岩本康志のブログ

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財政

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財政,予算の話題です
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 野党は予算を作らない。予算を作るのは,政権党の責任である。
 民主党政権が最初から携わるものとして初めて概算要求基準が26日,閣議決定された。
 昨年までとは予算編成のプロセスが大きく変わった。経済財政諮問会議で「骨太の方針」が作られた時期には,政府が何をしたいのかが首相主導により「骨太の方針」で示されてから,概算要求基準が決められていた。今回の概算要求基準では,「元気な日本復活特別枠」は,マニフェストの実現,デフレ脱却・経済成長に特に資する事業,雇用拡大に特に資する事業,人材育成、国民生活の安定・安全に資する事業と何でもあり。予算の削減は一律1割と,政権が何をやりたいのかがまったく見えてこない。
 経済財政諮問会議は,いまも内閣府設置法で設置することとされている組織である。諮問会議は違法に廃止され,予算編成は密室で決められている。概算要求基準では,特別枠が「1兆円を相当程度に超える」等,多くの懸案が玉虫色の決着となっており,密室でも決められてない状態となっている。いかに議論が詰められていないかは,昨年の自公政権時の概算要求基準の文尾と比較してみればわかる。昨年は「行う」,「実現する」という表現が目につくが,今年は「全力で取り組む」,「全力をあげる」だ。

 昨年の衆院選マニフェストには,新規施策の財源の確保策についても記されていた。「【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/28842144.html )で指摘したような問題点はあったが,一応は政権を担当する責任を示したものであった。予算はつけるよりも削ることがはるかに難しい。既存の歳出削減による財源の確保がなければ,マニフェストの新規施策は実現できない。ところが,概算要求基準には,歳出削減の具体策はない。各大臣が「査定大臣」になって歳出削減に取り組むそうだが,マニフェストでの歳出削減を実現する責任者は誰なのだろうか? 結局,マニフェストは単なる机上の空論だったことが露呈した形だ。例えば人件費は,衆院選マニフェストでは2割削減としていたが,概算要求に具体的な数値目標はない。「各大臣において抑制・削減に取り組むと同時に、政府全体でも抑制・削減に全力で取り組む」とだけ書かれている。

 復活した民主党政策調査会は,特別枠を2兆円とするよう要求するなど,歳出削減は「査定大臣」に任せ,族議員化する兆しを見せている。官邸は官邸主導の「演出」に腐心していることが意味するように,実際に主導するのは財務省になるだろう。かつての,族議員対財務省,という図式が復活しそうだ。
 自民党の族議員は長年の政権経験で,落とし所をわきまえていた。それは傍目には官僚依存とも見える。民主党の「政治主導」による予算編成は,懸案が決められなかった昨年末の混乱が再現しそうな予感を抱かせる。財務省主導がせめてもの幸い,というのは不幸な状態である。
 政治家個人は,自分の思う政策を実現させたい,という熱い思いで動いているのだろう。だが,一般会計・特別会計合わせての業務費用124兆円(2008年度,『国の財務書類』)になる巨大組織にはさまざまな思惑が働く。それを整理して,予算に落とし込むまでの様々な工夫が長年にわたって積み重ねられている。政治主導で簡単に予算が組める,とそれらを安易に取り除いたことで,結果的に退行した予算編成プロセスが進行している。

(参考)
「平成23 年度予算の概算要求組替え基準について」(2010年7月27日閣議決定)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h23/sy220727.pdf

「平成20年度 国の財務書類」(財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/fs/2010.htm

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/28842144.html

「ままごと」と「まつりごと」の間
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33244085.html

 30日の読売新聞に財政再建・消費税に関するインタビュー記事が掲載されました。

 皆さんの関心が高い消費税については,短いスペースでは意を尽くせないので,こちらで補足説明しておきたい。
 19日のブログ記事「明細なき請求書」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33388771.html )で,「消費税率を10%に引き上げることは,私には異論はない」と書いた。予算の無駄を削ってもいずれは消費税を10%以上に上げなければいけないだろうから,消費税10%の是非はもはや議論の対象ではなく,いつ引き上げるのかというタイミングの問題だ。
 増税を遅らせれば将来へのつけ回しが増える,景気が悪いなかで早まれば経済に悪影響が出る。この間の難しいバランスをとって決めていかなければならない。また,一気に5%引き上げは,経済がよほど好調でないと実行できないだろう。2段階で引き上げる,または一気に上げるときは一時的な減税と組み合わせて負担増をならす,という工夫が必要だ。
 増税にともない,低所得者への配慮策,捕捉の問題等はいまから時間をかけて議論していいが,実際の引き上げは,景気の動向を見極めるために,直前に決めればいい。

 タイミングが問題だ,という考えなので,「消費税増税についてどう思うか」という質問には答えづらい。具体的な案に対して,賛否をのべた方がいいだろう(ブログ記事「明細なき請求書」で議論したように,増税分の使途が明確になっていることが前提である)。
 2011年度に消費税率引き上げ 反対
 2012年度に消費税率5%引き上げ 反対

 現状で私が望ましいと考えるのは,
2012年秋に消費税率2〜3%引き上げを計画,2011年度末に景気の動向を見極めて最終決断。残りの2〜3%は,最初の引き上げ後に時期を判断。
である。今後の経済情勢次第では,望ましい案も変化するかもしれない。

(関係する過去記事)
明細なき請求書
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33388771.html

 衆議院は政権選択選挙,参議院は中間評価選挙と呼ばれる。来月の参院選の主題は,現政権がこれまで何をしたのか,を昨年の衆院選マニフェストを中心に検証することにある。
 参院選の結果がどうであれ,衆議院の議席配分は変わらない。政権交代は起こらないから,野党のマニフェストの重みは衆院選とはまったく違うので,今回の記事では無視する。

 民主党の衆院選マニフェストは,4年間で16.8兆円の新規施策とその財源を詳細に示していた。数値と時期を明確にすることで事後的な検証が可能になり,公約が反故になる可能性を減らすことができる。選挙で政策を選択するようになるためには,マニフェストに基づいて有権者が判断し,マニフェストに基づき政権の実績を評価する手続きが定着することが不可欠である。これまでの参院選ではマニフェストが定着していなかったので,政権党にこうした厳格な評価基準が適用されることはなかった。政権党の直面するハードルが上がったことになるが,これは有権者の利益に資する変化である。
 昨年のマニフェストの問題点は,予算の無駄を削って巨額の財源を確保することが可能か否かであったが,政権が最初の予算を編成してみて,案の定,それが実現不可能なことが明らかになった。目玉政策であった,子ども手当の満額支給は断念され,高速道路無料化の行方も定かでない。
 こうしてマニフェストは行き詰ったわけだが,それをそのまま掲げるよりは,今回のように現実的なものに変更した方がいい,といえる。
 しかし,簡単に行き詰ってしまうマニフェストを政権選択選挙で掲げてしまったことは,政権を担当する責務をまったく軽んじていたということであり,厳しくマイナス評価をせざるを得ない。昨年に,今回のような現実的な路線で数値の入ったものを出してもらいたかった。
 挽回したいのならば,(1)衆院選マニフェストが行き詰った問題点を洗い出して反省し,(2)時期と数値の入った,詳細な修正案を示すべきであっただろう。しかし,どちらの条件も満たされていない。

 以上は,マニフェスト選挙の手続きに基づく評価であって,政策の具体論に入らない,形式的なものといえる。しかし,このマニフェストでは,具体的な政策を論じることは困難である。マニフェストには,「新たな政策の財源は,既存予算の削減または収入増によって捻出することを原則とします」(いわゆるペイアズユーゴー原則)と記されている。すると,いくらの財源が確保できるかわからないわけだから,マニフェストに書かれている施策のどれを実現することになるかもわからない。このため,政策の具体的な評価は不可能である。

 民主党の政権運営で目についたのは,政局重視,選挙重視の姿勢である。これも大きなマイナス評価になる。国民が政策で政権を選べるようになるためには,政党が政局・選挙重視の行動原理をとるようでは,国民は政策で政権を選べない。
 かりに民主党が来月の参院選で勝つと,選挙重視の姿勢は正しかったと彼らは信じることになるだろう。そうなることは,日本の将来に大きな禍根を残す。

(参考)
「民主党の政権政策Manifesto2010」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html

「自民党政策集J-ファイル(マニフェスト)」(自由民主党)
http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/22_sensan/index.html

(関係する過去記事)
「【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/28842144.html

「政策と政局」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/31826246.html

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明細なき請求書

 民主党と自民党の参院選マニフェストでの消費税の扱いは小さい。しかし,民主党マニフェスト発表時の菅首相の「消費税率10%」発言がメディアで大きくとりあげられ,消費税が脚光を浴びている。
 消費税率を10%に引き上げることは,私には異論はない。しかし,増税はそれ自体が目的ではない。国民から移転した所得を何に使うのか,政治家はそれをきちんと説明することが先決である。
 税率5%分の消費税額は約12兆円である。その使い道は,財政赤字を縮小させるためなのか,将来に増加する社会保障支出のための財源なのか,新規施策のための財源なのか,法人税減税を埋める財源なのか。
 自民党は,昨年まで政権にいた時期の議論の蓄積から,それぞれの課題をどうしたいのかについて,ある程度の方向性は見えている(注)。
 しかし,民主党の場合は,予算の無駄を9.1兆円削減する,という昨年の衆議院マニフェストの骨格が崩壊しており,何をしたいのかがわからなくなった。これでは,消費税10%は明細なき請求書である。「政府は使い方を間違わないから,白紙委任で12兆円寄こせ」という主張ではなく,増税分を何に使うのかを早急に明らかにするべきだ。

 2つ,具体的な問題を挙げておこう。
(1) 5%の増税分は国と地方にどう配分するのか。現行の消費税率5%は,じつは国税の消費税が4%,地方税の地方消費税が1%である。法律では,まず消費税法には「消費税の税率は,百分の四とする」と書いている(第29条)。そして,地方税法で,消費税額に25%の地方消費税を課すとされている。消費税率を10%に上げた場合,国税分8%,地方税分2%になるのか。それとも国と地方に,需要に応じて配分するのか。これは,従来から大いに揉めてきた問題である。きちんと決着をつけてから数字が出てこないと本来はおかしい。
(2) 消費税を10%に引き上げれば,わが国の財政は安定する,という話でもない。高齢化がさらに進むことで,今後10年間のうちに,さらに消費税を引き上げる必要性が出てくる。だから,今回の消費税引き上げで,いつの時点までの社会保障費の増加分をまかなうつもりなのかが示されないと,先のことは何も考えていないに等しい。

(注) マニフェストの「当面10%とする」と書かれた個所の前に,社会保障費に関する数値が記されているが,これと10%の税率の間には明瞭な関係がないので,自民党マニフェストでも,これとは別に積算根拠が必要である。

(参考)
「民主党の政権政策Manifesto2010」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html#pdf

「自民党政策集 J-ファイル2010(マニフェスト)」(自由民主党)
http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/22_sensan/pdf/j_file2010.pdf

(関係する過去記事)
「消費税率はどこまで上がるか」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/19492657.html

「【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/28842144.html

今後4年間の財政収支

 国家戦略室は1月25日に,「中期的な財政運営に関する検討会」の第1回会合を開き,今年前半に「中期財政フレーム」をまとめる作業に入った。しかし従来は,この時期に経済財政諮問会議で財政の中期展望が示されていた。今年は内閣府が5日に発表した「国・地方の基礎的財政収支・財政収支の推移」で過去の実績は示されたが,将来の見通しは示されていない。現政権は中期展望を示す時期を遅らせている,というのが正しい。
 財政の動向については,財務省が4日に「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」を発表している。これをもとに,2011年度以降の財政収支の動向を考えてみよう。
「後年度影響試算」とは,政策を変更しないで現状のまま進んだらどうなるかを示した試算であって,政府がその通りに予算を組むという約束をするものではない。中期的な問題を見つけて,それにどう対処するのかを考える出発点となるものである。具体的には,2011年度予算に向けての議論の参考資料となる。
イメージ 1

 上の図は,「後年度影響試算」から,2010年度から2013年度までの国の一般会計の基礎的財政収支(対GDP比)を計算して,示したものである。2009年度は補正後予算に基づき,いわゆる埋蔵金は赤字額に加えている。金融危機の発生前に「国債発行は減額に,しかし...(進路と戦略2007)」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1384967.html )で紹介したときは,1%程度の赤字であったのが,大きく膨らんだ。税収の回復で収支の改善が見込めるが,それでも2013年度には金融危機前の水準まではとても回復しない。

 当然,債務残高も膨らむ。財務省が4日に発表した「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」では,2019年度末までの公債残高の試算がされている。「国の借金973兆円」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32078272.html )等で使っている総政府債務残高はこの公債残高に加えて借入金等を含んでいるが,後者の将来予測は難しい(政策の前提として適当なものを見つけにくい)。従来は政府債務を自分で将来に延長することは控えて,中期財政展望での公債等残高の動きを見ていたのだが,今年は中期財政展望がない。そこで,非常に単純化された想定であるが,公債以外の政府債務が2010年度末以降は一定額であるとして,2013年度まで延長してみる。
 国際通貨基金(IMF)は,2014年までの一般政府の債務残高を予測しているが,それと対比させたのが,下の図である(対GDP比)。
イメージ 2

 両者は概念的に違うものだが,ほぼ平行して動いている。つまり,IMFと財務省の見通はほぼ共通しており,債務残高がこれからも増えていく。

 総政府債務残高の長期推移に上の予測値を追加したものが,下の図である。予測値は単純化された想定に基づくので,2011年度以降は点線にしている。
イメージ 3

 この点線部分をこれからどうする,というのが,前年度までは予算編成と同時に考えていたことであり,鳩山政権は積み残していることである。

[2010年4月21日追記:2011年度以降のGDPは,「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」の想定に基づいている。]

(参考)
「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(財務省,2010年2月4日)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/sy2202a.pdf

「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」(財務省,2010年2月4日)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/sy2202b.pdf

「国・地方の基礎的財政収支・財政収支の推移」(内閣府,2010年2月5日)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h22pbbggv.pdf

World Economic Outlook Database, October 2009
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2009/02/weodata/index.aspx
IMFの見通しが収録されている。財政状況は下記のレポートで詳しく分析されている。
The State of Public Finances Cross-Country Fiscal Monitor: November 2009
http://www.imf.org/external/pubs/ft/spn/2009/spn0925.pdf

(関係する過去記事)
「国債発行は減額に,しかし...(進路と戦略2007)」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1384967.html

「国の一般会計の基礎的財政収支(埋蔵金調整済)」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/21899061.html


「債務残高の指標(2009年更新版)」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30219832.html

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