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『N氏によれば、政務活動費(旧政務調査費)の不正を始めたのは2011年。地方議会の議員年金がこの年に財政難で廃止され、「辞めて老後の生活をどうするか心配になった。このままじゃダメだと思った」。このとき当選5回。酒席など付き合いにかかる費用もかさんでいた。自宅を大規模改築したことに伴うローン返済も、月19万円と重くのしかかっていた』
悪事へ堕ちていく者の心情を赤裸々に語らせている、実にたいしたインタビュアーだと感じる方も多いかもしれないが、筆者が脱帽したのはそちらではなく、Nさんのほうなのだ。ネットで「富山の恥」とまでコキおろされている悪徳政治家を持ち上げるなんてお前は正気か、というお叱りの声が聞こえてきそうだが、この人のやったことを擁護する気などさらさらない。
ただ、悪事の懺悔(ざんげ)の中に、しれっと自分が伝えたいメッセージを紛れ込ませた結果、記事の論調を変えてしまうという老獪(ろうかい)さという点においては、「見事」としか言いようがないのだ。実はNさんはご自身で「飲むのが好きで、誘われたら断れない性格」と新聞で語っているように、約700万円の使途は主に遊興費だ。『特定の店だけだと自身の評判に関わると考え、最低3、4軒は顔を出すようにした。帰宅は未明。一晩で何万円も消えていった』というから富山市民の血税はほとんど、夜のネオン街に消えたと思っていい。
●Nさんの巧みな話術
支援者と飲むのも政治家の立派な仕事だとかばう人もいるが、選挙対策を現職議員が税金でまかなうのは明らかにおかしい。純粋に酒が好きならばなお、議員歳費(給料)から捻出するのが筋だ。そういう意味では、スケールは違うが、24億円を横領して高級クラブで豪遊後、タイへ逃亡した長野県建設業厚生年金基金の元事務長とやったことの本質は変わらない。にもかかわらず、この記事の見出しは『議員年金廃止、老後に不安 飲み代、一晩で何万円にも 富山市議辞職の元議長』――。Nさんの巧みな話術によって、世間一般の「横領犯」とはかなり異なり、ヘタをすると,りゃ、年金がなくなったら不安だよなあ」という共感も与えかねない論調になっているのだ。
そもそも、議員年金というのは、国民年金や厚生年金とは別にもらえるボーナスみたいなもので、在職12年ぽっちで公費負担4割と、あまりにおいし過ぎるのでやめましょうという話になった「議員特権」だ。おまけにNさんには、毎月60万円の議員歳費があった。「老後が不安で、うう」なんて言い訳は、『こち亀』の両さんが部長に怒られたときの弁明のように芝居がかっている。
つまり、この記事は6期当選の「ドン」に完全に一杯食わされてしまったのだ。
こういうことを言うと、マスコミ関係者に限って、「いや、読者受けしそうな言い訳だから、たまたま整理部が見出しにつけただけだよ」とムキになって否定するが、読者にはそういう内輪の話は関係ない。状況から考えれば、Nさんが確信犯的に「議員年金廃止が不正のきっかけ」という方向づけをした可能性は高い。
今回、横領ナインの悪事に白日のもとにさらされたことで引っ込めたが、実は富山市議会では、市議報酬を中核市では全国最高の月額70万円とする条例を進めており、6月に議会で可決された。普通のサラリーマンで、賃金がなかなか上がらない中で一気に10万円アップするという暴挙に出た根拠は、「議員年金」である。これが2011年に廃止されたことで、富山市が負担する毎月約10万円が浮いた。だからその10万円を我々議員にちょうだいなというロジックで、この旗振り役がNさんだ。批判が高まる中、メディアの取材に現在の報酬では苦しいことを強調した.
▼「老後不安から悪事に手を染めた地方議員」キャラ
話が通じない記者には「実力行使」にも出た。自民党会派の控室で、議員たちに報酬アップについてアンケートをしていた北日本新聞の記者に「何を聞いているんだ!」と怒鳴って、取材メモを取り上げ、勢いあまってケガをさせたことも、少し前には話題になった。つまり、Nさんは「月60万ぽっちの歳費じゃ議員の仕事はつとまらん、もっとくれ」というメッセージをメディアに訴えることに政治家生命をかけていた御仁なのだ。
ただ、なによりもNさんがメディアに「老後の不安」を訴えたのは、富山市議会自民党会派の会長という要職におられた責任感だと思っている。実はNさんの不正が明るみに出る1カ月ほど前、全国都道府県議会議長会が、『地方議員のなり手が不足している』とし、地方議員も年金に加入できるよう法整備を求める決議をした。これを受けて、自民党内にも「地方議員年金検討プロジェクトチーム(PT)」が発足。地方議員の年金を復活させようじゃないのという議論が動き出していたのだ。
つまり、Nさんは政治生命をかけて取り組んでいた「地方議員の議員年金復活」が、ようやく実現に向けて動き始めた矢先、自分自身それをちゃぶ台返しするような不祥事を起こしてしまったのだ。会派を仕切るドンとしてはあるまじき失態だ。こういう針のムシロにいる者が、犯行動機を素直にポロポロ語るだろうか。700万円着服という事実はもう変えられないが、せめても罪滅ぼしで、「議員年金復活」の希望がつなげるような方向へもっていく、というのは容易に想像できる。
身内である自民党のメンツを守るため、そして「地方議員」の特権保持のためにも、「酒好きで政活費を使い込んだ議員」ではなく、「老後の不安から政活費に手を出してしまった議員」というキャラになりきらなくてはいけなかったのである。もっと言ってしまえば、そのような「貧困にあえぐ地方議員」をアピールすることで、「こういう不正が起きないように地方議員は年金をつけてあげよう」という論調になるのを期待していたのかもしれない。
▼不正をすればするほど税金で手厚く保護される
そんなの考えすぎだと思うかもしれないが、事実として日本の政治家というのは、不正をすればするほど税金で手厚く保護をされてきた。例えば、政党交付金が分かりやすい。これはご存じのように、我々の血税から政党に送られる300億円以上のプレゼントなのだが、これができたきっかけはリクルート事件だ。政治家があんまりカネに汚いという問題が出たので、じゃあ税金でたらふく食わせれば、政治に集中してくれるでしょ、となったのだ。こういう発想は民主主義国家ではかなり珍しい。そういうことを言うと、「日本よりも安いといわれるヨーロッパでも議員歳費をあげる動きがある」とか「手当や経費を含めるとアメリカの上院議員のほうがもらっている」なんて反論をする方もいるが、あちらの議員は基本的に、「ボランティア政治家」。他の収入もあれば、寄付も自分で集める。経費や手当もそれに見合う仕事に対して支払われる。日本のように会期中に席に座って後は支援者まわりをしていれば税金で生活が保障される「職業政治家」ではなく、経費も手当も「第二給料」みたいなノリでポンと渡してくれる国は少ない。
ただ、共産主義ではわりとベーシックな発想だ。旧ソ連で議員は「人民代議員」と呼ばれ、税金でがっつり食わせてもらえる特権階級だった。代議員大会に2日間参加しただけで、国民の平均月収がポンと入る。ただ、あまりにも腐敗が過ぎるということで、ご存じのように「民主化」の動きとなった。普通に考えたら、欧州のように議員歳費の少ない「ボランティア政治家」が普及する。が、現実は逆だった。国民の生活が苦しい中で、なぜか政治家が歳費を上げるという現象が起こったのである。事実、「民主化」のかじ取りをしたロシア連邦初代大統領のエリツィン氏の給料は3.3倍に跳ね上がったという。
●議員年金が復活する日
なぜこうなってしまったのか。それは「理想の社会主義国家」をモデルにしたからだ。1991年3月、ソ連ロシア共和国は人民代議員大会で「五百日計画」に代わる新経済計画が提出された。その中では、『戦後の急速な経済復興と国民の均等化した生活水準を理由に、日本経済を「真の社会主義」と規定、ロシアはソ連型共産主義を放棄し、この「新しい経済モデル」を選ぶ』(東京読売新聞 1991年3月5日)と宣言されている。旧ソ連の人々が憧れた日本では、今も「もっと待遇をよくしないと優秀な人材が政治に集まらない」とノーメンクラツーラ(旧ソ連の特権エリート)顔負けの主張をする方が多い。
ただ富山市の団体は刑事告発すべきとの裁判の方向で働きかけています。これは当然の在り方です、もっと市民怒りべきです。
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2016年09月29日
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