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病院のベッドで眠るつくしを類が険しい顔をして見守っていた。
携帯の発信履歴から連絡を受けて類があわてて病院に向かうと、死んだように眠るつくしが
横たわっていた。
一瞬、最悪の事態を想定して彼女に取りすがりそうになった類を冷静に看護士が押しとどめ、
告げられたセリフは彼には意外なものだった。
しばらくしてノックの音とともにドアが開いたが、類は後ろを振り返ることはなかった。
中に彼がいることに気づいて、そのまま立ち去ろうとした人物を類は鋭い声で呼び止める。
「怪我はほとんどない。軽く自転車と接触しただけだって。」
それからゆっくりと振りかえった。
「倒れちゃった原因は疲労と栄養失調らしいよ。」
眠るつくしを気遣ってか、声を抑えつつも類の瞳には隠しきれない怒りがくっきりと浮き上がっていた。
「俺よりももっと最近の発信履歴に連絡したけど、留守電でつながらなかったからって俺のところに
電話が来た。
俺はこのこと、まだ誰にも連絡していないからその留守電の相手はお前ってことになるよね、総二郎。」
珍しいあからさまな類の怒りを恐れる様子もなく、総二郎は淡々とした様子でベッドの脇に近付き、
青白い顔で眠るつくしを見下ろす。
類にしたところで、総二郎がここに現れたことに驚いているわけではなかった。
「牧野、痩せちゃって、くままでつくって・・・。こんな風にこいつを追い詰めて満足?」
総二郎がゆっくりと振り返り、斜め後ろのイスに座る類を見下ろした。
顔には酷薄な笑みが浮かんでいる。
「俺が追い詰めたって・・・?」
腕を組んで斜に構えたその様子のふてぶてしさに類はぐっとこぶしを握り締めた。
「そうだよ。お前は牧野が自分のモノにならないのが嫌で。」
「牧野を自分のモノになんて、冗談にしてもおもしろすぎる。っていうか、こいつが自分のモノに
ならなくて嫌なのは、自分のことじゃないのか、類。」
「挑発しても無駄だよ。ずっと高校のころから牧野のことを見てただろ。まさか俺を誤魔化せると
思ってないよね?」
いつもの類らしからぬ踏み込んだ物言いにも総二郎は表情一つ変えることはなかった。
「・・・自分のモノにならないから、壊すつもり?」
「言いがかりだ、類。こんな女、興味ない。」
類と総二郎の視線が激しくからまり、殴り合いすら辞さない覚悟の類を総二郎は鼻で笑った。
「そんなにカリカリしなくてもすぐに退散するよ。あとはお前が煮るなり焼くなり好きにしろ。」
類に背を向け、右手を軽く上げて別れのあいさつをしようとした総二郎の背中に類は鋭く言い放った。
「もう牧野に近づくな。」
「それはおれじゃなくて、そっちで眠りこけてるお嬢ちゃんに言えよ。」
悪びれる様子もなく言い放ち、そのまま総二郎は振り向くことなく出て行った。
つくしの鼻孔を懐かしいような切なくなるようなにおいがくすぐる。
その香りに意識を覚醒させられたように、彼女はゆっくりと目を開けた。
「気付いた、牧野?」
反射的に香りから連想される名前を口にしようとしたつくしは、類の声を聞いてとっさにそれを飲み込んだ。
「・・・ここは?」
起き上がろうとしたのを類に押しとどめられ、つくしはベッドに横たわったまま尋ねた。
街に出たことは覚えていたが、その後のことはおぼろげで記憶がない。
「病院だよ。あんたが倒れたっていう連絡を受けて。慌てた。」
「・・・花沢類だけ・・・?」
「うん。・・・他に誰か?」
一瞬、総二郎のコロンのにおいがした気がしたつくしだったが、彼の前でそのことを口にするのは
はばかられ、つくしは黙って首を横に振った。
「睡眠不足に、栄養失調だってさ。軽く睡眠薬の入った栄養剤を点滴されたよ。心配かけるのも
いい加減にしてよね。」
「・・・ごめん。迷惑掛けて・・・。」
腑に落ちないものを感じながらも、つくしは素直に頭を下げた。
そんな彼女に類は一言釘をさそうと口を開きかけた時、ドアから看護士が入ってくる。
「念のため一晩入院していただきます。その手続きをお願いしたいのですが。」
「ああ、俺がいきます。」
恐縮するつくしを笑顔で押しとどめ、類は看護士に呼ばれて出て行った。
一人室内に残されたつくしは、目覚めたときの残り香が気になって仕方がなかった。
気のせいか眠っている間、総二郎の声を聞いた気さえしていた。
点滴で注入されたとういう睡眠薬のせいか、頭が少しぼんやりしている。
傍らにあったミネラルウォーターを飲もうとして体を起こそうとしたつくしは、その時、かすかな
金属の音に気付いた。
耳になれた鈴の音のような響き。
はっとして、布団をめくると、5つ目の玉がひっそりと冴えた輝きを放っていた。
「西門さん、来てた・・・!」
やはり気のせいではなかったのだと思うと、もう居てもたってもいられず、つくしはベッドから
抜け出し、コートをつかむとそのまま外へと駆け出した。
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○*りん***** さま
はじめまして。
のぞいていただくだけでありがたいのに、コメントどうもありがとうございますv
ふと気付けば、なんとなく単純なハッピー話が少ないうちの総つく長編ですが、しかし「根底では惹かれあう二人」がコンセプトですので、このお話もなんとかそこを目指してゴールをめざしますね〜。
じゃみ
2010/2/10(水) 午後 9:38 [ jam*_g*e*n99* ]