岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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過去最大の失敗

 政府・与党は10日,追加の経済対策「経済危機対策」を決定した。財政支出15.4兆円,事業規模56.8兆円はいずれも過去最大。
 1990年代には,過去最大をうたった景気対策がたびたび実施されたが,巨額の財政出動に比する効果をあげられず,「失敗」と評価されている。この評価は経済学的なものではなく,景気対策を支持した政治家と国民が期待する成果をあげられなかったという,政治的なものである。このときの財政政策は経済学的に期待される程度の効果はあったと私は考えているが,一般にはそれ以上の効果があると期待されて,それが裏切られたということだ。
 また,「過去最大」という量が優先され,無駄な支出をしたという批判を浴びたことが,失敗のもうひとつの要素である。「現場から見た補正予算」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/26628561.html )でのべたように,巨額の補正予算を無駄なく編成するのは至難の業だ。
 今回の対策も,経済学的に予想される以上の効果を期待していること,量にこだわったこと,の2つの構造を継承しているので,失敗しない理由を探すことが難しい。

 政策の効果を粗く計算してみよう。
 3月に発表されたESPフォーキャスト調査によれば,民間調査機関による経済成長率の予測値平均は,2009年度で-4.11%,2010年度が1.11%になっている。同月に経済協力開発機構(OECD)が発表した予測では,2009年(こちらは暦年)が-6.6%,2010年が-0.5%である。どちらも,今回の追加経済対策の効果は織り込んでいない。
 2009年度にGDPの2%の財政支出を拡大した場合の効果を織り込んでみよう。乗数を1.5と考えて,初年度に1,次年度に0.5の効果が現れると仮定してみると,2009年度にGDPの水準を2%引き上げ,2010年度に1%引き上げる効果になる。対策は2009年度の成長率は引き上げるが,2010年度は水準引き上げ効果が前年より弱まるから,成長率を引き「下げる」ことになる。これを,ESPフォーキャスト調査に当てはめると,2009年度は-2%程度,2010年度はゼロ成長に近くなる。専門家は引き上げ効果(対策がある場合とない場合の差)で議論するが,対策がない状態はそもそも実現されないので,そのような状態を仮想的に考える作業は誰もがすぐできることではない。国民の多くは,実現された状態だけで政策を評価することになる。2010年度には景気は回復するものとして,国民がプラス2%成長ぐらいを期待していると,今回の対策は効果がなかったという烙印を押されかねない。
 一時的な財政支出拡大の効果は一時的な所得拡大であり,景気の落ち込みを部分的に相殺することが目的だ。喩えるならば,痛み止めである。景気の回復は民間の自律的な成長によってもたらされる。ところが,財政出動に積極的な政治家は,財政出動で成長率が回復すると信じているようである。今回の対策でも成長戦略が大きな比重を占めた。しかし,一時的な支出で経済成長(つまりは恒久的な所得増)が実現するような事業があるならば,何も景気が悪いときだけ補正予算で実行することはない。どんなときでも当初予算で実行すべきものだが,そういう事業は希少である。補正予算編成の際に急いでかき集めるときだけ,すばらしいアイデアがぽんぽんと湧いてくるわけではない。
 結局,景気対策で経済成長率が高まるという期待がそもそも経済学的におかしいのであり,期待は裏切られるだろう。痛み止めで,前より健康にはなれない。

 財政出動は経済学の合理性だけで決まるものでなく,政治過程の産物である。景気が悪くなり,失業者が増えているときに,政府が何もしないのは政治的に困難である。しかしながら,事業を精査して有益なものだけにしぼるべきだ。規模が小さくなっても,無益な事業をすることは国民のためにならない,と政府が説明して理解を求める方が得策であろう。

(注)
 今回の対策が「成功」の評価を得るとすれば,政策以外の要因で景気がよくなることで,景気対策の効果が出たと皆が錯覚する事態が起こったときであろう。悩ましいのは,経済学的にそれに反論するのが難しいことである。なぜなら,同時に生じるさまざまな要因が経済に影響するのであり,政策の効果だけをそこから抽出することが難しいからである。

(参考)
ESPフォーキャスト調査
http://www.epa.or.jp/esp/fcst/fcst.html
「3月調査結果概要」
http://www.epa.or.jp/esp/fcst/fcst0903s.pdf

OECD, Interim Economic Outlook, March 2009
http://www.oecd.org/document/59/0,3343,en_2649_34109_42234619_1_1_1_37443,00.html

(関係する過去記事)
追加経済対策は公共事業か,社会保障か
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/25217820.html

現場から見た補正予算
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/26628561.html


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