岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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 昨日の記事「『生産性の低下』と『生産性成長率の低下』」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33657643.html )に,himaginaryさんからトラックバックを頂いた(「生産性と自然利子率」,http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20100725/productivity_and_natural_rate_of_interest )。頂いたご意見に即して,先の記事の補足説明をしたい。

1.
 私が生産性成長率と生産性の違いを強調したことに対して,以下のようなご意見を頂いた。

「岩本氏が生産性成長率と生産性の違いにこだわる点には少し違和感を抱いた。普通に考えれば、低い生産性成長率が続けば水準としての生産性も低くなり、高い生産性成長率が続けば水準としての生産性も高くなるので、両者を同義に使ってもさほど問題は生じないように思われるからである。」(「himaginaryの日記」より引用)

 私が違いにこだわったのは,「低生産性でインフレになる」と主張される方がおられるからである。低生産性でインフレになる,の論理を簡単に言い表すと,生産性が低いと財の供給が減少して,需給が逼迫して物価が上がる,というものである。現在の中央銀行家とマクロ経済学者の念頭にあるニュー・ケインジアン・モデルは動学的設定になっており,こうした簡単な議論はそのままでは成立しない。
 「低生産性でインフレになる」という議論と「生産性成長率が低いとデフレになる」(正確にはかならずデフレになるではなく,デフレになる危険が高まる,だが)という議論がならんでいるときに,どう考えるか。両者の顔を立てるとすれば,標準的なニュー・ケインジアン・モデルの考え方に沿って,前者は一時的な生産性の低下を考えていると解釈すればいいのではないか,というのが私の提案である(注)。

 また,私が一時的な生産性の低下を議論したことに対して,以下のようなご意見を頂いた。

「注意すべきは、岩本氏がここで暗に生産性についてトレンド定常性を仮定している点である。しかし、かつてクルーグマンとマンキューが激しくやり合ったように、この仮定を置くのには相当の慎重さを要する。例えば現在の日本の生産性の低さが将来の生産性成長率の高さを約束している、と信じるのは相当の楽観論者に限られるのではないだろうか。」(「himaginaryの日記」より引用)

 私は,デフレ懸念の論理的な可能性を検討しているので,経験的事実は別の話である。
 しかし,himaginaryさんが指摘したような経験的事実を根拠に,「低生産性」が恒久的な生産性成長率の低さを含意するという合意ができて,「低生産性はデフレ圧力」なり「低生産性で流動性の罠に陥って,デフレになる危険が高まる」という言い方が定着するならば,私はそれでも構わない。それまでは,意味を取り違えないように注意を払うのが大事,というのが私の趣旨である。

2.
 私が,「生産性成長率が高まると,自然利子率が高まり,政策金利(ゼロ金利)との差が縮小して,デフレが弱まるか,デフレから脱却できる」と書いたことに対して,以下のようなご意見を頂いた。

「生産性成長率が低いために自然利子率が低くなってデフレに陥りやすくなるのだとしても、生産性を上げればデフレからそれほど簡単に脱却できるのだろうか? 単純に考えれば、仮に生産性上昇によって自然利子率が上昇したとしても、潜在成長率も上がっているわけだから、需給ギャップへの影響は一意ではない。もしその場合に需給ギャップが縮小するのであれば、需要の成長率が、一時的にせよ、潜在成長率の上昇以上に上昇する必要がある。つまり、供給力の上昇によって需要が需要を呼ぶような展開がもたらされることが必須となるわけだ。いわば、経済のこの段階においてセーの法則(ないしはそれ以上の供給から需要への効果)が働くことが求められるわけである。」(「himaginaryの日記」より引用)

 端的にいうと,ニュー・ケインジアン・モデルでは,セー法則が働く。実物的景気循環モデルに物価の硬直性を導入したのがニュー・ケインジアン・モデルなので,技術的ショックの影響は実物的景気循環モデルでの含意を引き継いでいる。技術的ショックによって潜在GDPが増えたとき,政策金利と自然利子率が一致している限り,それに応じた現実GDPの増加が生じて,GDPギャップは変化しない。したがって,GDPギャップの動きを見るには,政策金利と自然利子率の差に注目していればいいことになる。
 ニュー・ケインジアン・モデル自体が正しいかという議論は別にあり得るだろうし,その議論も興味深い。しかし,先の記事での私の説明は,コンセンサスのある議論として,標準的なニュー・ケインジアン・モデルにしたがったものである。

(注)
 Benigno (2009)は,ニュー・ケインジアン・モデルをできる限り総需要・総供給分析に近づけて説明しているが,その6節「Productivity shocks」は,
6.1 A temporary productivity shock
6.2 A permanent productivity shock
6.3 Optimism or pessimism on future productivity
で構成されている。この節の末尾には,
「Regardless of the properties of the shock -temporary, permanent or expected- monetary policy can always move interest rates to stabilize prices and the output gap simultaneously. But the direction of the movement depends on the nature of the shock. When shocks are transitory, monetary policy should be expansionary; when permanent, it should be neutral; and with merely expected productivity shocks, it should be restrictive.」
と書かれている。なお,これは正の金利の場合である。
 ここに書かれていることをまとめ直すと,以下のようになる。生産性ショックの性格によって,物価の安定を図る金融政策のスタンスが違う。金融政策で相殺しなければ,そちらに物価が動いてしまうという意味で「圧力」という言葉を使うと,一時的な生産性上昇はデフレ圧力,恒久的な生産性の上昇(つまり成長率に変化なし)は中立的,将来の生産性の上昇期待(生産性成長率の上昇)はインフレ圧力になる。負の方向のショックに言い換えると,一時的な生産性低下はインフレ圧力,将来の生産性低下の懸念(成長率の低下)はデフレ圧力になる。

(参考文献)
Pierpaolo Benigno (2009), “New-Keynesian Economics: An AS-AD View,” NBER Working Paper No. 14824.

(参考)
「生産性と自然利子率」(himaginaryの日記)
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20100725/productivity_and_natural_rate_of_interest

(関係する過去記事)
「生産性の低下」と「生産性成長率の低下」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33657643.html

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