Green W.

遅くなったけれど類、お誕生日おめでとう!(しかしいまだに話は総つく。しかも季節は12月・・・)

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10−13.ゆらぎ【4】

 おそるおそるにじり口から茶室の中を覗き込むと、すでに総二郎は風炉の前に座っていた。

 直前まで茶を点てていたのか、水指や棗などの道具もひとそろい所定の位置に置かれている。

 彼の邪魔をしてしまったのではないかと気にしながらも、つくしはにじり口から中に入った。
 
 釜の中では湯がいい具合にわいていて、しゅうしゅうという音が耳に心地いい。

「ま、気楽にどーぞ。」

 つくしが客座に座ったのを見て総二郎は軽い調子でそう言うと、一呼吸おいてふくさを手にした。

 その様をつくしは固唾をのんで見守った。

 彼女が総二郎の点前を見るのはこれが初めてではなかった。

 高校時代、類と西門邸を訪れた時にお茶をたててもらっているし、TOJの時などは、総二郎から直接

指導をうけたことさえある。

 その時も彼が道具を扱う時に醸し出す雰囲気に漠然と感心した覚えがあったけれど、自身が

多少なりとも茶道を習うようになってみて、初めてつくしは総二郎のすごさを思い知った。

 流麗というのがぴったりの淀みなく自然で美しい動き。
 
 長い指が柄杓を扱う様子などはどこか官能的な感じさえして、どきりとする。

 間もなく目の前に薄茶が置かれ、つくしは作法にのっとって茶碗を手にした。

 美しいヒスイ色をした茶の表面には細かな泡が立っていて、口にした時の不思議な軽やかさに驚く。

「・・・昔、西門さんに点ててもらったお茶もこんなにおいしかったっけ?」

 思わず口を衝いて出てきた素直な感想に総二郎は苦虫をつぶしたような顔をした。

「・・・まさか類が異物を混入した時のことを言ってるわけじゃねーよな?」

「うん、抹茶ミルク。」

 かつて類は自分からせがんで点ててもらった茶を牛乳でわり、『やっぱり総二郎のは最高』などと

無邪気に言い放って、彼を凍りつかせたことがある。

 今考えれば、よくもまああんな無茶なことができたものだとつくしは思った。

「お前の舌がやっと人並みレベルに追い付いてきたんだろうよ。」

 不快なことを思い出さされた仕返しか、総二郎がちくりと嫌味を言って返された抹茶椀の清めにはいった。

 やはりその仕草はとても美しくて。

「ちゃんと茶人なんだね。」

 思わず口をついて出てきた素直なつくしの感想に、しまいの動作をしていた総二郎の手が一瞬とまる。

 けれども、そのごくかすかな動きに彼女は気づくことはなかった。


 ほどなくしてあらかた道具をしまい終わった総二郎が、ゆったりとつくしのほうに向きなおった。

 それまでのきっちりとした姿勢から、見苦しくならない程度に膝を崩して座る総二郎の視線を正面から

受け止めることになったつくしは、それまでとまた違った緊張感にさらされることになる。

 そうなると急に人気のない茶室に二人きり・・・という状況を強く意識しはじめた。

 袖口に手を入れて座る彼は、さきほどまでの茶人らしく謹厳な雰囲気が嘘のように消えうせ、

婀娜っぽくてどこかの色悪のようにみえる。

 近づいてはいけないと思うのに、思わず触れてしまいたくなるような独特の色香を放つ危険な生き物。

 まともに目を合わせると、催眠術にかけられたように操られそうな気がして、つくしは心持ち視線を

ずらしたままここから立ち去るタイミングを計っていた。

 その一方で、このまま茶室にとどまっていたいという気持ちも確かに彼女の気持ちのどこかに

あるのも否めない。

「それで・・・なんでわざわざこんな離れ小島まで?」

 声の調子で総二郎がこの状況をおもしろがっているのはわかった。

 茶室はキャンパスの中でも一番端に位置していて、文学部の学生ではない彼女が誤って迷い込むような

場所にはない。

「・・・早く玉を返してもらおうと思って。」

 つくしが無理やりひねり出した言い訳に、総二郎は「ああ。」とあっさりうなずくと、立ち上がって

水屋に姿を消した。

 再び現れた彼の手の中で光る銀の光に、つくしは驚きながらもそれを受取ろうと伸びあがって腕を

上に挙げる。

 その手首を総二郎がグイッとつかんで斜め前に引っ張った。

 中途半端な姿勢になっていたつくしは、そのはずみでつんのめり、総二郎の足もとにはいつくばる

ように倒れ込む。

「西門さん!」

 抗議の声をあげるつくしの手首が畳に押しつけ、総二郎は片膝を立てた姿勢で座ると彼女を見下ろした。

「素直に俺に会いに来たと言えば可愛いのに。」

「誰が西門さんになんかに・・・あたしには、道明寺がいるんだから!」

 自由なほうの手を突きなんとか半身を起して総二郎をにらみ返したが、驚くほど目線が近付いたことに

動揺して、つくしは下を向いた。

「まあこの際、俺のことはどうでもいい。金や名誉にさほど執着がなさそうなお前が、なんでわざわざ

道明寺に入ってせっかく手にしてる自由を放棄しようとしてるのか、まったく俺には理解に苦しむね。」

 つくしは畳に押しつけられている手を引きはがそうとするが、先ほどまで繊細な動きで道具を扱っていた

きれいな指のどこにそんな力が隠されているのかびくともしない。

「いい加減、現実を見ろよ。お前が最後に司に会ったのはいつだ?あいつは、どんどん変わってるよ。

財閥の跡取りとして、ふさわしい人間になるべく。お前が惚れてるのは、『今の司』なのか?」

「そんなこと、西門さんには関係ないでしょ。」

「親切な友人からの忠告は、素直に聞くもんだぜ。」

「友だちはこんなことしないから!」

 総二郎の体の熱を直接感じとれそうなほど近くで声を聞いていると、おかしくなりそうでつくしは彼に

頭突きをくらわそうとした。

 総二郎はそれをなんなく避けながらも、はずみでつくしの腕が外れ、彼女はにじり口に駆け寄った。

「ったく、女じゃねーな。この野蛮人。」

 かすかに笑いをにじませた総二郎の声を背後に聞いて、思わず振り返ったつくしの目の前に、

先ほどの玉がつきだされる。

「忘れ物だ。」

 迷いながらもひったくるようにしてそれを受け取ったつくしを今度は止めるでもなく黙って見ていた

総二郎だったが、彼女が靴をはき終えたところでぽつりと言った。

「牧野。お前がどんなに意地を張って守ろうとしたところで、変わらないモノなんてこの世にはないんだよ。」

 ぐさりとつくしの心にその言葉がつき刺さる。

 それでも動揺する心を押し隠し、つくしは立ち上がって茶室を後にした。
 
 歩くたびにシャランシャランと手の中でなる玉の音が、まるで彼女を責めているようだった。

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つくしも今まで以上に総二郎の言ったことを考えるようになるんでしょうね。こういう影のある総二郎って素敵☆続きが気になって仕方ありません。

2009/12/18(金) 午前 2:59 [ HISA ]

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○HISA さま
更新、遅くなってしまいまして・・・。
すっかり総ちゃんの術中にはまって、ぐるぐる彼のことを考えてしまってるみたいです、つくしちゃん(笑)。
引き返すなら、いまだよぉ・・・と心の中で呟いております。

じゃみ

2009/12/23(水) 午前 2:12 [ jam*_g*e*n99* ]


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