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- 純正律和音の綺麗なハモりと平均律和音の濁りを実際の音で紹介してきました。純正律は周波数比が整数比なのでハモル、平均律はその比が無理数なので濁る・・・その通りですが、何故でしょう?ゼロビートの平島達司は純正律は自然倍音列に基づく根源的なものと説明しています。「自然倍音列上の和音はハモり、それから外れる和音は濁る」。ではなぜでしょう? これは差音の物理概念を導入すれば簡単に説明できます。今回は差音を実際の目で確認することにしました。差音は二つの楽音を同時に弾いたときに生ずる新しい音で、もとの二つの音の差の周波数を持っています。 楽音は基本の振動数(周波数)に加えて多くの倍音(基本周波数の整数倍の成分)を含んでおり、倍音がその楽音の音色を決めると言われています。実は倍音の間にも差音が存在し、和音の純度と濁りを決定的にしています。FFTアナライザーを用いますと音がどんな周波数から合成されているかが・・・即ち音の倍音構造がグラフで観測できます。簡単な割り算と引き算を使って平均律の濁りの原因を示したいと思います。 最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalM3.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalM3.mp3 下の図はこの音源のCの音のFFTアナライザー波形です。 音程はC4で周波数約262Hz。赤枠のグラフは横軸が周波数(音の高さ)で縦軸が音圧(音の大きさ)で、この音源の周波数成分が示されています。「4」で示された波形の山は周波数261.65Hzでこの音源の基本周波数です。「8」は第2倍音、「12」は第3倍音でそれぞれ周波数523Hz,785Hzのところに山があり、以下第4、第5・・・倍音と続きます。 純正律Eの音の波形 純正律Eの音程はE4で周波数約327Hzです。C4との周波数比は 327÷262=1.248 でほぼ5:4(1.25)となっています。 (実測値では326.91÷261.65=1.2494で0.04%の誤差がありますが、この程度の差は耳では聴きとれません) E4のグラフも「5」の周波数327Hzの位置の山が基本周波数で以下右に第2、第3・・・倍音と続きます。ここで「1」は周波数65.4Hzに相当しその4倍がC4、5倍がE4となります。 C4と純正律E4の和音の分析結果 アナライザー波形はC4とE4を重ね合わせた位置に山がありますが、新たな山があることがわかります。 C4の山:4,8,12,16,20、・・・ E4の山:5,10,15,20、・・・・ 新たな山:1,2,3,6,7,9,11、・・・ 新たな山は差音(結合音)と呼ばれるものでC4の山とE4の山の差の周波数の位置に出来る山です。元の音に比べて山の高さが小さく、音が元の音より小さいことを示しています。 たとえば2の山は10−8、12−10、等から生成されます。二つの音C4,E4の周波数比が4:5の整数比である限り、差音も整数比となります。元の音が正確に4:5であれば整数数倍以外の差音は存在しません。この結果、基本周波数「1」(=65.4Hz)の上に順次第2、第3、第3・・・倍音が並んだ波形と同じになり、あたかも「1」の周波数の音が鳴っているように見えます。これが二つの音が溶け合って(ハモッて)聴こえる物理的説明です。 次に平均律の場合を見てみます。平均律のEの波形 E4の周波数は329.5Hzと表示されています。アナライザー波形は純正律E4と変わりません。 C4と平均律E4を同時に鳴らします。 C4と平均律E4の周波数比は329.5÷261.65=1.259となり、整数比5:4からの誤差は0.7%です。純正律の場合と同じように差音を沢山含んだアナライザー波形が得られていますが、純正律とのはっきりした違いは「2」の位置に表れています。 この差音は10−8と12−10等で生成されますが、E4が0.7%高いために山が複数に分離しているのが分かります。従って引き算は10の代わりに10.07を用いますと 10.07−8=2.07 (135Hz) 12−10.07=1.93(126Hz) と山が二つ出来る事が分かります。 この二つの山の差は0.14(約9Hz)でC4の1オクターブ下の低い音域で一秒間に9回の唸り(ビート)を発生していることになります。これが実際に聴こえる低い耳障りなビートの原因なのです。 (純正律では本音源の誤差によって生じる山の差は一桁小さく、唸りは1秒間に1回以下でビートとしては感知されません) 平均律における他の山についても、このFFTアナライザーでは精度上検出できませんが、整数比からの誤差に基づく倍音・差音の山がその周波数付近に集まり、ビートや濁りの原因を作っています。音源の高域における耳を刺すようなビートはこれに依ります。 ところで、楽器が発する差音ですが、ヴァイオリンは可聴周波数域を超える部分まで倍音成分を放射していると言われており、その倍音成分が楽器の音色を決めています。倍音の音量は個体差もあり、豊富な倍音の出る楽器は豊潤で華麗な響きを与えます。しかし倍音の差成分として存在する差音は音量が小さく、遠くでは聴こえにくいものです。平均律の濁りは差音の山の分離に基づくビートに起因しますので、差音が聞こえ難い環境・・・大ホールで直接音よりも反射音が大勢を占める座席・・・では平均律の濁りは目立たないかも知れません。そのような環境では純正律の和音はハモりとして聞こえず、それぞれ別々の音として認知されるかも知れません。その場合は第3音の低さが音程の悪さとして捉えられるということになります。 18世紀までは、音楽の聴衆は数十人レベル以下のChamber Music(室内楽)で、楽音の中の差音は十分届く環境で演奏されました。チェンバロの弱音が届く範囲です。そして音楽は純正律または純正律をベースにした古典調律を用いて演奏されました。19世紀以降は音楽が大ホールで演奏されるようになり、音律も平均律が普及(蔓延)し、2000人規模の大ホールでは平均律の方が好まれる傾向にあります。さらに20世紀の無調音楽では完全に平均律の世界です。 しかしクラシック室内楽の環境に平均律を持ち込みますと上記のようなビートが楽音に含まれ聴衆に伝わることになります。弦楽器は環境に応じ平均律と純正律の特性を良く知った上で使い分ける必要があると思います。 ---
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弦楽器の音律・物理
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独り言です。主に音律関係の話。
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- これまでJust Intonation Network のサイトから3,4,5,6,7度音程の純正律と平均律の響きの違いを紹介してきました。他にSubminor Thirdという7:6(267セント)短3度の純正律音程がありますが、クラシック音楽の実践では使われないようなので省略します。 半音階は支点が無く音程の取り方が難しいです。加えて10度離れた半音階を同時に正しく弾くためには、一つ一つの重音の縦横のイメージ(距離とハーモニー)をしっかりと身に着けることが必要です。一般的にはピアノをガイドにして訓練するそうですが、うちのピアノはヴェルクマイスター律に調律されているので半音階には馴染みません。そこで一計を案じ、市販の2個の電子チューナを用いることにしました。 横の距離感 半音階スケールの場合イントネーションをどうとるかは議論のあるところです。半音階を純正律やピュタゴラス律で弾くことも可能でしょうが、臨時記号によって弾き分ける必要があるので、私には敷居が高過ぎます。調性を想定すると導音や一部の半音が狭くなり跛行し、縦の重音音程も複雑になります。クリスチーヌ・ヘマン女氏は半音階スケールや減三アルペジョは調性が無いことを前提に平均律の適用を勧めています。即ち半音音階の各ステップ、下声部G-As-A-B・・・・、上声部H-C-Cis-D・・・・などの音程は全て100セントに取ります。 縦のハーモニー 長10度の響きは基本的には長3度と同じです。純正律と平均律を比較してみました。純正律ではG/H, As/C等の10度重音を純正和音でとります。MIDIのピッチベンドを使えば容易にシミュレーションできますが、ここでは2台の電子チューナを用いて比較してみました。 純正律http://jackviolin1945.awk.jp/R09_0592M10just.MP3http://jackviolin1945.awk.jp/R09_0592M10just.MP3 lower register: in 442Hz upper register: in 438Hz (-16cents) 平均律http://jackviolin1945.awk.jp/R09_0594M10temp.MP3http://jackviolin1945.awk.jp/R09_0594M10temp.MP3 平均律では各重音がビートや揺らぎを含み濁って聞えます。私は純正律の方をガイドにしながら耳と指の訓練をしています。上達の早道、ヒントなどありましたらご教授下さい。 --
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- 上の楽譜を電子音で演奏しています。最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalm7.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalm7.mp3 短7度は不協和音ですので平均律では非常に濁って聴こえますが、純正律短7度(自然7度)では協和して聴こえると思います。純正律短7度はB(シ♭)は平均律より31セント(半音の1/3)ほど低く取ることによって得られます。是非お試しください。尚、下の音の2オクターブ下が差音として認識されますので、それをガイドとすれば容易に得られます(高い音域の方が分かりやすいです)。 最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalsd5.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalsd5.mp3 減5度も不協和音ですが、純正律では協和度高く透明な響きに近くなります。 属7の和音(ソ・シ・レ・ファ)のソ・ファの音程が短7度、シ・ファの音程が減5度です。平均律ではもちろん不協和音ですが、純正律では協和音のような響きが感じられると思います。自然7度はタルティーニが弾き分けたと言われており、純正律減5度(増4度)はレオポルド・モーツァルトがそのヴァイオリン教本の中で重音の正しい音程として教えています。従って18世紀のヴァイオリン音楽ではこれらの音程が当時使われていたと推定できます(詳細は下記過去記事ご参照下さい)。実践では不協和音に純正律を導入することにより緊張の度合いを制御できます。 短7度と減5度の純正律は周波数比に素数2,3,5、7を用いる7-limit Just Intonationと呼ばれます。尚、短・長の3,6度の純正律は素数2,3、5までの5-limit Just Intonationです。詳細は下記過去記事ご参照下さい。 (過去の参考記事) ---
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- 続きです。 上の楽譜を電子音で演奏しています。最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalmi3.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalmi3.mp3 最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalMA6.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalMA6.mp3 最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalmi6.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalmi6.mp3 純正律の和音は透明でよく溶け合っています。音程の周波数比が簡単な整数比で表わせ、差音(結合音)の周波数が基音の倍音列の中に含まれためです。これに対し、平均律では整数比であらわせず、基音の倍音列上に無い差音が無数に発生するため濁りやビートを生じます。詳細は過去記事ご参照ください。 (過去の参考記事) --
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- この書庫の最初の方でヴァイオリン演奏に用いられる音律である純正律、平均律、ピュタゴラス律について物理的バックグラウンドを紹介しましたが、数字が多くて分かりにくかったと思います。そこで実際の音を聴いていただき、純正律と平均律の違いを体感していただきたいと思います。 私は Just Intonation Network という組織に加入しておりまして、そこでは純正律に関する最新の情報が得られます。そのサイトでは純正律と平均律を比較した録音が掲載されていますので、それらを利用させて頂きました。 上の楽譜を電子音で演奏しています。最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalP5.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalP5.mp3 両者の違いはわずかに2セント(約0.5Hz)です。音程・和音ともに大きな違いは感じられないと思います。 最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalP4.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalP4.mp3 完全5度と同じく大きな違いは感じられません。 最初が純正律で次に平均律です。 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalM3.mp3 http://jackviolin1945.awk.jp/intervalM3.mp3 純正律の音程はE(ミ)が上がりきっていない、少し届かない感じがすると思います。ところが和音で聴くと綺麗にハモっていますね。逆に平均律の方ではE(ミ)がピタッと来ているようですが、和音は濁っており不愉快なビートが聞えます。 これが純正律と平均律の違いです。純正律は和音が綺麗にハモルが、旋律的にはボンヤリと音痴っぽく聞えます。逆に平均律では旋律的には輪郭がはっきりしますが、和音が濁ります。 ヴァイオリンの演奏ではこの両者を旋律と和声で使い分けています。純正和音を正確に取るためには個々の基音に加えて倍音と差音を聴き取る必要があります。旋律と和声を同時に最適化することが出来ないこともあり、その場合は妥協点を見出すということも必要になります。 (過去の参考記事) --
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