岩本康志のブログ

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大阪府債,起債を延期

 1月の大阪府債の発行条件決定日が,10日から18日に延期された。「市場は大阪府債をどう評価するか」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/800124.html )で,府の情報開示の姿勢を市場がどう評価するかが注目だとのべたが,年明けの市場では,大阪府債の売りが続き,スプレッドが広がっている。やはり市場は懸念を表明したようである。
 朝日新聞の一連の報道から,大阪府側の説明を引用してみよう。

「再建団体に転落しないために、こうした手法を取らざるを得なかった。対外的に説明してこなかったのは事実だが、隠す意図はなかった。適切なやり方だとは思っていないが、違法ではない」(府幹部)
「大幅な職員のリストラや府民サービスを低下させれば、返済の先送りをやめられる。段階的に事業を見直すためには、しばらくの間、このやり方が必要だ」(財政課担当者)
「再建団体にならないための措置。不適切かもしれないが、やむを得なかった」(太田知事)
「財政運営をつまびらかに府民に知らせるのは府政の責任。説明責任を果たすことについては改善していきたい」(太田知事)

 投資家へのIRの視点から見ると,これらが有効なものであったかどうか,疑問が残る。財政再建団体にならないためにはやむを得なかった,との説明は市場には逆効果である。償還確実性が関心事の投資家にとっては,再建団体になって,リストラを進めてもらった方がありがたいくらいである。大阪府民に負債を買ってもらっていれば,住民サービスの低下を避けるため,という説明で理解を求める手があるが,「隠す意図はなかった」ということなら,現状の情報開示から個人投資家にすべてを読み取ることを要求する,無理な話になる。
 市場の理解を得ることは,議会の理解を得ることとは大きく違う。議会での答弁では,少々苦しくても,あるいは質問者が納得しないままでも,その場を乗り切れば何とかなってきた。しかし,投資家の納得が得られなければ,市場では資金調達ができなくなるのである。

 1月9日付で,大阪府からの新しい説明とIR資料が公開された。

http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kosai/zouhatsu.html

 市場の理解を求める努力がわれわれにも見えはじめたが,市場との対話がどのように進むのか,今後の推移を見守りたい。

(参考)
朝日新聞のサイトには,以下の記事が掲載されている。

「大阪府、2600億円「赤字隠し」 再建団体回避狙う」(12月30日)
http://www.asahi.com/politics/update/1229/OSK200712290039.html

「総額3500億円に 大阪府の「赤字隠し」」(12月31日)
http://www.asahi.com/politics/update/1230/OSK200712300036.html

「「不適切だが、やむを得なかった」 赤字隠しで太田知事」(1月4日)
http://www.asahi.com/national/update/0104/OSK200801040058.html

「大阪府の「赤字隠し」、来年度以降も2800億円」(1月8日)
http://www.asahi.com/politics/update/0108/OSK200801080057.html

 年末に,大阪府が財政再建団体への転落を回避するために,借金の返済を事実上先送りしたという旨のニュースが飛び込んできた。報道からの情報だけでは不明な部分もあるが,年始の動きが重要になりそうなので,わかる範囲内で手短にコメントしたい。

(1)ルール違反か
 事実関係としては,2004年度以降,償還を迎えた満期一括償還の縁故債を全額借換したようである。
 大阪府債IR資料「大阪府の財政状況等について(平成19年10月)」の11頁の上図にあるように,債券発行の4〜10年まで残高の6%を減債基金に積み立て,10年目に42%を返済する方式が1992年の旧自治省の通知にあるものの,強制力をもつものではないようである。これとは違った処理がとられても,ルール違反にはならない。したがって,大阪府の今回の処理について,総務省が事後的に対応すべき話ではないように見える(事前の視点からの制度設計の課題はあるかもしれないが)。

「大阪府の財政状況等について(平成19年10月)」(9〜11頁)

http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kosai/2007_IR_3-2.pdf

(2)何が問題か
 市場公募債の購入者は,IR資料にあるように,府債は10年目に42%が返済されるものと思っている,と考えられる。返済方法がこれより遅れる方向に変更されたことは,府債保有者が償還可能性を評価するうえで,非常に重要な情報なはずである。それが伏せられていたということは,大阪府の情報開示に問題があるのではないか,というとらえ方が可能であろう。
 問題は,市場がこのことをどう評価するかである。きびしい評価となるか,それとも軽微なこととみなすか。
 1月10日は,200億円の10年債の発行条件決定日である。市場の動向に注目したい。

(今回の記事の執筆に当たり,いろいろな方のご意見を伺う機会がありました。状況が不確定なもとでの記事の内容は私が責任を負うべきものですので,貴重な情報をお寄せいただいた方のお名前を記すことは差し控えますが,この場を借りて感謝の意を表します。)

産業投資のリスク

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 財政投融資のうち,財政融資資金は償還確実性を精査してリスクをとらない建前であるのに対して,産業投資はリスクをとるのが役割である。このリスクの最終的な負担者は国民であり,国民にどのように説明するかが大事であるが,IR資料となる「財投レポート」をはじめとする,多くの資料ではそのことがよく見えてこない。
「埋蔵金探訪(4):公営企業金融公庫」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/675688.html )で,省庁別財務書類に産業投資の対象機関の純資産額の一覧表があることを紹介したが,これは産業投資のリスクを分析する手がかりになり得る。そこで,2005年度末で純資産額/資本金の比率が低い機関の一覧表を作成してみた。なぜこれら機関の資本が毀損しているのか,産業投資のリスクはどうなっているのか。これを足がかりにして,世論の関心が高まることを期待したい。

 財政制度等審議会にある公会計基本小委員会の専門委員をしており,公会計改革には若干の関わりがあるので,今回はその活用方法を提案してみた。

(参考)
 2005年度末の産業投資勘定の出資金の評価は決算書と省庁別財務書類で,以下のようになっている。
決算書 3.59兆円(取得原価で評価)
 JT・NTT株 0.31兆円
 その他機関 3.28兆円
省庁別財務書類 7.62兆円
 JT・NTT株 4.75兆円(市場価格で評価)
 その他機関 2.87兆円(取得原価に強制評価減適用)
ちなみに,その他機関の出資分に相当する純資産額の合計は7.28兆円である。

「産業投資特別会計(産業投資勘定)平成17年度財務書類」は下記のURLに掲載されている。
http://www.mof.go.jp/jouhou/kaikei/zaimu/190330.htm

(関係する過去記事)
「埋蔵金探訪(3):産業投資特別会計(産業投資勘定)」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/366183.html

「省庁別財務書類」では,産業投資特別会計(産業投資勘定)が出資する法人の資本金と純資産額の詳細が報告されている。財投機関の剰余と欠損が一覧できるという,重宝な資料である。欠損が生じている機関については,その機関の事業と財投の関与の妥当性を検討すべきであろう。
 今回の記事は,2005年度末で資本金166億円に対し純資産額が2.81兆円という,桁違いの剰余をもつ公営企業金融公庫の話。

 公営公庫の事業は,政府保証債を発行して地方公営企業に融資することだが,融資期間が債券満期よりも長いために,金利リスクを抱えている。それに備えた債券借換損失引当金が2005年度末の貸借対照表で2.6兆円となっていた。総資産25.9兆円の10%に及ぶ。
 この水準が妥当かどうかという問題がある。金利変動準備金は必要な額を計上して,それを上回る剰余金は国庫に納付すべきものである。低金利が続くなかで生じた剰余金が一切国庫に納付されず,公庫内に積み立てられてきたことで,引当金が形成された。またALMを通して必要な準備金を圧縮する努力もせず,漫然と融資期間よりも短期の資金調達をおこなってきた。
 公営公庫は政策金融改革の一環で,2008年10月に地方共同法人化される。公営公庫は産業投資勘定が100%出資する金融機関なので,いくらで地方に譲渡するかという問題が生じる。2006年6月に政策金融改革推進本部と行政改革推進本部が決定した「政策金融改革に係る制度設計」では,「公庫が保有する既往の資産・負債は、デューデリジェンスに基づき適切に同組織に移管・管理する」とされた。債券借換損失引当金の価値があれば,それを国庫に引き上げ,地方がその分の出資をおこなうことになるはずだが,結果的に,地方が出資なしですべてを継承することで決着した。
 ところが,新組織移行時に約3.4兆円になると見込まれる債券借換損失引当金は金利変動準備金として,1.2兆円が既往債権に対応する準備金,2.2兆円は新たな貸付業務のための財務基盤とされることになった。引当金は適正水準でもなかったし,無価値でもなかったことになる。
 どういうデューデリジェンスがされたのか,理解に苦しむ。

 今回の記事は,おっとり刀で埋蔵金を探しにきたら,誰かに召し上げられていましたというお話である。引当金を地方が継承する理由として,剰余は地方が支払う金利で形成されたという主張が平然と横行していた。融資で生じた利益は出資者に帰属するのが,民間での常識である。政策金融改革のときに世論の関心がもう少し高ければ,民間の常識では考えられない話がまかり通ってしまうことは避けられたかもしれない。

 世論の関心はときに興味本位であったり,変な方向に議論が流れることもある。それに振り回されることなく,問題の本質をとらえることが経済学者の役割である,霞が関埋蔵金ブームに便乗して,記事をシリーズ化したことは,一緒に流されてしまう危険もはらむ。しかし,改革を進めるには世論の関心が重要であることが,公営公庫の教訓である。正しい方向へ世論を喚起するように,この機会を少しでも利用したいと思う。

(参考文献)
「公営企業金融公庫の廃止」(国立国会図書館 調査と情報No. 556)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0556.pdf

(参考)
「政策金融改革に係る制度設計」
http://www.gyoukaku.go.jp/news/h19/news0313_2.html

「公営企業金融公庫廃止後の新組織について」(総務省・財務省)
http://www.gyoukaku.go.jp/genryoukourituka/dai24/siryou1.pdf

 2007年度補正予算についてのことだが,2008年度予算とも密接に関わる話でもある。
 福田首相が総裁選で公約とした高齢者の医療費負担を軽減する施策が,2007年度補正予算に高齢者医療制度円滑導入関係経費1719億円として盛り込まれた。2006年の医療制度改革で高齢者の負担増が決まったが,これを1年間凍結ないし軽減するもの。2008年4月から70〜74歳の医療費自己負担を1割から2割に引き上げる措置を1年間凍結する。同時期に発足する高齢者医療制度の保険料(75歳以上の高齢者が負担)を9月まで凍結,10月から2009年3月まで9割軽減する。
 この措置は,財政法が定める「会計年度独立の原則」に反する。
 財政法第12条に,「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。」という規定がある。今回の負担軽減のための財政支出は誰がどう見ても2008年度の経費であり,これは2008年度予算に計上して,2008年度の歳入をあてるべき,というのが財政法の意図である。
 会計年度独立の原則の例外として,繰越がある。財政法第14条の3では,「その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内にその支出を終らない見込のあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に繰り越して使用することができる」とされている。しかし,今回の経費は翌年度に発生することが最初から明白なので,繰越で処理することはおかしい。

 今回の措置となったことには2つの事情がからむと推測されている。第1に,2008年度当初予算には年金・医療等の経費を自然増の水準から2200億円削減するというシーリングがあり,新たな歳出増を盛り込むことが難しかった。第2に,当初予算に入れることで軽減措置が恒久化する流れになることを回避した。
 かりに財政法に違反するとしたらどれだけ深刻な問題かといえば,きわめて深刻というものでもない。会計年度独立の原則を置く趣旨は,財政規律を守るためである。翌年度の歳入を今年度の経費の財源としてもよい,さらには100年後の歳入でもよい,ということになれば,いくらでも借金してよいことと同じになる。ただし,今回の措置は逆方向の年度不一致であり,今年度の歳入を翌年度の経費に充てている。これは貯蓄になるので,財政規律が損なわれる話ではない。また,1年限りの措置であれば,1年経過すれば,歳出を2007年度にしたか2008年度にしたのかの違いは消えてしまい,後に尾を引く話ではない。弊害があるとすれば,透明性が損なわれることである。
 また,そもそも赤字国債も歳入に含めて予算編成している現状では,当年度の歳入が将来の税収であったりするので,会計年度独立の原則を振りかざせば,財政規律が保てるわけでもない。この意味では,財政法にこだわってもどうか,財政法の規定にも課題がある,という考え方もあり得る。

 しかし,法律は法律である。事情はどうであれ,法律違反の予算は作れない。今回の措置が財政法に反しないという説明が説得力をもってできるのだろうか。

(参考)
2007年度補正予算の情報は下記のURLにある。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h19/hosei191220.htm

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