作品1

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深夜に

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夏のあとさきもなく滝が落ちる。

滝の水流が私の口元までほとほととおとないて

落ちる。

冷めるものは冷めるだろう。

私の行く手を遮るのは過去ではない。

地虫のような羽を持つ落ちてゆくもの。

音もなく姿もなく落ちてゆくもの。

私の体を冷たい手が抱く。

この手に導かれて

抗いもせず私は姿見の中に姿を隠す。

裏側に果てしもなく流れる落ちる水。

喉元を下る水。

深夜の水道の栓を幽かに締めて

寝床に沈む。

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その絶望



把手
 

のある

の胸
あるひは穴
のある

の腕
 
 
「夜の要素」の冒頭の二連です。
この奇妙な形式の詩の作者は北園克衛(きたその かつえ)。

以前に書いたように、安西冬衛を知った、中公文庫版『日本の詩歌』第二十五巻で出会ったのです。
その本は、竹中郁、春山行夫、北川冬彦など、いわゆる昭和モダニズムの詩人を集めたもので、なかでもぼくが気に入ったのは安西と北園だったわけです。

ご覧のように文字が文字としてただ置かれたようなページ。
タイポグラフィーの要素を含んだ作品は、ほかの詩人のもので見たことがあったのですが、それらが持つ「遊び」が感じられません。
あるいは語彙のせいでしょうか。

ビジュアル面もふくめてこのような表現は、いっそ未知に触れた思いがしたものです。
作品は全八連あって、最終連は以下のようです。


その
幻影



陶酔

黒い砂
あるひは
その
黒い陶酔

骨の
把手


内容がさらに展開してゆくというよりは、悲劇のまわりをグルグルとまわって円環から逃れられないかのようです。

「夜の要素」は詩集『黒い火』におさめられています。
『黒い火』は昭和二十六年、五十歳の北園克衛が出版したものです。
同年にもう一冊、『砂の鶯』という詩集も出していて、敗戦後六年たって、ようやくモダニズム詩人は、詩集発表を再開しました。

処女詩集は二十八歳、昭和四年の出版。
『白のアルバム』というタイトルです。

タイトルの対比だけでも、なにかを感じないわけにはいきません。

では初期の作品、『若いコロニー』から「春の葉書」を引用しましょう。
詩人の変貌がうかがわれると思います。


 「春の葉書」

銀座に白いアヴェニュウは
ガラスの風が吹いてゐて
ぼくらの夢を切ってゆく

朝の十時
コオヒイとパンの匂ひが街にながれ
飾窓の菫の花の

そこだけが
ガラスをよぎるシャルマンな
女の声で影になる

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