高橋巌ゼミブログ

農・食・地域・生活破壊の原発、TPP、改憲、全ての戦争策動、特定秘密保護法廃止!!311被災者支援を!【8.9万アクセス感謝】

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【写真上から1枚目:大野晃氏が「高齢化50%以上の集落」を「限界集落」と名付けた高知県旧池川町の中でも、「人口密度が高い方の農業集落」。茶生産と急峻な斜面での山菜栽培。/2枚目:山沿いの棚田では残念ながら耕作放棄が進む/3枚目:高齢者生産活動センターで生き生きと働く人々】


 どうも教員です。

 私にとって中山間地域問題と高齢者問題は、重要な研究テーマの柱です。

 その出発点は、「この日本の中の、与えられた自然環境と資源条件の中で、どのようにその環境を保全しながら、農業・食料生産を持続させていくのか」ということと、「高齢者等全ての人々がともに生きる手だてと、そのための社会的なシステムをどう考え、どう実現するか」ということの2つの動機・課題を、社会科学(農業経済学)の面から考えたいことによるものです。

 写真は、高知県旧池川町のものです。私の著書(注1)でも、第5章で詳細に取り上げた地域で、1990年代ですでに高齢化率が約50%近くと、高知県で最も高齢化率の高い市町村でした。実に様々なことを教えられたフィールドです。
 1〜2枚目の写真からは、その急峻な山の中の環境の厳しさが伝わってくると思いますが、人々は、その自然環境に適合する様々な営農方式を考え出し、代々生き抜いてきたのです。その一つが焼畑です。旧池川町椿山地区は、伝統的な焼畑が日本で最後まで残っていたところとして知られていますが、現在は愛媛大の学生達が、この復活を地域興しにつなげようと頑張っています。

 そうした環境にあって、その資源を有効利用し付加価値を高める製品を作って有利販売し、高齢者の手取りの確保と生きがいにつなげようと活動しているのが、「高齢者生産活動センター」です。
 ここでは、井上所長以下、働く高齢者の方々が手を携え頑張っています。3枚目の写真は、特産品のパッケージをゆったりしたペースで、しかし確実な共同作業によりつくりあげている通所者の人々です。
 こうした取組みは、環境の厳しさの中でも協同性により「共生」を実現させるものであって、それを垣間見ることができた池川町の調査は、深い感銘を受けるとともに「研究としてそれをどうまとめるか」を自覚する契機になった、重要な体験でした。

 さて、中山間地域など、高齢者の方が多い地域で彼らが生き生きと働く諸活動を続けるには、一定のセーフティネットが担保されることが、それを可能にする基礎的な条件となります。
 もとより高齢者の方々は、多くの若い人と違ってそれなりにハンディを抱えています。そうした中、日常生活を元気に送るだけの「下支え」となるのは、最低限の医療と年金の保障です。
 お年寄りが、明日の命がどうなるかわからない、病気になってもいつ医療を受けられるかわからない、そんな条件では、高齢者が安心して働けるわけなどありません。

 ヨーロッパ諸国などと比較して甚だ脆弱な年金制度の日本ですが、それでもこれまで、何とか年金と医療の「最低限の下支え」があったからこそ、「元気な高齢者」の様々な活動(Productive Aging)が保障され、「世界一の長寿国」を実現してきたといえるでしょう。そしてそうした活動による{+α}の所得が、年金を補う機能も果たしてきたのです。

 ところが、これもいくつかのところで書いてきたように(注2)、年金・医療制度などこれまで先人が血と汗を流しながらつくりあげてきたセーフティネットは、新自由主義的政策のもとで、見るも無惨に破壊されてきました。
 これまでの年金制度と運用の混乱は周知のとおりですが、今また、「後期高齢者医療制度」というトンデモな制度が動き出しました。
 私は医療制度の専門家ではありませんが、わずかな年金から一律に天引きする一方で、低所得者への減免には厳しい条件をつける、その一方で75歳以上で受けられる医療サービスを大幅に圧縮しようというものであり、しかも74歳と75歳との間に「線」を引くという諸外国にも例がない冷血な、一遍の救済すらない制度であることは容易に理解できます。まさに「長生きを根本から否定する」制度です。
 ここまで酷いと、専門であるとかないとかではなく、高齢者問題に携わる研究者の一人として、いや高齢の両親を持つ一人の人間として、高齢者の生活の根底を破壊する「人の道に反する」暴挙に対し、大きな怒りを持って対峙せざるを得ません。

 先日、テレビの国会中継でこの制度を推進する側の答弁を見ましたが、誰がどう見ても詭弁に次ぐ詭弁の連続で、高齢者の生存権を否定する『天に唾する』態度としかいいようがないものでした。。
 100歩譲って、政策を推進する場合に何らかの「負のプル」をせざるを得ない状況があるのは認めるにしても、そのためには(不十分でも)それを補う「正のプッシュ」ともいうべき代替措置があるのが、「政策」の最低限の安全弁であるはずです。それすら全くない今回の制度は、「政策」づくりのプロとしても失格ではないかと感じた次第です。

 このような信じられないようなことがなぜ起こるのか。
 それは単に、「いい人が善政をすれば解決する」などということではありません。

 そして、私たちの土俵である食料・農業・農村・環境の分野でも同じようなことが起きつつあります。
 ムードに流されず、「一体、何がどうなっているのか」を正確かつ冷静に見極める力だけは、しっかり養っていきたいものです。

                    日大食品経済学科:地域経済論研究室/高橋 巌


 注1)拙著(2002)『高齢者と地域農業』家の光協会(このブログの「画像」に表紙を示してある)。
 注2)セーフティネットの論考については、拙著(2004)「地域社会におけるセーフティネットと共済事業−グロー   バリゼーション・高齢化の下で−」『共済と保険』第46巻第11号・12号,いずれもpp.16〜23。また、拙著(200    8)「協同組合とソーシャル・キャピタル−総合農協の特質との関連で−」『協同組合研究』第27巻第1号     (近刊・印刷中)。

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