岩本康志のブログ

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 消費税が8%に上がることが本決まりになってわが家も支出の切り詰めを思案しているときですが,10月10日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「財政再建,いまだ道半ば」が掲載されました。
 執筆時の世論調査では来年4月の増税への賛否が拮抗していたので,8%に上げなければいけない根拠を解説するようにしました。学術的に高度な議論をしているわけではなく,広く言われていることが中心です。高齢化による社会保障費の伸びにどう対応するかが財政運営の課題で,団塊の世代の退職によって年金給付が今大きく伸びてきているのですが,10年前にはこのことを予測してそれまでに財政健全化(国・地方の基礎的財政収支の黒字化)を達成しておこうという思惑だったことを紹介しています。
 ただし,多くの人の目に触れる文章では尾ひれに注目が集まりがちなので,拙稿の末尾に書かれた「歳出増に応じて自動的に増税する」について,紙面では書ききれなかったことを以下で補足しておきます。

 国会は国の活動を決める。国の活動は複雑なので,全体を一度に決めるのではなく,案件を切り分けて,部分ごとで意思決定をしている。支出を増やすのは国民へのサービスの向上につながるので国民からは歓迎されるが,収入を増やす(増税する)のは国民の可処分所得を減らすので国民には好まれない。国民に好まれることだけしか決めない政治家に国をまかせれば,財政はおかしなことになる。政治家には,国民には好まれないことでも大事なことは決める覚悟をもってもらわなければならない。
 と,きれいにまとまったように見えるが,本題はこれからである。
 拙稿の問題意識の一つは,財政支出は高齢化によって自動的に増えるのに,収入は自動的に増えない,ことにある。他の支出を増やす余地もないので,政治家が決めることは国民に好まれないことだけになる。ときには国民に嫌われる覚悟を決めた政治家でも,嫌われることだけしか決められなければ,やっていられなくなるだろう。すると,増収の意思決定が遅れて,財政状況が悪化する。
 政治的意思決定が十分に合理的におこなわれるならば,政府の複雑な活動を切り分けて意思決定しても,切り分け方で結果が変わることはないだろう。しかし,実際には政策議題の設定の仕方で意思決定の結果が変わってくると考えられる。増税という,それだけでは好まれない選択肢を国民に納得してもらうには,説明を工夫する必要がある。税を使って支出する,と一括しての意思決定であれば,税がなければ公共サービスは受けられない,という理解が広がって,増税は受容されやすくなるだろう。今回の消費税増税が社会保障と税の「一体改革」の一部であるのは,支出と収入(国民から見れば受益と負担)を同時に議題とすることで,支持を得るねらいがあった。しかし,社会保障費の自動的な増加だけを増税と合わせることはせずに,制度改革による社会保障費の拡大も抱き合わせにした。さらに見直し時の決定でも,経済対策と抱き合わせにしており,国民に好まれないこと「だけ」を決められない構造がつきまとう。
 こうした問題を認識してもらうために拙稿では,国民に好まれない決定を自動的に決めることにして,政治への批判を減らして財政状況の悪化を防ぐ案を提示してみた。
 しかし,それは無茶だ,できるわけがない,という声が実務家から出てしかるべきである。国家権力によって強制的に財産を移転させられる税が勝手に決まっては困る,ということだ。この理由で,憲法第84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定している。法律で税を決めることは当然のこととして,歳出の増加に合わせて自動的に増税できる法律を作ることができるか,を少し考えてみよう。
 まず,今回の消費税8%への増税がどのように決まっているのかを確認しておこう。昨年8月10日に成立した「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」の第2条で,消費税法第29条の消費税の税率「100分の4」(注)を「100分の6.3」に改める。第3条で,同じ個所の「100分の6.3」を「100分の8」に改める。そして附則で,第2条は2014年4月1日から施行し,第3条は2015年10月1日から施行する,と決められている。
 同様の書き方をすれば,より長い将来まで消費税率を上げていくことができるし,他の税でも同じことができる。最初に法律を成立させる必要があるが,それ以降は自動的に増税がおこなわれる。不都合が生じるのは,増税時期を後から調節できないことである。予定された増税時期に景気が非常に悪いと,増税の実行はためらわれる。今回の増税では法律に「景気弾力条項」がついていたので,今の時期に増税の見極めがおこなわれたが,安倍首相が当初,白紙で判断するかのような姿勢を示したため,事前に決めている意味がだいぶ失われ,1回の増税のために国民に好まれないことを2回決断するような事態になった。これでは弾力条項も逆効果かもしれない。この問題を回避するには,法律の施行時期をx年間の範囲内で政令で指定する,という形で附則に書き,増税の是非の判断ではなく,実施時期の微調整の形式にするのがよいだろう。当事者も淡々と法律で決められたことを実行する姿勢で臨む必要がある。
 増税時期を後から調整できないときに生じるもうひとつの不都合は,社会保障費の増加ペースが最初に法律に書いたペースとずれる可能性があることだ。附則の書き方を「法律の施行時期を社会保障関係費が基準年度のy倍になった後のx年間の範囲内で政令で指定する」とすれば,社会保障費の増加ペースに増税のペースを合わせることは可能になる。しかし,社会保障費は高齢化によって自動的に決まる部分と政策判断で決まる部分がある。財源が自動的に調達されることになれば,社会保障費を必要以上に増やす政策判断を誘発することになり,問題である。増税のペースは高齢化に連動させる必要がある。したがって,附則の書き方は「法律の施行時期を高齢化率がy%を超えた後のx年間の範囲内で政令で指定する」という形が考えられる。これで一応,当初の意図は達成されるが,このため,高齢化と社会保障費の動きがずれると問題が生じるので,調整のための増税は別に必要になる可能性は排除できない。しかし,いちいち新しく増税を決めていくよりは回数の節約にはなっている。
 以上は一案であり,他にも方法は考えられるだろう。あるいは,このような手段には無理があって実現可能性はないと考える人がいるだろう。しかし,その場合には,支出増は自動的に決まるのに収入増は自動的に決まらないという構造には別の形で立ち向かわなければいけない。拙稿の意図は直ちに提案の導入を主張するのではなく,現状の構造を認識してもらうための問題提起にある。

(注)
 現在の消費税率5%は正確には,国税である消費税率4%と地方税である地方消費税率1%の合計である。ここでは国税の税率を規定している。

(訂正)
 日本経済新聞掲載の拙稿「財政再建,いまだ道半ば」で,現在の財政健全化目標での2015年度の国と地方の基礎的財政赤字はGDPの「3.1%」とする,は「3.3%」の誤りでした。

(参考)
「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」(衆議院)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g18005072.htm

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 日本経済学会2013年度秋季大会(9月14・15日,神奈川大学)の報告申込を4月8日(月)から4月22日(月)まで,Webで受け付けます(http://www.jeameetings.org/2013f/submission.html)。
 今回は私がプログラム委員長を務めることになりましたが,報告を検討されている会員に業務連絡です。

 申し込まれた論文はまずプログラム委員会で報告の採否の判断をしますが,すでに公刊された論文は採択しない方針とします。

 以下,背景の説明です。
 すでに公刊された論文の報告申込がたまにあるようです。明文化されたルールはありませんが,報告論文は未公刊のもの,という考えが日本経済学会では一般的です。主な理由は,論文の改善に資するコメントをする役割が予定討論者に期待されており,公刊された論文は確定してしまっており,予定討論の意味がなくなるからです。
 前年度大会では公刊された論文であることを理由に報告申込を採択しなかったことがあり,前年度プログラム委員長より,報告申込基準を明確化してはどうか,という引き継ぎ事項がありました。基準がないことで報告を申し込む会員に無駄なことをさせることになりますので,引き継ぎ事項の趣旨には私も賛成です。ただし学会理事は,大きな変更になるという認識でしたので,プログラム委員会で検討しました。プログラム委員は概ね趣旨に賛同でしたが,基準の明文化まで詰められず,今回はプログラム委員長が個人的に見解を表明することで対応することにしました。

 ワーキングペーパー,ディスカッションペーパーは公刊された論文とは見なしません。たとえば,Web上に存在して広く流布されていても,それだけでは公刊ないし出版にはあたりません。
 プログラム委員会は,報告申込時の状態で判断します。投稿中の論文を申し込むことは何ら問題ありませんが,それが学会までに思いがけず早く採択・公刊されてしまった場合に,学会報告を辞退する必要はありません。報告のキャンセルが逆に迷惑をかけることになるからです。
 プログラム委員会がすべての申込論文について,公刊されたか否かを正確にチェックすることは不可能です。申込論文が公刊されていることにプログラム委員会が気づかないと申込が採択されることがありますが,これは完全には防げません。申込者が適切に判断していただくことを期待します。

 このような趣旨を短く,明確にまとめるのがなかなか難しく,将来のプログラム委員会での検討課題にしていただければ,と思います。判断がしづらい事例もあります。例えば,申込時には未公刊だが学会発表時には公刊されていることが確実な論文はどう扱うのか。プログラム委員会では公刊のスケジュールは把握できませんので,申込者に判断してもらうしかありませんが,どういう判断基準を設定すればよいのか。

 以下は余談ですが,分野や学会によって考え方や習慣は様々のようです。私が経験したもの2例を紹介します。
 今年は同時に医療経済学会のプログラム委員もしています。この学会も予定討論を設けていますが,医学系では予定討論という習慣がなく,どうコメントしてよいのかわからないという戸惑いがあるようです。
 社会政策学会では書評分科会があって,公刊された著作の討論をやっています。以前に,私が編者となった『社会福祉と家族の経済学』(東洋経済新報社刊)を取り上げていただいたことがありました。

(参考)
日本経済学会
http://www.jeaweb.org/jpn/index.html

医療経済学会
http://www.ihep.jp/jhea/

社会政策学会
http://sssp-online.org/

(Amazonへのリンク)
社会福祉と家族の経済学

 3月12日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「高債務先進国,35%が破綻」が掲載されました。

 かつては先進国の財政破綻が数多く発生していたことを世にしらしめたラインハート教授,ロゴフ教授の『国家は破綻する』の基礎データを使って,政府債務がGDPの60%を超えた後に再建するのか,破綻するのかを追跡する作業をしたのが,昨年にホームページで公開した拙稿「政府累積債務の帰結」(http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/2012/SeifuRuisekiSaimunoKiketsu.pdf )です。今回の寄稿の前半では,その結果を紹介しています。
 見出しになった破綻事例の比率35%は全期間の単純な平均ですが,大恐慌期とそれ以前では70%に上がります。紙面では単純な集計結果を示しましたが,拙稿「政府累積債務の帰結」では,プロビット分析の結果も報告しています。

 経済教室欄には1年間の間隔が空いての寄稿となりました。昨年2月まで「エコノミクストレンド」の連載で年3回寄稿していましたが,今回の記事を書いて,最近の研究動向を紹介していく「エコノミクストレンド」がかなり大変な作業であったことをあらためて実感しました。

 最後に,記事で紹介した文献は以下の通りです。(登場順)

カーメン・M・ラインハート,ケネス・S・ロゴフ(2011),『国家は破綻する』,日経BP社

岩本康志(2012),「政府累積債務の帰結」
http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/2012/SeifuRuisekiSaimunoKiketsu.pdf

Carmen M. Reinhart and M. Belen Sbrancia (2011), “The Liquidation of Government Debt,” mimeo.

(関係する過去記事)
「政府累積債務の帰結:危機か? 再建か?」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/37367546.html

 玄田有史・東京大学教授による日本経済学会・石川賞講演が10月8日の秋季大会(九州産業大学)で開催されました。今年度の同賞選考委員長であった私が司会を務めました。司会挨拶の準備原稿を以下に掲載します(本番では少し修正しましたが)。


 日本経済学会・石川賞は,実証面や政策面を中心に,特に日本の経済・社会問題の解決に貢献する優れた経済学研究を行った日本経済学会会員で,その前年に50歳未満である者に授与されます。
 この賞は,惜しくも51歳の若さで1998年6月に逝去されました故石川経夫東京大学経済学部教授の名前を戴いています。石川先生がお亡くなりになった際に故人の業績を経済学界に生かす事業を進めるため、故人の関係者や教え子を中心に基金を募り、「石川経夫基金」が設けられました。そして,故石川先生が長年にわたってその発展に努力した日本経済学会は,この基金からの寄付を受け,故人と関係の深い分野での経済学研究上の貢献に対して賞を与えることとし,石川賞が創設されました。

 2012年度の「日本経済学会・石川賞」は、『仕事のなかの曖昧な不安』、『ジョブ・クリエイション』等の著書と論文に結実した労働経済の実証研究を評価して,東京大学の玄田有史先生に授与することが決定されました。
 玄田先生は、若年労働者の非正規就業や失業問題の研究と雇用の創出・喪失の研究の分野を中心として、現代の労働市場の構造問題を明らかにすることに顕著な業績をあげられました。なかでも、1990年代後半にわが国に生じた失業率の上昇によって若年労働者の就業機会が損なわれてきたことを明らかにした研究は、学界のみならず社会と政策現場にも多大な影響を与えたということができます。失業率が上昇した当時の通念では中高年者の失業問題が重視され、若年者の失業は若者の能力や意欲の問題と見なされていましたが、玄田先生は緻密な実証分析を積み重ねることでこの通念を覆して、中高年の雇用維持の代償として若年採用が抑制される「置換効果」や、不況期に卒業した世代の雇用や賃金が持続的に悪化する「世代効果」を通して、わが国の雇用システムが若年労働者の就業機会を奪ってきたことを明らかにしました。
 この若年労働市場の分析の研究が結実した著書『仕事のなかの曖昧な不安』は、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞を受賞しています。また,雇用の創出・喪失を分析した研究では、玄田先生は,1998年にJournal of the Japanese and International Economies誌に掲載された論文を始め、多数の論文を発表しておられます。これらの成果が結実した著書『ジョブ・クリエイション』はエコノミスト賞、労働関係図書優秀賞を受賞しています。

 ご存知の方も多いかと思いますが,玄田先生は石川経夫先生に学部・大学院と指導を受けた愛弟子であります。玄田先生が石川先生から強く影響を受けておられることは,例えば最近刊行された玄田先生の論文集『人間に格はない』から読み取ることができます。この本は,副題が「石川経夫と2000年代の労働市場」と題され,また「人間に格はない」という,経済学の論文集としてはやや異質な書名は,石川先生の言葉でもあります。石川先生が目指された、緻密な理論的背景と実証分析によって日本の経済・社会の問題を解明し,解決を探求する姿勢は、玄田先生の研究のなかに受け継がれているように見えます。今回,奇しくも玄田先生が恩師の名を冠した賞を受賞する場面に選考委員長として私が居合わすことができ,大変にうれしく思います。
 会場の参加者を代表しまして,玄田先生と石川先生のご家族の皆様にお祝いの言葉を申し上げたいと思います。
 おめでとうございます。

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 拙稿「政府累積債務の帰結:危機か? 再建か?」(http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/2012/SeifuRuisekiSaimunoKiketsu.pdf )を私のWebサイトで公開しました。
 以下は,拙稿の概要です。

 政府債務残高が先進国では最高の水準(対GDP比)に達したわが国の財政の将来に関心が集まっているが,拙稿では,政府債務が累増した後に再建を果たすか,デフォルトあるいは高インフレによって破綻の道をたどるのか,について歴史的にどのような経験が蓄積されてきたのかを検討している。
 先進国の多くの経済問題と同様に財政危機の問題でも第2時世界大戦後の経験が念頭に置かれることが多いが,カーメン・M・ラインハート博士とケネス・S・ロゴフ教授の『国家は破綻する』(2011年,日経BP社)は,それよりも古い時代の経験を踏まえることの重要性を指摘して,過去に遡るとともに多くの国を対象にしたデータベースを作成して,先進国もかつては財政危機を繰り返していたことを示した。
 しかし,高水準の政府債務をもつわが国の財政がこれからどう推移していくのかという問題意識は,財政危機に陥った事例を整理したラインハート=ロゴフの問題意識とは視点を異にしており,財政危機の事例の観察だけではなく,政府債務が高まった事例をすべてとらえ,その後の経路を追跡する作業が必要である。
 拙稿ではそうした作業を経て,現状のわが国のような状況から今後破綻にいたる確率を予測するモデルを推定した。きちんと対処すれば財政破綻は避けられるべきものなので,ここでの「確率」とは過去に同様の状況になった国のどれだけが破綻したのかという経験を示すものと理解していただきたい。先進国の最近時の状況は第2次世界大戦以前の過去とは異なるものだという解釈のモデルによると,現状のわが国のような状況から今後破綻にいたる確率は40%程度であると推定された。一方,現在の先進国にも過去の経験が当てはまるという解釈では,今後破綻にいたる確率は70%程度であると推定された。

(関係する過去記事)
日本経済新聞・経済教室「政府債務拡大 どこまで」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35673108.html

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