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ピアノとのアンサンブルで、弦楽器調弦のためにD-Minorコード(D-F-A)を鳴らすピアニストが多いですね。中にはD-Major(D-Fis-A)の場合もあります。これって合わせやすいですか?
平均律に調律されたピアノではこれらのコードはFやFisの3度が純正でないため濁ります。従ってA線を合わせる場合に邪魔になって合わせ難いと思うのですが。
オケではオーボェやコンマスのA単音で合わせるのに、ピアニストの皆さん何故コードを叩くのでしょうか?これは昔からの習慣の名残ではないかと思います。
D-Minorコードを叩く理由について以下のように説明する人がいます。 http://www.youtube.com/watch?v=iyevXiPyB7E
D-MajorだとAを高めに調弦してしまう傾向がある、D-MinorだとAが僅かに低めに調弦され、丁度良くなる---との説明です。尤もらしいのですが心理学的な証明がない限り、後付の説明で眉唾モノだと思います。
私は以下のように考えます。
平均律ピアノが商用化される19世紀後半まではミーントーン律やヴェルクマイスター律等の古典調律が主流でした。平均律ピアノの3度は全て不純で濁りますが、古典調律では3度和音が純正に近く、その代わり5度が若干狭くなっています。そのためA線を鍵盤楽器(オルガン又はチェンバロ)のAに合わせ、D,G,Cを純正5度調弦すると他の弦が鍵盤楽器より低くなりすぎアンサンブルに濁りを生じます。これを避けるために、弦楽器は古典調律された鍵盤楽器のA,D,G,C,E等に一本づつ合わせる方法をとることが多いのです(現代の古楽器演奏家グループがそのような方法をとっています)。もう一つの方法はD-Minorの和音の中で合わせる方法です。古典調律のD-Minor和音はほぼ純正和音に近く、綺麗に響きます。この和音の中でA線とD線を狭い5度に合わせることが可能です。なぜD-MajorでなくD-Minorかというと、これら古典調律ではD-Minorのほうが純正和音に近く綺麗に響き、音が取りやすいからだと思います。古典調律では白鍵の3度は純正に近いですが、黒鍵を多く含むほど和音は濁ります。
平均律ピアノでの3度は全て不純です。従ってコードの中のFやFisは濁りの元となるので却って調弦しにくくなります。悪しき慣習ではないでしょうか?ご意見お待ちします。 |
弦楽器の音律・物理
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独り言です。主に音律関係の話。
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純正和音(Just Intonation) と平均律和音(Equal Temperament)の差を目で見えるようにした動画がありましたので紹介します。
最初の例はAとCisの長三度和音です。まず純正和音、次に平均律和音が電子音とXYリサージュ波形で示されています。純正和音はよくハモり、差音として2オクターブ下のA2も同時に聞えます。リサージュ波形が綺麗な形で静止するのは、二つの音の周波数が簡単な整数比(4:5)になっていることを示しています。平均律の例では音が濁り唸りが聞え、リサージュ波形は複雑な波形で動いており、整数比ではないことを示しています。
続いて完全5度A−E、長三和音A−Cis−E、和音進行の例等が示されていますのでご覧下さい。
2分8秒あたりからJ.S Bach作曲"Well-Tempered Klavier Book.1"から超有名な前奏曲を純正律(Justonic Tuning)と平均律(Tempered Tuning)で聞き比べできます。純正律の方はコンピューターで純正になるよう音程調節しているそうです。純正律(動画作者はJustonicと呼んでいます)のハモった和音と平均律(同じくTempered)の濁った和音を比べて下さい。バッハがどちらを目指したかは明白です。
曲名の邦訳は「平均律クラヴィーア曲集」ですが、"Well-Tempered"を「平均律」と訳したのは大きな誤りで、バッハが平均律向けに作曲したかのような誤解を与えます。"Well-Tempered"は平たく言えば「どの調でもうまくハモくように調律された」という意味です。純正律は一つの調では純正なのですが、他の調では純正ではなくなります。転調や他の調でも濁りが少なく純正に近くなるよう適切に調律されたピアノ(例えばヴェルクマイスター調律など)という意味です。バッハが鍵盤楽器で純正律に近づける調律法を模索していたということが窺えます。
宇宙的大バッハのことですから、この曲が将来コンピュータでWell-Tempered化されて再生されることを予測していたのかも知れません(笑)。 |
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ピアニストのmakiさんからお借りしたジェミニアーニのヴァイオリン教本を読み進めています。この本に遺された音階の図より「バロック時代のヴァイオリンの全音は現在より狭く、半音は現在より広かった」という結論に至りました。
ジェミニアーニ(1687-1762、伊)はヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハと同時代の作曲家、ヴァイオリニストで、音楽全般をスカルラッティにヴァイオリンをコレルリに師事しており、この教本は後期バロック音楽の伝統的奏法を伝える上で大きな影響を持ちます。
"The Art of Playing on the Violin", F. Geminiani, 1751
訳本「バロックのヴァイオリン奏法」シンフォニア社
バロック音楽というと純正律で演奏されると思いがちですが、そうではありません。純正律音階は広い全音と狭い全音を持ち、鍵盤楽器では調ごとに調律を変える必要があります。それを避け、1台の鍵盤楽器で全ての調が弾け転調が可能なように様々な古典調律が工夫されました。一方、弦楽器で純正律音階を弾くには指を置く位置の調整や、開放弦の調弦に工夫が必要になります。バロック音楽を純正律で演奏しなければならないのであれば、ヴァイオリンでは一体どんな調弦でどんな音階を使ったのだろうと思っていました。
ここで純正律音階について説明しておきます。
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
大 小 半 大 小 大 半
大:大全音の略、長2度 204セント
小:小全音の略、長2度 182セント
半:半音の略、短2度 112セント
1オクターブの中に大全音3個、小全音2個、半音2個(204x3+182X2+112X2=1200)です。
例えば二長調の場合、
D E Fis G A H Cis D
大 小 半 大 小 大 半
長2度が2種類(大全音と小全音)存在し、開放弦DにEの位置(高さ)と開放弦Aに対するHの位置が異なります。これは1stポジションの1の指の位置が異なることを意味しとても弾き辛くなります。又、完全5度D−Aは(大x2+小+半=702セント)と純正和音ですが、E−Hの5度は(大+小x2+半=680セント)と不純な5度となり、和音が濁ります。
ジェミニアーニはこの教本の冒頭の図Example.1でFingerboard(指板)に指を押さえる位置を示しています。これは調によりません。
この図ではD線の1指(E)とA線の1指(B=H)とは同じ高さで弾くように指示しています。又、3指を押さえる位置はC−D−G−A、1直線です。ギターのフレットのように音程を取るということが示唆されています。この図は純正律音階でないことは明らかです。このことからバロック・ヴァイオリンは伝統的に純正律音階を使わないというのが一つの結論です。
ではどんな音律を用いたのでしょうか?それはExample2で解説しています。
説明原文
邦訳
要点はアンダーラインした部分です。
1.オクターブは7つの大きい半音maと5つの小さい半音miからなる 上記譜例(Example2)に従って、開放弦Dから始まる1オクターブの音程を拾うと以下のようになります。
D Dis E Fis G Gis A H C Cis D
mi ma I ma mi ma I ma mi ma
1オクターブは確かに2つの全音(I)、5つの大きい半音(ma)と3つの小さい半音(mi)からなっています。更に全音は大きい半音と小さい半音の和 (I = ma + mi)と理解できるので、1オクターブは7つの大きい半音(ma)と5つの小さい半音(mi) から構成されます。
二長調の音程のみを抜き出しますと
D E Fis G A H Cis D
I I ma I I I ma
これを数式に示すと
1オクターブ=7ma+5mi = 5I+2ma
I=ma+mi
但し、ma>mi
これより全音Iは平均律全音200セントより狭く半音は平均律100セントより広いことが証明されます。
(証明)
5I+2ma=1200 現代ヴァイオリン音律であるピタゴラス律の全音は204セント、半音は90セントですから、ジェミニアーニの全音はピタゴラスよりも狭く、半音はピタゴラスより広いというのが第2の結論です。
ではどの程度広かったのでしょうか?その値は調弦法に依存します。
彼と同時代のヴァイオリン教師であったレオポルド・モーツァルト(アマデウスの父)の教本には各弦の音階は全て開放弦から弾くように指定しています。音叉が家庭にまで充分普及していなかった当時、チェンバロやオルガンを基準に調弦したことでしょう。当時の鍵盤楽器の最も一般的な調律法はミーントーンと呼ばれるもので、5度が純正の702セントより狭く、696.6セント位です。現在でもバロック(古楽器)奏者の調弦は鍵盤に対して一本・一本調弦することが行われていますので(一例は こちら )、当時の弦楽器の5度調弦はミーントーン音律であったことは否めません。
ジェミニアーニがミーントーン調律のチェンバロの合わせて調弦したと仮定して計算すると、
全音は193.2セント、半音は117セントとなります。
(計算) (注)最終桁の数字は4捨5入の関係で誤差があります
これはミーントーン調律における中全音193セント と半音117セントにぴったり合います。
因みにジェミニアーニの長3度を計算しますと
長3度= 2I=386.4
と純正和音とぴったりあいます。
以上よりジェミニアーニはミーントーン調律でヴァイオリンを弾いたといっても過言ではないでしょう。この音律の適用により、当時の鍵盤楽器と音程面で完全に矛盾しない音階が構成されます。5度は狭いですが、3度が純正になりますので、美しい響きが得られたものと思われます。
半音階的半音とは♯や♭が付いた時に上げ下げする音程のことですが、ピタゴラスと比べると♯は低く、♭は高くなります。ジェミニアーニの音階ではCis とDesを比較するとCisの方が低いのです。これはピタゴラスと逆転しています。そのかわり開放弦と作る長三度和音が純正になります。これはバロック音楽の特長でもあります。
現代のヴァイオリニストは旋律をピタゴラス音律で、和音は純正和音(純正調)でとります。純正和音(純正調)と純正律とは異なります。純正律とは純正律音階に則って演奏すること、純正調とは「ゼロビート」を基本に演奏することです。誤解なきようお願いします。 |
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先日、いこま国際音楽祭 の ヴァイオリン・マスタークラス を聴講してきました。講師は ニコラス・チュマチェンコ氏 。ハイフェッツの愛弟子で、カーティス音楽院ではジンバリストに師事した。フライブルク音大教授。受講生は将来のヴァイオリニストを目指す高校生・大学生4名。個別の指導内容は受講生の技量により異なり、曲の解釈や奏法はschool、流派等に依存する部分も多いのですが、音程の取り方については共通する問題ですので要点を紹介したいと思います。
(会場の生駒市たけまるホール)
( )内は私の補足説明です
1.ピタゴラス音律
・先生「あなたはHの音程がいつも悪い。E線を弾いてからHを弾くようにしてごらん。」(音程は完全5度を基準に)
・先生「Esがいつも高めになっています。Dを弾いてから半音でEsを取りなさい」(Dを導音にしてEsを取る)
・先生「狭い半音と広い半音の区別ができますか?」(ピタゴラス律では短2度:90セントと狭く、増1度と減8度は114セントと広い)
・生徒「??」
・先生「同じイニシアルの音名の半音は広くとります。例えばD-Dis(増1度)、D-Des(減8度),違うイニシアルの半音は狭く。例えばD-Es, D-Cis(短2度)」
・先生「FisとGesはピアノでは同じ音程ですが、弦楽器では異なります。ハイフェッツはブラームスの協奏曲を弾く弟子達にテストしました。『Fis-durのスケールを弾きなさい』次に『Ges-durのスケールを弾きなさい』と。両方とも2指からスタートしたら破門です!!Ges-durは3指からスタートすべきです。(ピタゴラス律ではGesはFisよりも24セント低い。)
2.純正律と差音(結合音)
・先生「3度重音が続きますが、長3度と短3度の音の取り方分かりますか?」
・生徒「??」
・先生「長3度は少し狭く、短3度は少し広くとりなさい」(平均律では長3度は400セント、短3度は300セントだが、純正律では長3度は386セントと狭く、短3度は316セントと広い)
・先生「そして耳を澄まして響きを良く聴きなさい。旋律と同じ音程で長3度を弾くとこうなります。綺麗ですか?」
・生徒「いいえ」
・先生「唸りが聞えて汚いですね。ではすこし狭くとります。これでとうですか?」
・生徒「綺麗です」
(重音の音程を純正律でとると差音が聴こえてハモル。)
3.鍵盤楽器の音律と弦楽器について
・先生「皆さん、ピアノの音律は誰が考え出したか分かりますか?」
・生徒「???」
・聴衆「ピタゴラスですか」
・先生「Nein!」
・jack「J.Sバッハという説があります」
・先生「Ja,Ja! GesとFisは 音程が異なるので鍵盤楽器は厳密に言うと調によって23通りの調律が必要なのです。それでは不便なので1台の鍵盤で何調でも弾けるようにと同僚のオルガニストと一緒に研究し開発しました。いわば妥協の産物なのです。カザルスは『ピアノの音程は間違っている、私の音程に合わせなさい』と言いました。」
先生「ヴァイオリン演奏で一番大事なことは『リズム』『音程』『響き』です。ひとつでも欠けると弾く意味がありません。」
同感です。
上記音程の取り方については下記 参考文献に詳しい
クリスティーネ・ヘマン著 「弦楽器のイントネーション」
目次はこちら↓
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チェロ・ヴィオラのC線は高めに調弦すべきでしょうか?
私の答えは
無伴奏や協奏曲のソロを弾く場合は5度調弦でもよいですが、アンサンブルや通奏低音で弾く時は高めに合わせるべきです。では何故?どの位高目に? 通常、弦楽器の調弦は基準のA線を合わせてから順次完全5度で他の弦を合わせます(5度調弦)。そして音程は開放弦を基準に作っていきます。この方法で調弦、演奏するとピタゴラス律になります。
ピタゴラス音律については こちら
また、こちらにも詳しい解説があります。(英語ですが)
卓越したヴァイオリニストの多くはピタゴラス律で弾くという興味深い実証結果がヘマン著に紹介されています
ヘマン著「弦楽器のイントネーション」 26ページ脚注
従って、ヴィオラ・チェロなども無伴奏やソロを弾く場合は5度調弦が望ましいのです。
しかしアンサンブルではちょっと事情が異なってきます。同著56ページに、弦楽四重奏でファーストヴァイオリンがピタゴラス音律で取ったHに対して内声のセカンドヴァイオリンはGを高めにとる必要性を述べています。
詳細はこちら
D線3指のGを高めに取るとG線との共鳴を捨てなければなりません。妥協策としてG線を少し高めに調弦しておくことも可能なわけです。
ヴァイオリンソナタなど、ピアノとのアンサンブルでもG線を高くした方がハーモニーが良くなります。ピアノが平均律で調律されている場合は5度調弦よりも4セント高目です。自宅のピアノは昔からヴェルクマイスター律で調律していますが、Gは平均律よりも8セント高く、5度調弦より12セント高いのです。5度調弦ではト長調の曲は弾けません。従ってヴァイオリンソナタやピアノを含むアンサンブルではG線はピアノから取って調弦するようにしています。
チェロ(又はヴィオラ)のC線を高めに調弦するという発想も同じ理屈です。A線を基準にD、G、Cと完全5度で調弦していった場合、Cは平均律よりも6セント低くなります。ヴァイオリンのE線は平均律より2セント高いですから、ヴァイオリンのE線とチェロのC線が作る長3度は408セント(ピタゴラス3度)となります。ピタゴラス3度はビートや唸りを多く含んだとても鋭い響きで、協和音とはほど遠くなります。協和音の長3度386セント(純正律)からの乖離は実に22セントにもなります。従って、アンサンブルの内声ではC線はかなり高めに調弦する必要があるわけです。 古楽演奏家の多くは5度調弦ではなく、1本づつ通奏低音のチェンバロ又はオルガンに合わせて調弦します。モニカ・ハゲット率いるPBOの実例はこちら↓
古楽に用いられる鍵盤楽器の調律法はいわゆる古典調律で、三度がゼロビート(386セント)に近くなるように合わせ、その結果5度は少し狭くなり、Cはかなり高くなります。 各古典調律でCをどの程度高めに合わせているかの実例を下表に示します。
各音律法の違いによる”C”の音高の違い(A基準) 単位:セント(半音の1/100)
平均律からの偏差 5度調弦からの偏差 (* 参考文献 平島達司著「ゼロビートの再発見・技法篇」 )
即ち、古楽奏者はCを5度調弦よりも5.9〜17.6セント高く調弦していることになります。
第2の実例を紹介しましょう。先日、ヴィヴァルディ四季の「秋」のソロヴァイオリンとチェロ・ソロのレッスンに立ち会いました。指導者はJ音楽院留学時代、耳と音程の良さで教授陣から一目置かれた方です。その先生から音程が合わないと何度もダメだしされました。この部分です。
赤印の部分の和音が何度やっても合わないのです。私はチェリストにアドヴァイスしました。「Cを高くとって」。先生から漸くOKが出ました。このソロヴァイオリン弾かれたことのある方はお分かりと思いますが、E/Gの重音はEを開放弦でGをA線でとります。ヴァイオリンの開放弦Eと5度調弦されたチェロのCは上で説明したように ピタゴラス3度で「不」協和音になってしまいます。Cを高めにとることで協和音に近づくわけです。C線を最初から高めに合わせて置くと和音が合いやすくなります。
蛇足ですが、ヴァイオリンのE/G重音もGを開放弦の2オクターブ上に合わせるとピタゴラス3度です。協和音にするにはGは高めに取らなければなりません。純正の |


