岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

財政

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「霞が関埋蔵金」論争の出発点は,11月の自民党財政改革研究会の中間とりまとめ(案)が,民主党の参院選マニフェストを批判した,下記のくだりである。

「民主党主要政策では、補助金の一括交付金化や特殊法人等の原則廃止等により総額で15兆円を超える財源が捻出できるとの具体的な根拠のない提言がなされている。これに関しては、下記の問題があり、いわゆる『霞が関埋蔵金伝説』の域を出ないものである」

 そして,「霞が関埋蔵金」について,

「なお、特別会計の中には、多額の積立金等を有する会計があることから、財政赤字の縮減や税負担の軽減に使える『埋蔵金』が存在するとの指摘もある。しかしながら、例えば保険事業を行う特別会計では保険料を将来の給付等に備えるために積み立てているなど、特別会計の積立金等は各々に目的や理由が存在する。また必要以上のものについては、一定のルールに基づいて財政貢献する(一般会計や国債整理基金特別会計へ繰り入れる)ことが、既に財政健全化を行うにあたっての前提となっているため、『埋蔵金』といったものはない」

と説明している。
 これに対して中川秀直元幹事長が「埋蔵金は実在する」と主張して,埋蔵金の多寡について自民党内で論争が巻き起こり,注目を浴びた次第である。2008年度に財政融資資金から9.8兆円を国債整理基金特別会計に繰り入れることになり,埋蔵金実在説に軍配があがった。
 論争がこれで終結すると,「民主党主要政策=霞が関埋蔵金伝説」は,民主党の主張も間違っていないことを意味してしまう。「歳出の無駄を排除すれば増税は回避できる」という民主党の主張と,「もはやそのような余地は無く,増税は避けられない」という自民党財政再建派の主張は,次期総選挙での大きな論点になると思われるので,より議論が深まることを期待したい。

「自民党財政改革研究会 中間とりまとめ(案)」
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/pdf/seisaku-026.pdf

債務残高の指標

[2009年8月12日追記:この記事は「債務残高の指標(2009年更新版)」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30219832.html )によって更新されました。]

 政府の債務残高に関しては,いくつかの資料があり,まぎらわしいので整理してみる。

 財務省がまとめているものに,「国と地方の長期債務残高」があり,2007年度末見込(予算)で,
 国  607兆円程度
 地方 199兆円程度
 国・地方重複分 33兆円程度
 合計 773兆円程度
となっている。

 経済財政諮問会議の方で財政運営の指標となる債務残高は「公債等残高」と呼ばれ,2007年度は736.4兆円とされている。公債等残高の詳細については,滝実衆議院議員の質問に対する答弁書(内閣衆質166第62号)に説明がある。

 両者の関係がわかるように,下表では,国と地方の長期債務残高の内訳を示し,公債等残高に含まれるものに○を付している。

              2007年度末残高
               見込(兆円)
○普通国債残高          547
 交付国債,出資国債等        3
○一般会計借入金          19
 特別会計借入金          38
○ うち交付税特会借入金      33
○地方債残高           139
 公営企業債残高(普通会計負担分) 27

 債務の内訳に関する資料は,国の長期債務が「国の長期債務について」,地方の長期債務の内訳は,「地方財政の借入金残高の状況」として総務省から公表されている。
 以上の国の長期債務には財投債(143兆円,2007年度末見込)が含まれないことに注意されたい。財投債と政府短期証券も含んだ計数が「国債・借入金残高の種類別内訳」(892兆円,2007年度末見込)として公表される。その合計額は,OECDの「Central Government Debt」に,Total Government Debtとして報告される。さらに政府保証債務を加えた「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」が四半期ごとに財務省から公表されている。

 基礎的財政収支の黒字化後は,債務残高の推移が重要な政策目標になるので,よく似た概念が複数流通することは混乱を招く。債務はできるだけ包括的にとらえることが望ましく,まずは諮問会議の方でも「国と地方の長期債務残高」を使って,指標の統一化を図るべきであろう。

 その先には『国民経済計算』との調和という課題があるが,機会があればあらためて論じたい。

(参考)
「衆議院議員滝実君提出経済モデルによるシミュレーションに関する質問に対する答弁書」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b166062.htm

「国と地方の長期債務残高」
「国の長期債務残高について」
「国債・借入金残高の種類別内訳」
は,随時,下記のURLのもとに掲載される。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy_new.htm

「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」
は,四半期ベースで下記のURLのもとに掲載される。
http://www.mof.go.jp/1c020.htm
「『国債及び借入金並びに政府保証債務現在高』に関する細く説明」に,国と地方の長期債務残高との関係が説明されている。
http://www.mof.go.jp/gbb/1909hosoku.pdf

「地方財政の借入金残高の状況」
は,下記のURLのもとに掲載される。
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei.html

公債等残高は,中期方針の参考資料(内閣府作成)に掲載される。「進路と戦略」の分は,下記のPDF文書にある。
http://www.keizai-shimon.go.jp/cabinet/2007/decision0710_03.pdf

 財政投融資の「投」の部分を担当するのが,産業投資特別会計(産業投資勘定)。
 法律上は,この勘定には積立金は存在しない。しかし,貸借対照表では,資本,利益積立金,本年度利益の合計が2007年度末で3.67兆円である(当初予算見込み)。資産の大半は出資金(3.64兆円)である。霞が関埋蔵金をめぐる記事であえて取り上げたのは,この出資金に正当な政策目的があるのかをあらためて検討してみたいからである。
 財政投融資のIR資料である「財投リポート2007」は,産業投資を「国が保有するNTT株、JT株の配当金や国際協力銀行の国庫納付金などを原資として、産業の開発及び貿易の振興のために産業投資特別会計が行う投資です」と説明している。
 2007年度予算では,運用収入396億円のうち,
  国際協力銀行納付金 81億円
  日本たばこ株式会社配当金収入 80億円
  日本電信電話株式会社配当金収入 212億円
が大半を占めている。そして,財政投融資に321億円が使われる。
 JTとNTTは財投機関ではなく,他の財投機関への出資とは違った性格のものである。下記の法律が示すように,財投の原資を得ることが目的である。

産業投資特別会計法(現在は廃止)附則第17条
「日本たばこ産業株式会社法(昭和五十九年法律第六十九号)附則第十条の規定により政府に無償譲渡された日本たばこ産業株式会社の株式の総数の二分の一に当たる株式及び日本電信電話株式会社法(昭和五十九年法律第八十五号)附則第三条第十二項の規定により政府に無償譲渡された日本電信電話株式会社の株式の総数の三分の一に当たる株式は、この会計の資本の充実に資するため、一般会計から無償でこの会計に所属替をするものとする。」

 JT・NTT株を積立金になぞらえれば,積立金の果実が特別会計内で流用されているという図式である。産業投資勘定の剰余金は一般会計に繰り入れられることになるが,ガバナンスが適切に働かなければ,その前に不適切に使い込まれてしまうおそれがある(フリーキャッシュフローの問題)。
 原資の発生と産業投資のニーズにはまったく関連がない。この2つが紐づけされる現在の形は,かつて財投に郵貯・年金積立金が預託されていた時代のように「はじめに原資ありき」の状態になる芽を潜在的にもつ。
 現在の方式に変えて,JT・NTT株を一般会計ないし国債整理基金特別会計保有として,産業投資に必要な額をその都度,一般会計から繰り入れる方式にした方が資金の流れの透明性が増す。

(参考)
「財投リポート2007」
http://www.mof.go.jp/zaito/zaito2007.html

「日本たばこ産業株式会社の民営化の進め方に関する中間報告」(財政制度等審議会たばこ事業部会,2002年12月)
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/tosin/tabakoa131212a.htm

 財政融資資金特別会計の積立金は,2007年度末で19.6兆円になる(当初予算見込み)。霞が関埋蔵金に注目が集まったところで,ここから10兆円を取り崩すことになり,たたけば埋蔵金が出てくるような受け止め方をされているが,もう少ししっかり考えるべきである。
 期末の貸借対照表には繰越利益(金利変動準備金)と本年度利益に分かれて計上されるが,この記事では一括して金利変動準備金の役割をするものとして扱う。
 財政投融資の意義の1つに,民間では提供できない長期資金を供給できることがあげられており,財政融資資金も調達した資金よりも長期での資金供給をしている。これを期間変換機能と呼ぶが,金利が変動した場合に損失を被るリスクがある。このため,短期での資金運用を同時におこなって,金利変動リスクを回避するための資金が,財政融資資金の積立金の役割と整理される。
 金利変動準備金を適切に積んでいるかどうかの検証では,2つの視点が大事である。
(1)
 財政投融資が提供する長期資金が民間で提供できないとすれば,その金利リスクを民間で負担することが困難だということになる。その一方で,財政融資資金(旧資金運用部)は民間金融機関に先駆けて,金利リスクを管理する手法(ALM)を導入して,基本的には金利リスクはないと説明されている。拙稿「日本の財政投融資」では,ならばALMは民間でもできる手法であるので,長期資金の供給(期間変換機能)は財投の意義とはならないのではないかと指摘した。
 もし民間で同等の期間変換ができて,長期資金が供給されれば,資産と同等の期間の資産を調達して,金利リスクに備える準備金をなくすことができる。
 金利変動準備金の規模は財政融資資金規模の10%と政令で規定されているが,資金調達の長期化ができれば,この比率を下げていくことができる。
(2)
 財政融資資金による融資規模が縮小すれば,準備金率が一定でも,必要となる金利変動準備金も小さくなる。
 行革推進法に沿って,2006〜2015年度で財政融資資金貸付金を130兆円超縮減する目標があるので,これに沿って,今後も準備金が取り崩されることが予想される。これからも一層,財投の事業を見直すことが必要である。

(参考1)
拙稿「日本の財政投融資」は,高山憲之編『日本の経済制度・経済政策』(東洋経済新報社刊)に収録されています。記事末尾にAmazonへのリンクがあります。

(参考2 ALMの考え方の簡単な解説)
 銀行を例にとって,ALMによる金利リスクの管理方法を簡単に説明します。
 年利1%で1年満期の定期預金で資金を調達して,年利2%で5年間の融資をすると,最初は1%の利ザヤが生じるが,翌年に金利が上がり,1年定期を年利3%でしか販売できないと,1%の逆ザヤになる。これが金利変動リスクである。かりに3年間の融資資金を3年満期の定期預金で調達していれば,途中で金利が変動しても,利ザヤに変更がない。
 さまざまな資産を保有している場合のALMを単純にいってしまうと,資産と負債の平均残存時間をそろえることになる。
 財政融資資金の政策目的の融資は期間が長く,資金調達手段である財投債の満期よりも長い。このため,別に短期資金を運用して,資産側の平均残存期間を短くして,負債の残存期間に合わせるようにしている。

(参考3 財投のALMの現状)
下記資料の41ページ以降に,財投のALMに関係する説明がある。
第1回財政投融資に関する基本問題検討会 資料2(2007年2月23日)
http://www.mof.go.jp/kentoukai/gyouseiunei/kihonmondai/siryou/190223_02.pdf

(参考4 関係する法令条文)
 財政融資資金特別会計は2008年度から財政投融資特別会計財政融資資金勘定になるが,変更後に適用される条文を引用する。
特別会計に関する法律
(積立金)
第五十八条
 財政融資資金勘定において、毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、当該剰余金のうち、当該年度の歳入の収納済額(次項において「収納済額」という。)から当該年度の歳出の支出済額と第七十条の規定による歳出金の翌年度への繰越額のうち支払義務の生じた歳出金であって当該年度の出納の完結までに支出済みとならなかったものとの合計額(次項において「支出済額等」という。)を控除した金額に相当する金額を、積立金として積み立てるものとする。
2 財政融資資金勘定の毎会計年度の決算上収納済額が支出済額等に不足する場合には、前項の積立金から補足するものとする。
3 第一項の積立金が毎会計年度末において政令で定めるところにより算定した金額を超える場合には、予算で定めるところにより、その超える金額に相当する金額の範囲内で、同項の積立金から財政融資資金勘定の歳入に繰り入れ、当該繰り入れた金額を、同勘定から国債整理基金特別会計に繰り入れることができる。
4 財政融資資金勘定において、毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、第八条第二項の規定は、適用しない。

特別会計に関する法律施行令
(積立金からの国債整理基金特別会計への繰入れに関する算定)
第四十五条
 法第五十八条第三項に規定する政令で定めるところにより算定した金額は、同条第一項の積立金の額から法第五十六条第一項の繰越利益の額を控除した額に法第五十四条第二号に掲げる当該年度の予定貸借対照表上の資産の合計額の千分の百に相当する額を加えた金額に相当する金額とする。

 特別会計の積立金は,正当な政策目的に基づいて積み立てられるべきものである。正当な理由もなく,それ以上に特別会計に存在する積立金が「埋蔵金」となる。2007年に成立した「特別会計に関する法律」では,こうした埋蔵金が蓄積されないように一般会計に繰り入れる仕組みが整備された(第8条第2項。第8条を以下に引用)。

「(剰余金の処理)
第八条
 各特別会計における毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合において、当該剰余金から次章に定めるところにより当該特別会計の積立金として積み立てる金額及び資金に組み入れる金額を控除してなお残余があるときは、これを当該特別会計の翌年度の歳入に繰り入れるものとする。
2 前項の規定にかかわらず、同項の翌年度の歳入に繰り入れるものとされる金額の全部又は一部に相当する金額は、予算で定めるところにより、一般会計の歳入に繰り入れることができる。」

 ただし例外として,財政融資資金特別会計からは国債整理基金特別会計に繰り入れる。また,交付税及び譲与税配布金特別会計と国債整理基金特別会計は,第8条第2項が適用されない。
 埋蔵金が蓄積されることは特別会計へのガバナンスが適切に働いていないことの証左である。特別会計を厳しく検証することが,結果として埋蔵金の発掘に結びつくのである。気楽に一攫千金をねらうような話ではない。
 これまでの研究で特別会計に関わってきた経緯から,特別会計の積立金に関した記事がいくつか書けそうなので,番号をつけて掲載していきたい。
 まずは,特別会計の積立金の全体像を財務省作成のパンフレット「特別会計のはなし」によって見てみよう。

下記資料の26ページ
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/tokkai1904/tokkai1904_03.pdf

 2005年度決算での特別会計の積立金等残高は210.8兆円で,その内訳は,
  157.3兆円 保険事業の特別会計合計
  15.6兆円 外国為替特別会計
  11.4兆円 国債整理基金特別会計
  26.4兆円 財政融資資金特別会計
  0.1兆円 その他
とされている。埋蔵金があるとして,大きなものがある場所は限られていることがわかる。

 次回は,「財政融資資金特別会計」です。

(参考)
2007年度予算政府案資料「特別会計の見直しについて」
http://www.mof.go.jp/seifuan19/yosan006.pdf

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