渡辺茂樹のいたちものがかり

ニホンイタチをこよなく愛するアスワット顧問/動物学者・渡辺茂樹のブログです!

全体表示

[ リスト ]

イメージ 1   本ブログの第109話「ミヤコカナヘビとニホンイタチ」にて私は、哺乳類科学の最新号に出た論文の非科学性を弾劾した。その後に私は、「この論文の錯誤の原点は長谷川雅美にある」と気づいた。ちなみに長谷川は現在東邦大学の教授だが、偉大な鳥学者:長谷川博(同大学名誉教授)とは赤の他人だ。そして博が京大系(理学部動物学教室川那部研出自)であるのに対して、雅美は東大系である。自身は東大出ではないが、樋口広芳(東大農学部名誉教授)の強い影響下にあった人だ。東邦大学に勤められたのは、そのコネだろう。

  本稿では長谷川雅美が「群集生態学の現在」(山本智子ほか編:京都大学学術出版会、2001)で担当した一つの章を紹介し、そして批評する。京大は(東大と違って)同門の者だけで固まらないのが伝統であり、そのスタンスは本書でも変わっていないのだ。その章のタイトルは、「食物連鎖の構造と移入種の影響:島嶼生態系」である。

  長谷川(以下雅美のみを指す)は、本来は"生態系生態学者"ではなかった。伊豆諸島の固有種:オカダトカゲの"種生態"を、三宅島で調査・研究していた人である。そして、ニホンイタチに移入によってオカダトカゲの個体群は壊滅的打撃を受けた(と長谷川は主張する)。ならば「今後はニホンイタチの種生態を調査する」と発想しても良さそうだが、彼はそうしなかった。そして、生態系生態学者に転向した(この時は)。その間の事情を、以下のように記している。

※※※※※※※※※※※
   筆者が、島嶼生態系に対する移入種の影響を扱うようになったのは、三宅島のオカダトカゲが移入されたホンドイタチによって壊滅的打撃を受け、研究対象を失ったのがきっかけである。たまたまイタチの導入前から三宅島のオカダトカゲの生活史や餌資源を研究していたため、オカダトカゲそのものを研究することができなくなった後も、イタチの罪状を世間に突きつけたいという一心で三宅島に通ってきた。今回提示した島嶼生態系の観測方法は、イタチの影響評価を試行錯誤するなかで整理したものである。
※※※※※※※※※※※

   イタチの「罪状」ですか。科学者が使う語じゃねえな。そもそも長谷川が用いている和名"ホンドイタチ"は、哺乳類学会では(2001年の段階で)死語になっている。"ニホンイタチ"が正式和名だ。なのに敢えて死語を用いることに、長谷川の本種に対する"敵意"が読み取れる。

  ま、それはさておき(誹謗中傷的言い方は望むところでない)…本書における長谷川の述は、マッカーサーの"島の生物の平衡理論"の解説から始まる。出典はMacArtur&Wilson(1967)で、1971年に日本語訳が出ている。平衡(なんてものが実在するか否か私は疑問に思うが)の状態での種数を"平衡種数"と称し…「平衡種数に変化がなくとも、島の生物相を構成する種は常に変化しており、それゆえ動的な平衡状態にある」と考える。そして、「平衡種数Sは島の面積Sの関数で、SはAの二乗とCの積と経験的に表せる。ここで、CとZはともに定数で、後者は面積に対する種数を両対数で直線回帰した時の傾きになる。CとZの値は生物のグループと地域によって異なる」…と理論展開する。「種の供給源に近くて大きな島では移入率が高く絶滅率が低くなるので平衡種数は高くなり、遠くて小さな島は移入率が低く、絶滅率が高いので平衡種数が低く押さえられる」という述もある。高尚のように見えて案外凡庸なこの論が三宅島のニホンイタチと何の関係があるかというと、あんまり関係無いと思う。それでも、斯様な"虚仮威し"が延々10ページに渡って続く。"本論"はその後の10ページで、そのタイトルは「伊豆諸島における移入種の影響」だ。文節は「まえがき」と「肉食性哺乳類の移入とその影響」と「捕食圧の違いに応じた行動と生活史の変化」と「おわりに」の4つのパーツから成り、"イタチの罪状"云々は最終パーツで述べられている。

   さて、伊豆諸島の"生態系"のことだが、長谷川は"食物連鎖の頂点に立つ動物は何か"によって3つのパターンに分類する。ニホンイタチが頂点の大島(此処の個体群のみは在来)、ヘビ類が頂点の新島と式根島と神津島、鳥類(猛禽)が頂点の三宅島と青ヶ島。ただし三宅島では(1982年に)ニホンイタチが入り、様相が変わる。ちなみにニホンイタチが頂点の大島では、ヘビも猛禽も少ないという。そしてヘビが頂点の新島等では猛禽が少なく、青ヶ島では猛禽が高密度だという。ならば、三宅島の生態系は今後は大島に似た状態で安定する…それだけのことではあるまいか?。ちなみにオカダトカゲは三宅島のみの固有種ではない。大島、利島、御蔵島、神津島、式根島、青ヶ島にも分布する。

   三宅島にニホンイタチが導入されたのは「ネズミ防除のため」だが、他にも同じことが行われた島がある。うち青ヶ島は(三宅島と同様に)"ヘビがいない島"で、八丈島と利島は"ヘビがいる島"だという。そして…在来のニホンイタチがいる大島と、"ニホンイタチはいないがヘビが高密度に棲息する"神津島と新島では、"ネズミの農業被害は少ない"とのことだ。ならば三宅島では、「ニホンイタチの導入により、ネズミ防除の効果が上がった」のではないか?。地元住民にすれば、「オカダトカゲの保全よりもその方が重要」だろう。なのにニホンイタチを一方的に敵視するのは、"罰当たり"のように思える。

   ところでニホンイタチは、"雌は罠で捕えにくい"動物だ。三宅島等に移入されたニホンイタチの雌は何頭ほどで、どのようにして捕えたか?。私が大いなる関心を有するこの疑問に、長谷川は全く関心が無いようである。

   以下暫くは、三宅島(のみ)の話だ。ニホンイタチが導入された1982年以降、オカダトカゲの目撃頻度(頭/hour)は激減したという。それまでは値が100(頭/hour)を下回ることはなかったのだが、1985年には3(頭/hour)、1987年には0.5(頭/hour)に激減し、1992〜1995年はいずれもゼロであったとのことだ。対してニホンイタチの目撃頻度は移入年の1982年はゼロだったが、1985年には0.7(頭/day)、1982年には1(頭/day)の値を示す。1993年には0.15(頭/day)に減少するが、1995年には再び1(頭/day)に戻る。そして1998年には0.3(頭/day)に減り、以後は不明だ。

  ニホンイタチの糞中にオカダトカゲが含まれる割合(出現頻度)も調べられた。1984年は65%(サンプル数54)と高率だが、1987年は5%(サンプル数24)、1993年には2%(サンプル数47)と急減している。ちなみに宮古島の「ニホンイタチの糞72個中に2個(がミヤコカナヘビ含有)」は、3%弱である。

   この値をどう読むかだが…そもそも、"目撃頻度"という個体数推定法は問題がある。長谷川が調査にどれくらいの時間を費やしたかが示されていないのも、よろしくない。ただ、ニホンイタチの目撃頻度が1(頭/day)であるのは(それがもし連日ならば)、高率だ。0.3(頭/day)であってもである。けれどその状態がずっと続くというのは、考えにくい。

   そして、オカダトカゲの(ニホンイタチ導入以前の)100以上(頭/hour)という値も異様な高率である。この島は、ニホンイタチが入る前は「トカゲのパラダイス」だったのだろう。それが、それ以後は"本土並になった"ということだけではないか?。ニホンイタチも"低めで安定した"のではないかと思う。

   ちなみに私は、長谷川とは全く面識が無い。対して、"2000年の噴火の後のイタチの食性の変化"を調査した上杉哲雄(元東大樋口研院生)は旧知の人である。彼は長谷川が調査を止めた1995年以降の状況について、「オカダトカゲは、多くはないがいる」と言っていた。そして彼は、ニホンイタチの罠捕獲調査をやりたがっていた。前者は「オカダトカゲもニホンイタチも低密度で安定し、新たな生態系が成立した」ことを意味するのだろう。そして後者は、上杉が「長谷川のニホンイタチの密度推定法を信用していない」ことの顕れだと思う。だがいずれも、「ニホンイタチを敵視し、"駆除"したがっている」樋口広芳の意向にそぐわない。だから彼は、"研究室を追われた"のである(たぶん)。

   樋口は鳥学者だ。そして彼が"大好き"なアカコッコ(地上営巣するツグミ科の鳥)は、ニホンイタチ導入後に半分に減少した。その値は、オカダトカゲの目撃頻度の)減少率よりも遥かに少ないのである。ちなみに利島のニホンイタチ導入は1920年と古いが、オカダトカゲは少なくないようだ。あるいは三宅島も、いずれはそうなるかもしれない。

   つまりマッカーサー流に言えば…三宅島の生態系は、ニホンイタチ移入後に「平衡定数が高くなった」のだ。移入のニホンイタチが定着し、絶滅した種は無い(と思われる)からだ。だからマッカーサーを引用して"ニホンイタチを弾劾"しようとした長谷川は、自縄自縛に陥ったのである。本人もそれに気づいたようで、屁理屈を組み立てる。以下がそれだ。「イタチの移入は、島の食物連鎖の最上位に捕食者を付け加え、連鎖の数が増えたことを意味する。しかし、移入直後こそ、土壌動物ーオカダトカゲーイタチという3段階の連鎖が成立したものの、10年後にはオカダトカゲがほとんど絶滅し、連鎖の数はもとの2段にもどってしまった。そればかりか、かつてオカダトカゲが多かった頃には普通に生息していた猛禽類のサシバがほとんど見られなくなってしまった。…(中略)…両者にはオカダトカゲという共通の餌資源をめぐる競争が起きたといえるだろう。すると、サシバがイタチに競争排除されたことになる」。

   この人の頭の中には、"悠久な時間の流れ"という概念が無いようだ。そもそも、"オカダトカゲは絶滅していない"のである。競争排除云々については、"データの裏付けが無い"。斯様な論理の組み立てを、「牽強付会」という。

   京大女子(現在は鹿児島大学教授)の山本智子は、長谷川と違って論理的思考が出来る(筈の)人である。その彼女が何故このようなお粗末論考を受理したのか、理解に苦しむ。あるいは、真面目に読まなかったのかもしれない。

★★★  ★★★  ★★★  ★★★


以下のアスワット関連サイトも良ければご覧ください。
 

   イメージ 1





.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事