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今回の記事は,前半部の議論を後半部でひっくり返すので,最後まで読んでください。
財政政策の中心となる手段は,一時的な支出拡大である。
景気が良い時に景気対策をするのは馬鹿げている。恒久的な支出拡大や減税は,景気が回復しても景気刺激をしている形となるので,景気対策としてふさわしくない。財政赤字が累積しないように,景気が良くなればすばやく撤退することが必要である。
一時的な減税は,需要創出効果が小さい。消費者が長期の視野をもって行動するときは,減税による一時的な所得増は即座に消費に回るのではなく,長期間に少しずつ消費を増やすと考えられるからである(フリードマンの恒常所得仮説)。橋本・小渕政権での議論では,一時的減税に効果がないと考えたところまでは正しかったのだが,そこで恒久減税が必要だと間違った方向に進んでしまった。なお,広い階層を対象とした減税はその規模に対して効果が小さいが,所得増をすべて消費に振り向けてくれそうな階層に対象をしぼった減税策には一定の効果が期待できる。
一時的な財政支出拡大は,そのものがまず需要を創る。それが所得増となり,需要を増やして,という形で波及するのが乗数効果であるが,波及効果部分は減税効果と同じものとなる。したがって,一時的な所得増だと景気が悪い時期に乗数がどれだけ働くか不透明である。確実な効果は,財政支出そのものの効果プラスアルファぐらいに見積もるべきだろう。
オバマ政権の景気対策の骨格を作ったサマーズ国家経済会議委員長は,Timely, Targeted,Temporaryの原則を立てたが,これは上のように理にかなっている。裏返すと,「遅い,バラマキ,やめられない」対策はだめだ。
一時的な支出拡大で最も問題になるのは,短期間で巨額の使途を決めることで無益な事業が実行されてしまう事態だ。政府が経験のない新規事業をはじめるのは,この失敗を招く危険が大きい。政府の日頃の事業で,支出額が大きく,支出の時期を裁量で選べるものが,景気対策に向いている。それで,公共事業が景気対策に使われる。
以上,教科書が教えるのは,一時的な,無駄でない公共事業の拡大が理にかなった景気対策である。
しかし,いまの日本で公共事業を追加することに違和感をもつ人も多いと思われる。90年代の景気対策で大規模な公共事業をしたが,無駄な事業がされたと批判された。それで,公共事業中心の従来の型とは違う政策をせよともいわれるが,これは上にのべた経験のない新規事業の失敗を招くおそれがある。
それよりも医療や福祉に金を回せ,という意見もある。どの支出を重視するかは人によって意見が分かれるところだが,私は社会保障の充実の優先順位が高いと思う。2008年補正予算でそれがされなかったのは,社会保障への支出は恒久的なものになるからだ。
しかし,視点を変えれば,「公共事業よりも医療・福祉へ」という考え方をとることもできる。考えるべきは,財政出動前の財政構造が教科書通りか,である。
米国では,社会資本の貧弱さがかねがね指摘され,社会資本を整備することは国民の支持を得やすい。それでも,7870億ドルの景気対策のなかで公共事業費は2割弱である。共和党との妥協を引き出すためと早期の効果を得るために減税が3分の1を占めていることや,サマーズ氏が社会資本以外の形態での将来につながる投資を重視したことが理由である。
財務省の資料(http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseib201031/s03.pdf )の16ページにあるように,日本の公共事業費(対GDP比)は最近下がってきているものの,まだ他の先進諸国より突出して高い。つまり,諸外国の基準から見れば,景気の良し悪しにかかわらず,ずっと景気対策をやってきたようなものである。景気対策をやる前の出発点が教科書から外れていると考えれば,今回の記事の前半の議論をひとひねりしないといけない。そこで,出発点の財政構造を改革して,これと景気対策を組み合わせることを考えてみよう。
出発点の改革として,公共事業費の恒久的削減と社会保障費の恒久的増額をおこなう。とりあえず,両者を同額として収支中立的なものと想定しておく。つぎに景気対策として,公共事業費を景気の悪い時期だけ増額する(今回の記事は考え方の整理にとどめ,具体的な規模は議論しない)。両方を合わせると,社会保障費を現在から恒久的に増加させ,公共事業費は現状維持の後,景気回復時(現状の見通しとしては,2011年度になるか)に削減することになる。現状からの変化として見ると,追加的な支出拡大は社会保障に向けられている。2009,2010年度の公共事業費は,景気対策としての一時的拡大と整理する。
これを予算に反映させるには,
(1)2009年度当初予算の公共事業費を削り,社会保障費を増やす。
(2)当初予算で削られた公共事業分を景気対策として補正予算に計上する。
の2段階の手順を踏むと,何をしているのかがよく見える。予算は前年度当初予算からの変化で議論されるので,当初予算は恒久的支出,補正予算は一時的支出を計上するのに向いている。しかし,いまから予算の組み替えをはじめると,国会で紛糾して,本予算の成立が遅れてしまうおそれがある。
本予算の早期成立を期すなら,
(1)本予算はそのままにして,社会保障費の増加分を補正予算に計上する。
(2)当初予算の公共事業費と補正予算の社会保障費は組み替えられる性格のものであることを別の参考資料で明記する。
の手順とすることが考えられる。
(関係する過去記事)
日本経済新聞・経済教室「財政支出拡大か減税か」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/23890895.html
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