岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

 10月30日の日本銀行政策決定会合の議事要旨が公表され,時間軸政策について興味深いやりとりがあることがわかった。
 現在の時間軸政策は,「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで」実質的なゼロ金利政策を続けていくとしている。同日に公表された「経済・物価の展望(展望レポート)」での政策委員見通しの中央値は,最終年度の2014年度でも0.8%であり,1%に達しない。したがって,いまゼロ金利が解除されることはない。しかし,この見通しの最終年度が1%に到達したら,たとえ足元のCPI上昇率が1%に達していなくても(極端な場合,デフレであっても),さっさとゼロ金利政策を解除したとしても,「CPI成長率1%が見通せるようになるまでゼロ金利を続ける」という現在の言明に矛盾はしていない。この物価見通しは3か月ごとに更新されているが,経済の状況次第では,早い時期に(極端な話,つぎの更新時にも)見通しが1%に到達する事態が到来するかもしれない。
 10月30日の会合で,佐藤健裕委員は,1%を「見通せるようになるまで」から「安定的に達成するまで」に変更することを提案した。この変更がおこなわれれば,少なくとも足元のCPI上昇率が1%になるまでは,ゼロ金利政策の解除はない。つまり,市場が3か月後まではゼロ金利が継続する見通しをもつか,3年間はゼロ金利が継続する見通しをもつかの違いが,現状と提案の間にある。
 ただし,見通しの最終年度のCPI成長率が1%に達したらただちにゼロ金利を解除するのは極端な判断であり,まともな中央銀行家なら,もう少し動向を見てからゼロ金利を解除するだろうと市場は予測するだろう。このように現在明示的に示されていない行動を予測させることで効果を出している点で,現状の時間軸政策は不明確さを含んでいる。
 私は,時間軸政策の条件設定は,足元のCPI成長率が1%に達するまで,と明確な形に示した方が良いと考えており,2010年3月のブログ記事「飯田泰之氏の『リフレ政策』について(あるいは感想への感想への感想)」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32411110.html )でのゼロ金利政策を続ける時間軸政策の強化の提案をしたときも「インフレ率が1%なり2%に達するまで」としている。2010年10月に包括緩和政策が導入された際のブログ記事「『包括的な金融緩和政策』について」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/34208019.html )では,できるだけ私の提案に近づける形で解釈を与えたが,実際のところは上述の曖昧さが含まれている。

 佐藤委員の提案は木内登英委員の賛成を得たのみで,賛成2,反対7で否決された。提案に否定的な委員の意見が議事要旨に記載されている。
「大方の委員は、現時点でコミットメントの文言を修正することには慎重な見解を表明した。これらの委員は、市場金利をみると、イールドカーブの中期ゾーンまできわめて低位で、日本銀行が金融緩和を継続していくことに対して市場で疑念が生じているとは考えられず、コミットメントの文言の変更が必要な状況にはないと指摘した。複数の委員は、将来的に文言の修正が効果をもつ局面になることも考えられるが、現時点ではないと述べた。」
 この発言からは,時間軸政策の強化を将来の金融緩和のカードとして位置づけているように感じられる。しかし,いまカードを切らないことの弊害(切ることの利点)もある。
 第1に,過去2回のゼロ金利解除時よりも解除のハードルを上げることで,その後にデフレに戻らないようにする姿勢をとることが望ましい。第2に,解除条件が明確でないことで日銀に裁量の余地が生じているが,これは不必要であり,より透明性を高めることが望ましい。第3に,もし日銀への圧力が高まったときの金融緩和のカードとして使おうとしているのなら,それは政治圧力に応対することで金融政策の判断の独立性を損なう危険がある。

 佐藤提案は2010年3月の私のブログ記事の趣旨に沿ったのものであり,10月に日銀がこの提案を採用しなかったことは残念である。

(参考)
「政策委員会金融政策決定会合議事要旨(2012年10月30日開催分)」(日本銀行,2012年11月26日)
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2012/g121030.pdf

「経済・物価情勢の展望(2012年10月)」(日本銀行,2012年10月31日)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1210b.pdf

(関係する過去記事)
「飯田泰之氏の『リフレ政策』について(あるいは感想への感想への感想)」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32411110.html

「『包括的な金融緩和政策』について」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/34208019.html

 1994年に衆議院に小選挙区制を導入した政治改革の目的は,政権交代可能な二大政党制を作ることにあった。国民が選挙で政権・首相・政策を選択できる姿が目指され,実際に2009年の衆院選で政権交代が実現した。
 しかし,単に政権交代可能なだけではなく,政権担当能力のある二大政党が必要であった。誤算は民主党に政権担当能力がなかったことである。民主党は前回総選挙で詳細なマニフェストを提示することで政策選択選挙の実現に大いに貢献したが,そのなかの重要政策が軒並み実現できずにマニフェストは崩壊してしまった。組織の意思決定も満足にできない「決められない政治」からの修正の道筋も見えてこない。
 結果として政権担当能力では自民党が優れていたことが判明したとはいえ,2009年に下野したのは自民党の能力にも問題があったからだ。したがって,どこを改善してきたかが今回の総選挙では問われるのだが,それはできているだろうか。
 政権担当能力を判断する最初の材料は,マニフェストである。実現の道筋が見えないお題目ではなく,細部まで考えた実現性の高い提案を詰めたマニフェストを用意することが出発点である。今回,民主党と自民党が発表した公約は,とてもマニフェスト選挙の水準には達していない。
 政党が政権担当能力を高めること。これが現在で最も重要な課題であるが,そこに焦点が当たっていないことが大問題である。今回の総選挙は残念なことに,政治改革が目指す姿から見れば「1回休み」の状態となった。

(関係する過去記事)
「【政権選択選挙】ブログの方針」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/29921506.html

「マニフェスト選挙」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30957663.html

「日銀の国債引き受け禁止は財政規律である」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/37688153.html )で紹介した安倍総裁の発言は,建設国債の日銀引き受けではなく,買いオペを意味することだという説明があったので,日銀引き受けの騒動はひとまず収拾したようだ。
 騒動の背景を理解するために,なぜ,財政法第5条の運用で借換債の日銀引き受けが許容されて,建設国債の日銀引き受けが許容されないのか,を見ておこう。

 まず,借換債についての基本的な事項から。
 新規に発行される国債は,新規財源債(建設国債,赤字国債),復興債,財投債,借換債に分かれる。新規財源債の分が,一般会計の国債発行額(公債金収入)に当たる。
 2012年度には総額174兆円の国債が発行されるが,「国債発行計画」によると,その区分は,
  建設国債  6兆円
  赤字国債 38兆円
  復興債   3兆円
  財投債  15兆円
  借換債 112兆円
となる。これの消化方式が
  市中発行分 155兆円
  個人向け販売分 3兆円
  日銀乗換   17兆円
に分かれる(四捨五入のため,内訳の合計は総額と一致しない)。最後の「日銀乗換」が日銀による借換債の引き受けに当たる。
 日本では国債は60年で償還するルールとなっているが,実際に発行される国債の満期はそれよりも短い。そこで,例えば10年国債を600億円発行したとすると,10年後には100億円残高が減るようにして,500億円は新しく発行される10年国債で借り換える(「借換債による公債償還の仕組み」http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/hakou12.pdf を参照)。後者に相当する金額が借換債の発行という扱いになる。
 建設国債や借換債の区別は国の会計上に存在するだけの概念であって,市場ではそうした区別のない「国債」が売られているだけである。このため,建設国債だけを選んで市場で買うことはできない。国債市場の知識のある記者が,安倍総裁の当初の発言「建設国債を買ってもらう」を聞いて,買いオペでなく,引き受けと解釈するのは無理からぬことである。

 さて,財政法第5条の趣旨は,政府が日銀を安易な財源調達手段として利用することを禁じることにある。そこで禁じられるのは,政府が発行する国債を日銀に強制的に保有させて,日銀のバランスシートを拡大したままにしてしまう姿である(注)。
 借換債を国債引き受けすることが例外として許容されているのは,この禁じたい姿に当たらないと解釈されているからである。つまり,日銀の保有する国債が満期で償還されると,日銀の保有する国債は減ってしまう。その部分を国債引き受けで増やしても,日銀の保有する国債が増額するわけではない,という理屈である。
 しかし,引き受ける国債が建設国債であると,そうはならない。公共事業の財源として新規に発行される国債だから,これを引き受けることで日銀の保有する国債が増加することになる。
 建設国債を全部引き受けても6兆円(2012年度の発行額)でしかない,というのは建設国債の引き受けを正当化する理由にはならない。どういう姿をしているかの問題であり,規模の問題ではない。安易な財源調達に頼ると,放漫財政に歯止めがかからなくなることが,多くの国の失敗から学んだ教訓である。それゆえに,「国債で財源調達するなら市場の信認を得るべし」という財政規律として,最初から禁止をするのである。

(注)
 国債の信認が失われても,政府が国債発行で支出をまかなおうとすると,日銀引き受けがおこなわれ,日銀も国債を保有し続けざるを得なくなる。「ハイパーインフレーションの理論」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32519668.html )では,「財政赤字がなおも続くと」ハイパーインフレーションが起こることを示している。

(練習問題)
 市場で国債が消化されなくなり,国債の消化先が日銀引き受けしかなくなったときに,借換債の日銀引き受けは許容する現行ルールが維持されると,財政はどのような帰結になるのだろうか。
(これでハイパーインフレーションの事態になれば,財政規律に大穴が空いていることになる。60年償還ルールによる元本償還が歳出に含まれることを踏まえて考えてみると,財政法第5条の運用に関する理解が深まるだろう。)

(参考)
「平成24年度国債発行予定額」(財務省,2011年12月24日)
http://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/yoteigaku24.pdf

「借換債による公債償還の仕組み」
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/hakou12.pdf

(関係する過去記事)
「ハイパーインフレーションの理論」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32519668.html

「財政法第5条(日銀の国債引き受け)について」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33213494.html

「日銀の国債引き受け禁止は財政規律である」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/37688153.html

 自民党の安倍晋三総裁は17日,公共事業の財源をまかなうために「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていく」と発言したと報道されている。報道では,これを日銀による国債の引き受けとしている。「買う」と「引き受ける」にはだいぶ差があるが,財源をまかなうために政府が強制するとなれば,買うにせよ引き受けるにせよ,財政規律の崩壊につながる危険な行為である。
 日銀の国債引き受けについては,いくつかのブログ記事に書いてきたが,そもそも押さえておくべきは,以下のことである。

 日銀が国債を直接引き受けることを禁止しているのは財政規律である。財政出動も金融緩和も,財政規律を守ることを前提とした安定化政策である。日銀の国債引き受けを金融緩和の文脈で語ることは,経済政策を根本的に理解していない。

(参考)
「国債の日銀引き受けについて」(岩本康志)
(経済社会構造に関する有識者会議 財政・社会保障の持続可能性に関する「経済分析ワーキング・グループ」提出資料,2011年10月12日)
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/wg1-1kai/pdf/4.pdf

(関係する過去記事)
「財政法第5条(日銀の国債引き受け)について」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33213494.html

「ハイパーインフレーションの理論」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32519668.html

「復興国債の日銀引き受けはそもそも財源か?」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35427897.html

「国債引き受けと国債買いオペの比較」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35750044.html

開く トラックバック(2)

 玄田有史・東京大学教授による日本経済学会・石川賞講演が10月8日の秋季大会(九州産業大学)で開催されました。今年度の同賞選考委員長であった私が司会を務めました。司会挨拶の準備原稿を以下に掲載します(本番では少し修正しましたが)。


 日本経済学会・石川賞は,実証面や政策面を中心に,特に日本の経済・社会問題の解決に貢献する優れた経済学研究を行った日本経済学会会員で,その前年に50歳未満である者に授与されます。
 この賞は,惜しくも51歳の若さで1998年6月に逝去されました故石川経夫東京大学経済学部教授の名前を戴いています。石川先生がお亡くなりになった際に故人の業績を経済学界に生かす事業を進めるため、故人の関係者や教え子を中心に基金を募り、「石川経夫基金」が設けられました。そして,故石川先生が長年にわたってその発展に努力した日本経済学会は,この基金からの寄付を受け,故人と関係の深い分野での経済学研究上の貢献に対して賞を与えることとし,石川賞が創設されました。

 2012年度の「日本経済学会・石川賞」は、『仕事のなかの曖昧な不安』、『ジョブ・クリエイション』等の著書と論文に結実した労働経済の実証研究を評価して,東京大学の玄田有史先生に授与することが決定されました。
 玄田先生は、若年労働者の非正規就業や失業問題の研究と雇用の創出・喪失の研究の分野を中心として、現代の労働市場の構造問題を明らかにすることに顕著な業績をあげられました。なかでも、1990年代後半にわが国に生じた失業率の上昇によって若年労働者の就業機会が損なわれてきたことを明らかにした研究は、学界のみならず社会と政策現場にも多大な影響を与えたということができます。失業率が上昇した当時の通念では中高年者の失業問題が重視され、若年者の失業は若者の能力や意欲の問題と見なされていましたが、玄田先生は緻密な実証分析を積み重ねることでこの通念を覆して、中高年の雇用維持の代償として若年採用が抑制される「置換効果」や、不況期に卒業した世代の雇用や賃金が持続的に悪化する「世代効果」を通して、わが国の雇用システムが若年労働者の就業機会を奪ってきたことを明らかにしました。
 この若年労働市場の分析の研究が結実した著書『仕事のなかの曖昧な不安』は、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞を受賞しています。また,雇用の創出・喪失を分析した研究では、玄田先生は,1998年にJournal of the Japanese and International Economies誌に掲載された論文を始め、多数の論文を発表しておられます。これらの成果が結実した著書『ジョブ・クリエイション』はエコノミスト賞、労働関係図書優秀賞を受賞しています。

 ご存知の方も多いかと思いますが,玄田先生は石川経夫先生に学部・大学院と指導を受けた愛弟子であります。玄田先生が石川先生から強く影響を受けておられることは,例えば最近刊行された玄田先生の論文集『人間に格はない』から読み取ることができます。この本は,副題が「石川経夫と2000年代の労働市場」と題され,また「人間に格はない」という,経済学の論文集としてはやや異質な書名は,石川先生の言葉でもあります。石川先生が目指された、緻密な理論的背景と実証分析によって日本の経済・社会の問題を解明し,解決を探求する姿勢は、玄田先生の研究のなかに受け継がれているように見えます。今回,奇しくも玄田先生が恩師の名を冠した賞を受賞する場面に選考委員長として私が居合わすことができ,大変にうれしく思います。
 会場の参加者を代表しまして,玄田先生と石川先生のご家族の皆様にお祝いの言葉を申し上げたいと思います。
 おめでとうございます。

開く トラックバック(1)


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事