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Yuma Totani
The Tokyo War Crimes Trial 続篇(3)
担当者の総合評価:
著者、戸谷由麻、は以下の先入観を抱いている。第一には、現在の国際連合の体制は、望ましいものである。従って、第二として、そこで認められている国際法は、正当なものである。そして、ニュルンベルグや東京裁判で使われた罪状や法概念が現在の国際法に生かされていることをもって、東京裁判は有意義であったとしている。しかし、それは米国が戦後世界を支配してきたこと以上のことは意味していない。我々は、パックス・アメリカーナを生きてきたのである。著者自身が認めているように、国際法は厳と存在していても、それが「侵略戦争」の場合に、それを以って侵略国やその指導者が裁判されているわけではないのである。その裁判は、関係する国や個人の政治的な力関係によって決まってきている。クウェイト侵攻を行ったイラクのフセイン大統領は、国際法によって裁かれたのでは無く、アメリカの侵攻の後に、イラクの法律によってイラク国内で裁かれたのである。著者は、日本人の多くが持っている「国連信仰病」に罹っている。国連とはアメリカが自分のために作った国際機関であるに過ぎない。
第二の問題は、彼女がアメリカで勉強し、特に入江昭に師事したことである。彼女の意見は、アメリカの学者の見解を反映していて、それに対して疑問を抱いた形跡が無い。アメリカの学者は、「勝者の裁き」であろうが何であろうが、悪を懲らしめたのは、正当であると考えている。アメリカが「世界」であるとする傾向があるので、当時の国際法がどうであったかを問題にしない。彼らにとっては、国際法が不備であれば、作ればよいのである。それが、戦勝国であり、世界の覇権であるアメリカの当然するべきことであると考えているのである。そこで、Ph.D. を取ることは、彼らの考えを(おそらく知らず知らずのうちに)容認することが必要であったと思われる。
第三には、著者は戦後のGHQ占領時代が厳格な言論統制の時代であったことを承知していないようである。裁判の進行中に東大の法学部の教授が声を揃えてT-裁判を賞賛したのは、権力に迎合しただけであり、学問的な判断ではなかったと思われる。しかも、連合軍の意向に反対する意見は発表できない環境にあったのである。高柳教授だけが、被告の弁護をする立場から異なった意見を出している。
第四には、著者は最近の南京事件に対する反対論をまったく無視しているわけではないが(第9章のパルの根拠薄弱説に関して、多少のぎ議論をしている)、T-裁判に出された証拠や証人の陳述に疑いを挟んでいない。より客観的な立場からの最新の情報を踏まえた検討が必要である。著者の選んだ文献には、疑わしいものが多く含まれている。この点からだけでも酷評されうる著書である。
第五には、著者は、第一次資料に丹念に当たって、著述している。その点では賞賛に値する。また、この裁判に関する著述についてもよく検討し、問題点をよく洗い出している。その点では、評価できる。
全体としては、「NT-裁判で取り入れられた新しい法の概念は現在の国際法にかなり取り入れられているから、それらは国際法の発展に貢献した。従って、それらの概念は正当であり、これらの二つの裁判は「勝者の裁き」として非難されるべきではない」とする議論であり、覇権国家アメリカの肩を担ぐ学者の著書である。非米人と思われるカナダのウェスタン・オンタリオ大学のランケ・コスタル教授は、この著書に関して歴史的な省察に欠けていると評している。行動の起こされた時点での判断基準ではなく、後世の基準で判断しようとしているこの著書の傾向に対する批判である。
今後の課題:
米国は(より正しくは連合軍は)日本の指導者を罰するに当たって、裁判という形式を通して、罪を明らかにし、罰した。特に、米国は米国人の弁護士を提供して、日本の被告人の弁護に当たらせた。しかし、実態は、米国側の罪は対象とならず、米国の政治的目的のために裁判が行われた。国際機関は、これも米国の提唱によって設立され、その都合に合わせて運営されている。従って、国際機関が承認しているとか、国際法で決まっているというような議論は、アメリカがそう言っているというのと相違が無い。そのことを踏まえて、著者は今後の検討を進めて欲しい。
読者および関係学者は、この著書が示している程度の一次資料を駆使して、反論なり、次の展開などを行うことが望まれる。すなわち、日本語で現在市販されている東京裁判論は、あまりにも雑で、この著書と対決するのには、見劣りがする。
この著書は、内容と推論の方法に関しては、私は評価しないが、かなりの問題点について原資料に照らして検討したことにおいては、評価される。
参考文献〔時代順〕
1953 滝川政次郎 『東京裁判を裁く』彗文社(2006復刻版)
1961 菅原裕 『東京裁判の正体』国際倫理調査会(2002復刻版)
1966 清瀬一郎 『秘録・東京裁判』中央公論社
1971 Richard R. Minear Victors’ Justice: The Tokyo War Crimes Trial.
University of Michigan Center
1981 本田勝一 『中国の旅』朝日文庫
1982 内海愛子 『朝鮮人BC級戦犯の記録』けい草社
1989 栗屋憲太郎 『東京裁判論』大月書房
1991 藤田久一 『戦争犯罪とは何か』岩波新書
1992 吉田裕 『昭和天皇の終戦史』岩波新書
1993 大沼保昭 『東京裁判から戦争責任の思想へ』東信堂
1995 吉見義明 『従軍慰安婦』岩波新書
1997 笠原十九司 『南京事件』岩波新書
2002 日暮吉延 『東京裁判の国際関係』木鐸社
2008 Yuma Totani The Tokyo War Crimes Trial. Harvard University Asia Center
2009 Rande Kostal. Book Review: Yuma Totani, The Tokyo War Crimes Trial
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戸谷由麻の東京裁判 (1)〜(3)を2度ほど通読しました。ご主旨に概ね賛成です。戸谷の『東京裁判』は原文(英語)で拾い読み(例えば南京事件に関する部分、第9章のパル判事に関する最初の数ページ等)したにすぎませんがご主旨と同様の感想(?)を抱きました。
復習は復讐の誤字でしょう。改めて頂けると説得力が一層増すと思います。
2015/5/26(火) 午後 4:52 [ koregaka ]