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「俺も干渉されるのはごめんだったから、ちょうどよかった。
それで二人でこっそり契約を結んだんだ。
突っ張っていたものの彼女の会社はぎりぎりのところにあったし。
俺は彼女と幼馴染の関係を認めて、彼女のお兄さんが会社を立て直すまでバックアップする。
その代わり花沢はIT技術の提供をしてもらう。もちろん彼女も俺の生活に干渉しない。
お互いケッコンしろって周りからせっつかれてたから、カムフラージュにもなったしね。」
こうして二人の文字通り「形の上の結婚」が始まったらしい。
「牧野に再会して、俺も必死にがんばって花沢のIT部門を軌道に乗せた。
彼女の家もどうにか立ち直ったし、彼女の幼馴染もこの夏からMITの研究員に採用されて、二人で
アメリカで暮らすことになってるんだよ。
俺はこれでやっと晴れて牧野と一緒になれると思ったのに。
肝心のあんたがまた逃げようとしてるって司から電話で知らされて、信じられなかった。
あわてて離婚届の準備して、ここ来る前に役所に出して・・・。
ほんと、心臓止まるかと思った。」
花沢類はやっぱりちょっと怒っているようにぎゅっとあたしを抱きしめる腕に力を入れた。
「そんなこと言われても・・・!だいたい、説明もしてもらってなにのに、そんなややこしい事情、
わかるわけないじゃない!あたし、ほんとに大変なことしたと思って、自己嫌悪に
陥ってたんだから・・・」
「ごめん。一応、いろいろ事情があってあんまり話せることじゃなかったから・・・。
でも、俺、いつも形だけだからって言ってたよね?
俺にしてみたら、牧野が俺のことをぜんぜん信用してなかったんだってことのほうがショックだよ。
しかも、司とぴったりくっついて、ほっぺた触られてるし。
・・・司に会って、やっぱりあいつのほうがいいと思った・・・?」
最初は怒ってるのかと思った花沢類。でも、最後の一言を言うとき、彼の瞳で揺れている
不安げな光をあたしは見逃さなかった。
なんだってこの人は、こんなにワガママで強引なくせに、ときおり儚げな脆さを見せるんだろう。
誰もがうらやむ家柄と才能と美貌の持ち主なのに。
そんな彼を突き放せる女性がいたら、会ってみたい。
少なくともあたしには絶対に無理だ。
「いまさら道明寺の元にもどるくらいだったら、そもそも全部なげうって花沢類のところから
黙って消えようなんて考えないわよ。」
それでも花沢類は少し下をむいたまま、傷ついた様子であたしに問いかける。
「俺のこと、好き?」
なんて恥ずかしいことを聞くんだろうと思ったけど、花沢類の悄然としたさまをみるとなんだか
自分が極悪人のような気がしてきて、思わずどもりながらも答えてしまった。
「う・・・す、好きに決まってるじゃないっ」
その瞬間。
ニコ〜っと満面の笑みを浮かべる花沢類。
こ・・・この男!絶対わざとだ!
あまりのことに絶句しているあたしをよそに、花沢類はソファーに座ったあたしから離れて、
じゅうたんの上に片膝をついて座った。
そして左手をそっとにぎって言った言葉は。
「ねえ牧野。俺と結婚して。」
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こうしてあたしの不倫劇(?)は終わった。
それは10年にもわたるあたしの逃亡生活にやっと決着がついた瞬間でもある。
ちなみに花沢類のプロポーズは保留中。
それが彼にはかなりの不満みたいだけど、いくらなんでもあまりにも急すぎる展開に一般人の
あたしはついていけない。
ミズキさんは無事、幼馴染とアメリカに渡り一緒に暮らしてるらしい。
花沢類いわく、彼は今、奥様に浮気されて逃げられたかわいそうな男ということになっているので、
周りも腫れ物を触るようなかんじなんだそうだ。
「だから、今なら俺が牧野と結婚するって言っても、誰も反対しないよ。
まあそもそも、そんなことがなくったって誰にも文句を言わせないようにちゃんと地盤は固めていたけど。」
今日もまぶしい花沢類の笑顔。
最近、気のせいか花沢類のお尻から黒い尻尾が出てる気がする。
あたしのカレシ様ながら、ぜったいに敵には回したくないタイプだわ・・・・。
それでもにっこり微笑む彼の顔をみるとすべてがどうでもよくなってしまうのも事実で。
「花沢つくし」 になる日はそう遠くないのかも・・・。
FIN
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