岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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 揮発油税の暫定税率の復活をもっと遅らせることができたのに,民主党は3月にその機会を見送った。この事実を踏まえると,4月30日の衆議院再可決を妨害しようとした騒動も茶番に見える。以下は,その説明。

 歳入関連法案は,憲法第59条第4項「参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」という,いわゆる「60日ルール」に基づいて,衆議院で再可決され,成立した。当日の衆議院本会議では,まずこれらの法案を参議院が否決したとみなす動議が提出され,可決された後,休憩に入った。動議の可決で疲れたからでなく,国会法の規定にもとづき,法案が衆議院に戻ってくるのを待っていたのである。
 衆議院で否決された法案はそれで命運が尽きるので,国会法の規定では,衆議院は参議院にその旨,通知するだけでよい。一方,国会法第83条の2第1項は「参議院は、法律案について、衆議院の送付案を否決したときは、その議案を衆議院に返付する」と規定する。憲法第59条第2項「衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる」の規定で再可決されたテロ特措法の場合は,この条文に基づいて衆議院に戻ってきた法案を再可決した。
 歳入関連法案のように,みなし否決を適用する場合は,法案は参議院にあるので,衆議院に戻してもらわないといけない。一方で,参議院は法案を戻したくないだろう。そこで,国会法第83条の3は以下のように規定して,法案が衆議院に戻るようにしている。

「1 衆議院は、日本国憲法第59条第4項の規定により、参議院が法律案を否決したものとみなしたときは、その旨を参議院に通知する。
2 衆議院は、予算及び条約について、日本国憲法第60条第2項又は第61条の規定により衆議院の議決が国会の議決となつたときは、その旨を参議院に通知する。
3 前2項の通知があつたときは、参議院は、直ちに衆議院の送付案又は回付案を衆議院に返付する。」

 休憩時間は,この手続きに沿って,法案が衆議院に戻ってくるのを待っていたのである。議事経過によれば,再開後に,「議長は、先ほど参議院から国会法第83条の3第3項により本院送付の地方税法等の一部を改正する法律案、地方法人特別税等に関する暫定措置法案、地方交付税法等の一部を改正する法律案、平成二十年度における公債の発行の特例に関する法律案及び所得税法等の一部を改正する法律案の返付を受けた旨を報告した」となっている。

 以上,休憩時間にこだわったのは,税制改正法案をめぐる攻防がもっとも緊迫した3月の状況をこれから議論したいからである。
 当時を振り返ると,与党としては,年度内に参議院で政府案を否決してもらえば,衆議院で再可決することができるので,1月の議長斡旋(3月までに一定の結論を得る)でこのことを担保したつもりであった。民主党が対案を出したねらいは以下の通り。道路財源の暫定税率以外は政府案の通りである対案を参議院で可決して,衆議院に送る。これで議長斡旋の要件を満たす。数々の租税特別措置の失効による混乱を避けるには,与党は対案を衆議院で可決せざるを得ず,結果として暫定税率は失効する。政府案は参議院で引き続き審議となるが,対案が成立すると大半が意味をなさず,暫定税率を維持する改正個所は遡及適用となる条文を修正する手立てがなければ,施行に支障が生じる。結局,政府案の命運は尽きて,暫定税率を復活する法案を再提出せざるを得ず,暫定税率が復活する時期は6月以降にずれこむ。
 与党は,新たな憲法解釈を持ち出すことで,民主党の戦術を牽制した。憲法第59条第2項のなかの「これと異なった議決」は,修正ないし否決であるとこれまで解釈されていたが,対案の可決を「これと異なった議決」であると考えようというのである。国会の法制局も明確な見解を出さず,対案は参議院で可決されなかったので,果たして与党の解釈が可能かどうかは曖昧なままである。
 与党の構えは「奇策」と報じられたが,国会法の手続き上,これは無理筋。実際には起こらなかったが,かりに対案が参議院で可決され,与党が奇策を実行する状況をシミュレーションしてみよう。
 参議院は対案を可決すると,これを衆議院に送付する。政府案が実際に否決されれば衆議院に返付されるが,引き続き審議の場合は参議院に残ったままである。ここで,衆議院で対案可決を政府案の否決とみなす動議が提出・可決されたとしよう。そこで休憩に入って,政府案が衆議院に戻ってくるのを待っていても,法案は戻ってこない。そのような手続きが国会法に規定されていないからである。ここが4月30日と決定的に違う状況である。国会法の規定によらずに衆議院が法案の返付を求めても,参議院がそれにしたがうべき規定はないので,参議院は拒否できるし,当然に拒否するだろう。あくまで衆議院が再可決するならば,法案が参議院にあったままで議決するという,強引なことにならざるを得ない(盗み出す,奪い取るといった手段はないものと考える)。参議院はこれを認めず,政府案は審議中であると主張するだろうから,法案の成立について両院の意見が食い違うという異常事態が到来する。この場合,国会法の手続きにしたがっている参議院が圧倒的に有利である。政府はどちらの意見にしたがうかの選択を迫られるが,かりに衆議院の意見にしたがったとすると,参議院の審議は目茶目茶になる。政府案が続けて審議されると,「この法律はもう成立しているんですよ。フフン」と政府が答弁することになる。これだけの大混乱の責任は与党が負わされるだろう。
 長年の国会経験のある与党執行部なら,この程度のシミュレーションをして,奇策に分がないことを悟るのは容易であろう。その結果,実際に対案可決=政府案否決の論理で動くことは考えられない。与党の構えは対案可決の牽制になっていないのである。
 では,対案を可決する障害はなさそうなのに,なぜ民主党はそれをしなかったのか,という疑問が生じる。これが歳入関連法案をめぐる一連の攻防での最大の疑問である。理由はいろいろ考えられる。実際には牽制になっていない与党の牽制を真に受けたのか,国会を空前の混乱に陥れることも辞さない狂気を与党から感じたのか,自らが国会の意思決定に関与することを避けたのか。
 与野党の行動原理が理解できていなければ,ねじれ国会での意思決定も占えない。とくに,自党の提出した法案が成立することを望まないという行動原理ならば,かなり特別な分析が必要になる。この点について,メディアや政治学者によって,しっかりした検証がおこなわれることが望まれる。

(参考)
4月30日に再議決された歳入関連法案は,以下の5法案。税制改正法案は2番目の法案。
「平成二十年度における公債の発行の特例に関する法律案」
「所得税法等の一部を改正する法律案」
「地方税法等の一部を改正する法律案」
「地方法人特別税等に関する暫定措置法案」
「地方交付税法等の一部を改正する法律案」

両院議長あっせん(2008年1月30日)
「一、総予算および歳入法案の審査に当たっては、公聴会や参考人質疑を含む徹底した審議を行った上で、年度内に一定の結論を得るものとする。
二、国会審議を通し、税法について各党間で合意が得られたものについては、立法府において修正する。
三、一、二について、両院議長の下で与野党間で明確な同意が得られた場合は、いわゆるセーフティーネット(つなぎ)法案は取り下げる。」

(関係する過去記事)
「ねじれ国会の攻防戦」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/7769509.html


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