Green W.

遅くなったけれど類、お誕生日おめでとう!(しかしいまだに話は総つく。しかも季節は12月・・・)

8.M.B.B 【総つく】

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 無粋な機械音で泥のような眠りの世界から無理やり引きずり出された。

 寝起きはいいあたしだけど、頭がぼんやりとしていて何よりそれ以上に体が重い。

 と思ったら、文字通りけっしてごつくはないのだけれど、たくましい腕があたしの

肩を包むようにのっかっており。

 苦労してそれを外すと、鳴り続けている携帯の目覚ましを止めた。

 ・・そういえば、昨日の夜、西門さんが東京にもどらなきゃいけない時間を聞いて、

電車に間に合うようにセットしておいたんだっけ・・・。

 肝心の、隣で眠る裸の男は、いつも神経質なまでに物音に敏感なのに、なんどか

むずがる素振りを見せただけで、一向に起きる気配がない。

 寝顔まで文句がないほど整っている顔。

 しかも、起きているときは常に強い光をはっしている瞳が隠れているせいか、

いつもより幼く見えてなんだか切ないような気分になった。

 心なしか頬のラインが少し削れて、シャープになったような気がする。

 もちろんそれはそれで魅力的なことに変わりはないんだけど、物音に気付かないほど

寝ていることも含め、よほど疲れているらしい。

 できればもう少し寝かせておいてあげたいけれど、西門さんは今日の午後からまた

仕事があるって言ってたから、そろそろ起きないと電車に間に合わなくなってしまう。

 なんといってもこのあたりは1時間に1本電車があるかなしかという、とても交通の

便が限られた場所なんだから。


「西門さん、起きてよ。」

 軽く肩を揺さぶると、うん・・・と無意味に艶っぽい声をあげながら、半覚醒の気配。

「ほら、間に合わなくなるよ。」

 アト一押し・・とあたしにしては珍しく優しく声をかけたのに。

 眠ってるわりには的確な動きであたしの身体を巻き取り、よりにもよって

「・・なに、つくしちゃん。まだ足りない?」

 などとのたまわった。

 裸の肌の密着度が増して、ダイレクトに西門さんの呼吸やら鼓動やらを感じて

ドキッとしたけれど。

 次の瞬間、昨夜行われた数々の無体な所業がよみがえる。

 そう、あたしは、ほんとうに、死ぬかと思ったのよ・・・!

 そもそも今朝の睡眠不足も自業自得。

 隣の男に情けは無用と判断する。

 しかも何を思ってか、それとも単なる条件反射なのか、あたしを抱きこむ腕が

不穏な動きをしていて。

・・・こんの、エロ男!

 湧き上がる羞恥心と腹立たしさに、あたしは思いっきり彼の鳩尾にパンチを入れた。

 ぐげっと妙な声を立てた西門さんから毛布を奪い、自分の体に巻きつけると、

あたしは雄雄しく宣言した。

「とっとと起きるのよ、西門総二郎!」

「お、まえ、俺を殺す気か?」

 それほどあたしの攻撃にダメージを受けたとも思えない男は、呆れたように上半身を

起こした。

 武士の情けで残しておいた布団も、あっけなく腰のあたりまで滑り落ち、彫刻の

ようにきれいな筋肉のついた上半身が惜しげもなくさらされる。

 思わず頬が赤らんでしまいそうな光景だけど、本人はもちろん何も感じてないらしい。

 そりゃ男の人だし、嫌味なくらい鍛えられた体つきをしてるから、別に隠す

必要なんてないんだけど、ちょっとは恥じらいとか持ちなさいよ・・・と心の中で

毒づく。

「うっさいわね!西門さんが目を覚まさないからでしょ!」

「もうちょっと可愛らしく、おはようのキスとかで起こせないもんかね。」

「電車に間に合わなくなるよ!早く起きて。」

 ブツブツほざくたわけ者はほっておき、毛布を巻きつけたまま、浴室に向かうべく

立ち上がった。

「電車・・・?タクシー呼べば・・・。」

 みなまで言わさず、あたしは指をびしっと甘やかされたお坊ちゃまに向けて突きつけた。

「そんな贅沢は、この牧野つくしの陣地に足を踏み入れた瞬間、許されないの!」

 西門さんは何をカリカリしてるんだか・・・とぼやいていたけど、昨日のことを

思ったら、これぐらい言ったって罰は当たらない。

 そう思って気分よく部屋を出ようとした瞬間。

「はいはい、わかりました。電車に乗るならちゃーんとハイネックの服を選べよ。

首、えらいことになってるから。」

 そうニヤリと笑う男の表情に嫌な予感を覚えて、姿見の前に駆けこむ。


「〜!!!」

 恐る恐る毛布を取ったあたしの体中に、無数の妖しい印。

 いろんな意味で赤くなりながら怒りに震えていると、居間からくっくと笑いこける

西門さんの声がした。

・・・ぜったい、タクシーになんか乗らないからね!



 結局。

 何とか無事に電車に間に合い、二両編成の2人用ボックス席に並んで座ってる。

 土曜日の早い時間の電車のせいか、車両内にはいまのところ二人だけ。

 電車に乗ってしばらくすると、その心地よいゆれで睡魔に誘われたのか、

西門さんはあたしに少し寄りかかるようにして眠ってる。

 コートのポケットからは、携帯につけられたストラップが見え隠れしていた。

 昨日あたしが渡したやつを、いつのまにかちゃんとつけてくれていたらしい。

「・・・好きだからね・・・。」

 なんとはなしにそう呟いて、そっと西門さんの手に自分の手を乗せた。

 来年も一緒に過ごせるといいなと・・・そんな願いを心に秘めたまま、あたしも

彼のぬくもりを感じながら、次第に重くなるまぶたを閉じた。


 【Fin】

 ※ちょっぴり大人警報発令中ですので、お子様は自主避難お願いいたします。

 コタツの卓上には、小さなバースデーケーキの残骸と、おつまみの数々

それに何はなくてもこれがなくては話にならないとばかりに、大吟醸。

 どんなに寒くても熱燗は邪道だという西門さんの好みで冷酒仕様だ。

 アルコールはあんまり強くないあたしは、ご相伴に預かる程度にして気になって

いたことを質問した。


「こんな時間にどうやって来たの?」

 すると目の前のおぼっちゃまはしれっとして答えた。

「お前がうるさかったから、車は置いてきた。まあおかげでタクシーの中でウトウト

できたし、たまにはいいかもな。」

 『けど車の中、狭すぎ。』などとブルジョワ発言をする男に呆れて、うっかり肝心な

ことを聞き逃すところだった。

「・・・た・・・たくしー!?」

 声が裏返ってしまうのも仕方ない。

 都内からここまで、高速代込みでいったいいくらかかるのか・・・!

「牧野〜、また貧乏くさいこと考えてるんだろ?お前が車運転するなっていうから、

仕方ねーだろ。」

「だ・・・だって!都内から・・・。電車だってあるのに、もったいない!」

 どうしても納得できないあたしに対して、はいはいと子供をあやすようにあたしの

頭をポンポン叩きながら言った。

「電車は終電終わってたけど愛しいつくしちゃんにどうしても会いたかったから。

誕生日だから、いいだろ?」

 さらりと口にされたその一言にドキリとした。

 西門さんにとっては、鬼門のはずのそれ。

「・・・覚えてたんだ。」

「・・・?自分の誕生日、覚えてるってあたりまえだろ。」

 不思議そうな顔をしながらさらにお猪口についだ日本酒をコクリと飲み干す様を

じっと見つめてしまう。

 日本酒と西門さんは反則なまでに似合いすぎる。

「・・うん、まあそうなんだけど・・・。」

「それに、マジで今日を逃したら年明けまで当分いつ会えるかわかんないから。」

 だから今日は存分に楽しまないとな、と屈託なく言われてとてもうれしかったのに、

素直に喜びを表現できなくて下を向いてしまった。


 そんなこんなですっかり仲直りして、久々にゆっくり二人で会話する。

 とんぼ玉教室の生徒さんの話とか失敗談とかそういったたわいもない話に、彼特有の

シニカルなツッコミがはいって、さらに調子にのって話が盛り上がるいつものパターン。

 そんなあたしの格好は、相変わらず素顔にパジャマで、本当になんというか、

色気に欠ける光景。

 まああたしに艶っぽさを求められてもはなっから無理だし・・・、と半分開き直った

気分で楽しんでいたけど、さっきから珍しく早いピッチで日本酒を飲み干していく

西門さんからはだんだん視線をそらさずにはいられなくなっていた。

 彼がお酒に強いのはよく知ってるし、今日はここに泊まるつもりらしいから別に

それはそれでいいんだけど。

 ちっともヨロシクナイのはあたしのほう。

 何が悪いって、目の前の人外フェロモン男は、体内のアルコール濃度に正比例して

撒き散らされる色気もどんどん増していくようで。

 何気なくこっちに流される視線一つにどぎまぎする。

 女の人じゃないのに、真っ黒で深みのある目が徐々にしっとりとしてきて。
 
 濡れた瞳ってこんなのなんだ・・・と驚愕とともに知るその事実。

 何かの拍子にさらっと触れられる指先に、ゾクゾクと肌の表面がざわめく。

 ・・・別にもっとスゴイコトとかしちゃってるわけなんだけど、なんだって

そんなことになってるのか・・・・。

 思い余ってそんなに無意味にこっちを見ないでよと、あさっての方向を見ながら

ブツブツいうと、吐息のような含み笑いが聞こえた。

 凶悪なまでに心地いいその響きに気をそらせそうになりながらも、隣の性悪男が

確信犯的に面白がってやってるに違いないとそれでやっと気付づく。

 ほんとに性格が悪い。

 負けてなるものか、と自分でもよくわからない闘争心に駆られて心を強くし、

西門さんに説教をすべく、ぐっと睨んだけど。

 それはあまりにも無謀な試みだったみたいで、あたしは見事に撃沈された。

 形容しがたい妖しい熱を持った煌く黒い瞳に射抜かれて、硬直する。

 現実逃避のなせるわざかそれとも単に脳の回路が狂っただけのか、西門さんが

戦国時代に生まれてたら、その視線一つで城の一つや二つや三つ、ころっと

落とせたんじゃないかと、そんなふざけた考えが頭の中に浮かぶ。

 ついでに水も滴る若武者姿なんて腐ったことを想像してたせいか、彼に右手を

とらわれたことにまったく気付かなかった。


「これは?」

 あたしの手をつかんだまま、長い指先でツツッと彼がなぞったのは、ちょっと前に

とんぼ玉を作ったときにできてしまった火傷のあと。

 ちょうど人差し指の付け根あたりがほんの少し赤く変色している。

 そのうち消えるだろうと気にも留めていないぐらい、小さなものだったのだけど。

 そんな簡単な説明を機械のように自動的に口にすると、西門さんは軽く目を

すがめた。

「俺がつけた以外のアトがついてるなんて、気に入らない。」

 馬鹿なことを・・・と思う間もなく、そのまま手が彼の口元にもっていかれ、

その部分に痛みを感じるぐらいにキツク歯を立てられる。

 思いもよらぬ行動にびっくりして息を呑むと、伏せ目がちの西門さんにそのまま

指の間をザラリと舐められた。

 むず痒い感触に耐えられなくなって手を引きぬこうとしたとき、ぴたりと視線を

あたしの目に合わせて挑発的に見つめられ、すっぽりと指が口腔内に含まれて

ゆっくりと焦らすようになぶられる。

 そうまでされて、抵抗する術はなく・・・。

 されるがままにぼんやりとしているあたしに、発せられた言葉は。

「どうしよう。つくしがかわいくてかわいくて・・・めちゃくちゃ苛めてやりたくなる。」

 ふざけたセリフとは裏腹に、肉食獣の気配を漂わせる西門さんを見て、体の奥に

震えを感じた。


 その段階ですでに魂を抜かれたようになっていたあたしは、もう本当にあとは

なすがままだった。

 いつになく意地の悪い西門さんに翻弄されて、嫌というほど赤いアトをつけられ。

 果てしなく続く甘い拷問の中で、強いられるがままに幾度となくあられのないことを

口走った。

 最後のほうはほとんど正気をなくしかけていた状態で、眠りについたのはもう夜が

白みかけた頃だったような気がする・・・。

8-I. In the winter night【1】

※その後のM.B.B. 短編です。

 作業場で今日までに仕上げるつもりだったとんぼ玉を作り終え、簡単に片づけを

すませて居間に戻った。

 バーナーを使っていたときは気付かなかったけど、山間のこのあたりは都内よりも

気温がずいぶん低くて、木造の屋内は凍りつくように寒い。

 柱の掛け時計は、夜の11時をさしていた。

 東京から到着する最終電車はもう終わってる時間だ。

 念のため携帯を確認したけど、着信もなかった。

「忙しそうだったもんね・・・。」

 彼がこれないかもしれないと覚悟はしていたけれど、やっぱりどこかで期待して

いたから、がっかりする気持ちはどうしようもない。

 コタツだけでは心もとないからガスヒーターをつけ、部屋が暖まるまで

お湯につかることにした。



 湯船に浸かって、すっかり固まってこりこりになってしまった両肩から腕を揉み解し、

ふーっと息を吐く。

 秋口から始まった西門さんとの『恋人ごっこ』はあいかわず継続中。

 先のことは・・・わからない。

 でも今はとりあえずそれでいいと思ってる。


 夏に賞を取ったのをきっかけに、週に数回、とんぼ玉教室の講師として働くことが

できるようになっていた。

 細々と続けていたインターネットショップも意外と順調で、さすがに時間的にも

体力的にも両立が難しくなったから、それまで勤めていた会社は辞めた。

 もちろんこれだけでは食べていけないから、アルバイトで雑貨屋の店員もやってる。

 西門さんには「本当におまえは貧乏性だな」とあきれられちゃったけど。

 こればっかりは仕方がない。


 そんな状況だったから、あいかわらず貧乏暇なしを地でいくあたしもそこそこ

忙しく、もともと多忙を極める西門さんと時間をあわせるのは大変なはずだけど。

 そういう関係になってみると意外にもマメだった西門さんとは、先月の半ばぐらいまでは

けっこう頻繁に会っていた。

 どうやらほんとうにこの作業場が気に入っているらしい西門さんは、あれからも

何度かここに足を運んでる。

 ただ、ここのところ西門さんの仕事のほうが本当に殺人的なスケジュールに

なってきたらしく、メールや電話は来てもなかなか会えない。

 前もってそうなるってことを聞いてなかったら、きっと飽きられたのかと心配して

しまうほどだ。

 ・・・ひょっとしたら、本当にそうかもしれないけど。

 なんてね。


 そんなことを考えていた昨日の夜、西門さんから電話があった。

 彼にしては珍しくせわしない口調だったけど、耳に心地よい美声であることに

変わりないのはさすが西門さんだ。

『あんまり長く話してる時間はないんだわ。明日、お前、どこにいる?』

「えっと・・・。実は今日から作業場に泊り込む予定。」

『やっぱそうか。じゃ、遅くなるかもしれないけど、そっちに行く。』

「西門さん、忙しいんでしょ?あたしが東京に戻ろうか?」

 彼らしくもなくぜんぜんふざけた様子をみせない電話で、彼の置かれてる状況が

透けて見える気がした。

『いい。お前もなんか用事があるんだろ?そっちのほうが落ち着くし。』

「でも疲れてるときに車を運転したら危ないって。」

 西門さんは気分転換になるからと、いつも自分で車を運転してくる。

 まああたしのいるところに西門家の運転手さんを連れてくるわけにはいかないって

いう事情もあるんだろうけど。

 理由はともあれ、あんまり無理して欲しくはなかった。

『わかった。それはなんとかする。じゃ、明日よろしく』

 そうしてどことなく余裕のない様子で電話はきられたのだった。



 西門さんが来るといってきた日、つまり今日は、彼の誕生日だ。

「死ぬほど忙しそうだったし、きっと気付いてないよね・・・。」

 特定の女の人に縛られるのを避け続けてきた彼にとってそういう日は鬼門らしく、

昔からF4の誰かとつるんでるか、おとなしく家にこもってるか、真面目に仕事してる、

と、かつて言っていたのを覚えてる。

 それでも一応、誕生日プレゼントらしきものは用意してたんだけど・・・。

 西門さんのイメージとかさなる深い濃紺地に銀を流しちらしてわざといびつな形に

仕上げたたとんぼ玉で作った携帯ストラップ。

 我ながら深みのあるいい色の玉に仕上がったと、けっこう気に入ってる。

 また今度会えたときにさりげなく渡そうと心に決めて、お風呂から上がった。


 厚手のパジャマを着て、髪の毛を乾かしたあと居間に戻ると。

 コタツにはいって、テーブルに突っ伏すように眠っている人影を発見。

 「・・ぎ・・・ぎゃあ〜!」

 心臓が飛び出るかと思うほどびっくりして叫び声をあげると、その不審人物は

むくりと起き上がった。

「縁側の扉、カギ開けっ放しになってたぞ。おかげで締め出されずにすんだけど、

無用心にもほどがある。」

 寝起きの割にはまともなことを言った西門さんは、あたしのカッコウを見てニッと

人の悪い笑みを浮かべた。

「・・・つくしちゃん、準備万端?でも、ちっと色気が足りねーかも。」

 こんのエロ男が〜っと、あたしは思わず首に巻いていたタオルを西門さんに

投げつけた。

冗談みたいですが、約5ヶ月。

 お付き合いいただき、ありがとうございます。

 「Midnight Blue Box」、これにて終了でございます。

 何じゃこりゃ〜とお怒りの方もあろうかと思いますが、そもそもがお互いの事情で

歩み寄れない二人の恋愛を・・・と思ったのが出発点でして、このような仕儀に

あいなりました。


 どうでもいいことなので恐縮ですが、このお話は一つ前にUPしていた類つくの

「Green World」とセットっぽくなればと思って書き始めたところもあります。

「緑と蒼」「自然と都会」「昼と夜」「本能と理性」などなど秘かに考えて、

オシャレな都会っこの総ちゃんを書きたかったのですが、なんだか類の傍若無人さに

比べるとあまりにも弱気な彼になっちまいました・・・。

 ごめんね、総ちゃん。

 いつかの日か軽やかな遊び人ぶりをいかんなく発揮する彼を書けたら・・・と思いつつ。

 長きにわたり、本当にどうもありがとうございましたv


 じゃみ

 あたしのことをよく知っている人が見たらきっとびっくりするぐらい、その時の

あたしは落ち着いていた。

 もちろんまったく緊張や不安がないわけじゃない。

 でもそれ以上に、西門さんの不安定な様子があたしを逆に冷静にさせているのかも

しれなかった。

 抱きしめられて、互いの存在を確かめあうようにしばらくそのまま庭で立ち尽くす。

 西門さんのぬくもりに包まれてその鼓動をきいているうちに、なんだろう、あたしは

「もういいか。」ってそんな気持ちになった。

 あきらめとはぜんぜん違う、どうにも説明の仕様がない感覚。

 自分のちっぽけなプライドを守るより、目の前のこの壊れそうな人を暖めたかった。

 
 それこそあたしらしくもなく・・・自分から「シャワー浴びてくる。」と

言いおいて、家の中に入り。

 小さな浴室にはいって、やっと一つ深呼吸した。

 あたしは、きっと後悔しない。

 変にそんな確信だけがしっかりとあった。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 シャワーを浴びて、手近にあったスリップワンピースを着て居間に戻ると、

西門さんは雨戸に寄りかかるようにして片ひざを立てたまま、じっと庭を見つめていた。

 その表情があまりにも侵しがたく・・・あたしは居間の入り口に立ったまま、

しばらくその様子を眺めていた。

 しどけないその姿は、本当になんと言ったらいいのか・・・西門さんが普段、

意識的に垂れ流しているフェロモンとはまったく異なるけれど、無性にひきつけられる。

 そのまま彼の首に腕を回して、すがってしまいそうになりそうだった。

 しばらくそうしていると、西門さんがあたしに気づいて淡く微笑んだ。

 それに惹かれるように彼に近寄り傍らに座ろうとしたら、押しとどめられる。

「・・・いまさらながら・・・俺はほんとにお前をこんなことに巻き込んでいいのか、

迷ってる。」

 ・・・ああ、なんだってこの人は。

 たとえこの先何があったとしても、それはお互い様なのに。

「ほんと、今さらだよ。それとも、何?いつものきれいなお姉さんたちと違うから、

がっかりしちゃってる、とか?」

 西門さんは苦笑いして彼の横に立ったままのあたしの右手をそっととり、

口元に持っていった。

 手の甲にそっとキスを落とし、まっすぐにあたしを見上げる視線にゾクリとする。

「おまえにがっかりしたことなんて、一度もない。」

 そのまま手を引かれ、バランスを失ったあたしは西門さんの胸の中に倒れこんだ。

 身体をしっかりと抱きとめられて、反射的に顔を上げると西門さんの目と間近で

見つめあうことになってしまう。

 とたんに心臓が激しく脈打った。

「目、閉じて。つくし。」

 ほとんど唇が触れそうな距離でそう囁かれ、あたしは素直にまぶたを閉じた。

 そのまぶたに口付けをおとされて、それが徐々に下におりてくる。

 頬、耳たぶ、顎・・・と柔らかく触れるその感触はうっとりとするほど素敵で、

知らずに緊張していたらしいあたしのこわばりが、しだいに恍惚感に変わっていく。

 最後に下唇を甘く噛まれ、やっと彼と口付けをかわす頃には、くたりと西門さんに

身体を預けていた。



 それから先の記憶はかなりあいまいで。

 ただ、蒼みがかった夜の色の中で、大切に大切に愛しまれたのを覚えている。

 熱を持った彼の滑らかな肌はとても心地よくて。

 しめりけを帯びた唇と美しい指は、まるで魔法のように快感を呼び起こす。

 小刻みにゆさぶられながら何度も悲鳴に近い声をあげて、気を失いそうになり。

 かすれたような、押し殺した低い声でいくどか「つくし」と囁かれるのを聞いた。

 彼のその声が、とても好きだと思った。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 いつの間にかうとうとしていたあたしが目覚めると、まだまだ夜の闇は続いていた。
 
 汗ばんだ西門さんの胸に頬をくっつけるようにして、その鼓動を聞く。
 
 いつの間にかあたしの一番落ち着く音になっていたそれ。
 
 これをあたしはいったい、いつまで聞くことができるんだろう・・・。

 そう思うと、鼻の奥がつんとなった。

「どうした、牧野?」

 どうやら起きていたらしい西門さんの口から出たのは、いつもの呼び名。

 それをちょっと悲しいと思うなんて、あたしは自分でも思っている以上に

重症なのかもしれない。

 そんな気持ちを悟られないように、おどけてみせた。

「早くちゃんとした彼氏をみつけないと、西門さんがあんまりにも素敵だから

恋人ごっこから抜けられなくなるかも・・・って心配になってた。

うん、さすがプレイボーイ。伊達に遊んでないよね。」

 すると、あたしの肩に回っていた手に少し力がこもった。

「・・・見つけられなかったら、ずっと『ごっこ』を続けてやるよ。

お前がもう勘弁してくれっていうまで。ずっと。」

 ・・・それは、きっと彼の本心。

「そんなこと言うと、あとできっと後悔するよ。

あたし、本当に恋愛オンチなんだから。」

「できの悪い子ほどかわいいっていうだろ。しょーがねーよ。」

 取り止めの無い会話を飽きることなく繰り返しながら、あたしたちはたぶん、

二人とも気づいていた。

 これから先にきっとお互いさまざまな葛藤を抱えるだろうって。

 それでも・・・こんな風にするしか仕方が無かった。

 そんな気持ちを押し殺して、西門さんに微笑む。

 とりあえずいまはこれでいい。

 先のことはまた考えよう・・・。

 あたしはふたたび西門さんの懐にもぐりこんで、眠りにつくことにした。

 夜明けはまだまだ来そうにない。


 <Fin>

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