jack のヴァイオリン練習室

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弦楽器の音律・物理

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独り言です。主に音律関係の話。
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このカテゴリー久々の更新になります。
 
前回の記事 弦楽器の音律実践(13) で弦楽四重奏の内声は純正律で音程をとる場合があることを紹介しました。では、和音を綺麗に響かせる(=純正にとる)にはどうすればよいのでしょうか?
 
最近の電子チューナーにはそのための目盛りがあります。
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針が左右一杯に振れると基準音より50セント、つまり半音の半分、高いか低いかを示しております。赤で示した印は半音の約1/7(14セント)の位置を示しています。これを利用すれば純正和音の音程が取れます。
 
以下、D−F♯(Fis) の長三度を純正にとる方法を示します。まず、楽器のA線を442Hzに合わせます。DはA線の3指、F♯はE線の1指(何れもファーストポジション)、別々に弾くとチューナーにはD5、F#5とそれぞれ表示されます。このときD5は針が大略真ん中に、F♯5は左の赤の印の位置付近に来るように低めに音程を取ります。この状態で両方の弦を重音で弾くと長三度和音が平均律の400セントより14セント狭く386セントとなり、純正和音になります。
 
和音が純正に取れると差音が聞こえてきます。この場合の差音はDです。弾いたDの2オクターブ下のDがかすかに聞こえ、チューナーにはD3と表示されるはずです。
 
動画で確認下さい。
 
 
長三度の音程を純正にとると周波数の比は4:5になります。即ち、
                     Fis(F#)5:  5f
                     D5 :     4f
差音は二つの周波数の差ですから、
              D3 :  f,   Difference tone( 5f-4f=f)
即ち弾いたD5の2オクターブ下のD3が差音として聞えて来ます。
 
詳しくは こちら を参照下さい。
 
差音については古くはタルティー二やレオポルド・モーツァルトが指摘しています。 詳細 こちら
 
純正和音にするために、長三度では狭くとりますが、短三度では広めに、長六度では狭めに、短六度では広めにとると純正になります。昔、「鋭い三度」、「柔らかい三度」といった教え方を聞いた事があります。前者はピタゴラス三度、後者は純正三度のことです。又、合奏で「長調の第三音は低めに」という教えは長三度を狭くとって純正和音にという意味です。「第7音を低めに」というのも純正律の考え方から来ています。但し、和声に純正律を適用せず、平均律やピタゴラス律を適用することにより、ドミナントに緊迫感を持たせたり、トニックの明るさを強調することもできます。このあたりが合奏の難しさと多様性の所以でしょう。
 
 ところで、上の例ではDを基準におきF#を低めにとりましたが、F#を基準にDを高めに取ることによっても純正長三度が得られます。どちらを基準に取るかはケースバイケースです。
 
一つのヒントはクリスティーヌ・ヘマンによって示されています。
(詳細は 弦楽器の音律実践(13) 参照 )
 クリスティーヌ・ヘマン「弦楽器のイントネーション」p.56 より引用 
(ハイドン作曲「皇帝」の第2楽章) 
 
Pはピタゴラス音律、Nは純正律です。1stVnの旋律はPで歌われ、それに対し2ndVnはNで和声を付けます。①で2ndVnのHは低めに取り、②では2ndVnのGは高めに取ると純正和音が得られます。この時、開放G線との共鳴を捨てなければならないという矛盾が生じるわけです。
 
Violinmasterclass のProf. Sassmannshaus も同一見解です。
旋律はピタゴラス音律(Pythagorean Intonation)で、和声は純正律(Just Intonation)で音程を取るように教えています。詳細は↓
 --
 

絶対音感と相対音感

日本のオーケストラやピアノ調律では基準ピッチとしてA=442Hzがよく使われ、ほぼ標準となっています。ヴァイオリニストの中にはA=442Hzを覚えていて、音叉や電子チューナーで音を取らずとも調弦できてしまう方がおられるそうです。所謂、絶対音感の持ち主ですね。幼い頃からピアノで絶対音感教育を受けた方が多いです。
 
以前、日本で教育を受けた、あるプロ・ヴァイオリニストのブログに、
外国のオーケストラに入り、基準Aのピッチが日本の442Hzと1Hzでも異なると、周りの人とは異なる音程をとってしまう。
というった意味のことが記されていました。ヴァイオリンは4本の開放弦との共鳴で音程を作っていく(即ち、純正律又はピタゴラス律)と思っている私にとってはとても違和感のある話で、にわかに信じがたい思いでした。もしこの現象がピアノで絶対音感教育を受けたことに拠るのであるなら、このヴァイオリニストの音程はピアノの12等分平均律に基づくものでなくてはならないことになります。
 
 
又、東川清一著「読譜力・・・伝統的な『移動ド』教育システムに学ぶ」に、絶対音感の持ち主に関して面白いエピソードが出ています。
「ちょっと小耳にはさんだことだが、わが国では評価の高かった若いヴァイオリニストがヨーロッパのどこかに留学してレッスンを受けたところ、『君のだす音はどれひとつとして合っていない』と言われたという。これはちょっと信じられないことのようだが、私がふと気づいたところでは、そのヴァイオリニストは、正確にピアノの平均律(私のいう『平均的調整律』)にしたがってひいていたのにたいして、それを聞いた先生のほうは、『ヴァイオリンは純正律で奏すべし』という意見の持ち主だったのではないか、ということになる」(以上、同誌6ページより原文のまま引用)
 
これらの話が本当ならピアノで教育された絶対音感はヴァイオリン演奏には邪魔な存在になります。しかし、絶対音感をお持ちの方の中には異なる基準ピッチに対して即座にシフトさせ適応できる方もおられると聞きます。これは真性絶対音感ではなく鋭敏な相対音感の持ち主だと思います。
 

平均律絶対音感は現代音楽向き

この書庫でも幾度か書いてきましたが、ヴァイオリンでは一般的には古楽は純正律、古典・ロマン派音楽はピタゴラス律、アトーナルな(無調の)現代音楽は12等分平均律が適します。12等分平均律ピアノで真性絶対音感がついてしまった方は、現代音楽向きということになります。
 
たとえば こちら を参照下さい。
 
 

なまくら絶対音感より鋭敏相対音感

 
私は、朝聞いた基準音Aのピッチは夜寝るまで覚えていますが、翌朝起きるとAの感覚が1/4音〜半音下がっていたりすることが多いです。従って私の場合は、「なまくら絶対音感」、「時限絶対音感」、良く言えば「適応型絶対音感」とでも言うのでしょうか(全部私の造語です)。寝るとリセットされるので、日本A=442、米国A=440,、欧州A=443444ですが、私はどこへ行っても一夜で順応可能です(笑)。
 
幼い頃ピアノは習わなかったので、幸いにしてピアノ基準の絶対音感は持っておりません。その代わり、ヴァイオリンを習う傍ら、小学校のころから合唱部に入り、ピアノ伴奏なしで読譜し歌える訓練を受けてきたので、基準音を聞けばそこから2度、3度、5度などの音度差で音を取ったり、判断する相対音感はあります。
 
ヴァイオリンを習う幼い子供はピアノを用いた絶対音感教育よりも、合唱や合奏などで鋭敏な相対音感を培うのがベターと思います。
 
読者のご意見、体験談をお待ちしております。
 
(参考文献)
東川清一著「読譜力・・・伝統的な『移動ド』教育システムに学ぶ」・・・・ こちら 
-- 
 
このシリーズでは、純正律とピュタゴラス(又はピタゴラス)律の使い分けについて、「縦」は純正律、「横」はピュタゴラス律」という原則(仮説)を議論してきました。 前回の記事 から2年半空いてしまったので、ここで弦楽四重奏をテーマとして改めて音律の実践を再考してみたいと思います。尚、「縦」「横」は楽譜上の位置関係を表現したもので、「縦」はハーモニー(重音・和音)、「横」は旋律を意味します。
 
この原則に従うと、弦楽四重奏では外声はピュタゴラス律、内声は純正律で音程をとることになります。以前小ブログ記事に書いたかも知れませんが、クリスティーヌ・ヘマン「弦楽器のイントネーション」に好例があります。 (この本の内容は こちら に紹介されています。)
イメージ 1
図1  クリスティーヌ・ヘマン「弦楽器のイントネーション」p.56 より引用 (ハイドン作曲「皇帝」の第2楽章)
 
へマンによれば、外声の1stVnはピュタゴラス律で、内声の2ndVn, Vaは1stVnのそれぞれの音に対して純正律で音を取るように示唆しています。1stVnの旋律をピュタゴラス音律とすると平均律からの偏差値(単位:セント)は以下の通りです。 尚、ピュタゴラス音律の偏差値は調性に関係なく一定です。
 
1stVn   G  A  H   A   C   H   A   Fis   G   E   D
      -4  0   4   0  -6    4   0    6    -4   2   -2
1stVnの音程に対し、2ndVnを純正律でとりますと、例えば①で1stVnのGから純正短6度下は−814セントですから、
H =−4−814=−818セント
短6度は平均律では800セントですから2ndVnのH は平均律より18セント低めに取らなければなりません。ピュタゴラス律のHは平均律比+4セントですから、同じHでも±22セント(半音の約1/5)の開きがあるわけです。
 
上の例の②では1stVnの H は+4セント、2ndVnのG は純正長3度(386セント)下ですから
G=4−386=−382
平均律長3度は400セントですから2ndVnのG は平均律より18セント高めに取らなければなりません。図2の楽譜上の矢印↑はその意味で書かれています。
 
この例では、2ndVnはG線開放弦との共鳴を放棄して高めにとることを意味しています。しかもト長調の主音ですから、かなり抵抗があるでしょう。音程の取り方は時間(テンポ、音符の長さ)も考慮する必要があります。もしこの音符にフェルマーターがつくなど長い音符であれば、2ndVnのGを純正にとり(即ち開放弦と同じく平均律比−4セント)、1stVnのHを18セント低めにとるべきでしょう。長い音符では「横」の旋律よりも「縦」の和音の響きを優先させるべきだからです。
 
 
重音を純正にとりますと、結合音(差音)が聞えます。レオポルド・モ−ツァルト(アマデウスの父)は差音が聞えるように重音の音程を取るよう、彼の著書"A Treatise on the Fundamental Principles of Violin Playing"に譜例で示しています。 邦訳は こちら
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図2 Leopold Mozart "A Treatise on the Fundamental Principles of Violin Playing"のp.165 より引用
 
 
図1,2の①、②はオクターブが異なりますがそれぞれ対応する和音です。この結合音は楽器のそば、耳のそばでははっきりと聞くことができます。図2の譜例では全音符で書かれた重音(double stop)を純正律で弾くと四分音符で書かれた結合音(実際は1オクターブ下)が聞えるという意味です。弦楽四重奏のように二つ以上の離れた楽器の和音の場合に結合音が聞きとれるかはちょっと微妙です。
 
 
 
 前の記事 の中で紹介したように、安永氏は差音について
「1. 長3度、長6度の差音はヴァイオリン奏者によく聞こえ”ハモっているな”と感じる」
と言っています。
ところで上記のように弾いた時、2ndVnだけ単独で弾くと何か「ぼんやり」した導音の広い「メリハリの無い」旋律・・・即ちこれが安永氏の二つ目の結論
「2.ハモる和音に使われる音程はメロディーでは『音程が悪い』」
ということになります。
 
綺麗なハーモニーに聞えるか「音程が悪い」ように聞えるかは聴き手や演奏環境にも左右すると思います。
聴き手が1stVnの旋律に注意して聴けば、純正律で弾かれた内声は綺麗なハーモニーとして楽しむことが出来るでしょう。しかし各楽器の音程を別々に聞分ける凄い地獄耳の持ち主には2ndVnの音程は耐えられないかもしれません。また、よく響く部屋で聴衆が近距離で聞く場合は純正はハーモニーが優先されるでしょうが、大ホールで遠く離れた聴衆の耳には4台の楽器の音が分離して聞えるかもしれません。その場合ハーモニーが美しくとも内声の音程が悪いという謗りを受けるでしょう。
 
これが安永氏の言う第3の結論
「3.しかしそのハモる音程は遠くでは悪い音程に聴こえる」
だと思います。やはり室内楽は大ホールではなく、室内または良く響く小ホールや教会などで演奏・鑑賞すべきものでしょう。
 
 
私は「Jim宅でカルテット」で100曲を超える弦楽四重奏曲を演奏してきました。セッションでは1stVn, 2ndVnを曲ごとに交代するのですが、その中で感じることは2ndVnの音程の難しさです。理論や原則を理解していてもそれを咄嗟の判断で実践するのはとても難しいです。内声の注意事項として一般的には「和声的に支えるパッセージでの第3音は低めに取る」ことではないでしょうか。外声に回った時(これは突然やってきます)や、対位法的構造の曲の場合は1stVnと同じくピュタゴラス音律に戻るという切り替えが必要です。ピュタゴラス音律はハーモニーの中に埋没することなく、旋律の輪郭を浮かび上がらせることができるからです。 
 
 
弦楽四重奏の音程は、時間(音符の長さ、テンポ)、空間(ホール、音響条件)、聴衆との距離、曲の構造(和声的か対位法的か)等、様々な要因を考慮する必要があります。
 
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ハイフェッツの音は比較的小さいものの大きなホールでも隅々まで浸透する際立った音だったと言われています。その秘密はよく響く楽器や奏法にあることは間違いありませんが、どのような音であったかを物理的に調べることはその謎を解く一助になると思います。

音を物理的に見る方法としては、音の波形(時間軸)と倍音構成(周波数軸)があり、最近のテクノロジ−の進歩によって家庭用の機器とソフトでそれらを解析・表示できるようになりました。

私の持っている関連する機材・ソフトは家庭用PC,波形編集ソフトRipEditBurn, FFTアナライザーソフトG-tune、MP3レコーダーR-09です。適当な音源さえあれば「音を見る」ことができます。

ピアノ伴奏やオケ伴が入るとヴァイオリンの音だけを分離し難いので、現在私が取り組み始めたバッハのソロソナタ第1番のフーガの冒頭部分を選びました。

音源はYoutubeです。バッハ作曲無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番より「フーガ」

http://www.youtube.com/watch?v=YIDp0_XNNMk

冒頭Dの音が4回弾かれます。
イメージ 1


実験1 ハイフェッツの音

冒頭Dの音が4回繰り返される部分を切り取りました
http://jackviolin1945.awk.jp/fuge_hifetz.mp3
http://jackviolin1945.awk.jp/fuge_hifetz.mp3

二つ目のD(down bow)と三つ目のD(up bow)の音の波形をG-tuneで表示させました。写真撮影の為のサンプリングのタイミングは正確に制御できませんが、音の立ち上がりと立ち下がりに掛からない約100msの間にヒットするよう配慮しています。幾つかサンプリングした中で典型的なものを下に示します。画面中、下のグラフが周波数軸、その上のグラフが時間軸です。

二つ目のD(down bow)
イメージ 2
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9232rev.jpg

三つ目のD (up bow)
イメージ 3
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9236rev.jpg

倍音は第8次(約5KHz)まで観測できます。Upは第4倍音が基音と同じ位のレベルです。時間軸波形は基音の基本周期(約1.6ms)に加えて第4倍音に起因すると見られる1/4周期の小さいこぶが見えます。Downでは基音のスペクトルが一番強く第4倍音のレベルはUpよりも下がっています。波形は小さいこぶが少し下がっています。

以前に行った実験で故意に裏返った音(double slipまたはmultiple slipと呼ばれる弦の以上振動による音)を発生させると、第2または第3倍音のピッチが認識され、スペクトラム上で第2倍音のレベルが基音のレベルを上回り、時間軸波形では1/2または1/3周期になることが確認されます。↓参照。今回のハイフェッツの音ではそのような現象は確認されませんでした。

http://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4



次に、比較のために私の楽器で同じ箇所を解析して見ました。二通りの弾き方です。

実験2 私の楽器の音(短めの表現)

まずハイフェッツよりは短めのスタッカートで弾きました。
http://jackviolin1945.awk.jp/fuge_jack_p.mp3
http://jackviolin1945.awk.jp/fuge_jack_p.mp3

二つ目のD(down bow)
イメージ 4
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9246rev.jpg

三つ目のD (up bow)
イメージ 5
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9250rev.jpg

当然のことながらハイフェッツの楽器に比べて倍音が少ないです(銘器ではないので)。そして波形における小さいこぶが少なく丸い感じでした。スタッカートが短めのため、恐らくアタック以外では弓と弦の間に空気を挟む、弦が自由振動に近い状態で楽器が鳴っていると思います。

そこで楽器の音響特性をインパルス応答(打診)で調べるのと似た方法ですが、上と同じDをピッチカートで弾き余韻部分の波形をみてみました。
イメージ 6
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9265rev.jpg

予想通り、正弦波に近い波形です。高次倍音はすぐに減少してしまうようで、観測できるスペクトルは基音のDと第2、第3倍音のみになりました。尚、基音より低い、約300Hzの山はD線の共鳴、約400Hzの山はG線の共鳴の第2倍音に相当する位置です。(G線が第2倍音で共鳴するのは面白いですね。) 

これより弓圧の少ない弦と弓の間に「空気を挟んだ」音、いわゆる「薄い音」というのは正弦波に近い音になることがわかります。これは逆に弓圧がある程度以上だと波形にこぶが出やすくなり、更に強いとmultiple slipになることを示唆しています。



実験3 私の楽器(長めの表現)

次に、ハイフェッツと同じようにテヌート気味で弾きました。少しテンポが落ち、弓圧も実験2より強めと思います。


二つ目のD(down bow)
イメージ 7
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9260rev.jpg

三つ目のD (up bow)
イメージ 8
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9256rev.jpg

実験2に比べて倍音の相対レベルが上がってきており、それに伴い波形におけるこぶも大きくなりました。Upでは第2倍音、Downでは第3倍音が強く、時間軸波形におけるこぶはそれぞれ1/2周期と1/3周期が支配的になります。スペクトラムでの基音、倍音のレベルの差は小さく見えますが、時間軸波形にはこぶの高さに大きな差としてあらわれることがわかりました。



以上、簡単な実験ですが、当然のことながら楽器や弾き方によって倍音レベルの違いが観測されました。ハイフェッツの演奏の倍音構成はこの実験の範囲内では基音のレベルが倍音よりも下がる現象は見られませんでした。ハイフェッツの音の秘密がmultiple slipにあるという説を唱える方もおられますが、それを決定付ける証拠は得られませんでした。また「基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?」という疑問についても肯定的な結果は得られませんでした。ハイフェッツの定常状態(比較的長い音符のアタックを取り去った部分)の音はmultiple slipの音とは言えないという結論です。

尚、使用した機材・ソフトともに家庭用のものですので、精度、分解能については評価しておりません。G-tuneの時間軸波形とFFTスペクトラム間のdelay、縦軸目盛りなどについても詳細不明です。また機材の雑音、クロストーク、それに起因する歪などの影響についても同じですのでその程度のデータと受け止めて下さい。

より高精度な測定環境でより広範囲なデーターが集められるとヴァイオリンの楽器や演奏法と音色の関係について更に有益は知見が得られと思います。

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約20年前に平島達司がその著書で鍵盤楽器演奏の面から「平均律」への疑問を提起して以来、鍵盤楽器の調律に「古典音律(純正律)」を適用する動きが活発になりました。当時はヴェルクマイスター調律の出来る調律師は関西に一人しか居ませんでしたが、現在は電子チューナーの発達もありどの調律師も対応可能になりました。

弦楽器演奏の音律は、18世紀に書かれたレオポルド・モーツァルトのヴァイオリン教科書に差音をガイドとして和音の音程をとるように教えており、当時は和音を純正律で弾いたということを示しています。また現代ヴァイオリンの音程に関してはクリスティーヌ・へマンやサスマンズハウス教授等が『和音は純正律で、旋律はピュタゴラス律で弾く』との指針を提案しています。

(参考文献・サイト)
平島達司「ゼロビートの再発見」は こちら

レオポルド・モーツアルト「ヴァイオリン奏法」 英文は こちら、邦文は こちら

クリスティーヌ・ヘマン「弦楽器のイントネーション」 は こちら

サスマンズハウス "Violin Masterclass" は こちら



では現代のヴァイオリニストは実際どのような音程・音律を使っているのでしょうか。無伴奏ヴァイオリン曲のCDを聴くと耳の良い方は判断できると思います。ベルリンフィルのコンマスT・安永氏は下記のサイトで平均律と純正律の適用について述べておられます。
http://tcslab.csce.kyushu-u.ac.jp/old-users/t_ito/violin/Vn-yas/violin-yas.html

「音程について」の項を要約しますと:
1.長3度、長6度の差音はヴァイオリン奏者によく聞こえ”ハモっているな”と感じる
2.ハモる和音に使われる音程はメロディーでは『音程が悪い』
3.しかしそのハモる音程は遠くでは悪い音程に聴こえる
ということで、『純正律を使う場合は注意が必要で、ある環境では平均律を使うこと』を勧めておられるような印象を受けました(この論文は、とある講習会のレジュメを受講者の一人がweb用に纏められたものなので安永氏の真意は不明です。)

以下は私見です。
1.の結論は和音の演奏は差音を聴くことによってハモる純正律の音程が得られるということ、2.は純正律の音階は旋律の中では悪い音程に聴こえる、すなわち旋律には平均律が適しているという意見で、私も含めて現代人の(あるいは日本人の?)耳では悲しいかな・・・異論のないところだと思います。

しかし、3.については疑問があります。舞台の上で奏者の傍で聴くい音程がハモッていても、ホールの客席中央では悪い音程に聴こえるという講習会での実験結果に基づくとされています。もし音楽の中の純正律の澄んだ和音や平均律の濁った和音をが判断できず、旋律しか聴こえて来ないような距離で音楽を聴くのであれば、聴衆は一体何を聴いているのでしょうか。

一方、安永氏は「ピアノとのアンサンブル」の項では非常に巧妙な手法を紹介されています。
・ピアノとヴァイオリンは適用音律が異なるので、ピアノの音程を正しく理解し、接点を見つけるべく努力する必要がある
・基本の音程を”自分が弾きたい音程”で弾き、ヴィブラートをピアノの平均律の音程に近付けるようにかける
クリスティーヌ・ヘマンの著書でも平均律に調律されたピアノとのアンサンブルではヴァイオリンは平均律で弾くことを勧めていますし、平島達司も「レオポルド・モーツァルトの時代の鍵盤は古典調律なのでヴァイオリンの四弦は鍵盤に合わせて調弦したはずである」と主張しておりました。安永氏の斬新なところは、ヴィブラートで旋律と和音の良いとこどりをするという手法です。

これはピアノとのアンサンブルに限らず、異なる音律の楽器とのアンサンブルや主張の違う弦楽器奏者とのアンサンブルでは非常に有効な妥協案だと思います。旋律はピュタゴラス律で弾き、ユニゾンや内声部ではヴィブラートを下向けに掛けたり、上向きに掛けたりで純正律の響きを持たせるという高等テクニックです。

今年最終日の記事は音律関係になりました。皆さまどうぞ良いお年をお迎えください。

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