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東日本大震災対策4兆円を盛り込んだ2011年度第1次補正予算は22日に閣議決定され,28日に国会に提出される。対策の内容は,がれき処理をはじめとした当面に必要な経費であり,本格的な復旧・復興の経費は今後に回される。
今回の補正予算には,既存経費の削減による財源確保が不十分,基礎年金国庫負担の停止は適切ではない,という2つの重大な問題がある。
復興対策の財源としては,まずは既存経費の削減で確保を図るべきであるが,今回の補正予算はその努力が不十分である。例えば公共事業費は,事業計画を後ろ倒ししていけば,当面の復興経費を捻出できる。いま執行するべき緊急性が被災地のがれきを処理することよりも高い事業はそうはないだろう。ここへの踏み込みは進められていない。
公共事業費は近年大幅に削減されており,すでに地方への打撃がないとはいえない現状ではぎりぎりの判断だ。しかし,政治家が「がれきを撤去するために,皆さんの周辺の公共事業を少しだけ待ってください」と言って,国民に理解を求める余地はまだあるだろう。東北地方太平洋沖地震が発生したのが個所づけ(総額が決まった予算を事業ごとに割り振っていく作業)の最中であったので,いったん個所づけを止めなければいけない。役所の手続きから見れば荒業が必要だが,政治主導ができる政権ならできたはずである。
国会公務員人件費の削減も取り沙汰されていたが,盛り込まれなかった。もともと民主党のマニフェストは,国家公務員人件費の2割削減をうたっていたのだが。
予備費8100億円を使用する他は既存経費を削減して国債を発行しないこととしているが,これはまやかしである。経費削減の大部分を占めるのは,基礎年金国庫負担のための年金特別会計への繰入の2.5兆円減額である。年金特別会計の方では,国庫負担が入らないことになり,その分,積立金が減少する。
そこから生じる重大な問題は2つ。
第1は,国債が発行されなくても,公的年金積立金が減るため政府全体では資産が減少している。つまり,純債務が増加しており,財政赤字が発生している。国債を発行しないことを強調することでこの事実が隠されてしまう。
第2は,復興経費を公的年金で負担することになるが,このままでは将来の世代がどこかの時点でそのつけを払わされることになるだろう。復興財源を誰が負担するのか,を議論することなく,国債を発行しないという名目だけで将来の世代が負担することを決めてしまうのは正当な政策決定だろうか。
日本学術会議経済学委員会が4月5日にまとめた「東日本大震災に対応する第三次緊急提言のための審議資料」では,経済政策立案のための5つの軸のひとつに「誰が負担するのか」をあげている。そして,復興財源について,
「世代間の公平性を確保しなければならないが、先述した若い世代のボランティア活動に対する返礼、さらに若い世代が災害後の日本経済・日本社会の復興の主体となるはずであることから、高齢世代が若年世代の活動を少しでも支援する方向性をもった貢献方法に重きを置くべきであろう。」
とのべている。
年金特別会計への繰入減額については,もっと良い対応が2つ考えられる。
第1は,デフレ下で先延ばしされているマクロ経済スライドを実施して,制度本来の水準以上にある年金給付を抑制することで財源を確保することである。現在の受給者の年金の多くが若い世代からの所得移転で支えられている現状を鑑みると,誰が負担するのかの視点では,少なくとも補正予算よりは合理性をもつ。
このような改革がすぐにまとまらない場合には,第2の策として,国庫負担は当初予算通りにして補正予算では国債を発行する方がよい。そのことによって2.5兆円の国債が追加で発行されても,年金積立金が2.5兆円回復するので,そこで国債を保有すれば,政府以外の国債消化には変化はない。今回の補正予算が国債の消化に影響を与えなければ,基礎年金国庫負担を当初予算通りにする方法も,同じように国債の消化に影響を与えないはずだ。
震災復興の全体では国債を発行することは確実で,第1弾の今回の補正予算で国債を発行しないことに強くこだわる必要はなく,逆にそのことで政策を歪めることの方が問題だ。
(参考)
「平成23年度補正予算」(財務省,2011年4月22日)
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/hosei230422.htm
「東日本大震災に対応する第三次緊急提言のための審議資料」(日本学術会議経済学委員会,2011年4月5日)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/1bu/pdf/09economics.pdf
「『マクロ経済スライド』発動の遅れ」(ニッセイ基礎研究所)
http://www.nli-research.co.jp/report/pension_strategy/2010/Vol166/str1004b.pdf
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