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「はい。」
つくしの掌にきれいなセロファンに包まれたボンボンが載せられた。
驚いて横を見ると類がいた。
「すごくおっかない顔をしてるから。」
言われた言葉にギクリとし、つくしは思わず両手で頬をおさえた。
そんな彼女を気にする様子もなく、類の話が脈絡なくはじまった。
「・・・もうずいぶん昔の話になるけれど。とても気に入っていた自分専用の抹茶茶碗を総二郎は
持ってた。若い作家の作品で高価なものではなかったみたいだけど。」
つくしは黙ってもらったボンボンをじっと見ていた。
「それがどういうわけかある人の目に留まって、取り上げられそうになった。その時、まだ小学生だった
総二郎はどうしたと思う?」
問いかけられて、つくしは類を見上げる。
彼の顔にはあいかわらず特別な感情は表れていなかった。
類の話の意図が読めないまま、そつのない総二郎のことだから気のきいたサプライズでも用意した
のだろうかとつくしはぼんやりと頭の隅で思った。
「あいつね、割ったんだ。その抹茶茶椀を。一応、不注意で落としたように見せかけていたけど。」
類がいつになく厳しい眼差しで、つくしを見下ろした。
つくしの背筋をひやりとした感覚が走る。
「・・・なんでそんなことあたしに言うの?」
「総二郎には深入りしないように、って釘をさしておこうと思って。」
つくしは類の言葉に反発を覚えた。
それは彼女にとって初めての感情だったけれど、それをぐっと抑え込み低い声で言い返す。
「別に深入りなんかしてない。それに、あたしは西門さんとは関係ないから。」
「そうかな。総二郎はそうは思ってないんじゃない?」
言われてつくしは頭を左右に振った。
「西門さんはあたしのことをからかいがいのあるおもちゃぐらいにしか思ってないよ。」
己が発した言葉にもかかわらず、その事実が予想外の鋭さでグサリとつくしの心に突き刺さる。
暇つぶしのおもちゃ・・・その程度の存在にしか思われていない自分が、無性に切なく思えた。
けれども類はそんなつくしをいつものように慰めることはしない。
「たとえおもちゃだったとしても、総二郎が何かに執着するなんて珍しいんだよ。
・・・俺はあんたが壊されるのを見たくない。」
謎かけのような類の言葉も彼女の心にとどくことはなく。
漠然と自分を心配している類の気持ちを感じつつも、つくしは途中で姿を消してしまった今日の
もう一人の主役のことを考えずにはいられなかった。
「・・・。とにかく、無茶しないで。」
ため息交じりの類の言葉に、つくしはただ黙ってうなづいた。
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