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その日の夜、つくしは6つの銀の玉がならぶ皿の前に座っていた。
後ひとつですべての玉が手元に戻ってくる。
そう思うだけで、ギュッと心臓が締め付けられる気がした。
いつまでたっても、総二郎の声、ぬくもり、匂いが消えることはなく。
いやむしろそうした記憶が薄れるのを恐れてさえいた。
どうしても、もうこれ以上、ごまかすことはできないことは、自分が一番よくわかっていた。
総二郎がどう思っていようとも、自分の気持ちがむいているのは明らかに司ではない。
たとえそれが一時の気の迷いであったとしても、何食わぬ顔で司のもとにもどるなどつくしには
どうしてもできなかった。
今となっては自分でも怖いくらいに総二郎に惹かれているけれど、それ以前に、すでに自分の気持ちは
たぶん司からは離れていた。
それをごまかしたまま、惰性でずるずると彼との関係を続けてきて、挙句の果てにこのざまだ。
遅すぎるかもしれないけれど、決着をつけなくてはならないのだとつくしはやっと己で決断を下した。
本当に久しぶりに自分から通信回線を開いてNYにいる司を呼びだす。
クリスマスホリデーを控えたNYは、それこそ殺人的な忙しさらしく、なかなかこたえはなかった。
いつもならあっさりと引きさがるつくしだったが、今日ばかりは折れそうになる心を鼓舞して、
呼び出し音を響かせ続ける。
やがてとつぜん黒い画面が切り替わり司が映し出された。
電話を受けながらも、早口の英語でないかを指示している彼の姿は、つくしの知る司とは
別人のように見える。
高校時代の鼻持ちならない傍若無人さはすっかり消えて、真の、経験に裏打ちされた落ち着いた自信を
漂わせている。
『珍しいな、お前から連絡してくるなんて。』
司はすこし表情を緩めて言った。
その瞬間につかのまつくしの記憶の中にあるどこか子供っぽい表情が垣間見え、彼女の心はきしんだ。
「・・・忙しい時にごめん。どうしても・・・話したいことが・・・。」
この期に及んでいいよどむつくしのはっきりしない態度に司は何を感じたのか。
しばらくその様をじっと見据えた後、静かに口を開いた。
『それは、電話で話して済むようなことなのか?』
ゆっくりと紡がれる言葉は決して荒々しいわけではないのに、力を感じさせるその声につくしは
はじかれたように画面ごしに司を見つめた。
司の視線はゆるぎなく、まるですべてを見通しているかのようだった。
それと同時に、ここまできて司とちゃんと向き合おうとしていなかった自分のずるさを白日のもとに
さらけ出されたような気がする。
「・・・ごめん。」
やっとの思いでそれだけ口にした。
『さっきからお前、謝ってばっかりだな。まあいい。24日にそっちに帰る。話はその時だ。』
司が告げた日まであと4日。
短いようでいて、果てしなく長いようにも思えるその時間。
『その間に、もういっかいその話したいこととやらをじっくり考えとけよ。・・・俺は、お前の今度の
誕生日にできたらちゃんと婚約なりなんなり形にしたいと思ってる。』
「…道明寺!?」
焦ったようなつくしの姿をみても司は動揺を見せず、『4日後に』と言い残して回線を切った。
暗く変わった画面の前で、つくしは茫然と座り込んでいた。
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