岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

一体改革

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歳出歳入一体改革と中期的財政運営の話題です
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 20日の経済財政諮問会議では「中期プログラム」が議論され,社会保障部門に安定財源を充てるためには2015年度に最大で消費税率8.5%増が必要という試算が出された。その根拠がおかしな点について,何回かの記事に分けて指摘していく。
 今回は,ここでとられた「二部門アプローチ」についてである。
 これは,与謝野馨氏が座長だった自民党財政改革研究会中間取りまとめ(2007年11月)で出された考え方であり,従来の財政健全化の議論が国・地方(社会保障基金をのぞく)を一体としていた(いわば「一部門アプローチ」)のを,社会保障部門とその他一般部門に分けている。
 国・地方を一体で,歳出・歳入項目を
  (歳出)=(歳入)
のように表すと,

  社会保障公費負担+その他歳出=消費税+税(消費税以外)+財政赤字

と図式化できる。現在は,消費税は福祉目的化されていて,その税収は年金・医療・介護の公費負担に充てられていることになっている。しかし,歳入の大部分は一般財源なので,どの歳入項目がどの歳出に充てられるという整理は完全にはできない。予断をもたずに,社会保障部門と一般部門に歳出・歳入項目を分割すると,

(社会保障部門) 社会保障公費負担=消費税+税(消費税以外)+財政赤字
(一般部門) その他歳出=税(消費税以外)+財政赤字

となるだろう。そして,それぞれの部門の税(消費税以外)と財政赤字の配分は曖昧である。
 自民党財政改革研究会はさらに踏み込んで,消費税で賄えていない社会保障公費負担財源はすべて財政赤字に充てられていることを前提にしている。つまり,

(社会保障部門) 社会保障公費負担=消費税+財政赤字

と考えている。この議論では,必要な消費税増税が2種類ある。1つは,今後の社会保障費の増加を消費税増税でまかなうものである。もう1つは,社会保障費の財源をすべて消費税でまかなうために,財政赤字分を消費税増税で置き換えることである。私は,前者は妥当な考え方だと思うが,後者には疑問をもっている。社会保障公費負担とその他歳出が決定される論理と,税体系のなかで消費税とその他の税をどう組み合わせるかという論理はまったく別個のものであるのに,それを無理に接合しようとしているからである。
 消費税全額を社会保障の財源にするという現在の制度と,社会保障の財源全額を消費税にするというのは,まったく別の次元の話である。後者は,消費税を社会保障目的税にすることに加えて,社会保障部門を消費税が財源の独立採算制にすること意味する。両者を合わせて目的税化と呼ぶと,議論が混乱する。

 二部門アプローチの本質は,消費税増税を国民に納得してもらうためのレトリックにある。国民の反応は,増税が社会保障財源に充てられるなら是とするが,財政赤字削減に充てられるならまず歳出削減せよと抵抗する,という前提がある。この抵抗をかわすために,一部門アプローチなら財政赤字削減のための増税となるものを,社会保障の財源に充てるように見せているのである。
 私は,歳出削減は必要だがそれだけでは財政健全化は図れず,増税が必要であると考えている。しかし,それを政治的に実現するために二部門アプローチをとることには疑問を感じる。国民が最終的には理性的な判断をしてくれると信じて,抵抗が生じても,財政赤字削減のためには歳出削減だけではなく,増税が必要となることを訴えるべきだと思う。
 現在の社会保障財源に消費税だけでなく,その他の税も充てられているものと国民が思っていると,二部門アプローチは最大の弱点に直面する。その他の税の部分が消費税増税に置き換わったとしたら,置き換えられた税収はどこへいくのだろうか,と問われると,それを隠すのが二部門アプローチのねらいなので,口ごもるしかないのだ。
 二部門アプローチは,増税の必要性を誤解している国民は,社会保障公費負担の財源は消費税のみであるという誤解も一緒にしてくれることを期待しているが,はたしてそのように話は進むのだろうか。

(注)
 諮問会議民間議員資料「「中福祉・中負担」の社会保障の確立による安心強化に向けて」6ページでは,2015年度の消費税1%分の税収が3.3兆円,社会保障公費が43.5〜44.3兆円と書かれている。社会保障費の上限を消費税率換算した数字は資料に明示されておらず,2つの計数から計算すると8.4%になる。じつは,社会保障国民会議のバックデータによれば,消費税1%の税収は3.27577529716674兆円であるので,こちらで計算すると8.5%になる。8.5%という数字が注目されているので,資料にきちんと8.5%と書き込む方がいい。

(参考)
「「中福祉・中負担」の社会保障の確立による安心強化に向けて」(経済財政諮問会議民間議員資料,2008年11月20日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/1120/item2.pdf

「中間とりまとめ」(自由民主党財政改革研究会,2007年11月21日)
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/pdf/seisaku-026.pdf

(参考文献)
「持続可能な社会保障制度とそのための安定財源の確保 「中期プログラム」策定に向けた課題」(鶴光太郎)
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0249.html

(関係する過去記事)
「消費税率はどこまで上がるか」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/19492657.html

 10月31日の経済財政諮問会議に示された社会保障国民会議による試算では,2025年度までの社会保障・少子化対策のための追加所要額は消費税率換算で6%程度とされた(基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げるが税方式化しない場合)。2006年10月17日の諮問会議では,「給付と負担の選択肢について」(民間議員提出資料)で2025年度に至る財政運営の議論がされた。両者を比較すると,「給付と負担の選択肢について」では社会保障の国庫負担の増加分を消費税率換算すると,給付維持・負担増加ケースで4%程度,給付削減・負担維持ケースで2%程度と見積もられる(注)。それと比較して,社会保障国民会議の試算は給付増加・負担増加の方向に転換した。
 社会保障費用増加に加えて,財政収支改善も消費税増税に頼れば,必要な消費税率はもっと高くなる。私のこれまでの見積もりは,歳出歳入一体改革の路線のもとで3%程度だったが,麻生政権で歳出拡大があると,もっと増税が必要になるかもしれない。暫定的にこれを4%と置くと,消費税率は2015年度で12%程度,2025年度で15%程度がひとつの目安になる。
 2025年度以降も高齢化は進展するので,2025〜2050年度の間の医療・介護費用の公費負担増加も非常に重要である。拙稿「社会保障財源としての税と保険料」(http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/08j034.pdf )では,高齢化要因のみを考慮した場合,消費税率換算で4%程度(GDP比で約2%)と見積もっている。(2009年2月19日追記:別論文と勘違いして,拙稿を福井唯嗣京都産業大学准教授との共著論文と紹介していましたので,訂正しました。)
 以上は,散在する政府のシナリオを再構成することを意図したもので,私が望ましいと考えるシナリオではないことに注意されたい。また,実際には経済前提や医療費の動向次第で変化するものであり,幅をもって考える必要があり,数値はひとつの目安にすぎない。

 社会保障国民会議の試算は中長期的な財政運営の課題の一部を取り出したものである。諮問会議では,財政収支全体の予測を早期に発表し,国民の判断を仰いでもらいたい。

(注)
「給付と負担の選択肢について」では,2011年度から2025年度までの医療・介護費用の公費負担の伸びをGDPの1.4〜1.5%と見積もっていた。これは,消費税換算で3%程度になる。2011年度までには基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引き上げ,その他の公費負担の増加が見込まれる。これを消費税率換算1%程度と見積もると,2025年度までの費用増加は消費税率換算4%程度になる。

(参考)
「『社会保障の機能強化のための追加所要額(試算)』について」(2008年10月31日・吉川洋社会保障国民会議座長提出資料)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/1031/item3.pdf

「給付と負担の選択肢について」(2006年10月17日,有識者議員提出資料)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/1017/item2.pdf

「社会保障財源としての税と保険料」(岩本康志)(2009年2月19日:著者名を訂正しました)
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/08j034.pdf

 歳出歳入一体改革期間中の社会保障費は,当初目標通りの削減を続ける一方で,新規の課題には他分野のあらたな歳出削減で予算をつける方針となった。この部分だけを見れば,妥当な判断のように見える。しかし,一体改革の当初計画を変更した事実を正しく伝えていないことを,「『基本方針2008』の矛盾」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/12705863.html )において問題視した。もうひとつの問題は,諮問会議がリーダーシップを放棄したことである。
 一体改革は途中での見直しも認める柔軟性を備えており,当初計画に無理が生じときにはそのまま突っ走らずに,財政健全化の大方針は維持しながら,軌道修正できる。橋本政権時の財政構造改革には見直し条項がなく,経済環境の悪化に対応できずに開始早々に凍結に追い込まれた経験を踏まえたものである。
 ただし,歳出削減目標を変更する場合は,個別の歳出増の声が大きくなると収拾がつかなくなる。どの歳出を削るのかは,全体を見渡しての高度な判断が要求される意思決定である。したがって,首相のリーダーシップが必要であり,諮問会議で意志決定されることが望ましい。
 しかし,「骨太2008」は,新規の課題への対応の具体的な金額が示されておらず,これからの予算編成に委ねられている。これでは,新規歳出増加と新規歳出削減を組み合わせる政策変更をすべからく財務省に委ねたことになる。予算に関わる数字は骨太には明示しない慣例があるようだが,一体改革の残り期間(3年間)に関する数字は骨太に示すべきである。
 このような結果,諮問会議の存在感は今年も薄くなった。昨年の骨太については,存在感の薄さに合理的な面があることを,以下のように書いたことがある。

「従来は諮問会議が歳出削減を主導しなければ財政健全化が進まなかったが,一体改革では5年分の歳出削減の数値目標が与党の合意を経て閣議決定されており,その分,諮問会議の肩の荷が軽くなったと言える。
 ただ数値目標を実現する具体的方策がすべて決まっているわけではないので,毎年の予算編成で具体策を決めねばならない。このときの議論は細部にわたるため,諮問会議は予算の大きな方向性を与え,細部は財務省の査定によるという仕切りになっている。
 諮問会議による方向付けが一体改革によって5年分まとめて先決されていると考えると,一体改革期間中の予算編成ではその作業が必要ない。このため,財政健全化での諮問会議の実質上・表面上の役割が低下したが,中期の目標が設定された上での役割分担として一定の合理性を持つ。諮問会議の役割は恒久的に低下したわけではない。」

 ただし,これに続けて,以下のように書いた。

「一体改革の期間の途中では,経済の実績を反映して,数値を修正する必要が生じる可能性がある。さらに,より遠い将来の財政の方向性を議論する時期が来る。その際には諮問会議はしっかりと司令塔としての役割を担うべきである。」

 今回は諮問会議が司令塔の役割を担うべき事例であったが,その役割を放棄したことは残念である。

(まとめ)諮問会議の存在感が薄い。予算編成についていえば,昨年はそれでいい。今年は問題あり。

(参考)
「経済財政諮問会議 将来像議論の司令塔に」
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~iwamoto/Docs/2007/KeizaiZaiseiShimonKaigiShoraizoGironnoShireitoni.html

(関係する過去記事)
「『基本方針2008』の矛盾」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/12705863.html

「基本方針2008」の矛盾

 6月27日に経済財政諮問会議で「基本方針2008」(以下,「骨太2008」)がまとめられた。焦点になっていた社会保障費の削減については,ややこしいことになっている。歳出歳入一体改革の当初の目標を実質的に変更したのだが,目標を堅持したという言い方を通そうとしているからだ。
 一体改革の当初の計画は,5年間(2007〜2011年度)で国と地方で1.6兆円の社会保障費の削減を目指すというものだった。今回の「骨太2008」は,この目標は変えずに,社会保障に対する新しいニーズについては一層の歳出削減で財源を捻出して,予算をつけるという整理になった。具体的な文言は以下の通りである(22頁)。

「1.真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行いつつ、歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」、「基本方針2007」に則り、最大限の削減を行う。
2.重要課題実現のために、必要不可欠となる政策経費については、まずは、これまで以上にムダ・ゼロ、政策の棚卸し等を徹底し、一般会計、特別会計の歳出経費の削減を通じて対応する。
3.以上の歳出改革の取組を行って、なお対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りは行わない。」

 1と3は従来からの一体改革の考え方であるが,その間に新たに2がはさまった形になる。しかし,このことが1と矛盾してしまう。
 一体改革での歳出削減の数値目標は,2011年度の歳出額を自然体(現行制度が維持され,新規の歳出削減も歳出増加もおこなわない)からどれだけ減らすかという考え方で作られている。一体改革期間中に歳出増加につながる新規施策をおこなえば,それ以上の歳出削減をしないと目標の削減額を達成できない。社会保障の場合,既存の経費を1.6兆円削る一方で,例えば新規に0.3兆円の予算をつければ,それは1.3兆円の歳出削減と計算することになる。他の分野で一体改革での計画以外の新規の歳出削減を0.3兆円上積みすると「骨太2008」に加えられた2の条件を満たすが,そうすると,一体改革で分野ごとに決めた歳出削減目標から社会保障分野の削減額が小さくなり,それ以外の分野で削減額が大きくなっている。つまり,一体改革に内容の変更が生じている。

 「骨太2008」を受けた来年度の国の予算編成では,2200億円の社会保障費を削減する一方で,特別枠のようなものを設けて,社会保障の新しいニーズに予算をつけるような姿が予想される。その際には,一体改革の当初計画に沿った歳出削減と,2に相当する新規の歳出削減を区別して示してもらわないと,はたして一体改革が着実に進んでいるかどうかが確認できない。
 2006年末には,一体改革の初年度(2007年度)の予算政府案によって,一体改革の歳出削減がどのように進展しているかを説明する資料が諮問会議に出された。2007年末にも同様の説明がされるのかと思っていたのだが,そうした資料は出てこなかった。一体改革の数字は国・地方を合わせて国民経済計算ベースのものなので,それに合わせた資料を出してもらわないと,外部の人間には検証できない。すでに諮問会議の説明責任に疑問が投げかけられる状況になっているので,今年末には,来年度予算編成を踏まえた一体改革の進捗状況を,数字を出してきちんと説明すべきである。その際に,分野別の進捗状況を当初の計画と対比して示してくれと要求すれば,上にのべたような「基本方針2008」に含まれる矛盾があらわになるはずだ。

(参考)
「経済財政改革の基本方針2008」
http://www.keizai-shimon.go.jp/cabinet/2008/decision0627.html

「財政健全化の中期的目標及び平成19 年度予算案との関係について」(2006年12月26日)
2007年度予算編成によって一体改革がどう進捗しているかを説明した,諮問会議での内閣府提出資料
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1226/item3.pdf

(関係する過去記事)
「2008年度予算のシーリング」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/178786.html

 道路特定財源が一般財源化されることで新たな財源が生まれることを期待して,予算分捕り合戦が始まりそうな気配になっている。まずは道路への支出が削減されることが前提だが,削減されたとしても新たな財源が生まれるかどうかは微妙である。それは,歳出歳入一体改革の期間中だからである。
 一体改革では,2007〜2011年度の歳出削減の数値目標を,社会保障,人件費,公共投資,その他の4分野に分けて決めている。期間中の歳出削減は,まずはこの計画の具体化とみなされるので,他の歳出に使える財源にならない。財政赤字縮小のための財源となる。したがって,道路予算の削減によって公共事業費が一体改革の計画(年間3%の削減)以上に削減されなければ,新しい歳出のための財源は生じないことになる。
 数値例で説明しよう。一般財源化で2009年度の道路整備費を2000億円削って,それを社会保障の新規歳出の財源に回したつもりになったとしよう。道路を含めた公共事業費の削減率が一体改革の計画通りであったなら,社会保障費の削減額も一体改革の計画通り2200億円としなければならないから,2000億円の新規増を相殺するために,4200億円削減の制度改革をおこなわないといけない。このときは,2000億円の社会保障費の新規財源は他の社会保障費の削減から生じていると考えるべきである。

 20日の経済財政諮問会議での民間議員資料にある下記の一節は,注意して解釈する必要がある。

「真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行いつつ、歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き『基本方針2006』に則り、最大限の削減努力を行う。」

 もし「『基本方針2006』に則った歳出削減」が分野別の数値目標を守ることを意味するならば,道路特定財源を生活者財源にすることはできない。

(参考)
「歳出・歳入一体改革について」(経済財政諮問会議民間議員資料)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0520/item1.pdf

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