Green W.

遅くなったけれど類、お誕生日おめでとう!(しかしいまだに話は総つく。しかも季節は12月・・・)

2.短編集 【総二郎×つくし】

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2-9.寒い夜に【後編】

※中学生以下の方はご遠慮ください。

 また後編からごらんになっている方は、まずは前編の注意書きをお読みください。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 バーでグラスをさらに1,2杯重ねたあと、そのままホテルの部屋にむかった二人。

もう少しだけ飲みたいと女に言われ、総二郎は部屋にワインを運ばせた。


 改めてグラスを合わせる。

 続けて飲んだアルコールのせいか総二郎から見た女の横顔の頬がほんのり赤らみ、

バーで見たときよりも少し幼い印象を彼に与えた。

 それが余計に知り合いとかぶって、思わず総二郎の口をついて出てきた問い。

「知らない男についてきて、怖くないわけ?」

「そういうあなたこそ、私のことを変な女だって思わなかったのかしら?」

 言われて己の質問の白々しさに苦笑する。

 何をいまさら・・・だ。

 お互いに同類だと認識している。

 総二郎は彼女に自分と同じ匂いを感じていた。

 彼が求めているのが、目の前のこの女ではないように。

 おそらく彼女が真に欲しているのも彼ではない。

 名前も知らない相手で肌を温めあい、ただ快楽におぼれる。

 そんな適当な関係をお互いが欲しているにすぎないのだ、と。



 バスルームから部屋に戻ると、先にシャワーを使った女がワイングラスを傾けながら

窓の外を眺めていた。

 そろそろ始まった気の早いクリスマスのイルミネーションを見ながら、女が思うのは

なんのことか。

 ままならない男に対する焦燥か、それとも終わった恋への悔恨か。

 そんなことはどうでもいいかと、総二郎はそう思った。

 後ろから近寄り細い身体を腕の中に包みこむ。

 折れそうでいてしなやかな柔らかい体。

 窓ガラスに映る互いの顔を見なくてすむように、少し濡れてしっとりした黒髪に

口付ける。

 絹のような手触りが心地よくて何度も掌で愛撫していると、女がその指を

そっと握って、いとおしげに口に含んだ。

 柔らかくて熱い舌が指に絡むその心地よさに誘われて、そのまま空いている手で

髪を掻き揚げ、現れた白いうなじに口付ける。

 ビクリと身体を震わせながら彼女が熱い吐息をもらしたのを合図に、

そのまま抱き上げてベッドの柔らかなスプリングに沈んだ。



 細い体は面白いようにしなり、まっすぐな黒髪がうねるようにシーツの上を

踊り千々に乱れる様にあおられて、総二郎はいつもよりも執拗に女をせめていた。

 少しずつけれど着実に追い詰めて、頂点を迎える直前にその手を弱める。

 巧みにそれが繰り返され、際限なく焦らされ続けて次第に快楽の淵に落ちていく女。

 そのもだえる様に総二郎はいつの間にかつくしの面影を重ねていた。

 とぎれとぎれだったかすれた声が悲鳴のような声音に変わる頃、唇で彼女の口を

塞いで乱暴なまでにすらりと伸びる足を割り広げる。

 脳の奥がチリチリと焦げるような感覚に誘われるままに、ズクリと体の中心を貫き、

己の奥底にたまっている澱を吐き出すかのように激しく揺さぶった。

 その瞬間、鳥肌が立つほどの快楽に包まれる。

 やがて彼が限界を迎える頃、総二郎は腕の中の女が日向の香りを発しているような

錯覚を覚えていた。



 ピロートーク一つかわすでなくあっさりと立ち上がった女がシャワーを浴びている間、

総二郎はザラリとした後味の悪い想いをかみしめていた。

 自分のいとわしい欲望で心の中の真っ白な存在を汚してしまった・・・という後悔。


「・・・そんなガラでもないけどな・・・。」

 投げやりにつぶやき、サイドボードに置いていたタバコに手を伸ばす。

 ふわっと立ちのぼる煙を眺めてぼんやりしていると、すっかり身支度を整えた女が

出てきた。

 先ほどまでの乱れた様子は微塵も感じさせず、当然のことながらそこにはつくしに

通じるものは何もない。

 長い黒髪を除いては。


「先に行くわね。」

 そう言って部屋の出口に行きかけた女がふと扉の前で振り返った。

「・・・黒髪が、好きなの?」

 揶揄するようなその問いに答えるのも面倒で、ただ少し自嘲の念に顔をゆがめる総二郎。

「お互い、厄介な性格みたいね。」

 ふっ、と笑って女はそのまま出て行った。

「・・・厄介な性格・・・か。

 ま、なれるもんなら人間は素直で単純なのが一番だけどな。」

 そうしてタバコの火をもみ消した総二郎も、ベッドから立ち上がった。

 


【Fin】

2-8.寒い夜に【前編】

*注意書き

「総二郎×つくし」書庫に入ってますが、つくしは出てきません(汗)。

 総ちゃんと行きずりの女性とのお話ですので、そのタグイの話は許せないという方は

パスしてください。
 
 そーいうわけでいろんな意味でちょっと大人モードですので、特に後編、

中学生以下の方はご遠慮くださいませ。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 ほの暗いホテルのバーのカウンターに座り、琥珀色の液体にうかぶ氷をもて

あそびながら、総二郎は普段めったに口にしないタバコに火をつけた。

 この後どうしようか、と逡巡する。

 いつものように携帯に登録されているナンバーから適当な女を呼び出すか。

 はたまた同じように戯れの恋を繰り返している気のおけない幼なじみを連行し、

バカな話をとりとめもなくしてたわいもなく過ごすか。

 それがおそらく一番の安全策だが、そこまで考えて肝心の当の本人がヨーロッパに

視察旅行中なのを思い出した。


 それなら・・・

 相変わらず勤労処女を続けている親友の元彼女を呼び出して、からかって遊ぶ・・・

というのもいい暇つぶしになる。

 ほぼ毎日のように夕方から終電ぎりぎりまで働いている彼女なら、

ブツブツ言いながらもつきあってくれるだろう。


 だがそれは危険すぎると、即座に打ち消した。

 自分の理性には100パーセントの自信を持つ総二郎だが、今の時期はよくない。

 なんとなく人恋しいこの季節。

 寒々とした静けさに包まれる屋敷に帰りたくないと思ったのは、そのせいだ。


 時としてどうにも一人でいるのが嫌な夜がある。

 特に晩秋のこの時期には。

 その仄暗さを打ち消してくれるであろう向日葵のような女は、皮肉にも彼の懊悩の

根源でもあった。

 こんな状態で会ったら自分でもどう転ぶかわからない感情に引きずられて、

とんでもないことを仕出かし、かろうじてかぶり続けている「気の置けない友達」と

いうポジションさえも失いかねない。

 かといってわざわざ今から名前と顔すら一致しない女を呼び出し、機嫌をとるのも

無性に億劫に思えた。


 おとなしく帰るか・・・と総二郎があきらめかけたとき。

 ふわりと鼻をかすめる麝香の香りとともに、二つほど離れたスツールにすべるように

腰掛けた人影に視線をひかれた。

 思わず見てしまったのは、スレンダーな細身のボディと腰にまで届きそうな黒髪のせい。

 艶やかなそれが、今まで思っていた女の姿と重なった。

 じっと眺めてしまいそうな己のぶしつけな所業を反省しながらも、横目で女を観察する。

 慣れた様子でマンハッタンを頼んだ女は、もちろんかの人とは異なる。

 お世辞にもいろっぽいとは言いがたい彼女に比べてずいぶんと洗練されていたし、

なによりもかもし出す、どことなく倦んだような雰囲気が決定的に違った。

 自分をひきつけた黒髪にも丁寧に手間と金をかけて手入れされた雰囲気がある。

 総二郎を悩ますまるで子供のような彼女は、手入れどころかいいとこシャンプーに

リンス。

 しかもおそらくガシャガシャと乱暴にドライヤーで乾かしているだけだと思われる。

 あの奇跡的なキューティクルの輝きは、パーマもカラーリングも一度もしてない

貧乏のなせる奇跡だ。


 そんなことをとりとめもなく考えながら、総二郎は屈折した感情から隣の女に

興味を持つ自分を認識していた。

 そして。

 彼の勘に間違いがなければ。


 オーダーしたカクテルを飲み干したらしいタイミングを見計らって、視線を流す。

 まるで総二郎の視線に最初から気付いていたかのように、ゆっくりと女が顔を

こちらにむけた。

 心に描く人よりも、きつめの切れ長の瞳。

 それでも彼女と同じ白い肌が、暗い照明の下でぬめりを帯びたように光っていた。

 
「次は、俺にご馳走させてもらえる?」

 総二郎が意思をこめて、甘いいたずらな視線とともに水を向けると、女もゆっくりと

口元に笑みを浮かべた・・・

2-7.S氏の懊悩

 アパートの玄関チャイムが鳴り、つくしがドアを開けるなり、大きな体が被さるように

彼女をしっかりと抱きしめた。

「もう限界。牧野切れで倒れそう。」

 そう言いながらすっぽりと自分を広い胸の中に治める総二郎につくしは真っ赤になる。

 総二郎独特の甘く官能的な香りと心臓の脈打つ力強い音に包まれて、知らずに自分が

うっとりとその感触におぼれているという認識もない。

 二人が会うのは実に二週間ぶり。

 いくら電話やメールを駆使しても、つきあい始めたばかりの二人にとって、互いの

ぬくもりほど癒されるものはないわけで。

 それを隠すでもなくストレートに表現する超絶美形のカレシにいつまでたっても

慣れないつくしだった。


「そんなこと言ってるけど。西門さんがまったく女っ気なしなんて信じらんないし。」

 ときどきこうして口をついてでてくるかわいげのない台詞は、照れ隠しだと心得ている

総二郎は、久々の抱擁にさらに力を込めた。

「それは濡れ衣。俺は浮気はしない主義なの。」

「ふぇ!?」

 総二郎が嘘偽りのない本心を伝えたその直後、つくしは奇妙な声を発しながら

広い胸を腕で押しかえして体を離すと、彼の端正な顔を見上げた。

「なんの冗談!?」

 憎たらしくなるほど愛らしい瞳できょとんとしたつくしを見て、総二郎はそれが

けっして照れ隠しなどではない素直な感想だったのだと知った。

 彼女にとっては久々の抱擁をもふっとばすほどの、思いも寄らない言葉だったらしい。

 つくしとまっこうから向き合うと決めて以来、節制に節制を重ねている自分のことを

まったく信じていなかったのかとハンマーで頭を殴られたような衝撃に襲われる。

 ここにきて初めて、自らのお世辞にも誉められたものではない「華々しくも

とっちらかった過去の歴史」を心の底から後悔した総二郎だった。

「そんなに驚かれるとマジでへこむんですけど、つくしちゃん。

たしかに昔はいろいろあったけど、別に誰ともつきあってた訳じゃないから、

特定の彼女はいなかったわけだし。浮気とはいえねーだろ?」

 胸を張って言うようなことじゃねーよなぁ・・・と自分自身につっこみつつも、

今現在の我が身の潔白はきちんと理解しておいてもらう必要があると苦しい言い訳をする。

 対するつくしはそれって詭弁じゃないの・・・・?と至極まっとうな感想を口の中で

ブツブツ言っていた。

 確かに己をすんなりと信じてもらうには、過去の悪行を知られすぎている

友達づきあいの長い二人である。

 仕方が無いとは思いつつも、なんとなく面白くない総二郎は戦法を変えた。

「おまえはそう言うけど俺に言わせれば、浮気する危険度はおまえの方が断然高いと

思うぞ。」

「はっ!?」

 先の総二郎のセリフ以上に思いも寄らないことを言われたつくしは、口をぽかっと

開けて目をまるくし・・・・次の瞬間、敢然と抗議した。

「それって完ぺきに言いがかりじゃない。逆ギレ?」

 あまりの言われように、本当に自分は愛されてるんだろうか・・・とかすかな疑問を

覚えつつ、それでも総二郎は冷静に対処した。

「まあそう言わず、まずは俺のいうことを聞いてみろよ、つくしちゃん。」

 まったく納得のいかないながらも、しぶしぶ総二郎の言葉に耳を傾けるつくし。

「たしかに今までの俺はちょっとひどかったかもしれない。」

「しれないじゃなくて、しかもちょっとじゃなくて、おもいっきりひどかったけど。」

 きわめて失礼な台詞は、残念ながら半分以上事実だったので黙殺する。

「でもさ、おかげさまでだいたいパターンが読めて、たいていの女の誘惑は

かるーく流せてしまえるわけ。その上、ずいぶん前にそういうのにすっかり

飽きちゃって、変な女の機嫌をとるくらいなら、茶室にこもって集中していたいって

真剣に思ってるし。今じゃつくしちゃんさえいればいいやってかんじ。」

 うまいこと丸め込まれているんじゃないだろうかと思いつつも、そう言われて

やっぱり嫌な気はしないつくしだった。

 それを敏感に察知した総二郎は一気に攻勢に出る。

 形の整った美しい人差し指をつくしの額の前に突きつけながら、びしっと言ってのけた。

「それにくらべて、牧野、おまえときたら。まーったく、これっぽっちも警戒心が

ないだろーが。」

 それはただならぬオープンマインドの持ち主であるつくしに関して、総二郎が

つねづね危惧しているところだった。

「そんなことないよ。だいたい警戒心を持たないといけないほどあたしに興味を持つ

モノ好きはいないし。」

 言いがかりをつけられたと憮然とするつくし。

 それに対し、総二郎はわざとらしく突きつけた指をそのまま自らのこめかみに

持っていき、特大のため息をついた。

 自分の親友たちがどんな想いをつくしに対して抱いているのか、目の前の鈍感娘が

まったくわかっていないらしいことを改めて認識する。

 彼からみれば、元彼で今やすっかり友達づきあいをしている司もいまだつくしのことを

心の底で想っているのはバレバレで、あきらにとってもちょっと気になる存在として

心の片隅にひっかかっているのはなんとなく感じている。

 そしてまったくもって油断ならないのが、つくしの鈍感さをいいことに正々堂々と

彼女の傍らに席を確保してシラっとしている類だ。


 つくしに言わせると類は「自分の一部」で、男女の愛を超越した誰よりも自分を

理解してくれる「永遠の友」ということらしいが・・・・。

 そもそもそれを堂々と恋人である自分の前で言い放つのもいかがなモンで

あろう・・・と折に触れ疑問に思っていたことでもあった。

 だが、わざわざそれを言葉にして逆につくしが類を異性として意識し、

やぶ蛇になっても困る。

 とりあえずさりげなく、ごく自然に、彼女の認識を改めてもらえるように

教育的指導を試みることにした。

「たとえば、だ。」

 総二郎は真剣なまなざしで彼女の視線をとらえたまま言った。

「仕事が終わって家でくつろいでいたときに、類からおまえに電話があったとする。」

 なんだかなあ・・・と思いながも、つくしはとりあえず黙ってうなずいた。

「で、今から家にきてほしいっていわれたら、おまえはどうする?」

「っていうか、西門さん、それはありえないよ。だって類はあたしに用事があるときは

いつも事前に連絡いれて迎えにくるもん。そうじゃなければ仕事の

終わる時間を見計らって会社の近くで待っててくれるし。

家に呼びつけるってことはまずしないと思う。」

 そう大まじめに反論するつくしには、何一つやましさはない。

 にもかかわらず、総二郎の形のいい眉がぴくりとあがったことにつくしは

果たして気づいただろうか・・・。

 少なくとも、目の前のおそろしく整っている顔をした自分の恋人が心の中で、

『ていうか普通にそういうことしてるわけね、なんとなく察しはついていたけどな』

などとジリジリしているとは思いもよらないだろう。

 それでも、なんとかもう少し慎重な行動を取ってほしいと心底願っている総二郎は、

引きつりそうになる顔を意志の力でぐっとねじ伏せて、なおも冷静に言いつのる。

「だから、例えばの話。」

「・・・なんか質問の意図がよくわかんないんだけど、でもまあとりあえず、

普通に家に行くけど。」

 その言葉を聞いた総二郎は間髪入れずつっこみをいれる。

「だろーな。間違いなくおまえならそうする。」

 今が勝負どころだといわぬばかりに総二郎はゆっくりと声音を落とした。

「ここで問題なのは。おまえがなんの危機感ももたず、ほいほい男の家に上がり

込むってことだ。」

「・・・上がり込むって。それに類の家だよ?お手伝いさんだってたくさんいるから

二人っきりって訳じゃなし。何にも危ないことはないって。」

 あんなだだっぴろい家じゃ、二人っきりみたいなモンだろうーが。しかも、どうせ

いつものごとく”非常階段的非日常世界”を作ってるんだろ・・・とはなんとなく

総二郎も言えずにいる。

 かつてプレイボーイとしてならした自分が、そんなことにまでこだわっていると

知られるのは、プライドが邪魔をする。

「だいたい相手は花沢類だよ。ぜんぜん大丈夫。西門さんってば、心配性だね。」

 そう言いながら、しまいにつくしはケタケタ笑い出す。

 
 総二郎は沈黙した。

 個人的には(というか、世間的にも)ぜんぜん大丈夫じゃない状況だと思えるのだが、

あえてそれを指摘することで問題の根源に気づかせるような危険は冒したくなかった。

 それにここまでべったりと「安全パイ」のレッテルを貼られてしまっているのも

男としてどうなんだろうと、多少なりとも類のことが気の毒になってきた総二郎である。

 だが、しかし。

 類のことだから、それすら計算してうまく利用している可能性が全く捨てきれない。

 というか、むしろ確信犯に違いない・・・・

 などと恋する男の心は千々に乱れるのであった。

「だいいち、あたしは別に類じゃなくても美作さんや、道明寺、青池君や桜子のとこに

だって行くよ。ひょっとしてなにか緊急事態かもしれないでしょ?」

 そう言ってつくしはこの話は終わりとばかりにご飯の用意してくるね〜と、

さらりと総二郎の腕から抜け出した。

 総二郎は固まったまま、つくしの言葉を反芻する。


「・・・桜子・・?・・・。」

 そしてまもなくありえない結論が脳裏をかすめる。

「あいつにとっちゃ、男も女も関係なく、みんな平等にお友達ってわけ・・・?」

 おいおい、今どき幼稚園児でももう少し異性に対する認識はあるぞ・・・と

総二郎は頭を抱えた。

 そもそもいったい、つくしは総二郎の言う「危機」をどういう意味で捉えているのか。

「・・・まさか、イジメとかけんかとか、そういうお子様レベルなんてことはさすがに

ないよな・・・。」

 危機管理どころか、何が危機なのかわかっていないのだから、馬の耳に念仏、

ぬかに釘、のれんに腕おし・・・。

 とにかく、そんな相手に警戒しろと言ってもそれはまったくムダな努力だろう。


「・・・まあ、そういう意味じゃ、やっぱり俺は特別な存在なんだろーな・・・。」

 なんとなく天井を見つめて力なくそうつぶやきながら、もう一度盛大なため息を

ついた総二郎だった。

               【おしまい】

 結局。

 やっぱりあいつらは人の誕生日をダシにして楽しみたかっただけで。

 ひょっとしてこれは羞恥プレイか・・・?と勘ぐりたくなるほどの滋のバースデーソングの後、

強制的にろうそくの火を吹き消さされて、その様を写真にとられた。

 あとはひたすら飲んで騒ぐいつものパターン。

 ったく。

 騒ぎたいなら騒ぎたいって、最初から素直に言えよ。

 人騒がせな奴らめ。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ガンガンに暖房が効いた部屋は暑いほどで、少し外の空気を吸いたくなった俺は

酔っ払いの巣窟から脱出してバルコニーに出る。

 ついでにあきらが隠し持っていた秘蔵の日本酒をグラスにたっぷり注いで持ってきた。

 冬空の張り詰めた空気の中で飲む極上の大吟醸は、この上なく旨い。


 昔は定められたレールの上を走る将来に嫌気がさして、腐ってた時期もあったけど。

 最近になってやっと、こういうのも意外と悪くないのかもな・・・と思えるようになった。

 たまに悪ふざけがすぎることもあるが、馬鹿みたいに一緒に騒いでくれる仲間と

こうしてすごすのも結構気に入ってる。

 なんだかんだ言いながら、楽しい一日だった。



「西門さん。」

 てっきりとっくに酔っ払ってるだろうと思っていた牧野が現れた。

「めずらしいな。今日は飲んでないのか?」

 いつもこのメンバーで集まるときは滋の攻撃に真っ向からさらされて、そろそろ

眠りこけてる時間帯だ。

「あ・・・ほら、やっぱり今日は、西門さんのお誕生日だし。まだちゃんとお祝い

言ってないし。」

 普段は強気な牧野だけど、こういうときは相変わらず笑えるぐらい恥ずかしがる。

 その姿がかわいらしくて、これも俺の気に入っているものの一つ。

 反動でたまにいじめたくなるほどに。

「ふーん。じゃあ、俺のためにじっとお酒を我慢して、待っててくれたわけだ。

で、プレゼントは?」

「えっ・・・あ、えーっと・・・。」

 とたんに目が宙をさまよう牧野に、さらにいたずら心が湧き上がる。

「牧野。俺が一番欲しいもの、おしえてやろーか?」

「あ・・・欲しいものあったんだ・・・。」

 それを聞いて表情を曇らせた牧野。

 ほんとになんてお前はかわいいんだろう。

 だから耳元に顔を寄せて、とびっきりの声を流し込んでやる。

「おまえと一晩中ベッドですごすこと。」


「・・・ば・・・ば・・・馬っ鹿じゃないの〜!!」

 これ以上ないぐらい赤くなってうろたえる牧野に爆笑する。

 いまだ清い関係のままの俺と牧野。

 正直、どうしようもないほどの衝動に駆られることがないといったら嘘になるけど、

でもまあこいつのペースに合わせてゆるりと進んでいくのもアリかと思ってる。

 それにこいつをからかってると飽きない。

「つくしちゃん。男なんてしょせん動物で単純だから。首にリボン巻いて

『プレゼントはわ・た・し』なんてのが、結局は一番うれしかったりするわけ。

それでウサ耳と尻尾がついてたらサイコー。」

「へ・・・変態!!!」

 そう叫びながら牧野がピュッと後ろに飛びずさろうとしたから、腕をつかんで胸の中に

抱き寄せる。

「ひっ・・!放してよ!」

 おいおい、俺は痴漢か・・・

「牧野にはさすがにそこまで要求しないから。」

 苦笑しながら背中をなだめるようにぽんぽんとたたいて、ご機嫌を取る。

 しばらく後、おとなしくなった牧野の髪をなでながら彼女の瞳を甘く覗き込んだ。

「その代わり・・・」

 腕の中の体が小さく震える。

 そのまま黒く艶やかな髪をかきあげながら、右の親指で牧野の桜色の唇をなぞる。

「おまえのキスが欲しい。」

 吐息交じりにそうささやいて、ぎりぎりまで顔を近づけると、あっと間に真っ赤に

なる牧野。

 でも、今度は許してやるつもりはないから。

 じっとみつめ続けると、とうとう我慢できなくなったかのように目を閉じる。

 そのまま俺の服の襟を硬く握って、やがて唇に訪れるやわらかい感触。

 文字通り小鳥のようなそれに、思わず微笑した。

「・・・お誕生日、おめでとう。」

 瞼を伏せたまま小さな声でそういう牧野の唇を、今度は俺から奪う。

 もう一度深く味わうために。



 こんな誕生日もいいかもしれない。


 <Fin>

 俺の誕生日。

 たぶん物心ついて以来、初めて心待ちにしていたといってもいいであろうその日、

向かいのソファーに牧野を座らせ、俺は腕組みしてカウチに座っていた。

 牧野の横には半分夢うつつで、あさっての方向を向いてる類が座ってる。

 一応、責任者の一人だから・・・としれっとして座るこいつをどかせるのも、

まだ少しぼんやりしている今はめんどくさい。

 類の反対側には牧野を気づかうように、優紀ちゃんがそっと寄り添っている。

司がふてくされて「しつけーぞ、総二郎!」って叫んでるのを、あきらと滋が

二人かかりで押さえつけ。

 桜子がそ知らぬ顔をしつつも、内心ではこの成り行きをおもしろがっているのは

わかっていたが。

 何で俺が薬をかがされて意識を失い、あきらの屋敷に運び込まれる羽目になったのか、

そのいきさつをはっきりさせないと気がすまなかった。

「だ、だから・・・西門さんのプレゼント、何がいいか想像もつかなくって。

花沢類に相談したんだよ。だいぶ前に、西門さん、手作りのものなんてぞっとするって

言ってたし・・・。でも、あたしは貧乏で、そんな立派なもの用意できるお金なんて

ないしっ。」

 たしかに昔、そんなことを言ってたが。

 そんなの、遊びの女から手作りのものもらったってうれしくないだけで、お前から

なら大歓迎だってことぐらいわかれよ。

 でも、そんなことはこいつらの前で言えるはずもなく。

「そしたら花沢類が一緒に考えてくれて、後に残らないものならいいだろうってことに

なって・・・内緒でみんなでサプライズのお誕生日会しようってなったんだよねー。」

 ねーってなんで、ここでお前と類が一緒に顔を見合わすんだ!?

 そもそも、類のヤロー、俺が牧野からのプレゼントを嫌がることなんてあるはずが

ないこと、先刻承知だろうに。

 わざわざこんなまどろっこしいことするなんて、ぜったい嫌がらせだ。

「牧野に詳しいことを教えると、すぐに総二郎にばれると思ったから、お膳立ては

俺たちに任せてもらった。場所はあきらが提供してくれて、三条や大河原や牧野の友達は

部屋の飾りつけして。で、肝心の総二郎にばれないようにここに連れてくるには

どうしたらいいかな・・・て悩んでたら、司がいい考えがあるって言うから。」

 俺も忙しくて、どうやって連れてくるのか司にまかせっきりにしちゃったから・・・

なんて類は言ってるが。

 うそくせー。

 だいたい今だに暇さえあれば寝てるお前が忙しいなんて、ありえねぇ。

「総二郎がだまってうちのSPについてくりゃ、こんな誘拐みたいなことにはならな

かったんだよ!ったく、大げさなヤローだぜ。」

「司・・!」

 あきらがあわてて司の口を押さえようとしたが、しっかり聞こえたぞ、その暴言。

 あの状況でノコノコついてく奴がいたらお目にかかりてーよ。

 もう一本俺の青筋が増えそうになったそのとき。

「ごめん、西門さん。ほんとにこんなことになっちゃって・・・。」

 そういいながら、牧野が半泣きになってる。

 こいつは、ほんとにこんなことになることなんて想像もしてなかったんだろう。

 まんまと類に乗せられただけで。

 だいたい本人にばれないように会場につれてくるのに、SP使って力ずくでって

考える奴なんか、世界広しといえどあそこにいる道明寺司サマぐらいだろうしな。

「だからさぁ、そろそろお祝いしようよ。ニッシーの生まれた年のとびっきりの

ワイン、ちゃんと用意してるよ。」

「それに、つくし、西門さんのためにケーキ作ったんですよ。」

「西門さん、ご覧になります?」

 そういいながら桜子が持ってきたのは、年の数だけろうそくが立てられたイチゴと

生クリームのケーキで。

 チョコレートで「Happy Birthday, Sojiro」って書いてある。

「美作さんのお母様に手伝ってもらったから、きっとおいしいと思う。」

 こんなの、ほんと小学校低学年以来で・・・思わず赤くなりそうになりつつも、

不安そうに俺を見つめている牧野と目があって、毒気が抜けた。

「ありがとう。」
 
 まだ少し釈然としない気持ちで言ったその一言で、太陽の光がさしたかのように牧野の

顔がぱあーっと明るくなったから、なんだか怒ってるのも馬鹿馬鹿しくなった。

「じゃあ、ろうそくに火をつけるから、ニッシー、思いっきりふーってするんだよ!

滋ちゃん、カメラマンするからね〜」

 げっ・・・マジかよ。

 本格的に、ガキのお誕生日会みたいじゃねーか・・・。

 やる気満々の滋は無視できたとしても、期待に目を輝かしている牧野をがっかり

させるのは忍びなく・・・悪友たちと性悪女の揶揄する視線を感じつつ、俺は道化に

徹することを心に決めた。

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