岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

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成長戦略の描き方

 8日の日本経済新聞・経済教室欄には,大田経済財政担当大臣が「危機感バネに改革一段と」を寄稿している。4日には私が「『経済一流でない』の真実」を寄稿しており,大臣の「日本はもはや『経済は一流』と呼ばれる状況にない」発言をめぐってぶつかる形になってしまった(私は大田大臣が寄稿されることはまったく知りませんでした)。
 大田大臣の発言は危機感を喚起するためのレトリックと解釈するのが適当であり,核心は成長戦略をどう描くかにあるのだろう。私は,職業柄,データを適切に使用することにこだわるので,かつて一流であったことはないという意見をのべたものの,現在一流でないという点ではまったく立場は同じ。大田大臣の趣旨からは揚げ足とりになるので,これ以上の深追いはしない。大田大臣寄稿の表題には,まったく同感である(副題「『経済一流』復活のカギ」には同感できないが)。

 ついでということではないが,日本経済の成長戦略に関係して,3つ私見を申し上げたい。
(1) 大田大臣があげた危機感のひとつは,「人口減少の中で成長を続けるのは並大抵ではない」ことである。「並大抵ではない」の認識には若干の違和感がある。
 昨年12月に発表されたOECDのEconomic Outlookにある2006年度のデータでは,潜在成長率(実質)は,
  OECD全体 2.3%
  ユーロ圏 2.0%
  米国 2.6%
  日本 1.4%
と日本が1ポイント程度低い。労働力人口成長率は,
  OECD全体 1.1%
  ユーロ圏 0.9%
  米国 1.4%
  日本 0.1%
となっており,わが国で少子化が進行していることによって,やはりOECD全体よりも1ポイント程度低い。
 成長会計を援用すると,他の要因が一定だと成長率は約3/4ポイント低下する。資本係数が一定になるように資本成長率も低下した場合には,労働力人口成長率が1ポイント低ければ,そのまま経済成長率が1ポイント低くなる(成長理論の知識を前提にしているので,読者が理解できなかった場合はごめんなさい)。
 生産性成長率がこれを相殺するほど高くなければ,OECD諸国平均の実質成長率を達成することは難しい。諸外国を凌駕する生産性向上の目算がたたなければ,OECD諸国並みの実質成長率を目指すことは並大抵のことではないどころか,無謀ないし無意味である。一方で,労働力人口が将来に年1%程度減少することになっても,現状の生産性上昇率が維持できれば,GDPがマイナス成長に陥ることはない。経済成長すること自体は難しい目標ではない。容易な目標と無謀な目標の間に,意味のある目標をどう設定するかを考えた場合,「人口減少の中で成長を続ける」は曖昧である。

(2)
 日本経済の3つの問題点のひとつとして,サービス産業の生産性に着目している。そして「サービス産業の生産性が上がらなければ、国内に質の高い雇用を確保することは難しく、平均賃金も上昇しない」としているが,生産性の向上と賃金の向上の関係には注意が必要だ。労働者の技能向上で労働生産性が高まれば賃金は上昇するが,全要素生産性の上昇(体化されない技術進歩)は生産されるサービス価格を低下させ,経済全体に広く薄く恩恵が及ぶが,当該産業の賃金向上には貢献しない。成長戦略による生産性の向上では問題産業の低賃金は改善しないかもしれない。

(3)
 大田大臣の寄稿は,「新成長戦略の策定と実行に全力で挑みたい」と力強く結ばれている。その心意気は高く評価したいが,より困難になりつつあるのは歳出歳入一体改革の遂行である。力の配分としては,こちらを重視してほしい。

(参考)
 この記事で紹介した数値は,OECD Economic Outlook No. 82 (December 2007)のAnnex Tableに収録されている。
潜在GDP成長率 (表21)
労働力人口成長率(表20)

http://www.oecd.org/document/61/0,3343,en_2649_37443_2483901_1_1_1_37443,00.html

(注)
労働力人口成長率に労働分配率を乗じたものが経済成長率への影響になる。OECDの潜在成長率の推定で用いられた労働分配率は0.741である。出所は,Economic Outlook Database Inventory (EO82 December 2007 version)の22頁。

http://www.oecd.org/dataoecd/47/9/36462096.pdf

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