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特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』
 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎
「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

現代ビジネス 2015/1/11 01:11
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150111-00041681-biz_gendai-nb

■冷却措置を巡る判断ミス

電源喪失から10分経った午後3時50分。暗闇に包まれた中央制御室では、運転員たちが、灯りになるものを必死で探していた。LEDライトの懐中電灯や携帯用バッテリーつきの照明機器。30個は見つかっただろうか。かき集められた灯りを頼りに、当直長らは、真っ先にシビアアクシデントと呼ばれる過酷事故の対応が書かれてあるマニュアルのページを手繰った。しかし、どこをめくっても全ての電源を失った緊急事態の対応は記されていなかった。東京電力の緊急対応のマニュアルは、中央制御室の計器盤を見ることができ、制御盤で原発の操作が可能なことを前提に記載されていた。すでに事態は、マニュアルや、これまで積み重ねてきた訓練をはるかにこえた未知の領域に入っていたのだ。重要な計器盤もまったく見えなくなった。原子炉の水位や温度といった原発の状態を把握するための数値や原発を動かすさまざまな装置の作動状況を知るための数値がすべて消えたままだ。目隠しをして車を運転しろと言われたようなものだった。運転員の一人は、取材に「今回の事故で最も衝撃を受けた瞬間は、非常用発電機が使えなくなったときだ」と打ち明けている。「これで何もできなくなった。やれることは、もうほとんどないという思いを持った」と語っている。 非常用の冷却装置の動きも一切わからなくなった。

1号機の非常用の冷却装置のICは、蒸気の力で動く。いったん起動すれば、電気がなくても、原子炉建屋4階にある冷却水タンクを通って冷やされた水が原子炉に注がれ、原子炉を冷やし続けるはずだった。しかし、ICを起動したかどうかを示す計器盤のランプが消えてしまい、作動状況がまったくわからなくなってしまった。ICの操作盤のレバーは、操作した後、手を離すと、必ず中央の位置に戻るようになっている。弁が開いている場合は、赤いランプが点灯し、閉じている場合は、緑のランプが点灯する。レバーは、何度も操作するので、弁が閉じているか開いているかは、点灯しているランプの色で判断している。そのランプが消えてしまった今、弁が開いているのか、閉じているのかがわからなくなってしまったのだ。ICの作動状況がわからない。このことに中央制御室は、この後大きく翻弄されていく。

■錯綜する免震棟

中央制御室から北西350メートルにある免震棟にも衝撃が広がっていた。全電源喪失の一報を受けたのは、中央制御室からのホットラインの電話を受ける発電班の副班長だった。1号機の当直長を経験したこともある50代のベテラン幹部で、1号機の運転操作を熟知していた。副班長は、この時、反射的に「もう、いつもの事故対応のマニュアルは使えない」と思ったという。「どうすればいいのか」。途方に暮れる思いだった。全電源喪失の一報は、免震棟中央の円卓に座る発電班長を通して、円卓中央に陣取る所長の吉田にも伝えられた。 吉田調書の中で、この時の思いを吉田は「これはもう大変なことになった」と吐露している。そのうえで「アイソレーションコンデンサー(IC)とか、RCICがあれば、とりあえず数時間の時間幅は冷却ができるけれども、次はどうするんだということが頭の中でぐるぐる回っていた」と答えている。RCICとは、2号機から6号機にある非常用の冷却装置である。原子炉隔離時冷却系と呼ばれ、原子炉から発生する蒸気を利用して、原子炉建屋地下にあるタービン駆動ポンプを動かして、タービン建屋にあるタンクの水を原子炉に注水するシステムである。起動さえすれば、電源がなくても蒸気の力で動き続けることが可能だった。吉田は、全電源喪失になっても、ICやRCICによって、しばらくは原子炉を冷却できると思っていたのである。免震棟に、3号機は、バッテリーが生きていて、計器は見えているという連絡が届いた。RCICも動いていることが確認された。3号機は、地下1階と1階の間にある中地下室にバッテリーが設置されていたため、津波の被害を免れたのだった。これに対して、2号機は、計器がまったく見えないという報告だった。電源が失われる直前にRCICを手動で起動させたという連絡は受けていた。しかし、現在、原子炉の水位も見えないことから、RCICの起動に成功したのかどうか、不明だった。2号機のRCICは動いているかどうか、わからない状態だった。残る1号機。この時点で、吉田ら免震棟の幹部は、1号機のICは動いていると考えていた。津波が来る前に、自動的に起動したという報告を受けていることが理由だった。中央制御室とホットラインでやりとりしていた発電班の副班長もICは動いているだろうと思っていた。副班長は「ICは、静的機器ともいわれ、バッテリーで回転するモーターなども必要なく、非常時には有効な冷却装置だと思っていた。私も含めてみんなICが動いてくれればいいなという状態だった」と話している。ICは、動いている。免震棟のこの思い込みが、その後の事故対応に大きな影響を与えていくことになる。


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