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今年最大の寒波を迎えた東京はコートを着ていても身体の芯まで凍えるようで、つくしは街中を
歩きながら吐く息で手を温めた。
やみくもに飛び出してはみたもののどこに行くというあてもなく、そのうえ携帯の入ったかばんも
病室に置いてきたままだ。
類が心配しているかも・・・という懸念が頭の隅を横切ったが、左手の中にある玉を握りしめる。
彼がああして嘘をついた以上、いま病院に戻ったら総二郎には会えない気がした。
「西門さんに会いたい・・・。」
その一念だけがつくしを動かしていた。
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年末の多忙を極める家業の行事の打ち合わせを抜け出していた総二郎は、病室で類と遭遇した後、
再び家に戻っていた。
どうにかそれらしい言い訳をして取り繕ったものの、ややこしい状況にある自分の立場を考えれば
どうにも褒められる行動ではない。
渋い顔をする支持者と内心はほくそ笑んでいるにちがいない反対勢力の前で、総二郎は淡々と与えられた
仕事をこなし、ことさら何事もない風を装った。
大事には至らなかったものの、『こんなことでは先が思いやられるな』と叔父に捨て台詞のように言われ。
顔色ひとつ変えることなく、軽く頭を下げて謝罪の言葉を述べてやりすごした総二郎の内心の苛立ちは
相当なものだった。
そのまま大人しく自室に引き取ったはいいけれどこのままでは眠れそうにないと、ラフな格好に
着替えてタクシーを呼びだす。
昔から憂さを晴らすために家を抜け出しては夜遊びに興じてきた。
一瞬、青白い顔をして病院のベッドで眠っていたつくしのことが脳裏に浮かんだが、彼女のそばには
一番の賛美者の類がいる。
嫌なことを思い出したとばかりに舌打ちをして、とりあえず今夜の行き先の選定に思考を切り替えた。
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いつものように家から少し離れた大通りで待たせているタクシーのところに行こうと裏木戸から
外に出た時、総二郎は塀にもたれるようにしてうずくまる黒い影に気づいた。
膝に埋められているせいで顔は見えないが、癖のない黒髪がだらりと地面に届くほどに垂れていて、
その姿にまさかと思う。
「・・・牧野か!?」
かけられた言葉にゆっくり持ち上げられた顔が総二郎を見上げた。
「ああ・・西門さん。」
ふわりと微笑んだその様子が浮世離れしているような気がして、彼は思わずぞっとして腕をつかんだ。
コートはまるで凍りついているように冷たくて、無理やりに引き上げて立たせた拍子に触れた頬も
氷のようだった。
「馬鹿か!」
吐き捨てるように言って総二郎は彼女が自力で立てることを確認すると、半ば抱えるようにして
待たせていたタクシーに向かった。
タクシーの運転手に万札を渡してから、家から5分ほどのところにあるホテルの名前を告げた。
ただならぬ様子に困惑をみせた運転手だったが、総二郎の有無を言わさぬ迫力に押されたのか黙って
車を動かす。
車が出ると同時に携帯で当のホテルに連絡を入れひとしきり話をつけ、総二郎はやっと隣で
ぼんやりとしているつくしを落ち着いて見ることができた。
まだ寒さに震えていて、唇は青い。
特に大きな怪我はないと病院で類が言っていたから大事はないはずだがと思いながら携帯を
確認すると、彼から着信とメールが数件入っていて、ため息をつく。
「・・・病院、抜け出してきたのか?」
総二郎の低い声音に、びくっとしてつくしの顔が一瞬正気に戻った。
「大丈夫だから。」
小さくつぶやくようにつくしが言ったところでタクシーがホテルに着き、総二郎は彼女の腕をつかんで
車から降りた。
到着したホテルはプライベートというより、家の関係で使うことが多いホテルだったので本来避けたい
ところだったけれど、細かい事情には構っていられなかった。
総二郎の顔を知っているはずのフロントスタッフたちはさすがに接客のプロだけあって、
いかにもワケありな様子で現れた次期家元候補の姿を見ても眉ひとつ動かさず笑顔で部屋に案内する。
総二郎は今日何度めかの舌打ちを心の中でして部屋に入ると、ぼんやりしたままのつくしのコートを脱がせた。
「西門さん・・・!?」
正気に戻ってさわぐつくしを構わず抱きかかえると、あらかじめ湯をはっておくように頼んでおいた
バスタブの中に着衣のまま放り込んだ。
「きゃっ!」
慌てて立ち上がろうとするつくしをじろりとにらむ。
「あったまるまで出てくるな。風邪でも引いてこれ以上迷惑をかけられるのはごめんだからな。」
それだけ言い置いて、総二郎は浴室から出て行った。
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○lem********* さま
コメントありがとうございますv
どこまで総ちゃんのキャラクターをこわしていいのかしら・・・とビクビクしつつ、さらにロクデナシ度、アップ予定です(汗)。
ごめん、総ちゃん・・・。
じゃみ
2010/2/16(火) 午後 9:41 [ jam*_g*e*n99* ]