岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

財政

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財政,予算の話題です
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 もし道路特定財源が一般財源化されて,道路整備以外に充てられるようになれば,なぜ高い税率が課せられるのかがきちんと説明される必要がある。有力なのは,自動車利用にともなう外部費用(利用者が費用を払わないが,社会的な観点からは経済損失となるもの)の負担を利用者に求める,ピグー税の考え方である。また,ピグー税は一般財源と考えるべきものであり,その税収をすべて道路建設に使うことを示唆しない。
 3月24日の日本経済新聞・経済教室欄に,金本良嗣東大教授が,自動車利用の外部費用を計測して,ピグー税を課す場合の税率を示している。計算の詳細が示された原論文「道路特定財源制度の経済分析」は,金本教授のWebサイトからダウンロード可能(http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~kanemoto/bc/NKK2006.pdf)である。
 この計算の枠組みは,Parry and Small (2005),Parry, Walls and Harrington (2007)に沿っており,国際的に認知された手法である。現在の道路延長が固定された短期の状況を考えて,自動車利用で生じる外部費用のうち代表的なものをリストアップし,文献調査で妥当な推計値を求めて,積算していく。Parry and Small (2005)が米国と英国について計算し,Parry, Walls and Harrington (2007)が米国についての後続研究となっている。
 これらの推計を比較してみよう。幅をもたせた推計がされ,低位値,中位値,高位値が設定されているが,ここでは中位値のみを比較する。いずれも2000年価格で表示されているので,2000年の購買力平価1ドル=152円,1バレル=3.785リットルを使って換算した。米国は,Parry, Walls and Harrington (2007)の結果による。
 望ましいガソリン税の負担は,
 日本 124円/リットル
 米国  45円/リットル (111セント/ガロン)
 英国  54円/リットル (134セント/ガロン)
となっている。
 金本教授の求めた日本のガソリン税率が高いので,その理由を調べていこう。

 外部費用として積算されたものは,以下の通りである。外部費用は,燃料消費に関係する費用と走行距離に関係する費用がある(括弧内は,低位値と高位値の範囲。単位は省略)。

燃料消費に関係する費用
 地球温暖化の費用
  日本 19円/リットル(3−32)
  米国,英国 2.4円/リットル,6セント/ガロン(0.2−24)
 原油依存の費用
  日本,米国 4.8円/リットル,12セント/ガロン
走行距離に関係する費用(各国の燃費データをもとに燃料消費当たり費用に換算)
 大気汚染の費用
  日本 10円/リットル,1.1円/km(0.1−3.2)
  米国,英国 16.9円/リットル,2セント/マイル(0.4-10)
 混雑の費用
  日本 65.8円/リットル,7円/km(0−36)
  米国 42.2円/リットル,5セント/マイル(1.5−9)
  英国 72円/リットル,7セント/マイル(3−15)
 交通事故の費用
  日本 23.5円/リットル,2.5円/km(0.7−4.8)
  米国 25.3円/リットル,3セント/マイル(中位値の1/2.5−中位値の2.5倍)
  英国 24.7円/リットル,2セント/マイル(中位値の1/2.5−中位値の2.5倍)
 道路損傷の費用
  日本 0.9円/リットル

 ここから,いろいろと重要な事実が読み取れる。税率の水準に関して,大事なものを4つあげる。

(1)
 日本の温暖化費用が高めに設定されているが,ピグー税の推計結果の違いを説明できる大きさではない。日本のガソリン税が高く計算されているのは,燃料課税が燃費に与える影響の想定が違うことが主たる理由である。
 ピグー税を課すならば,燃料消費に関係する費用をガソリン税で徴収し,走行距離に関係する費用は何らかの走行距離課税で徴収する。ただし,走行距離課税は実務上困難であり,これをガソリン税で代替しているのが,上記の計算である。燃費(燃料消費と走行距離の関係)が税の影響を受けないならば,走行距離当たり費用を燃費固定の仮定のもとで燃料消費当たり費用に換算して,その分のガソリン税を課せばよい。
 しかし,ガソリン価格が上がることで,燃費が向上して,同じ燃料で走行距離が2.5倍に伸びるのであれば,燃料当たり費用の2.5分の1の税をかけることで,走行距離当たり費用の分の課税が達成される。米国・英国の研究は,このような想定を置いて,走行距離当たり費用の40%を課税するように考えている。
 ガソリン消費の価格弾性値は短期で-0.2程度,長期で-0.6程度である。ただし,最近は弾性値がこれより下がっているという見方も聞かれる。長期の弾性値が大きくなる理由のひとつには,短期では燃費は変化しないが,新しい自動車の燃費が改善して,長期的にはガソリン消費が抑制されることがある。Parry and Small(2005)は長期の弾性値を-0.55と置いた。燃費の反応は,長期と短期の弾性値の違いをほぼ説明する形になっている。
 日本の推計では,二村(2000)による,ガソリン消費と走行距離のガソリン価格に対する弾性値はともに-0.2であると推定結果に基礎を置いている。すなわち,ガソリン価格の変化は燃費に影響を与えないという想定になっているので,ピグー税の計算でも,税率が高くなる。同じ走行距離当たりの外部費用について,燃費の反応の違いによって,日本でのピグー税は2.5倍大きくなるというのである。
 ガソリン消費の価格弾力性は,現在もっとも重要な政策議論において,もっとも重要なパラメータである。長期弾性値が低ければ,燃費はあまりガソリン価格に反応しないだろう。弾性値の妥当な範囲が定まるまでに外国では数多くの研究が蓄積されてきたが,日本ではその研究の蓄積が薄く,燃費が反応しないという想定は,もしかすると真の姿とはかけ離れているかもしれない。もし,外国と同様の燃費の反応だとすれば,ピグー税は大きく低下する。
 別の角度から見ると,民主党が道路特定財源制度改革で主張するように,ガソリン消費の価格弾力性が低いのが本当だとすると,ガソリン税は高くなければいけない。

(2)
 上の議論は,道路延長が固定されているという前提である。まだ道路が足りないといって,道路を整備する場合には,建設費用の負担分にピグー税が上乗せされるものと考える(ただし,混雑の外部費用のいくらかは建設費用の負担に重なって,上乗せにならない可能性がある)。したがって,まず道路事業の適正な意思決定が重要である。その手順を踏んだ上で道路建設が必要ならば,暫定税率を含めたガソリン税を引き下げるのが正しい選択肢となる可能性は低いだろう。たとえピグー税の水準が英米での研究並みに低くても,同じである。
 真に必要な道路建設が大幅に少なくならなければ,ガソリン税の引き下げは政策の選択肢にはならないだろう。

(3)
 温暖化費用に対するピグー税は,他の費用に比べて小さい。温暖化による経済損失には諸説あるが,かなり大きな推計値をもってきても,揮発油税の暫定税率分を温暖化費用のピグー税と解釈することは難しそうだ。
 ピグー税を構成する種々のパラメータの推定値の信頼性を高めるように研究者は努力してきているが,まだまだ不安定なところがある。この場合には,温室効果ガスの削減目標が与件とされており,それを達成するための税(ボーモル=オーツ税)として,ガソリン税をとらえる方が適切だろう。その場合,かりに二村(2000)の弾性値をもとにしても,弾力性は低いがゼロではないので,ガソリン減税はわが国の温暖化対策とは逆方向の動きになるといえるだろう。

(4・やや専門的)
 Parry and Small (2005)の計算では,労働所得税がもたらす資源配分の歪みを考慮している。定性的には,ピグー税が税収をもたらすことで,労働所得税を減税して資源配分の歪みを減らすことができるので,ガソリンへの課税をより強めた方がいいことが示される。逆に言えば,ガソリン税減税の穴埋めを所得税増税でおこなうと,経済厚生が低下する(消費税増税で穴埋めするとどうなるかを調べた文献があるかどうかは,調査中です。もしなければ論文が1本書けます)。
 これは最近の専門的研究で注目されている議論であるが,定量的な評価には不確定な部分があり,政策現場で使うにはもう少し研究を積んだ方が良いように思う。金本(2007),Parry, Walls and Harrington (2007)が考慮の対象外としているので,ここでもそれに準じる。

(参考文献)
金本良嗣(2007),「道路特定財源制度の経済分析」,『道路特定財源制度の経済分析』,日本交通政策研究会
Parry, Ian W. H., and Kenneth A. Small (2005), “Does Britain or the United States Have the Right Gasoline Tax?” American Economic Review, Vol. 95, No. 4, September, pp. 1276-1289.
Parry, Ian W. H., Margaret Walls and Winston Harrington (2007), “Automobile Externalities and Policies,” Journal of Economic Literature, Vol. 45, No. 2, June, pp. 373-399.
二村真理子(2000),「地球温暖化問題と自動車交通:税制のグリーン化と二酸化炭素排出削減」,『交通学研究』1999年研究年報,137-146頁
「道路特定財源制度の改革について」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/pdf/20080202seido_kaikaku.pdf

たばこが安い国

 先進国のなかで日本はたばこが飛び離れて安い。
 たばこ産業の生産性が高いわけではなく,たばこ税が低いからである。3月4日に日本学術会議が出した要望「脱タバコ社会の実現に向けて」では,たばこの税負担が欧米の2分の1から5分の1程度と低いことを指摘し,たばこ税の大幅な引き上げを提言している。たばこ税に限らず,日本の喫煙規制の遅れは,「たばこ産業の健全な発展を図る」財務省が無益有害な横槍をいれることが元凶である。
 たばこ価格の国際比較データとして通常用いられるのは,厚生労働省の「健康ネット|最新たばこ情報」で公開されている,2002年5月31日現在の調査結果である。

http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd050000.html

 「内外価格差の縮小・詳論」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/3957935.html )で紹介したEurostatとOECDの購買力平価調査でも,55か国のたばこ価格の比較が可能である。全体の様子は,健康ネットでのデータと同様である。同種のたばこの価格を調べる必要があるので,たばこにしぼった調査の方がより精度が高いと考えられるが,調査時点が2005年と3年新しい,CIS諸国など他の国の情報が得られる,といった価値もあるので,ここで紹介する。
 数値は内外価格差指数(購買力平価と為替レートの比)で,OECD全体を100に基準化している。数値が大きいほど,他国よりも割高であることを意味する。
 日本の指数は61と,先進国から飛び離れて低い。

269 ノルウェー
236 英国
226 アイスランド
220 アイルランド
173 ニュージーランド
167 カナダ
163 オーストラリア
160 フランス
138 スウェーデン
137 デンマーク
136 ドイツ
126 フィンランド
122 オランダ
120 スイス
118 オーストリア
118 ベルギー
114 キプロス
112 イタリア
111 米国
101 マルタ
98 ルクセンブルク
90 イスラエル
83 ギリシャ
80 ポルトガル
77 クロアチア
76 スペイン
68 スロベニア
66 ハンガリー
63 韓国
61 日本
59 チェコ
59 トルコ
57 スロバキア
49 ポーランド
47 エストニア
40 メキシコ
37 リトアニア
37 アルバニア
36 ブルガリア
35 ボスニア=ヘルツェコビナ
31 ラトビア
31 ルーマニア
30 グルジア
29 モンテネグロ
27 マケドニア
26 セルビア
21 アルメニア
20 アゼルバイジャン
19 タジキスタン
18 ベラルーシ
16 ロシア
15 カザフスタン
15 キルギスタン
15 ウクライナ
14 モルドバ


(付記)
 以下は,「たばこ事業法」の目的を記した第1条である。非常に邪悪な目的であるとしかいいようがない。

(目的)
第一条 この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

(参考)
日本学術会議要望「脱タバコ社会の実現に向けて」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t51-4.pdf

【特定財源制度の是非】
 道路特定財源制度は一定の条件が整えば合理性をもつ,という経済学での理論的基礎付けは存在する。これは,燃料税を道路利用料を徴収する次善の手段と位置づける。適切な税率が設定されており,税収をすべて道路の建設・維持管理に向けると,効率的な道路の供給がされる。
 ただし,適切な税率の設定と適切な予算配分ができれば,燃料税を一般財源にして,同額の予算で適切な道路整備をすることもできるので,一般財源と特定財源に優劣はつかない。
 適切な税率が設定できても適切な予算配分ができなければ,一般財源では問題が生じるので,特定財源制度がよい。適切な税率が設定されなければ,一般財源でも特定財源でも,政治的決定がもたらす問題が生じる。問題が小さい方を選択すればよいが,残念ながら経済学者は問題の大きさを高い精度で推定できていない。国会での議論を経て,意思決定されるべきだろう。

【暫定税率】
 国では,特定財源収入が道路整備費を上回っている。現行の暫定税率のまま特定財源を維持することは無理である。税率をどうするかは,地球温暖化問題も踏まえて考えていかなければいけない。
 暫定税率を維持する政府案は,一般財源化も名ばかりであり(「政府法案で道路特定財源は一般財源化されるのか」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1999434.html )を参照),地球温暖化問題の考え方も整理できていない。
 地方は,道路投資が特定財源収入を上回っており,一般財源が道路のために使われている。一般財源の投入は,生活道路では周辺の地価の上昇で便益が及ぶので,固定資産税を財源とする考え方で正当化を図ることができる。
 民主党案は,暫定税率を廃止しながら,地方の道路投資を維持するとしているが,一般財源をさらに投入することに合理的な根拠は見出せない。
 こうした与野党の考え方のおかしいところは,すでに常識的な議論でも理解されているので,大きなところでは経済学を踏み外してはいないといえるだろう。

【取得・保有課税】
 経済学の考え方とずれが生じているのは,燃料税以外(取得・保有段階)の自動車関係諸税の扱いである。適切な道路利用料は道路利用に応じて,かつ道路の混雑事情に応じて,徴収しなければならい。ガソリン消費は走行距離にかなり比例するものの,燃料税も完全な道路利用料とはならないという問題がある。取得税や保有税は,自動車を動かしても動かさなくても課税されるので道路利用との関係がさらに薄く,燃料課税に劣る税である。道路整備の財源調達手段とする理由がない。地方では自動車は必需品という主張に説得力がある以上,ぜいたく品課税という根拠も成立しない。
 かりに減税するなら,燃料税ではなく,取得・保有課税が先である(あるいは,取得・保有課税を燃料税に振り替える)。経済学的に考えると,民主党がまず立ち上げるべきなのは「車検法定費用値下げ隊」であろう。メディアと国民の関心も,ガソリンが安くなるかどうかに向かっており,経済学的に見た場合に問題のある取得・保有課税がもっと議論の前面に出てこないのは残念だ。


(もう少し経済学用語を使った,道路特定財源制度の合理性の説明)
・道路の建設・維持管理のライフタイムでの費用をどう調達するか,として道路建設の意思決定の問題を考える。
・道路利用で生じる混雑と,燃料消費が環境へ与える負荷をとりあえず無視する。
・道路の利用料が徴収でき,競争的な価格形成ができれば,市場メカニズムに基づいて,効率的な道路の利用と供給ができる。
・道路の建設・維持管理の平均費用が一定(規模に関する収穫一定)の場合,利用料収入が道路の総費用に充てられる。なぜなら,
   規模に関する収穫一定から,平均費用=限界費用
   競争的価格形成から,価格=限界費用
   よって,利用料収入=価格×利用量=平均費用×利用量=総費用
・道路利用料の徴収は実務上困難であり,利用料を徴収する次善の手段として,燃料税を用いる。競争的価格に相当する税率が設定され,税収が道路の建設・維持管理費用に充当されれば,上と同じ効率的な道路の利用と供給ができる。

(参考)
 同僚の金本良嗣教授による「道路特定財源制度の経済分析」が,下記のURLよりダウンロード可能である。道路特定財源制度の経済学的な意味と,適切な税率の考え方と数量的な評価が要領よくまとめられており,有益である。
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~kanemoto/kane_jis.html

国土交通省道路局 財源
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-funds/ir-funds.html

民主党 道路特定財源制度改革
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/index.html

(2008年4月2日追記 この記事では,暫定税率を延長する政府案の再可決はできない趣旨で書かれていますが,3月31日に成立した「つなぎ法案」によって,それを可能にする措置がとられるようです。その事情については,「暫定税率再可決の法律論」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/5527973.html )で説明しています)

 2004年4月に施行された税制改正で,不動産の売却損を他の所得と相殺することを認めないようにすることが,1月に遡って適用された。改正が遡及して適用されたことで不利益を被ったという訴訟がいくつかおこされている。1月に福岡地裁は違憲という踏み込んだ判断を示したが,2月14日の東京地裁の判決は合理性を認め,司法の判断がわかれた。
 納税者の利益になる遡及は可だが,不利益になる遡及は不可,というのが一般の理解だ。どこまで遡及適用が許されるかが,問い直される形になっている。これを,いまが旬のガソリン国会の話題に結びつけると,ものすごい話になる(可能性がかなり小さいので,頭の体操に近いものであるが)。
 テロ特措法の場合と違って,租税法規不遡及の原則のもとでは,政府が現在提出している暫定税率を延長する法案を,そのまま衆議院で3分の2以上の賛成で再可決するわけにはいかない。
 例えば,揮発油税・地方道路税の暫定税率は現在,租税特別措置法第89条第2項で,

「平成五年十二月一日から平成二十年三月三十一日までの間に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は、揮発油税法第九条及び地方道路税法第四条の規定にかかわらず、揮発油一キロリットルにつき、揮発油税にあつては四万八千六百円の税率により計算した金額とし、地方道路税にあつては五千二百円の税率により計算した金額とする。」

と規定されている。現在,政府が提出している法案は,「平成五年十二月一日から平成二十年三月三十一日」を「平成五年十二月一日から平成三十年三月三十一日」に変更しようとするものである。かりに,改正法案が今年4月以降に成立することになると,4月1日までさかのぼって暫定税率を適用することになってしまう。したがって,参議院が3月までに議決しない場合には,あらためて法律が施行される日以降に暫定税率が適用されるような法律を提出し直さないといけない。参議院が議決をせずに最も引き伸ばしを図った場合には,与党が法案を成立させるには下記の手順を踏まないといけない。

1)衆議院が現在の改正法案を可決
2)4月以降に新しい法案を提出(2008年3月18日修正 理由は記事末尾に)
3)衆議院で新しい法案を可決
4)60日以降に,参議院が否決したとみなして,新しい法案を衆議院で再可決

法律が成立するのに6月までかかる。
 かりに遡及適用が許されるならば,政府・与党は3月までの間に,暫定税率を遡及適用する方針であることを周知させることによって,新しい法案を提出することなく,現在の改正法案を衆議院で再可決して,成立を図る手がある。4月にガソリンが安くなることもない。
 ただし,テロ特措法になぞらえれば,旧特措法の期限が切れた後も,新しい特措法が遡及適用されるからという理由で,海上自衛隊がインド洋で引き続き給油活動するような話なので,国民の反発を招くだろう。

 経済学の視点から遡及適用の是非を考えると,ルールの設定が行動をどう歪めるかにまず注目する。いま行っている行為に関するルールを後から決めることが許されていると,民間の活動を萎縮させてしまうので,一般原則としての不遡及は正当な考えだ。ただし,国会に法律が提出されてから成立・施行されるまでには時間がかかり,その間の活動を歪めてしまう弊害にどう対処するかも問題になる。
 典型的な例は,裁判になっているようなキャピタルゲイン課税の改正である。日本の税制改革のスケジュールでは,例年12月中旬に自民党税制調査会で翌年度の税制改正大綱が決定され,財務省の税制改正大綱も決まる。翌年の通常国会に改正法案が提出され,成立するのは3月頃になる。このようなスケジュールに沿って,キャピタルゲイン課税の増税(あるいは優遇措置の廃止)がされるとしよう。法案が成立することが確実だということがわかれば,施行される前にキャピタルゲインが出る資産を売却して,改革前の税制の適用を受けようと,皆が考えるのは当然だ。キャピタルゲインが実現段階で課税されるのと,そのタイミングの操作が容易であることが,改革の周知と施行がずれてしまうことの弊害を生み出している。改正法の施行を改革の公表まで遡及するようにすれば,こうした租税回避行動は不可能になる。予期された政策変更を予期されない政策に変更にするわけである。
 実務面で問題になるのは,どの段階で皆が税制改正を知ることになるかである。年末に税制改正大綱が報道されているので1月時点で周知されていると考えるか,もっと時間がかかると考えるのか,判断は人によって分かれるかもしれない。

 ルールの設定が行動を歪めるという視点だけでは,遡及適用を認めすぎるかもしれない。テロ特措法は施行が遅れて民間活動が歪むような話ではないという根拠で,遡及適用はテロ特措法では駄目で暫定税率では可能だという主張は,支持を得られにくい。すると,テロ特措法でも暫定税率でも駄目な理由が何かあるか,を考えることになる。
 キャピタルゲイン課税のような申告納税では税の計算が法律成立より後になるが,揮発油税だと法律成立以前に納税時点が来てしまうので,かりに法律が成立しなかった場合には,法律の根拠なく税を徴収する羽目に陥ってしまう。消費税増税が施行前のかけこみ需要と施行後の反動を通してマクロ経済に大きな影響を与えるとしても,遡及適用できないのも,同じ事情が当てはまる。かりに法律が成立しなかった場合でも不都合が生じない場合のみ遡及適用を認める,という制約をつければ,暫定税率もテロ特措法も遡及適用は駄目だということができる。
 これで十分かどうかは,別の事例に適用するなどして検討していくべき課題である。


(2008年3月18日追記 「法案を撤回して,」を削除しました。原文は,国会法第59条「内閣が、各議院の会議又は委員会において議題となつた議案を修正し、又は撤回するには、その院の承諾を要する。但し、一の議院で議決した後は、修正し、又は撤回することはできない。」の規定を考慮しなかったため)

 2月5日の参議院予算委員会の質疑で,額賀財務相が,政府法案では道路財源が一般財源化された分が将来の道路財源になる旨の答弁をしたそうだ。

「<参院予算委>道路特定財源の使途などで必死の防戦 政府」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080205-00000118-mai-pol

 答弁内容は事実である。そういう法案を政府が提出しているので,具体的に見てみよう。
 なお,道路特定財源制度の趣旨は,

  特定財源収入(決算)=道路整備費(決算)

となることであるが,予算額と決算額が食い違う場合の調整の規定が予算には入るため,議論がややこしくなる。議論を簡明にするため,以下では予算と決算が一致すると仮定して,一般財源化の本質にかかわる議論にしたい。

 内閣提出の改正法案では,道路特定財源を定める「道路整備費の財源等の特例に関する法律」を改正して,法律名も「道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」に改める。改正法案での一般財源化に関連する第3条第1項と第3項は,以下のようになっている。

国土交通省による法案の概要の解説が,下記のURLにある。

「道路整備費の財源等の特例に関する法律の一部を改正する法律案の概要」
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/06/060123_.html

第3条
 政府は、平成二十年度以降十箇年間は、毎年度、次に掲げる額の合算額に相当する金額を道路整備費の財源に充てなければならない。ただし、その金額が当該年度の道路整備費の予算額を超えるときは、当該超える金額については、この限りでない。
一 当該年度の揮発油税等の収入額の予算額
二 当該年度の前年度以前で平成二十年度以降の各年度の揮発油税等の収入額の決算額(当該年度の前年度については、揮発油税等の収入額の予算額)の合計額が当該各年度の道路整備費の決算額(当該年度の前年度については、道路整備費の予算額)の合計額を超えるときは、当該超える額
2 (略)
3 政府は、平成二十九年度末における第一項各号に掲げる額の合算額が当該年度の道路整備費の予算額を超えるときは、平成三十年度以降の各年度の道路整備費の予算額の合計額が当該超える額に相当する金額に達するまでの間、毎年度、当該超える額の全部又は一部に相当する金額を道路整備費の財源に充てなければならない。


「揮発油税等の収入額の予算額(決算額)」とは,「一会計年度の揮発油税の収入額の予算額(決算額)の全額に相当する金額及び当該会計年度の石油ガス税の収入額の予算額(決算額)の二分の一に相当する金額の合算額」を指す。
 この条文を,具体的に2008年度以降の予算に即して当てはめていくと,下記のようになる。
(2008年度)
 2008年度に道路整備費の財源に充てなければいけない金額は,第3条第1項の規定より,

  2008年度の揮発油税等収入

となる。そして,それを道路整備費が下回る部分が一般財源化がされることになるが,それは

  2008年度の揮発油税等収入−2008年度の道路整備費=2008年度の「一般財源化」部分

と表される。
(2009年度)
 翌年度の2009年度に道路整備費の財源に充てなければいけない金額は,第3条第1項が規定する2つの項目,

  2009年度の揮発油税等収入
  2008年度の揮発油税等収入−2008年度の道路整備費=2008年度の「一般財源化」部分

の合算額となる。そして,この財源から道路整備費に使われなかった部分が一般財源化される。

  2009年度の道路整備費の財源−2009年度の道路整備費=2009年度の「一般財源化」部分

 合算額をもとの2つの項目に置き直すと,

  2008・2009年度の揮発油税等収入−2008・2009年度の道路整備費=2009年度の「一般財源化」部分

となっている。
(2017年度)
 あとは,同様の計算が繰り返されるので,一気に最終年度の2017年度を説明する。2017年度に道路整備費に充てなければいけない金額は,

  2017年度の揮発油税等収入
  2008〜2016年度の揮発油税等収入−2008〜2016年度の道路整備費=2016年度の「一般財源化」部分

の合算額である。そして,一般財源化される部分は,

  2017年度の道路整備費の財源−2017年度の道路整備費=2017年度の「一般財源化」部分

となる。合算額をもとの2項に直して当てはめると,

  2008〜2017年度の揮発油税等収入−2008〜2017年度の道路整備費=2017年度の「一般財源化」部分

となる。
 2017年度の「一般財源化」部分は,2008年度以降の10年間に毎年生じた,新たな「一般財源化」部分の累積額である。
(2018年度以降)
 第3条第3項は,この累積額を,2018年度以降の道路整備費に充てなければいけないことを定めている。

 額賀大臣の答弁通り,「一般財源化」された財源は翌年度の道路整備費の財源になる。別の言い方をすれば,2008〜2017年度の揮発油税等収入は,2018年度以降も含めれば,道路整備費に充てなければいけないことになる。
 以上の法案の内容には,いくつか問題がある。
(1)
 果たして,これが一般財源化と呼べるのだろうか。道路特定財源の一般財源化で多くの人がイメージしているのは,揮発油税の税収が道路整備費ではなく,他の用途に使用されることである。政府法案は同年度の予算ではそのように見えるが,将来の道路整備費に充てることを定めている。その意味で,国土交通省が法案を説明した文章である

「揮発油税等の収入額の予算額に相当する金額を毎年度道路整備費に充当する措置を改め、その予算額に相当する金額が各年度において道路整備費の予算額を超える場合には、必ずしも当該年度の道路整備費に充てる必要はないものとする」

の記述は驚くほど,正しい。さらに,昨年12月の「道路特定財源の見直しについて」と題する政府・与党合意にある

「揮発油税の税収等の全額を、各年度の予算において道路整備に充てることを義務付けている道路整備費の財源等の特例に関する法律第3条の規定を改める」

の一文も,政府法案とまったく整合的である。しかし,昨年12月に政府・与党合意の文章を読んだ時点で,私はこのような仕組みになるとはまったく予想していなかっただけに,政府法案には意表をつかれた。
(2)
 もうひとつの深刻な問題は,一般財源化された部分は道路関連の経費に使う,と額賀大臣が答弁していることだ。すでに2008年度予算政府案でも,一般財源化された部分は,揮発油税等の納税者の理解を得るためとして道路関係の歳出に充てている。しかし,将来にそれと同じ金額が再び道路整備費に使われるのである。1回の税収を2回使えるわけではないので,2回目からは他の財源からまかなわれることになる。これでは,「一般財源の道路(関連)財源化」になる。


(2008年2月6日追記)
 文中に「揮発油税等収入」と「特定財源収入」を同じ意味で混在させていましたが,「揮発油税等収入」に統一しました。


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