないらしい。つまり…「里山が減っても奥山が有るので、ニホンイタチの個体群は安泰」という環境省の論は、破綻に瀕しているのだ。この件は、次稿の後編にて改めて論じる。

  翌日の8日から、一般口頭発表が始まる。この日は私は、大河原陽子(琉球大学)の「胃内容物を用いたツシマテンの季節的な食性の量的評価」のみを傍聴した。

   口頭発表というやつは講演10分・質疑応答5分のみだから、中身が薄くなる。それとメモをし損なったので、「季節変化」の詳細を此処で紹介することが出来ない。ただ私は、季節変化よりも年次変化の方に興味をそそられた。「近年はネズミをあまり食べていない」ということにである。シベリアイタチ(対馬でのみ在来種)と「食いわけ」をしているかというと、そうでもなさそうだ。対馬では、シベリアイタチが激減している(らしい)からである。要はネズミ(多分アカネズミ)が減っているからだろうというのが、大河原の論である。シカが増えてその食害で下草が減り、ネズミの棲息環境が劣化したのではないかとのことだ。なるほど。ただ…ならばネズミのセンサスを、多少とも行うべきではなかろうか?。

   翌日(の午前)にも、口頭発表を聴いた。以下の3つをだ。

   まずは、辻大和(京都大学霊長類研究所)の「ニホンテンの食性の地理的変異とそれをもたらす環境要因」。その内容は、「広域における食性の比較」という意味でユニークなものである。そういうことって、案外やられていないのだ。イタチ(とりわけニホンイタチ)でも、そのようなことを行う必要がある。私は「最近、イタチ(たぶんニホン)の糞中にネズミの毛があまり入ってない」と思うのだけれども、それには地域差があるかもしれない。考察は、慎重に行う必要がある。

   次は、塚田英晴の「糞中のミミズ剛毛サイズから科同定ができるか?〜中型食肉目における採食量の量的評価の可能性」だ。これは面白かった。そして、自身のイタチの生態調査に「使いうる」と思った。糞内容分析調査では、「質」はわかっても「量」は判定しずらい。だがミミズは剛毛を除いてほぼ完全消化だから、採食量推定がし易いのである。むろん仮定に仮定を積み重ねてのことだが。

   最後は、佐々木浩(筑紫女学園大学)の「長崎県は対馬におけるカワウソの生息状況」だ。糞DNAを用いての調査結果は、「なるほど」であった。だがその結果を受けての「韓国からのユーラシアカワウソ導入を勧めたい」の案は、「?」である。私は外来種の生存権に対して寛容だが、それは「入ってしまったものは仕方ない」という立場からだ。新たに意図的に入れるのは、極力控えるべきと思う。もし行うにしても…事前に日本のイタチ科研究者とじっくり話合い、その了解を得る必要があるだろう。カワウソ研究者のみの独断専行は危険だ。

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