岩本康志のブログ

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統計・会計

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 欧州連合統計局(Eurostat)は日本人にとってはなじみがない機関だと思うが,実は間接的ながら,わが国の統計に大きな影響を与えている。
 OECDの30の加盟国のうち,19か国がEUに加盟している。EU非加盟のアイスランド,ノルウェー,スイスも統計では協力関係にあるので,22か国がEurostatと関係がある。OECDが加盟国の統計データを収集するときには,Eurostatが必然的にからんでくる。OECDとEUで大同小異の調査が別々におこなわれると,OECDの欧州加盟国は二度手間だと感じる。このため,OECDとEurostatは調査票を共通化して,回答負担を減らすのが自然な流れになる。
 加盟国との関係ではEUの方が権限が強いので,EUの調査ニーズにOECDが追従する形になることが多い。例えば,SNAの共通質問票はEU基準であるESA(European System of Accounts)に準拠しているので,日本のSNA統計はESAとは関係ないはずが,ESAの調査票に答えていることになる。また,OECDの社会保障費統計であるSOCX(Social Expenditure Database)は,22か国のデータをEurostatが作成するESSPROS(European System of integrated Social Protection Statistics)から提供してもらうために,ESSPROSからの変換で作成できるように定義されている。
 OECDの統計データの利用者は,Eurostatの同種の統計を見てみると,新しい発見があるかもしれない。

(注)
EUの本部はご存知の通り,ブリュッセルにあるが,Eurostatはルクセンブルクにある。

(参考)
Eurostatのホームページ
http://ec.europa.eu/eurostat/

OECD統計局のホームページ
http://www.oecd.org/std

(関係する過去記事)
「社会保障費統計の交通整理」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/13859949.html

 6月26日にOECDは,ヘルスデータ(Health Data)2008年版を発表した。データが利用可能な最新年の2006年は,加盟国の医療費の実質成長率が3.1%で,1997年以来の低水準となった。また,GDP成長率をわずかに下回り,医療費の対GDP比は8.9%と前年並みとなった。OECD全体を集計してしまうと成長の鈍化の原因は特定しにくいが,興味深い現象である。
 この医療費データは,SHAに基づいて作成されている。SHAについては,「医療費統計の体制転換に向けて」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/13193148.html )で紹介した。
 日本でよく使われるのは総医療費と呼ばれるものであり,公衆衛生への支出や医療施設への投資も含まれ,厚生労働省の作成する「国民医療費」よりも範囲が広い。2005年度の総医療費(total expenditure on health, THE)は41兆円,国民医療費は33.1兆円である。国民医療費に近い概念である個別的医療費(expenditure on personal health care, TPHE)は38.3兆円であるので,国民医療費は国際基準よりもカバーする範囲が狭い。総医療費と個別的医療費の関係は,以下のようになっている。

総医療費
 経常医療費(current expenditure on health, TCHE)
  個別的医療費
  集団的医療費(expenditure on collective health care)
 医療設備への投資(investment on medical facilities)

 個別的医療費に,集団的医療サービス(公衆衛生や管理経費)に相当する集団的医療費1.7兆円を加えると,経常医療費40兆円になる。これに医療設備への投資0.9兆円を加えると,総医療費になる。個別的医療費,集団的医療費にはさらに細分化した項目がある。
 SHAの利点として国際比較が可能なことを「医療費統計の体制転換に向けて」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/13193148.html )で指摘したが,別の利点は,SNAの概念と調和するように設計されていることである。個別的医療費は医療に関係する個別消費支出,集団的医療費は医療に関係する集団消費支出となり,医療設備への投資は医療産業の資本形成にほぼ対応している。SNAのなかの医療関係の情報を詳細にしたものに相当し,医療と経済の関係を分析したいときに重宝する。
 日本のデータの問題点は,Health Data 2008年版での最新データは2005年と,他国から1年遅れていることである。SHAはさまざまな基礎資料を組み合わせて作成される「加工統計」であるが,基礎資料が集計・公表されるのに時間を要していることが理由である。医療政策でもPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルが重要である。Checkまで時間がかかると,政策が間違った方向へ向かったときに軌道修正が遅れる。生命に直接かかわることだけに,統計作成の早期化に敏感になるべきだ。統計委員会でも統計の早期化は医療に限らずに各方面の課題であり,多くの委員に指摘されていることだが,改善ははかばかしくない。もっと多くの人に関心をもってもらって,関係者に重い腰をあげてもらうことができればいいのだが。

(参考)
「OECDヘルスデータ2008 多くのOECD諸国で保健医療関連支出の伸びが鈍化」(OECD東京センター)
http://www.oecdtokyo.org/theme/hea/2008/20080627healthdata.html

(関係する過去記事)
「医療費統計の体制転換に向けて」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/13193148.html

 社会保障費統計の代表的なものは,国立社会保障・人口問題研究所で作成されている「社会保障給付費」である。これは,国際労働機関(ILO)が定めた国際基準に準拠しているが,この定義による調査が1996年で断絶しているため,現在では国際比較ができなくなっている。典型的な使われ方は,例えば社会保障国民会議での資料(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyoukokuminkaigi/kaisai/dai03/03sankou1.pdf )14ページにあるように,社会保障給付費の時系列的な推移を示して,「我が国の社会保障給付費は、年々増大している」と説明するものである。社会保障費の上昇を問題視する人に重宝される(「医療費統計の体制転換に向けて」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/13193148.html )と同じ書き方になっていますが,わざとやっています)。
 社会保障費の国際比較には,経済協力開発機構(OECD)が定義した社会保障費統計の国際基準である社会支出(SOCX,Social Expenditure Database)に基づいて作成されたデータを用いる。日本のデータは,国立社会保障・人口問題研究所で作成されている。典型的な使われ方は,上記資料18ページにあるように,主要先進5か国とスウェーデンとで対国民所得比の計数を比較して,日本の社会支出が欧州諸国より低いことを説明するものである。日本の社会保障費水準は高くないと主張する人が,このデータを引き合いに出す。
 国際比較が可能なもうひとつの統計は,国連他の機関で定義されたSNA(System of National Accounts)のなかのデータである。SOCXは支出のみの統計であり,財源の情報がないので,財源も含めた議論をするにはSNA統計を使うことになる。ただし,各国で異なる社会保障制度をSNA統計で整合的に比較できるかどうかはやや不安な面がある。SOCXでは各国の関係者が統計を整合的にするための努力を重ねているのに対して,経済全体の体系であるSNAではそこまで十分に手が回っていない。
 社会保障給付費,SOCX,SNAの示す社会保障費用は食い違っている。SOCXのデータが非常に遅れているため,現在のところ同じ年で比較できるのは2003年になる。この年の社会保障給付費では84.3兆円,SOCXでは91.9兆円となる。SNAでは,社会保障基金の社会保障給付(現金による社会保障給付と現物社会給付)と中央政府・地方政府の社会扶助給付の合計が81.9兆円となる。各統計が社会保障費用を違った形で定義しているために,こういう違いが起こるのだが,何とか調整できないかと思うのは自然な反応だろう。調整するとなると,どの統計が機軸になるのかを考えないといけない。
 内閣府に設置された政府の統計委員会では,統計法の全面改正を受けて,公的統計の整備課題について検討をおこなっている。私はそのワーキンググループ委員(主として財政分野を担当)となっているが,社会保障費統計については,国際比較ができなくなっているILO基準ではなく,ESSPROS(European System of integrated Social Protection Statistics)に準拠した統計を作成すべきと主張している。ESSPROSは,欧州連合統計局(Eurostat)で定義された社会保障費の財源と支出に関する統計基準である。
 わが国の統計にEUの基準を用いるというのは,事情を知らない人には奇想天外な話に聞こえるかもしれないが,十分な理由がある。国際基準の事情に精通しないと理解しにくいところがあるが,かいつまんで説明すると以下のようになる(機会があればくわしく触れたいと思います)。
(1)わが国が加盟するOECDの基準であるSOCXが基幹となるのは自然な話であるが,財源の情報がないため,SOCXだけでは不十分である。
(2)SOCXの定義の多くはESSPROSに準拠している。これは,EU加盟国がESSPROSによる統計を作成しているので,SOCX作成のために二度手間をかけさせない配慮による。わが国ではすでにSOCX統計を作成しているので,ESSPROSによる統計の整備はおもに財源側の整備作業だけでよい。
(3)社会保障統計の国際調査の長い断絶の後,ILOは新しい社会保障費調査SSI(Social Security Inquiry)を開始したが,これはESSPROSに準拠している。わが国もこれに回答することになる。ILOは,昔の自分の基準を捨てて,ESSPROSを適当な国際基準だと判断したことになる。
(3)国連他5機関が定義する国民経済計算の国際基準SNA(System of National Accounts)では,政府支出の機能別分類COFOG(Classification of Functions of Government)が定義されている。わが国は現在10の大分類のデータしか作成していないが,財政統計を充実するため,より詳細な分類のデータを推計しようとしている。大分類の「社会保護」のなかの詳細分類はESSPROSの分類を継承している。

 以上,多くの統計の基盤にESSPROSが関係しているのである。
 医療費統計の世界では, WHO,OECD,Eurostatの支持を得たSHAが唯一の国際基準の地位を確立したが,社会保障費統計では,それに相当する世界基準が存在しない。OECDとEurostatの間で統一基準をもてていないことが響いている。そのため,各国際機関の要請と国内統計のために,わが国は大同小異の複数の統計を作成しなければいけない状況にある。このときは,「マザーデータ」となる統計を作成しておいて,それに若干の加工をして各統計を作成していく手順が効率的だ。上の状況を踏まえると,ESSPROSに準拠したマザーデータを用意して,SNA,SSI,SOCX,社会保障給付費のニーズに応えていくのが,もっとも理にかなっている。
 統計委員会での人口・社会統計を議論するワーキンググループ(こちらには私は参加していない)での議論では,「社会保障給付費」を基幹統計とする方向であるので,残念ながら私の構想とは違う方向に進んでいる。
 私は,経済統計のワーキンググループに参加しているが,こちらでSNAの社会保障統計をESSPROSに準拠するように提言している。政府財政統計の国際基準であるGFS(Government Finance Statistics)での社会保障の概念がESSPROSに準拠しているので,GFSに準拠しても同じことになる。ESSPROSへの準拠は作業部局向けの言い方,GFSへの準拠は広く一般向けの言い方になる。

(参考)
平成17年度社会保障給付費(国立社会保障・人口問題研究所)
http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/kyuhuhi-h17/kyuuhu_h17.asp

Social Security Expenditure (OECD)のホームページ
http://www.oecd.org/els/social/expenditure

ESSPROS (Eurostat)
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/portal/page?_pageid=3134,70318806,3134_70394008&_dad=portal&_schema=PORTAL#ESSPROS

Social Security Inquiry (ILO)のホームページ
http://www.ilo.org/public/english/protection/secsoc/areas/stat/ssi.htm

(関係する過去記事)
「医療費統計の体制転換に向けて」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/13193148.html

 わが国の医療費の公的統計は,厚生労働省大臣官房統計情報部で作成されている「国民医療費」である。1954年からのデータが利用可能であるが,日本独自の定義のため,国際比較ができない。典型的な使われ方は,例えば社会保障国民会議での資料(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyoukokuminkaigi/kaisai/service/dai02/02siryou3.pdf )6ページにあるように,国民医療費の時系列的な推移を示して,「我が国の国民医療費は、年々増大しており、現在33.1兆円である」と説明するものである。医療費の上昇を問題視する人に重宝される。
 医療費の国際比較には,経済協力開発機構(OECD)が定義した医療費統計の国際基準であるSHA(System of Health Accounts)に基づいて作成されたデータを用いる。日本のデータは,厚生労働省の外郭団体である医療経済研究機構で作成されており,OECD加盟国のデータは,OECD Health Dataと呼ばれるデータベースより利用可能である。典型的な使われ方は,上記資料11ページにあるように,主要先進7か国で対GDP比を比較して,「我が国の総医療費の対GDP比は、先進国の中で、比較的低い水準に留まっている」と説明するものである。日本の医療費水準は低いと主張する人が,このデータを引き合いに出す。
 医療費のあり方を議論するには,国際比較できるデータの方が有用性は高い。世界保健機関(WHO),OECD,欧州連合統計局(Eurostat)が共同して,世界規模でSHAに基づくデータの収集を始めたところであり,OECD加盟国のみならず,多くの国との国際比較が可能になるものと期待される。しかし,SHAはわが国の公的統計(公的機関等で作成される統計)ではなく,英語か仏語の情報がほとんどなので,国内での認知度が低い。
 内閣府に設置された政府の統計委員会では,統計法の全面改正を受けて,公的統計の整備課題について検討をおこなっている。私はそのワーキンググループ委員(主として財政分野を担当)となっているが,医療費統計については,「国民医療費」ではなくSHAを基幹となる統計と位置づけるべきと主張している。政府が作成する統計よりも民間が作成する統計の方が重要だというのは,政府の統計関係者を不機嫌にさせる話だが,既成観念にとらわれずに考えていくべき問題だ。SHAを公的統計とするところから議論が必要であり,実現までの道のりは険しいが,医療分野担当の井伊雅子先生(一橋大学)が同じ意見を主張しており,実現に向け前進している。

(参考)
OECD SHAのホームページ
http://www.oecd.org/health/sha

医療経済研究機構のホームページ
http://www.ihep.jp

統計委員会のホームページ
http://www5.cao.go.jp/statistics/index.html

 4月11日に,『国民経済計算』確報の計数の訂正が発表された。「社会保障基金の財政収支が不思議な動き」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1733167.html )で触れた社会保障基金の財政収支について,資金過不足の計数が約19兆円訂正された。「その他負債」の何かの計数が非金融法人企業部門と取り違えられた模様で,企業部門の資金過不足も同時に訂正され,多くの表に修正が及んでいる。『国民経済計算』利用者はご注意ください。
 まずは,不自然な動きが訂正されて,利用者としてはほっとしたところである。訂正前の計数では,社会保障基金のその他負債が過去の推移から飛び離れて大きくなっていたので,状況証拠通りの結末であった。その割には原因解明まで時間を要したのではないか,計数の異常な動きを監視するシステムがあれば公表前に気がつくのではないか,そもそも誤りの原因は何か,等の課題がある。2006年度確報では,一般政府部門で10兆円単位の大きな計数の訂正が続いた。政府部門では最近いろいろな制度改革があって,『国民経済計算』に反映させるだけでも大変ではあるが,作成当局には正確を期すための一層の努力をお願いしたい。

(参考)
「国民経済計算確報 計数訂正情報」
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/teisei/kakuho.html

(関係する過去記事)
「2006年度に基礎的財政収支黒字化達成?」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1657232.html

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