岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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(自由民主党の「円高と産業空洞化に対処するためのPT」からアンケートを求められて回答したので,ブログにも回答を掲載しておきます。為替レートについてはすでに多数の専門家があちこちで発言していますので,私の回答はあっさりと,ごく常識的なことをまとめたものです。)

1.現状認識
 名目為替レートで見て戦後最高値の円高となった最大の理由は,日本でデフレが定着して,諸外国にくらべて物価上昇率が低かったからである。しかし,実体経済に影響をもつ実質実効為替レートは,リーマン・ショック以降円高に動いたが,1995年水準に比較するとかなりの円安であり,円高とは言えない。
 円高からメリットを受けるかデメリットを被るかは産業・個人によって異なる。しかし,国内生産物を高く売れ,外国の生産物を安く買えるから,総計では円高はメリットをもたらすと考えられる。
 直近の円高は,欧米の経済の先行き不安によって,日本が相対比較で健全とみなされているからだと考えられる。相対的に健全であるから円高になるという因果関係なので,たとえ急速な円高が短期的に下振れ要因であったとしても,円高によって日本経済が欧米経済よりも相対的に悪くなるわけではない。ただしゼロ金利政策の継続を含む適切な安定化政策がなされることが前提であり,相対的に健全であっても,日本経済には震災の影響,潜在成長率の低下,政府の累積債務等,種々の深刻な課題が山積していることを忘れてはならない。

2.有効な対応策
 決して円高ではない実質実効為替レートのもとで日本の輸出産業が外国市場で競争できないとすれば,問題は為替レートではなく,わが国の産業の競争力が低下していることにある。それに対する適切な処方箋は成長戦略である。以下のような施策に取り組むべきである。
 国内での企業活動の活力を引き出すために,自由な競争市場の育成につとめる。
 上と同じ目的のために,法人税の減税をおこなう。
 FTA交渉を進め,輸出相手国の関税を引き下げるよう努力する。同時に輸入関税の引き下げにより,わが国の消費者の実質購買力を高める。

3.無効な対応策
 単に日本の物価が上がるだけでは,実質実効為替レートに変化がなく名目為替レートが円安になるだけなので,輸出産業の競争環境の改善にはつながらない。かりに円安で100円のものがドル建てで1割安くなっても,国内物価が1割上がって110円になってしまえば,結局ドル建ての価格は安くならないからである。
 為替介入で水準の大幅な調整は無理である。実質実効為替レートで大きく円高ではない現行の水準を過度の円高とは市場は見てくれず,介入が市場の予想に影響を与える余地はほぼ無い。

 14日(水)は,厚生労働省の「社会保障給付費の整理に関する検討会」の第1回会合に出席しました。委員の互選により,座長を務めることになりました。
 6月にまとまった「社会保障・税一体改革成案」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/pdf/230630kettei.pdf )には「社会保障給付に要する公費負担の費用は、消費税収(国・地方)を主要な財源として確保する」と書かれていますが,この社会保障給付の範囲はどこまでなのか,という(そもそも最初に確認しておくべきような)議論が成案をまとめる過程でありました。従来から,国立社会保障・人口問題研究所が国際労働機関(ILO)の基準に基づき作成している「社会保障給付費」の概念に基づき将来の費用が推計されてきたのですが,総務省は
「国の事業及び国庫補助負担事業を中心とした『社会保障給付費』という狭い概念で議論するのではなく、『地方単独事業』を含めた社会保障サービスの全体像を国民に提示して、その財源問題を議論すべきである」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/kettei2/siryou2.pdf
と主張しました。その結果,成案では,
「社会保障給付にかかる現行の費用推計については、そのベースとなる統計が基本的に地方単独事業を含んでおらず、今後、その全体状況の把握を進め、地方単独事業を含めた社会保障給付の全体像及び費用推計を総合的に整理する」
ことが宿題になりました。この宿題をこなすのが「社会保障給付費の整理に関する検討会」の使命です。

 社会保障給付費の範囲には地方単独事業や地方の一般財源による事業を含めないと規定されているわけではなく,データがとれないために範囲内と考えられるものも含まれていない,というのが現状の姿です。統計作成の観点からは,データが把握できる体制が整えばこうしたものは会保障給付費に計上されるべきです。同時に,これまで社会保障給付費の範囲であるか否かが検討されていなかった地方の事業については,その判断をする作業が必要となるでしょう。
 検討会は「社会保障給付費の集計範囲等について,学術的・統計実務的な観点から検討を行う」こととされています。消費税の国と地方の配分につながる話ですが,国と地方の財政的利害に左右されずに検討を進めるという使命が与えられています。
 座長が検討会の議論に予断を与えるような発言はできませんので,ここでは以上の周知の事実を伝えるにとどめます。

 「『中期プログラム』の二部門アプローチ」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/20527190.html )でのべたように,政策を研究する立場での私の考えは,一体改革成案での「消費税収の社会保障財源化」には反対です。しかし,政府のなかに設けられた検討会は一体改革成案の是非をあらためて論じる場ではなく,それを土台にした議論をする場です。ここの折り合いのつけ方ですが,社会保障給付の概念整理と給付の財源とはまったく別の議論として切り分けることができ,そうすることは検討会にとっても私個人にとっても望ましいことだと考えています。

(参考)
「社会保障・税一体改革成案」(政府・与党社会保障改革検討本部決定,2011年6月30日)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/pdf/230630kettei.pdf

「社会保障に係る費用の将来推計について」(社会保障改革に関する集中検討会議,2011年6月2日)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai10/siryou1-1.pdf

「地方単独事業について」(総務大臣提出資料,成案決定会合,2011年6月13日)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/kettei2/siryou2.pdf

(関係する過去記事)
「中期プログラム」の二部門アプローチ
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/20527190.html

二部門アプローチのもう一つの部門
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/20648690.html

 ブログで紹介することを失念して時機を逸した話題になって恐縮ですが,9月2日(金)に福井県県民ホールで開催された「ジェロントロジー研究成果報告会および共同研究協定調印式」に出席しました。
 福井県と東京大学高齢社会総合研究機構とのジェロントロジー(老年学)共同研究は福井県をフィールドに健康長寿の要因を解明しようとするプロジェクトであり,2年前に2年間の協定が結ばれました。私はこのなかで,国民健康保険・介護保険のレセプトデータを用いた研究を進めています。
 今回の報告会では,「福井県民の健康度,医療・介護サービス消費の実態」と題した研究成果を鈴木亘教授(学習院大学)と共同で報告するとともに,パネル・ディスカッション「福井型の高齢者医療・介護モデルについて」にパネリストとして参加しました。
 台風が接近中だったにもかかわらず,ありがたいことに会場はほぼ満席となりました。報告会の後には,西川一誠福井県知事にご来場いただき,福井県と東大の共同研究協定を更新する調印式がおこなわれました。新しい協定によって,共同研究は2014年度末まで進められる予定です。

 このところ政治家もメディアも菅直人首相の進退に関心がいって,震災復興,来年度予算編成をはじめとする重要な政策課題が脇に追いやられている。
 菅首相の資質を問題視する論調も多かったが,菅首相が交代して,つぎは良い人が首相になるのだろうか。

 最近は「党首力」が政権政党の命運を決める状況にある。悲願の政権交代を達成した民主党がそのことを正しく認識していれば,そもそも最良の人材を党首にして,首相官邸に送り込んでいるはずである。すると,鳩山由紀夫氏,菅氏を上回る人材が民主党内に温存されているとは考えにくい。民主党内の実績で見て,代表,党幹部を務め,最近の代表選に連続出馬してきた菅氏を上回る人はいない。実は有為な人材がいながら党首に選んでないとすれば,同じような選び方をしたのでは,やはり良い人は党首に選ばれない可能性が高い。
 そう考えると,つぎの首相は,菅氏よりも劣った資質をもつか,良くても同程度の人材になるだろう。救いのない話だが,首相が頻繁に交代する状況になれば,それが自然だということになる。望ましいのは,しっかりした人を選んで長期に政権をまかせることだ。長期政権の後ならば,若い世代が育ってきたり,同世代で競い合う有為な人材が残されている可能性があるので,つぎも良い人材が得られるだろう。

 小泉首相以降の与党は,国民的人気を重視して「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」方式で党首(首相)を選んできた。しかし,政治家個人の能力は国民からは見えにくく,非常に限られた情報で形成された「国民的人気」は,首相適任者を選別するには適していない。当たったのは小泉首相だけなので,外れる確率がどれくらいかを定量的に確認するために,国民生活を犠牲にして実験を続けているのが,今の状況だろう。
 いまのやり方を変えて,首相(政権党の党首)の選び方を考え直してはどうか。
 日本では国民が直接に首相を選ぶことはできないが,前回の衆院選のように,二大政党の党首から首相を選ぶことができる。この形式が機能するには,各党がまず良い党首を選んでおかなければいけない。最近の首相短命化の体たらくに政治家自身から「首相公選制」の声が聞こえてきたりするが,首相適任者を選ぶ能力のない人のなかから首相を選べと言われても国民は困る。政党の役目は,同僚の間の評価によって,首相にふさわしい資質をもった政治家をしっかり育成して選別していき,首相選択選挙となる衆院選での選択肢として提示することである。メディアも党首候補者の過去の発言やスキャンダルの有無を厳しく検証すべきである。その過程で脱落者が出るくらいの厳しさが必要だ。首相になってからその人物の資質が問われるような事態は,チェック機能を放棄したメデイアの失態でもある。

 政党は首相にふさわしい人材を育てて党首に選び,首相選択選挙で国民に選んでもらう。政権を担おうとする政党は,この基本線がきちんと機能するように党首の育て方,選び方を再考すべきだ。

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】党首の選び方
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/27853344.html

首相選択選挙
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30753696.html

 keiseisaimin氏(Twitterアカウントkendochorai)には今後,反応しないようにします。以下,その理由を説明します。

 氏は,ブログ記事「岩本康志の憂鬱」(http://d.hatena.ne.jp/keiseisaimin/20110714/1310645367 )で,私のブログ記事「日銀の国債引き受けをめぐる詭弁」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35865744.html )を取り上げている。
 私のブログ記事は,高橋教授の日銀引き受け案によって通貨膨張になるかどうか,を主眼にしている。通貨膨張の判断について,
(A)「借換債の引き受けだけに着目する」
(B)「日銀の全体での保有額に着目する」
を対比させて,高橋教授は(A)で考えているが(B)が正しい,と私は書いた(注1)。これに対して,氏は「高橋教授は別の原稿で(B)と言っている」と言う。それなら,高橋教授が矛盾したことを言っている,と考えそうなものだが,そうは思わないらしい。
 さらにTwitterで,(A)と(B)は同じだと言う(http://twitter.com/kendochorai/status/92121657354887168 )。高橋教授案は(A)では通貨膨張に当たらず,(B)では通貨膨張になる。つまり,通貨膨張するか否か,という核心事について,通貨膨張することと通貨膨張しないことは同じだ,と氏は言っていることになる。
 まともな議論ではないので,対応のしようがない。

 氏はかねてから私の発言を曲解し,多数の誤謬を含む批判を繰り返してきた。最初は,私の意図が伝わりにくければ補足説明すべきであると考え,真偽の判断がつかない第三者に誤解が広がることも避けたいので,ある程度応対していた。
 しかし,ある時期から,氏を直接相手することは避け,第三者に向けて氏の誤りを示す方針に変えた。それは,根底には何が何でも私がおかしいと主張したい悪意があることに加え,氏の資質(文章をきちんと理解していない,論理的に思考できない,自身が矛盾することに何ら抵抗がない)を知るにいたって,氏とのやりとりは何も産まないと感じるようになったからである(注2)。

 また,氏のブログでは憲法判断について「質問したい」と来るが,その直前にはTwitterで「岩本くんが法学論争に乗り出すほうがよっぽど越権行為だと思うけどw」(http://twitter.com/kendochorai/status/91473669737553920 )と私にmentionを飛ばしている。これでは失礼だろう。やんわり諭したが,「どなたか日銀の付利は憲法違反ではないのか岩本くんに聞いていただければと思います」(http://twitter.com/kendochorai/status/91807280344997888 )で氏はすませた。
「失礼しました」ぐらい入るかと期待したが,無理だった。その後も,

「読解力がなくて逃げ回っているのは誰かなw」
http://twitter.com/kendochorai/status/92121657354887168

「自分が正しいと思っているのかもしれないけど、周回遅れの議論しているから岩本君が政治家に相手にされないだけでしょw」
http://twitter.com/kendochorai/status/92122077536063488

という不快なmentionを飛ばしてくる(この種のmentionは以前から再々来る)。その社会性のなさは心配だが,私が応対し続けることで,それで良いと助長することになるかもしれない。

 氏のファンもいるだろうから,そのうちに「岩本は都合が悪くなって逃げた」とかいう噂が出ると想像がつくが,そういう噂を耳にされた方はこの記事を読んで真偽のほどを判断していただきたい。

(注1)
以下に,私のブログ記事から抜粋して,論旨を示す。
(引用始め)
高橋教授は,以下のように説明する。

「今年度、日銀の保有国債の償還額は30兆円なので、通貨膨張させない範囲で日銀引受が可能な枠は今年度予算で30兆円になっている。ということは現時点の12兆円との差額18兆円は日銀引受が可能なのだ。」

 本当に通貨膨張は起きていないのか。日銀が保有する国債は,様々な経路で増減する。償還される国債を乗換えなくても,市場から国債を買い入れることで,保有する国債は増える。高橋教授は,保有する国債が償還されるときに借換債を引き受けないと日銀の保有する国債が減少するところだけに着目する。しかし,すべての経路を合わせて日銀の保有する国債がどう変化するのかを見ると,話は変わってくる。…
 高橋教授の見方とは違って,全体での保有額に着目するのが正しい見方である。
(引用終わり)

(注2)
 一つだけご紹介しておくと,
「事実誤認と言わずになんというんですかw RT @iwmtyss 私が言ってないことが事実でないとしたら,私が事実誤認したことになるそうです。」
というツイートがある。
http://twitter.com/kendochorai/status/64152534729756672

「2011年7月18日追記]
 氏は,ここで引用したツイートを削除したようである。


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