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無粋な機械音で泥のような眠りの世界から無理やり引きずり出された。
寝起きはいいあたしだけど、頭がぼんやりとしていて何よりそれ以上に体が重い。
と思ったら、文字通りけっしてごつくはないのだけれど、たくましい腕があたしの
肩を包むようにのっかっており。
苦労してそれを外すと、鳴り続けている携帯の目覚ましを止めた。
・・そういえば、昨日の夜、西門さんが東京にもどらなきゃいけない時間を聞いて、
電車に間に合うようにセットしておいたんだっけ・・・。
肝心の、隣で眠る裸の男は、いつも神経質なまでに物音に敏感なのに、なんどか
むずがる素振りを見せただけで、一向に起きる気配がない。
寝顔まで文句がないほど整っている顔。
しかも、起きているときは常に強い光をはっしている瞳が隠れているせいか、
いつもより幼く見えてなんだか切ないような気分になった。
心なしか頬のラインが少し削れて、シャープになったような気がする。
もちろんそれはそれで魅力的なことに変わりはないんだけど、物音に気付かないほど
寝ていることも含め、よほど疲れているらしい。
できればもう少し寝かせておいてあげたいけれど、西門さんは今日の午後からまた
仕事があるって言ってたから、そろそろ起きないと電車に間に合わなくなってしまう。
なんといってもこのあたりは1時間に1本電車があるかなしかという、とても交通の
便が限られた場所なんだから。
「西門さん、起きてよ。」
軽く肩を揺さぶると、うん・・・と無意味に艶っぽい声をあげながら、半覚醒の気配。
「ほら、間に合わなくなるよ。」
アト一押し・・とあたしにしては珍しく優しく声をかけたのに。
眠ってるわりには的確な動きであたしの身体を巻き取り、よりにもよって
「・・なに、つくしちゃん。まだ足りない?」
などとのたまわった。
裸の肌の密着度が増して、ダイレクトに西門さんの呼吸やら鼓動やらを感じて
ドキッとしたけれど。
次の瞬間、昨夜行われた数々の無体な所業がよみがえる。
そう、あたしは、ほんとうに、死ぬかと思ったのよ・・・!
そもそも今朝の睡眠不足も自業自得。
隣の男に情けは無用と判断する。
しかも何を思ってか、それとも単なる条件反射なのか、あたしを抱きこむ腕が
不穏な動きをしていて。
・・・こんの、エロ男!
湧き上がる羞恥心と腹立たしさに、あたしは思いっきり彼の鳩尾にパンチを入れた。
ぐげっと妙な声を立てた西門さんから毛布を奪い、自分の体に巻きつけると、
あたしは雄雄しく宣言した。
「とっとと起きるのよ、西門総二郎!」
「お、まえ、俺を殺す気か?」
それほどあたしの攻撃にダメージを受けたとも思えない男は、呆れたように上半身を
起こした。
武士の情けで残しておいた布団も、あっけなく腰のあたりまで滑り落ち、彫刻の
ようにきれいな筋肉のついた上半身が惜しげもなくさらされる。
思わず頬が赤らんでしまいそうな光景だけど、本人はもちろん何も感じてないらしい。
そりゃ男の人だし、嫌味なくらい鍛えられた体つきをしてるから、別に隠す
必要なんてないんだけど、ちょっとは恥じらいとか持ちなさいよ・・・と心の中で
毒づく。
「うっさいわね!西門さんが目を覚まさないからでしょ!」
「もうちょっと可愛らしく、おはようのキスとかで起こせないもんかね。」
「電車に間に合わなくなるよ!早く起きて。」
ブツブツほざくたわけ者はほっておき、毛布を巻きつけたまま、浴室に向かうべく
立ち上がった。
「電車・・・?タクシー呼べば・・・。」
みなまで言わさず、あたしは指をびしっと甘やかされたお坊ちゃまに向けて突きつけた。
「そんな贅沢は、この牧野つくしの陣地に足を踏み入れた瞬間、許されないの!」
西門さんは何をカリカリしてるんだか・・・とぼやいていたけど、昨日のことを
思ったら、これぐらい言ったって罰は当たらない。
そう思って気分よく部屋を出ようとした瞬間。
「はいはい、わかりました。電車に乗るならちゃーんとハイネックの服を選べよ。
首、えらいことになってるから。」
そうニヤリと笑う男の表情に嫌な予感を覚えて、姿見の前に駆けこむ。
「〜!!!」
恐る恐る毛布を取ったあたしの体中に、無数の妖しい印。
いろんな意味で赤くなりながら怒りに震えていると、居間からくっくと笑いこける
西門さんの声がした。
・・・ぜったい、タクシーになんか乗らないからね!
結局。
何とか無事に電車に間に合い、二両編成の2人用ボックス席に並んで座ってる。
土曜日の早い時間の電車のせいか、車両内にはいまのところ二人だけ。
電車に乗ってしばらくすると、その心地よいゆれで睡魔に誘われたのか、
西門さんはあたしに少し寄りかかるようにして眠ってる。
コートのポケットからは、携帯につけられたストラップが見え隠れしていた。
昨日あたしが渡したやつを、いつのまにかちゃんとつけてくれていたらしい。
「・・・好きだからね・・・。」
なんとはなしにそう呟いて、そっと西門さんの手に自分の手を乗せた。
来年も一緒に過ごせるといいなと・・・そんな願いを心に秘めたまま、あたしも
彼のぬくもりを感じながら、次第に重くなるまぶたを閉じた。
【Fin】
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