Green W.

遅くなったけれど類、お誕生日おめでとう!(しかしいまだに話は総つく。しかも季節は12月・・・)

6.もどかしい恋のお題2

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 今日、牧野と総二郎の婚約を内輪で祝うパーティーが俺の家で開かれた。
 
 桜子が妊娠していて、外に出るのもなんだから・・・という理由でウチが会場になった

わけだが、それで正解だったかもしれない。

 滋や優紀ちゃんはもちろん、はるばるNYから司が、パリから類がやってきて散々飲んでわめいた。

 (そう、あくまで わめいた、 だ。)


 おおよその事情を知っていた優紀ちゃんは、素直に二人を祝って涙ぐんでいて、

その様は長年の女同士の友情を麗しく体現し、心温まる光景だった。

 しかし。

 あいかわらず滋は終始泣き通しで、「よかったねー」と叫びながら牧野を絞め殺さんばかりの

勢いで抱きついている。

 最初は鷹揚に構えていて、さすがに大人になったな・・・と見直しかけてた司も、酔っ払ってくると

「なんで総二郎なんだ!?牧野、目を覚ませ!」と

これまた男泣きで牧野にまとわりついて総二郎に引き剥がされていた。

 かとおもえば、類は類でおとなしく二人を祝っているような顔をしながら

「総二郎が浮気したら、俺がいつでも相談に乗るからね。嫌になったらいつでも俺のところにおいで。」

と相変わらず神々しいまでの笑顔で牧野にささやいている。

 いくつになっても類の笑顔に弱い牧野がぽっと頬を赤らめたりしてるから、横で総二郎が思いっきり

嫌な顔をしていた。

 そんな様子を見ながら、桜子は「ほんと、みなさん相変わらず先輩オタクなんだから。」

とあきれ半分、嬉しそう眺めている。

 俺としては、さんざん二人の関係に気をもませられただけに、どうせこうなるなら

もっと早くどうにかしとけよ・・・という気がしないでもなかったけど。

 結局、この二人がまとまるためには、きっと嫌になるぐらいまどろっこしいプロセスが必要だったんだろう。


 水色のドレスを着て(ブルー系が二人のラッキーカラーらしい。バカップルか、お前ら。)、

総二郎に寄り添う牧野は体中から光を放っているようにまぶしい。

 そんな牧野を眺めている総二郎は必死にクールさを装っているけど、どうしても

緩んでしまう顔は隠しようがないらしい。


 でもまあ。

 今でこそ、こんな風に笑っている二人だけど、ここまでの道のりは並の苦労じゃなかったはずだ。

 総二郎も牧野もそんなことはおくびにも出さなかったけど。

 二人の幸せそうな顔を見れて、ほんとによかったと思ってる。




 阿鼻叫喚の(?)宴が終わって、なんとなく会場となった広間で一人ぼんやりしていると、ワインの

ボトルを手にした類が現れた。

「ねえ、あきら。ちょっと付き合ってよ。」

 すでに目が据わってるだろ〜と心の中で突っ込みつつ、こいつがこんな風に酔った姿を見せるのが珍しくて、

一緒にソファーに座った。

 桜子は一足先に部屋に戻っていたし、俺たちの中でも一番忙しい司はそのまま仕事にとんぼ返り。

 優紀ちゃんは滋と二人で帰っていった。

 今日の主役の二人は・・・言うだけ野暮ってもんだろう。

 押し付けられたボトルを自分でついで飲みながら、横に座った男の様子を眺めると

不機嫌な猫のようにソファーに横たわっている。

 「類、おまえ飲みすぎだって。」

 何だって俺の役目はいっつもこうなんだろうな、と思いながら、ため息をついた。

「いいじゃん。だって、俺の10年にわたる片思いの失恋確定記念なんだから。」

 その様子のかわいくないことといったら。

 牧野に見せる100分の1でいいから、俺にもちょっとぐらい愛想よくしてみろよ。

 俺の嘆きを知るはずもなく、あふれるぐらいドボドボとグラスにワインをついで、がぶがぶ飲む類。

 そいつは俺のコレクションの中でも極上品なんだから、せめてもうちょっと味わって飲んでくれ・・・

とむなしく願う。

「まあそう言うなよ。総二郎も牧野も嫌になるぐらい我慢した上で、やっとここまできたんだ。

っていうか、お前のそのしつこさにはびっくりだけどな。」

 ちょっとぐらい酔っ払いに嫌味を言うのはこの際、許されるだろう。

「わかってるよ、そのくらい。なんたって俺は牧野の一部なんだから。」

 どういうわけか、胸をはって威張る類に頭を抱えた。

 もうこの我が儘野郎をどうこうしようとするのはあきらめた。

 徹底的に飲ませてつぶしてやる。

 確かに類の気持ちもわからないわけじゃない。

 10年以上思い続けた相手が、親友(しかも「元」遊び人)と結婚するんだもんな。

 こいつは一途に牧野を思い続けたっていうのに。

 わかっちゃいても、いざ現実になると愚痴の一つでもいいたくなるっていうところだろう。

 こんな風にごねている類だけど、実はこいつがこの二年間、そっと牧野を支えていたのを知ってる。

「お前と牧野のつながりは恋人とか肉親のつながり以上で、ある意味、お前はやっぱり牧野にとっちゃ

総二郎とは違った意味で大事な男だと思うぜ。それは二人ともよくわかってて、総二郎なんか隠してる

つもりでいるみたいだけど、いまだにお前に妬いてるもんな。」

「だいたい、さんざん女遊びしてた二人がとっとと結婚するなんて、理不尽だ。」

 類のとばっちりがこっちまで飛んできて、苦笑した。

「悪かったな。悔しかったらお前も早くいい女見つけろよ。」

「牧野以外、興味ない。」

 そう言って類はそっぽを向いた。

 おまえはガキか・・・とあきれつつ、珍しい親友の様子がちょっとほほえましい。


 しばらくして、そのままおとなしくなった類がやっと眠ったのかと、隣の部屋からブランケットを

持ってくる。

 そのままそれを丸くなってる類の体にかけてやった。

 こりゃ、二人の結婚式の日にはどうなるんだろうな・・・と今から頭が痛い。

 ため息をついて、部屋を出ようとしたとき。


「あーあ・・・。いい人なんてつまんない。」

 類の独り言のような呟きが聞こえた。

 おいおい、一体、誰が、いつ、どこでいい人だったんだよ、と苦笑しながら。

 俺にとっては、司も、総二郎も、おまえもかけがえのない幼馴染で親友だから。

 どこまでも見守ってるからな。

 そう心の中でつぶやいた。

☆あとがき☆

 やっと・・・終わりました。
 
 思い返せば書き始めたのは、8月半ば。

 予定では9月末には終わるはずだったのに、季節はもう11月・・・。

 いつのまにかすっかり寒くなっておりました・・・。
 
 つくしと司が別れて、類とごちゃごちゃして、総ちゃんと仲良くなりながら

就職・転職して、パリにいって・・・というストーリはもう最初っから考えていた

とおりだったのですが、まさかここまで長くなろうとは。

 お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。

 もうじれじれし通しだったので、次は『好きだ〜っ!ガバっ』的な話がいいな〜

などと思うのですが、うちの総ちゃんと類ではどう転んでも無理そうです(笑)。


 次回、おまけの一話をアップしたら、しばし休息いたします。

 おまけですが、総ちゃんとつくしはほとんど出てこず・・・。

 ふと思いついた脇役の二人の一場面になる予定です。

 じゃみ

フランスから帰国した後、2日間は師範相手の稽古が二つほど入っているだけで、

わりと余裕のあるスケジュールだった。

 時差ボケや疲労を考慮したスケジューリングなんだろうが、今となってはそれが

よかったのか、悪かったのか・・・。

 何もする気力がなくて、久々に訪れた感のあるマンションでぼんやりしていた。

 思い浮かぶのは一度腕にした牧野の細い肢体とか、切ない吐息とか、そのぬくもりで。

 なによりも、明け方、窓辺で外を眺めていたあの寂しげな表情が忘れられなかった。
 


 二股ができるほど器用な性格じゃないあいつが、三枝と付き合っているにもかかわらず

俺に抱かれたのは・・・。

 うぬぼれでも勘違いでもなく、断言できる。

 あいつも俺に惚れてる。

 だからこそ、あの朝、牧野が何もなかったことにしようとした時、俺は何も言えなかった。

 牧野が昔、司とどんな想いで別れたのか知っている。

 その後どれだけ苦しみながらそこから這い上がったのかも、傍でつぶさに見てきた。

 だからあいつが普通の恋愛にあこがれて、もう二度とあんな思いをしたくないと考えても、

それは当然のことで。

 俺はそれを受け入れなきゃいけない。

 それでもあきらめられない未練たらしい自分が嫌になる。

 ソファーに倒れこんで、クッションに顔をうずめた。

 牧野が愛しくて、欲しくて、気が狂いそうだ。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 どれほどそうしていただろう。

 唐突にインターフォンがなった。

 まさか・・・と思いながら、飛びつくように通話機を手にする。

『失礼いたします。牧野つくし様とおっしゃる方がお越しですが』

 フロントの冷静な声に、ドクリと心臓が痛いほど脈打った。

「通してくれ。」

 言葉短かにそう言って、とりあえず落ち着くために乱れた髪を直す。

 玄関フロアまで行くべきか逡巡しながら動揺を必死に収めようとするけど、

どうしようもなく。

 そうこうしているうちに玄関のチャイムが鳴った。



 震える手でロックを解除し、ドアを開くと・・・牧野がいた。

 ひどく緊張した顔をして。

「・・・入れよ。」

 俺もそれだけ言うのがやっとで、先にたってリビングに移動した。

 招き入れたものの、俺の中で「もう会わない」という最後通告を投げつけられたら、

どうしようという不安がよぎる。

 そうなったら・・・。

 重苦しい沈黙が続く中、俺はさっきまで座っていたソファーに座った。

「とりあえず、つったってないで座れよ。」

 でも牧野はソファーの横に立って、硬い表情で下を向いたままだ。

 俺は彼女の口から出る言葉が怖くて、それ以上どうすることもできずにいた。

 どのくらいその緊迫が続いただろう・・・。

 やっと牧野が口を開いた。

 震える声で一気に言い募る。

「あたしは・・・三枝課長とはお付き合いしてないよ。西門さんの誤解をあえて

解かなかったの。自分の気持ちに向き合うのが怖かったから。」

 予想外の言葉に、思わず牧野を凝視してしまう。

 こいつは、何を言おうとしてる・・・?


「西門さんのことが好き。」

 牧野の告白に体中の血液が逆流して、心臓がぶっ壊れるかと思った。

「知ってのとおり、何も西門さんにあげられるものはないけど。

できれば、西門さんのそばにいたいと思う。」


 牧野は緊張しているのか手のひらをじっと握りこんだまま、石のように固まっていた。

 こいつがこんなに勇気を振りしぼっているのに・・・俺はいったい何をしてたんだろう。

 情けないにもほどがある。

 たとえそれが牧野を苦しめることになっても・・・覚悟を決めた。

 立ち上がって牧野の前に立つ。


「お前にこんなことさせて、俺・・・最低だわ。」

 ビクリと牧野が震えた。

 そんなしぐさすら愛おしくて、そんな風にびくびくさせてしまったことが申し訳なくて、

そっと抱きしめる。

「牧野。おかしくなりそうなくらいお前に惚れてる。もうずっと前から。お前を誰にも

渡したくないし、俺以外の誰も見て欲しくないって、カッコ悪いことを思うくらい。」

 俺の心臓は壊れそうなほど脈うっていて、抱きしめている牧野にも聞こえてるだろう。

 でもかっこ悪かろうが、めちゃくちゃだろうが、もうこの手を放さないと決めたから。

「これから先、嫌な思いや苦労をたくさんさせると思うけど・・・絶対に幸せにするから。

俺のそばにいてほしい。」

 こんなダサい告白、はじめてだ。

 でも俺のそんないっぱいいっぱいの言葉に、牧野がかすかにうなずいたのがわかった。


 俺と牧野がこれから先、乗り越えなきゃいけない諸々のことは決して楽観視できない。

 それでも、こいつを失うことを考えたら、どうってないと思える。

 20数年間生きてきて身につけたこと、俺の力すべてを使ってベストの状況にもって

いってみせる。

 その誓いをこめて、牧野に口付けした。

 愛してる・・・とこれまで誰にも告げたことのない言葉とともに。

 その瞬間浮かんだ牧野の笑顔を、俺は一生忘れない。


 <Fin>

 西門さんは昨日帰国した。

 昼から仕事があったあたしのかわりに、現地コーディネーターの人が送っていったの

だけど、正直なところほっとしていた。

 昨日で仕事もすっかり片がつき、今日の昼、帰国する。

 スーツケースに荷物をつめ終わって部屋でぼんやりしていると、フロントから電話が入った。

『マダム、ムッシューハナザワからお電話がはいっておりますが。』

 びっくりしつつも、電話をつないでもらうと花沢類の懐かしい声がする。

『久しぶり、牧野。今日のお昼に日本に帰るんでしょ?すぐ近くにいるから、会えない?

おいしいカフェオレ飲もう。』

 花沢類の突然の誘いに面食らいながらも、彼の変わらなさに慰められる。

 そのままチェックアウトして、まもなく現れた花沢類とロビーで再会した。




 あたしたちはセーヌ川沿いのカフェにいた。

 空港まで花沢類が送ってくれることになって、久々に二人きりで話ができる。

 彼お勧めのクロワッサンとカフェオレをオーダーして、つかの間、天使のように

綺麗な顔に見とれた。

「それにしても何であたしのホテルとか帰国便とかわかったの?」

「今回のイベントのことは結構こっちの日本人社会では噂になっていたからね。

おまけに、現地コーディネーターの会社、うちもよく使ってるところだったから。

ちょっとした職権乱用?」

 そういいながら微笑む花沢類の笑顔はいつだってあたしの気持ちを安らかにする。

「それにしても牧野、せっかくパリまで来てたのに、俺にぜんぜん連絡してくれない

なんて冷たいね。」

「ごめん。だって、ほんとに忙しくって・・・。ちゃんとしたカフェに入ったのだって、

今日が初めてだよ。なのに、もう帰国。」

 そういうと花沢類はクスッと笑った。

「総二郎も人使い荒いね。」

 とつぜん花沢類の口から西門さんの名前が飛び出して、とっさにはいつものような

軽口がたたけず顔がこわばってしまう。

 そんなあたしの変化が彼にばれないはずもなく。

「牧野、総二郎となんかあった?」

「なんにも、ないよ。」

 堅い顔でそう答えるあたしに、花沢類はため息をついた。

「隠しても無駄だよ。牧野に何かあったことぐらい、最初っからばれてるから。

牧野、単純だからね。」

「でも!何にもないんだよ。」

 そう、あれはずっとなかったこととして心の奥に秘めておくべきことだから。

「わかったから。早くカフェオレ、飲んだら。」

 まるで相手にされていないその様子にカチンときて、カフェオレをがぶ飲みする。

 おいしいはずのそれを味わう余裕もなかった。

 そんな様子に苦笑いして、花沢類はあたしの頭をポンッと叩いた。

「牧野。わかってると思うけど、総二郎は優しいから、苦労するとわかっている

西門の家に牧野を自分から巻き込むようなマネはしないよ。たとえ、心の底から

牧野のことを必要としたとしてても。」

 そこでいったん言葉をきって、花沢類はきらきら輝くセーヌ川の川面を眺めた。


「でも、牧野がそれを望めば、きっとどんなことをしてもあんたを守って、幸せに

しようとする。あいつはいったん自分の懐に入れた人間にはとことん誠実であろうと

するから。ましてやこの女ならと心に決めた相手ならなおさらね。・・・まあでも、

どっちにしろ大変な思いをするのは牧野だから。よく考えて。」

 そう言って花沢類はあたしの好きな透き通るような笑顔を浮かべて、

そろそろ行かなきゃねといってあたしを空港まで送ってくれた。



 花沢類が勝手にファーストクラスに格上げしてくれた座席にゆったりと座りながら、

あたしは息苦しいほどの葛藤に襲われていた。

 空港のゲートで別れる前に花沢類はあたしの頬にさよならのキスをしながら、

「幸せになってよ、牧野。俺のためにも」と言った。

 あたしにとっての幸せ・・・。

 西門さんのことが好きだ。

 でも。

 彼があたしを受け入れてくれるかどうかはまた別の話。

 なによりも、道明寺との恋愛を経てたくさん傷つきながら学んだ「身分違いの恋」を

もう一度繰り返すだけのエネルギーが、あたしにあるだろうか?

 そしてそれが無残な結果に終わったとき、果たしてあたしはまた立ち直れる?

 高校のときのようながむしゃらさを失って、小ざかしい知恵を身につけたあたしに

とって、そこに再度身を投じることは、身がすくむほど怖い。

 花沢類の柔らかい声が、もう一度よみがえった。

息苦しさに目覚めると、まるで溺れる人が必死で流木にすがるように西門さんが

あたしを抱きしめていた。

 めったにないことだから西門さんの綺麗な寝顔を見たいと思ったけど、彼の広い

胸の中にすっぽりと包まれていて、それもままならない。

 いつの間にかワンピースを脱がしてくれていたみたいで、触れ合う素肌が心地よかった。


 昨日の夜、いつも冷静な彼が見せた余裕のない様子と、言葉にしようがないほどの

想いを浮かべる瞳に、さすがに鈍感なあたしもわかってしまった。

 西門さんは、あたしのことが好きだ。

 いったいそれがいつからかはわからないけど、きっと、ずいぶん前から。

 そう思えば、彼がこれまであたしに示してくれた数々の過分な好意の意味がわかる。


 だけど「西門家」という大きな流れの中で生きる彼には、あたしをそこに巻き込む

ことも、一時的な相手として恋愛関係をはじめることもできなかったんだろう。

 新しい職場で働くようになって、西門さんの立場がいかに大変なものか多少なりとも

わかってきたつもりだ。

 自分と彼のあまりにも違いすぎるその世界を認識していながら、昨夜、感情を

抑えきれず一度だけでも彼に愛されたいと願った。

 おそらく、自分を必死で抑えてきたであろう西門さんの戒めを力づくで打ち壊して。



 たとえあたしと西門さんがこのままつきあっていったとして、お金も家柄もない

あたしが彼にあげられるものは何もない。

 西門さんとの将来を望むつもりはないけれど、彼が誰かと結婚するのを傍らで

見ているのはつらすぎる。

 そしてそうなったら、この優しい人は、あたしに約束されたものを与えられないことで

自分を責めるんだろう。

 このままこの関係を続けていっても、きっと西門さんもあたしも幸せにはなれない。

 一夜限りの関係でいいからと、無理やり二人の間の不文律を侵してしまったあたしが

取るべき態度は決まっていた。


 身じろぎした西門さんの懐からそっと抜け出した。

 ベットサイドに立って、彫刻のように繊細なつくりの額からあごまでの流麗な線を眺め、

それに触れたいと思う欲望にじっと耐える。

 そのままシャワーを浴びて、備え付けのバスローブを着た。


 再びベッドルームにもどり、何気なく窓の外を眺めると、目に映ったのは赤い

エッフェル塔。

 それがずいぶん以前に、苦戦しながら二人でつくったパズルの東京タワーに直結し、

泣きたいような気分になる。



「牧野・・・?」

 人の気配に目を覚ましたのか、ベットに上半身を起こした西門さんがあたしを見ていた。

 改めて、綺麗な人だと思った。

 顔も、心も、その精神の有様も。

 最後にその姿を目に焼き付けておきたいと、じっと見つめながらなんでもない風に

軽口をたたいた。

「昨日は、飲みすぎちゃったね。外国だからかお互い羽目をはずしちゃったけど、

気にしてないから。」

 西門さんは一瞬、あたしに鋭い視線を走らせたけど、そのまま下を向いて、やがて

あたしに調子をあわせた。

「・・・おまえ、はしゃぎすぎだ。ま、俺も人のこといえねーけど。」

 なんて空々しい会話だろうと思った。

「西門さんは今日、帰国だよね。あたしは昼から仕事があるから、そろそろ部屋に戻るね。」


 そう言いながら、ワンピースを身につけた。

 西門さんはじっと下を向いたまま、ベットヘッドに上半身をもたれるようにして

座っている。

「それじゃあね。」

 身じまいを整えて、ドアのノブに手をやったあたしはことさらなんでもない風に

ベッドの上の彼に別れの挨拶をした。



「牧野。」

 西門さんの切羽詰ったような声がする。

 振り向くと、彼が怖いくらいに真剣な顔をしていた。

 何か言おうとして・・・でも、ぐっと唇をかみ締めて口にしたのは結局、

「仕事、がんばれよ」の一言だった。

 「西門さんもね。」

 それだけ言って、部屋の外に出る。

 西門さんのためにもあたしのためにも、これでよかったんだと言い聞かせながら。

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